<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する   作:そらからり

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174話 歴史と進化

■【魔法少女ω】クリアント

 

「まずはこれを……人数分は無いな。代表2人を出して欲しい」

 

 クリアントの言葉にその場の視線は領主に集まる。

 だが、その言葉の意味が責任者で無く、戦況を把握する指揮官の方でというのを察した数人は別の人物へと向けていた。

 

「この場合はプシュケーさんの方が良いんじゃないスか?」

「……残念ながら儂では何の役にも立てん。お前達のような現場に立つ者の方が良いじゃろう」

 

 自ら辞退した領主に代わり、領主が雇っていたイテカが選出された。

 この場にいる実力者という点では他にも候補はいたが、しかし性格や戦術面、優先しているものからプシュケーとイテカ以上はいないと誰もが判断する。

 

「これは……?」

「ネジ、スか」

 

 2人に渡された小さなネジ。

 《鑑定眼》でもその名しか分からない。

 しかし、それでそのネジが見かけだけのものではないと分かる。

 

「俺の特典武具だ。名はクレハドール。とにかく手に持って握ってくれ。それで見えるから」

 

 説明にならない言葉。

 2人はとりあえず言われた通りにネジを握りしめる。

 魔法少女、それに超級職であるイテカが握りしめても欠片もヒビが入ることは無い。

 武器にもなりそうだな、とイテカは思っていると、その視界にウィンドウが展開される。

 

 それは――暗い穴を進んでいるようであった。

 入り組んでおり、いくつもの分かれ道があり、しかし速度は僅かたりとも落ちることはない。

 淀みなく、迷いなく、不乱に歩みを進める。

 時折、何かが画面の端に映り込むが、その正体はよく分からない。

 

「……まさか」

 

 だが、すぐにプシュケーはその意味を察した。

 ここは山中。

 蟻の巣穴に通じる空洞であると。

 

「カメラでも飛ばしているんスか?」

 

 同じく気づいたイテカがクリアントに尋ねる。

 特典武具の能力の開示。

 仲間内でもマナー違反であるが、この場にそれを咎める者がいなかった。

 常であればプシュケーは叱るが、彼女にもその余裕はない。

 

「いや。このネジが刺さったモンスターを動かせるんだが、どうやらこいつを持っている者と視覚を共有できるみたいなんだ」

 

 そして、能力を隠すということをクリアントはしない。

 それをすることが面倒だと考え、明らかにした方が話を進めやすいと思うからだ。

 

「……凄い能力スね。戦闘にも使えるんスか?」

「どうだろうな。まだ索敵くらいにしか使っていないが。戦闘用は他にもあるし」

 

 少し探ればいくらでも出てくる。

 他にも特典武具を所持しているという言葉。

 クレハドールを未だ使いこなしていないという言葉。

 敵対することは無いだろうが、それでも普通は明かさないはずだ。

 

 やはり……とイテカは少しばかり期待した目をクリアントに向ける。

 

「もう1匹は既に巣穴近くに辿り着いている。こいつもすぐに追いつくだろうが……もう少しだけ見ていてくれ」

 

 促され、画面に集中する。

 言われて、その視界の持ち主が【パラポーラ】であると理解した。

 そして時折画面に映り込んでいたのは他の【パラポーラ】であったのだろう、とも。

 光の乏しい蟻穴に、しかも体色が黒であるため視認しづらかった。

 

 視界の持ち主が広い空洞内に出る。

 ふと、白いスジのようなものが見え――次の瞬間には視界が反転していた。

 

「――な、なんですの!?」

「逆さになったってことスか」

 

 視界は瞬時に白が折り重なり、染まり、そして途切れた。

 残ったのはノイズの走る画面のみ。

 

「……ここもダメだったか」

 

 顔を顰めながらクリアントは頷く。

 この状況を予測していたかのように。

 

「他に2か所、別の場所からこの巣穴に戻らせてみたんだが、どこもこの白い何かで覆われて人形は破壊されている。……罠か、もしくは【パラポーラ】を判別できる何かがいると俺は考えている」

「……番人ってことスか」

 

 その身で実際に体験、あるいは見なくては何が起こっているか詳細は分からないだろう。

 だが、無策で突撃するよりは有力な情報だ。

 

「他の場所というのは?」

「他の穴が1つ。後は近くの山ということが分かったから、地上から向かわせていた。場所はここだ」

 

 地図にクリアントが示した3か所。

 それらを結ぶと曲線の一部が出来上がっている。

 

「中心はこの辺りになるんスかね? とすると、こうやって円を描くように結界か何かが置かれている……?」

 

 山の頂上……だけでなく、その真下。

 イテカが立体地図を取り出してマークしていく。

 

「目指す場所はここってことスね。広い……」

 

 地図を改めて眺めてみると、その場のほとんどが溜息を漏らす。

 人形化した【パラポーラ】を破壊した結界、あるいは罠は山の大部分を覆っていた。

 まず山に侵入した時点で捕捉されるであろう。

 

「というか、何でこの街の誰も気づいていなかったんだ」

「いや、昨日までは無かったぞこんなのは! あったらすぐに気づくし、モンスターの生態系にも影響するだろ」

 

 それもそうだ。

 領主の言葉に納得できるものがある。

 ならば結界は1日で出来上がったもの。

 蜜奪取に合わせて作り上げられたものだろう。

 

「この広さを仮定すると……罠作成に特化したネームド個体がいるってことですわね」

 

 速度に特化したもの。

 膂力に特化したもの。

 防御に特化したもの。

 切断に特化したもの。

 

 ネームド個体は何かしらの能力あるいは力を持っている。

 その内の1つが罠に関する能力を持ち得るのだろう。

 

「そうスね……領主さん。あの山って最悪無くなっても問題無いスか?」

「問題大ありだが!? い、いや……だがこのままモンスター共が巣食うくらいならいっそのこと……」

 

 今後、街を復興することを考えれば隣接している環境が変わることはなるべく避けたい。

 だが、山の保全だけを考えて戦況が劣勢になるくらいであれば、と領主は考える。

 まずは蜜を奪い返すこと。

 神話級であるUBMを倒すこと。

 

 これが何よりの優先すべき事項である。

 

「……分かった。後始末は儂が何とかする。だから……勝ってくれ」

 

 許可は下りた。

 そして、〈マスター〉達は侵入経路及び奪取法について話し始めた。

 

 

 

 

■【???】???

 

「1つ、2つ、3つ……」

 

 過去に幾つもの命があった。

 歴史に幾つもの命が散った。

 

 強かったもの。

 才能があったもの。

 長けていたもの。

 幸運であったもの。

 

 名を残したもの、残さなかったもの。

 

 現象であったもの。

 災害であったもの。

 ルールであったもの。

 

 数え切れない。

 

 死すればそれはただ命の1つとして数えられるが、数が膨大過ぎて追うことは出来ない。

 

 出来るのは拾うだけ。

 

 地に穴を空けて、掠めとるだけ。

 

 英雄も、魔王も、怪物も。

 死んで肉体が朽ちる前にその一部を保管する。

 

 何のため?

 強くするために。

 誰のため?

 神のために。

 何をするために?

 補完するために。

 

 人間は強い。

 ジョブという概念があり、技術があり、知恵がある。

 それは一部を除けば、モンスターには有り得ないものである。

 

 女はそれこそが神を始めとした、彼らを強くするために欠けているものであると確信していた。

 蟻に蜂を、蜘蛛を、芋虫を、甲虫を加えたところでモンスターの域を出ない。

 その強さはモンスターの中では強いのかもしれないが、人間と対峙した時に技術や知恵といったものに負けてしまう。

 実際に、カマキリの遺伝子を取り込ませた【パス・マンティス】は己の力に溺れ、あっけなく死んだ。

 それこそ人間を甘くみた末路であろうという良き見本である。

 

 だから補う。

 過去の人間の一部で欠けていた部分を埋める。

 ジョブそのものは就けずとも、その技術を取り込めさえすれば。

 使いこなす知恵があれば。

 

「4つ、5つ……」

 

 女の前に伏すネームド個体達。

 彼らに人間を埋め込んでいく。

 

「……足りませんね」

 

 生存しているであろう個体が1匹足りない。

 どうやら帰還していないようだ。

 

 その1匹がどのようなものであったか思い出し、まあいいかと女は目の前の作業に切り替える。

 

「シュヴァーゲル……これで貴方を守る配下はより強大となりました」

 

 女は――【神子】ルーチェは微笑む。

 より人間らしくなった配下にはその笑みは己の王であるシュヴァーゲル以上に畏怖のあるものであった。

 

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