<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する   作:そらからり

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167 魔法少女防衛碌 6

■【魔法少女μ】妹妹について

 

 誰よりも弱く。

 誰よりも可愛く。

 誰よりも狙われる。

 

 それが妹妹という少女が〈マスター〉になった時、己に課した使命であり、【魔法少女μ】としての戦い方であった。

 強く魅せずとも。

 格好よく魅せずとも。

 誰からも慕われずとも。

 

 魔法少女には百通りの戦い方がある。

 誰かを助けたいという気持ちがある限り、誰もが魔法少女と成り得るのだから。

 

 

 

 

 とある武術流派の一人娘。

 大人ですら彼女の前では赤子同然に伏せられる。

 それがリアルでの妹妹の正体である。

 

 彼女には才能があった。

 修行に身を置けばそれだけ強くなれる武の才が。

 幼少期から真面目に鍛錬を積み重ねていた少女は、いつしか近辺の小学校を統べる存在となっていた。

 ただ強い。

 それだけで少女は頂点の一つに立っていた。

 

 そして、何よりも。

 少女には正義の心があった。

 武を修める目的も弱者を守りたいから。

 弱い者は存在する。

 強い者がいるから、それは自然なことだ。

 だが、弱く、そして脆い者は容易く崩れる。

 そんな存在を、彼女は守りたかった。

 

 彼女が誰よりも存在感を放ち、誰よりも発言権があれば、誰も彼女に逆らえなくなる。

 強い彼女の憧れた理想を阻む者は誰もいない……はずであった。

 

 少女が10歳になった頃。

 彼女の名とその強さは近隣の小学校どころか高校にまで及んでいた。

 大人ですら手出しの出来ない武の達人。

 そして、弱者を守る正しき人間。

 

 それを疎ましく思う者は歳を重ねるにつれ増えていく。

 小学生であれば我慢出来ていた。

 中学生になれば彼女の目に留まらない、隠れた場所で弱者を虐げていた。

 いわゆる、イジメという行為は、正義に隠れる形で悪質さを増していく。

 更に、歳を積み重ね、高校生となった者は、隠れることを止める。

 何故幼い子供に従わなければならないのか。

 不満を重ねて、しかし少女には敵わず、鬱憤は溜まっていく。

 

 どこで晴らせばいいのか。

 隠れて弱者を虐げたところで、少女が知らぬままであるからこそ、完全に晴れることは無い。

 隠れているということは、彼女に臆している……逃げているということだ。

 それでは彼らの沽券にかかわる。

 プライドを潰され、面子を保てないままでいられるほど彼らは大人で無く、そして力に従ったままでいられるほど子供では無かった。

 

 少女には敵わない。

 少女に隠れた暴力を振るうことに意味は無い。

 

 ならばどうしたか。

 

 少女の形をした力に対抗するべく、彼らは弱者を人質にとった。

 

 それは正義には限りなく効果的な手の一つ。

 何より少女は個としての力に特化していた。

 高校生が束になっても負けることは無いが、高校生が少女以外の小学生を狙い撃ちにしていくことに対しては弱い。

 

 やめてと訴えてもやめない。

 周囲は少女に守れと逆に訴えてくる。

 だが、彼女は既に精一杯であった。

 強さを誇示しようと、それは逆効果。

 高校生たちは彼女以外を狙う。

 強さに対して脆さを突く。

 

 そうか、と。

 彼女は理解した。

 強さとは何かを守れるものでは無いのだと。

 

 結局、その時は警察という群れと強さ両方を備え持った少女以上の正義が介入することで解決した。

 少女は己の無力さを思い知った。

 だが、その無力さを嘆くことは無かった。

 

 無力の方が良い。

 自身が強いから自身ではない誰かが狙われる。

 ならば弱く見せた方が良い。

 その本質が強いのであれば、彼女はいくらでも暴力に耐えうる。

 弱く見えようとも、少女は脆くない。

 本当に弱くて脆い誰かに成り代われるのならば、いくらでも弱く見せよう。

 

 決して己の強さを誇示せずに。

 決して己の堅固な部分を見せることはせずに。

 

 彼女は弱く偽る。

 それが彼女の強さであり、弱者を助けたいと願う魔法少女としての生き方である。

 

 

 

 

■ペルソティ 西部

 

 【魔法少女μ】というジョブは魔法少女シリーズの中でも異端の固有能力を持つ。

 火を出すでもなく、水を出すでもなく、雷を操るわけでもなく。

 ステータスを弱くみせるという固有能力。

 自身を爆弾に変えるωですら、忌避される魔法少女と言われているが、それでも戦闘に向いた能力に違いない。

 他の異端な能力をあげるとすれば、【魔法少女δ】の無呼吸活動を可能にする能力であるが、それでも強みであることに違いない。

 それぞれの魔法少女が何かしらの固有能力という強さを持っている。

 強さ……それは妹妹にとっては必要のないものであった。

 【斬風爪 カマイタチ】という強さを既に持ってしまっている彼女にとってこれ以上強さは要らない。

 むしろ、強さをカバー出来るような、覆い隠せるような何かを欲していた。

 

 故に、彼女は魔法少女シリーズの中でも外れと称される【魔法少女μ】に就いた瞬間、それこそが天職だと喜んだ。

 他の誰もが強さどころかマイナスであると、すぐに他の魔法少女へと転職していく中、一人残った。

 

 ステータス偽造。

 それだけに特化した固有能力であるが、それだけにその偽造能力は高い。

 まず初見は騙される。

 いくら《看破》のレベルが高くとも、見抜くことは出来ない。

 それこそ超級職の固有スキルで無くては見抜けないであろう。

 一般的な〈ティアン〉の少女相応のステータス。

 そんな彼女に対して慎重になる者はまずいない。

 

 だが、魔法少女として活動していれば、いずれ魔法少女の中に彼女の本質の強さを見抜く者は多く出てくることであろう。

 それでも構わない。

 魔法少女同士で戦う必要は無いのだから。

 魔法少女は強い。

 そして正しい。

 妹妹と同じく弱者を守るべき存在。

 彼女たちに能力を知られたところで、本質の強さを知られたところで、何の痛みにもならない。

 むしろ囮に使ってくれていい。

 他の誰かを犠牲にする必要があるのなら喜んで身を差し出そう。

 彼女は強い。

 痛みにも慣れている。

 だから、他の慣れぬ者が痛みに晒されるくらいならば、より弱くなろう。

 

 

 

 

 もし、強さが全くない周囲が欠点だらけと称する【魔法少女μ】の固有能力により欠点を見出すとすれば、それは弱さが暴露するタイミングであろう。

 弱さはあくまで偽るだけ。

 そして、弱者は敵対行為などしない。

 敵対する勇気を持っているなら、それは強者へと分類されてしまう。

 

 そのため、この弱さは戦闘開始直前までしか発揮しない。

 だが、それで十分。

 彼女のエンブリオである【斬風爪 カマイタチ】は不意打ちからの一撃必殺に特化したものであるし、必殺スキルに至っては発動した瞬間に敵全てを封殺するような暴力だ。

 ……結局、個の強さを極めつけることしか出来ないエンブリオは彼女の本質を表しているのだろう。

 弱さで覆い隠そうと、彼女1人がいれば解決してしまう。

 彼女を狙ったところで彼女には勝てないのだと。

 

「《転倒も治癒もせぬ風(カマイタチ)》」

 

 偽造され秘匿されていた彼女のステータスが明らかになっていく。

 魔法少女としての高いステータス。

 これ自体は、ステータス補正がそれぞれ3000~4000といったところ――それでも魔法少女の中では破格の補正だ――であるため、ネームド個体である【パス・マンティス】には遠く及ばない。

 

 だが、マンティスは見てしまった。

 暴風に呑み込まれる瞬間、【パラポーラ】の壁によって風が阻まれたことで生まれた僅かな時間だけ、【魔法少女μ】の固有能力は解ける。

 その細い目に宿る《看破》の派生スキルが、妹妹のサブジョブまでをも見破ってしまう。

 

「【切断姫(リッパープリンセス)】……!?」

 

 サブジョブに置かれたその名は超級職を示すもの。

 切断。

 それはマンティスが何よりも好み、何よりも欲したもの。

 何故それがこのような弱小……であった〈マスター〉の少女から見えたのか。

 不可解なマンティスの視界は風以外映さなくなった。

 

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