<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する   作:そらからり

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172 魔法少女防衛碌 11

■ペルソティ 東部

 

 1人と1匹が互いの肉体を削り合っている。

 互いに無手。

 拳一つで、そしてガードをせずにひたすら拳をぶつけ合う。

 

 第三者の入る余地は無く。

 そして、攻撃の余波は近づく生物を吹き飛ばし、寄せ付けず。

 

 今、【パラポーラ】含めて東部に存在するのはこの2者だけとなっていた。

 

「正義正義正義正義正義――」

「愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛――」

 

 それは一見、互いの矜持と意地をぶつけ合っているように見える。

 

 だが、本質は全く違う。

 

 互いの主張を押し付け合っているだけだ。

 相手のことを鑑みず。

 相手の未来を思わず。

 相手の過去を振り返らず。

 

 ただ自身の言葉を受け入れよと。

 

 そう、叫んでいるだけだ。

 

「正義の前に屈せよ、魔法少女!」

「その強さ、好きになりそうだよ!」

 

 互いにノーガード。

 互いの攻撃を防御することなく受ける。

 言葉だけだ。受け流しているのは。

 

 だが、その光景は異様であった。

 

 無傷なのだ。

 

 どちらかが一方的に攻撃を行っていれば、一方が無傷であるのも不思議ではない。

 あるいは、互いに守りながら戦っていれば、それもまた傷が無いことに違和感を覚えない。

 

 だが、ノーガードであるにも関わらず無傷。

 

「異様な回復力……それが魔法少女とやらの力か」

 

 【魔法☆少女】クャントルスカ。

 彼女が【魔法少女α】の時から受け継いだ回復に特化したスキルの数々があれば、MPの続く限り傷を負うことは無い。

 小さな傷さえも、『魔法少女はいつだって可愛くあるべし』という彼女のポリシーで自動的に癒されていく。

 

「そうだよ! ……貴方も強いね。私の攻撃が全然通らない」

 

 そして、彼女の攻撃は回復前提の力任せを得意とする。

 自身の損傷を厭わず、衝撃で拳が砕けようとも攻撃の手を止めない――愛を止めない。

 

 そして、彼女のエンブリオのスキルの一つである《中点奇地》。

 鎧通しに似たスキルは相手の内部に衝撃を浸透させる。

 これによって、いくら装甲が硬くとも、脆い内臓部分にダメージを与える……はずであった。

 

「当たり前である! 正義である我は芯の部分まで正義なのだ! 貴様ら悪が入り込む余地など一切無い!」

 

 クャントルスカと相対するパスシリーズの1体。

 【パス・ヘラクレス】はあくまでヘラクレスオオカブトをモチーフに形作られているが、そのままというわけではない。

 見た目が似ているだけで、中身は異なる。

 どうせ分厚い装甲を作り出せるのだ。

 ならば、内部も分厚い装甲で覆ってしまった方が良いのは道理であろう。

 

 初撃が効いたように見えたのは、単にこれまで攻撃が行われなかった場所に響いたから驚いただけ。

 そして、知ってしまえば心構え程度で鎧通しなど通用しなくなる。

 

「桁違いの力と装甲。それが我が王より与えられし力! 貴様ら悪が測れるものではないわ!」

 

 そう、ヘラクレスは持ち前の装甲だけでクャントルスカの攻撃を受けきっていた。

 故に、限界は訪れない。

 外装甲内装甲も崩されないうちはいつまででも戦い続けられる。

 

「ヌハハ! 終わりだ、魔法少女!」

 

 しかしクャントルスカのMPの減少速度はかつてない程に速い。

 それだけヘラクレスの攻撃の威力が強いということだ。

 超級職に至り、【魔法少女α】以上のENDが無ければとっくに死んでいたことであろう。

 

 だが、これ以上は持ち応えることは出来ない。

 もう数秒でクャントルスカのHPは回復できずに尽きる。

 

「……もう」

 

 その時であった。

 回復スキルも使うことが出来ず、HPが減少し始めたクャントルスカの足首が突如何者かに掴まれる。

 

「誰……!?」

「《七つの楯よ、我を災厄から守りたまえ(アイアス)》!」

 

 それはヘラクレスと戦闘を行っていた大楯使いであった。

 瀕死に近かったが辛うじてクャントルスカに救われ、これまで潜んでいた。

 そのまま残っても余波のダメージで死ぬと理解していた彼は、回復アイテムを使い、前線に復帰する機を伺っていた。

 

 だが、防御に特化した彼は盾を失っていたことからその場にいることすら危険と判断していた。

 それでも、地面を這いつくばりながら近づいていた。

 ダメージを最小に抑えながら、巻き上がる砂礫や街道の破片を全身に浴びながら。

 

 全てはクャントルスカを助けるために。

 

 《七つの楯よ、我を災厄から守りたまえ(アイアス)》。

 その必殺スキルの力は、対象にENDと同値の盾を七層作り出すというもの。

 浮遊する盾が七つ。

 対象に攻撃が加えられるたびに身代わりになるように盾にダメージが移る。

 鎧や盾の防御力を含めたEND値での盾の創造なのであるが、大楯使いは鎧も盾も失っている。

 そのため、この力を有効に使う術がない。

 故に、先の戦いでは守ることも出来ずにヘラクレスになすすべも無く打ち伏せられていた。

 

「おのれ小癪な技を!」

「今だ、魔法少女の嬢ちゃん!」

 

 ヘラクレスはクャントルスカを2度、3度と殴るも、それは浮遊する盾を砕くのみ。

 

「ありがとう! ……だけど」

 

 しかし状況は好転しない。

 寿命がいささか延びただけだ。

 

 どのみち、クャントルスカは決定打に欠けているのだから。

 

「(……必殺スキルを使う? ううん、ダメ。まだ好きに成りきれていない)」

 

 本来であれば、ヘラクレスの頑強さも膂力も十分好意的に見るべき長所である。

 加えて、ここまで殴り合ったことで相手の性格も凡そ把握出来た。

 

 だが、ヘラクレスを始めとした彼らは街を襲う敵だ。

 そして、目の前で大楯使いや、街の住人達を殺しているのを見てしまっている。

 

「(どうして……!?)」

 

 好きに成りきれない。

 マイナスからのスタート故、完全に好きになるのは踏み込み切れていない。

 

 そんな自身にクャントルスカは違和感を覚えた。

 

「ヌハハ! 正義! 正義ぃぃぃぃぃ」

 

 遂にヘラクレスは7枚の盾を破壊する。

 自動回復スキルで多少は持ち直したクャントルスカのHPだが、しかし次の一撃を生き残れるかは可能性としては低い。

 

 だが、大楯使いが作り出した十数秒の猶予。

 それがクャントルスカを救ったのであった。

 

 ペルソティの街中に響き渡る爆発音。

 それは戦闘中の3人の耳にも届いた。

 

「……何の音だ!」

 

 地を揺るがす程の爆発の衝撃。

 直接的なダメージこそ無かったが、爆破の風圧くらいは感じる。

 

「……悪党め」

 

 爆発の起こった場所。

 そして、その場所に誰がいたのか察したのであろう。

 

 ヘラクレスの顔は怒りに染まる。

 

「許さぬ。許さぬぞ!」

 

 ヘラクレスの怒りは頂点へと達し、しかし次の瞬間には冷めていた。

 それはヘラクレスの足元に空いた穴。

 這い出た【パラポーラ】の1匹が何やら鳴き、ヘラクレスに伝えている。

 

「これは王の勅令兵……!?」

 

 それを受けたヘラクレスは静かに【パラポーラ】の後を追い、穴へ戻っていく。

 

「その命、しばし生かしておこう! 次会う時こそ決着を付けようぞ魔法少女!」

 

 それだけ言い残してヘラクレスの姿は消えた。

 穴から【パラポーラ】がそれ以上湧き出ることは無い。

 ペルソティ東部はこれ以上の戦闘は行われることは無かった。

 

 

 

 ヘラクレスの退却を皮切りにして、ペルソティに攻め入った全ての昆虫たちは引いていく。

 〈ティアン〉生存者200名余り。

 〈マスター〉生存者10名余り。

 【パラポーラ】討伐数5000弱。

 パスシリーズ討伐数4匹。

 

 この戦いにおける勝者はいない。

 いるのはただ敗者のみ。

 そして、被害者が生まれただけである。

 

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