<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する   作:そらからり

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170 魔法少女防衛碌 9

■【魔法少女ω】クリアント

 

 ペルソティ南部。

 その地区の【パラポーラ】と〈マスター〉との間の戦況は、数の上では【パラポーラ】に軍配が上がっている。

 生き延びた〈マスター〉は数人いるが、まともに戦っている〈マスター〉は1人のみ。

 ……いや、彼も戦っているとは言い難いところだが、他の〈マスター〉と違い、殺されても生き延びている。

 そして、南部において只一人、迫るパスシリーズに備え戦いの準備をしていた。

 

「クレハドールさんは上手く使えそうですか?」

「【出涸らし】の継続ダメージがあるからどこまで持つか分からないけどな。……ん? いや、パルペテノンがあればいけるか」

 

 【パラポーラ】の死体を弄りながらクリアントは呟く。

 死体はすぐに消えることは無い。

 本来であれば倒されたモンスターは消え、リソースを討伐者へと移すのが法則であるのだが、それをクリアントは一時的に無視することができる。

 

 倒したモンスター及び人間範疇生物を人形化し操る。

 それこそが【永遠欠界 クレハドール】の能力だ。

 とはいえ、無制限に行えるわけではない。

 自身の総合レベル以下、そして対象のEND次第でレジストされる可能性もある。

 今のクリアントのレベルでは【パラポーラ】は可能だが、パスシリーズ以上は不可能。

 更には、人形化したモンスターからは経験値やアイテムを得ることは出来なくなるという欠点も持っている。

 

 だが、雑兵が相手であれば。

 大した経験値もアイテムも落とさないのであれば。

 クレハドールの力を使うには最適である。

 

「巾着の残りは3つか。使い切っておいてもいいか」

 

 クレハドールの本体はクリアントの腰に下がった巾着である。

 中身のタッピングネジと巾着。そのセットだ。

 ネジは全部で5つ……なのだが、クリアントの直感ではこれはまだ増えるだろうと告げている。

 

 ネジを無理やり死んだ【パラポーラ】が消える前に頭に宛がう。

 すると、ネジは勝手に回転し、掘削しながら頭部の中へと収まっていく。

 これで人形化は完成だ。

 

「動け」

 

 人形化した【パラポーラ】はクリアントの命じるままに動き出す。

 計5つの人形。

 それらは絶えず体から体液を垂れ流している。

 【出涸らし】で倒したのだから仕方のないことだ。

 クリアントは戦闘によって破損した街の破片を食べさせながら考える。

 

 これをそのまま【パラポーラ】討伐に使ったところで大した意味は無い。

 数の上では、まだまだ差はあるだろうし、覆ることも無い。

 人形化の効果時間は人形が壊れるかクリアントが解除するまで。

 だが、倒した際の傷からどんどん破損していくため、パルペテノンの力で絶えず回復させ続けなければならない。

 比較的傷の浅い【パラポーラ】でも1時間何もしなかったら完全破損してしまうだろう。

 

「とりあえず罠だな」

 

 もう一つの用途を考えれば、罠に使えるのは3匹がせいぜいか。

 前者にもう少し数を割きたいが、後者も少なすぎれば信憑性が低くなる。

 

「んー」

 

 まあいいか、と。

 どちらでもいいかと、クリアントは思考を放棄する。

 別に成功しようが失敗しようがどっちでもいい。

 失敗したところで誰かが残りを倒してくれるだろう。

 それすら失敗したところでこの街が壊滅するくらいであろう。

 

 『甘味祭』が無くなってしまうのは残念であるが。

 それ以上の感情をクリアントは持ち合わせていなかった。

 

 

 

 

「ここ一帯はもはや制圧済みですか」

 

 白い繭に包まれたモンスターは糸を周囲の壁や建物に繋ぎ、自身を引き戻し進んでいく。

 途中、強度が足りず崩れ落ちる瓦礫もあるが、その繭に一切の傷を負わせることは出来ない。

 有象無象、魑魅魍魎が蔓延るペルソティの中で、無傷な者は少ない。

 運良く生き延びた人間も、微細な傷は負っている。

 歴戦の〈マスター〉は、しかし歴戦故に前線で戦うが故に負傷が多い。

 〈マスター〉側で傷の無い体でいられるのは、死ねば肉体が更新されるクリアントと、回復スキルを持つクャントルスカであろう。

 だが、彼らは傷を一切負っていないというわけではない。

 傷を負いながらも無かったことにしているだけだ。

 

 そしてそれは【パラポーラ】やパスシリーズにおいても同様のこと。

 如何に甲殻が頑丈であっても、傷一つ負わないなんてことにはならない。

 少しずつ削られる。

 少しずつ抉られる。

 

 だから。

 この街に真の意味で一切の負傷を負っていない生物は、ただ1体しかいなかった。

 

「……しかし此度は活躍の機会が乏しかった」

 

 白い繭に包まれたモンスター――【パス・コクーン】は己がこの戦いにおいて何も為していないことにため息をつく。

 人間は殺した。

 糸を伸ばせばそれだけで柔らかな皮膚は裂け内部にまで到達する。

 中身を抉り出してやれば、それだけで人間は簡単に死ねる。

 

 だが、それだけだ。

 コクーンにとってそれは全く価値の無いことだ。

 

 この戦いにおいて成し遂げたかったこと、そして自身の王から期待されていたことが全く為せていない。

 

 故に息を吐く。

 むしろこのままでは失態とも思えるような愚行に。

 

「……ん? 呑気なものですねぇ」

 

 ふと戦場の一画。

 そこでは【パラポーラ】達が食事を行っていた。

 彼らが囲んでいるのは人間だろう。脚が見えた。

 

「まだ生存者はいますか?」

 

 コクーンは【パラポーラ】に尋ねる。

 だが、彼らからは返事を得られない。

 一心不乱に食事を行っている。

 

 コクーンはその態度に苛立つ。

 別に直属の配下というわけではない。

 彼らは共に王に仕える身だ。

 だが、その中でも序列というものは存在するだろう。

 いくらでも量産が可能な【パラポーラ】と、それぞれ固有の力を与えられた特別なパスシリーズ。

 彼らが特別な己を無視していいわけがない。

 少しばかり顔をあげ、緊張の面持ちで見てもいいはずだ。

 

「おい」

 

 と、コクーンが【パラポーラ】に近づき、声をかけた瞬間であった。

 彼らはいきなりコクーンへと振り向き、その牙をコクーンへと向ける。

 

 驚く暇すら与えられない。

 即座に取り囲まれ、3組6つの凶悪な牙がその繭に突き立てられたのであった。

 

「……で?」

 

 だが、どうであれコクーンは驚かなかったであろう。

 何せ、【パラポーラ】の牙如きでは文字通り歯が立たないのだから。

 突き立てた牙の方が欠けていく。

 【パス・コクーン】の最たるものが繭である。

 百層に包まれている。

 その一層一層がとてつもなく頑丈であり、コクーンの仲間でも一日に一枚しか剥ぐことが出来ないほどだ。

 そして、【パラポーラ】如きに繭をどうこうできるのであれば、これほど苦悩することも無かっただろう。

 

「その叛逆の意図をお聞きしても?」

「意図は無いさ。そいつらに意思なんてものは無いんだからな」

 

 頭上から声が聞こえた。

 顔をあげることは……出来ない。

 それも【パラポーラ】が纏わりつき邪魔をする。

 すぐに糸で彼らを貫くも、動きは止まらない。

 全身から体液を流し、死んでいてもおかしくないはずの傷を――コクーンが与えた記憶の無い傷を――負いながらも、しかし何かに命じられるかのようにコクーンを取り囲む。

 

「そうだ。そのまま動きを封じておいてくれ――繭が動かないように」

 

 何かが蹴る音。

 その直後、コクーンの頭部に衝撃が落ちてくる。

 何かが突き立てられる衝撃が。

 先ほどの【パラポーラ】の比では無く。

 その鋭さも、力も、先ほどよりも上で。

 

「久しぶりだな。【パス・コクーン】といったか。これならその繭も無事じゃ済まないだろう?」

 

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