<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する   作:そらからり

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176話 英雄を誘わず 1

■【魔法少女ω】クリアント

 

「……これ以上は難しいか」

 

 小型のモンスターを幾匹も捕らえ、クレハドールにて操ることで、蟻の巣窟への偵察をしていたが、徐々に殺されるまでの間隔が狭まってきた。

 それは逆を言えば、敵の警戒する区域が拡がっているということだ。

 これ以上は無暗に刺激するだけであり、そも山に入った時点で人形化したモンスターが殺されているため何も知ることが出来ない。

 無駄に時間を弄するよりも、手に入れた山の地図と敵の位置を頼りに実際に進んでみるしか無い。

 

「十分な成果だ。僅か1日であるが、地形こそ変わっていないが景色は随分と変化している。地中だけでなく地上をも支配する気か……」

「そうッスね。それに元々クレハドールの能力抜きで、事前情報無しでの特攻になる予定だったんスから。むしろ感謝しても足りないくらいッス」

 

 実際にその恩恵に預かり、クレハドールにて山の細部を安全圏から見通す事が出来た領主とイテカは、この能力が如何に便利であるか体験している。

 都合よく鳥型モンスターがいたおかげで空中からの偵察も出来たことは大きな進捗だ。

 地上からでは見渡せなかったが、【パラポーラ】が山にどれだけ蔓延っているか、それに人形化した【パラポーラ】が何故突如死んだのか解明出来た。

 

「糸、か……」

「あの張り巡らされ方だと、蜘蛛の能力が近いのかな? でもあの倒され方は毒とかじゃなくて、糸自体が攻撃の性質を持っている……?」

「クャントルスカの言う通り、触れるのは不味そうね。とは言ってもあれだけの規模を避けきれるかしら」

 

 山の広さから、糸が緻密に張り巡らされているとはいっても、人間が潜り抜けられないというわけではない。

 だが、その中で戦闘をするとなれば、また話は別だ。

 糸を避けつつ敵と戦う。

 そんなのが出来るのは――

 

「ん? そういえば1人足りなくないか?」

 

 この場に集まっていた者の1人、クレハドールの1つを渡していた魔法少女の姿が見えない。

 いつの間にか領主の手に渡っていたが、先に渡していた者はどこにいったのか、クリアントは尋ねる。

 

「あれ? トイレだと儂は思っていたが」

「領主さん。女の子相手に言葉そのままは駄目ッスよ」

 

 いや確かに我慢も良くは無いと思うが……とクリアントは思う。

 この場面でそちらを優先するような人物にも思えない。

 

「あー……これ、先に行っちゃったやつッスね……」

 

 何かを察したのかイテカは呆れた顔をしている。

 

「あの人、面倒ごとは自分から引き受けに行くタイプだからなー……。付き合わされる方はたまったものじゃないけど、この場合は……仕方無いってことッスかね」

 

 納得したかのようにイテカは頷き、

 

「……それじゃ私達も準備を終えたら出発するッスよ。運が良ければ……まあ道は文字通り切り拓かれているでしょうから」

「あの魔法少女の名はプシュケーだったか? 先行しているということか」

「正解ッス」

「プシュケーちゃん、そういうところあるよね。そこも含めて好きだなぁ」

「……ッ。貴女がそれを言うッスか」

 

 

 

 

■【魔法少女β】プシュケー・アーチ

 

「美しく、露払いと行きますわ」

「「「「「「「御意」」」」」」」

 

 7人のワルキューレを紋章から呼び出す。

 道中はプシュケー1人で走った方が早い。

 だが、ここからの攻略は1人では困難を極めるだろう。

 

 まずは糸を操る敵から。

 この敵を打破しないことには、後からのんびりと遅れてやってくる者達も捕まる。

 恐らくは性質上、多数で挑んでも難易度が下がることは無い。

 むしろ、捕まった者を助けようとし、木乃伊取りが木乃伊になるかのようにその者も捕獲されることだろう。

 

「こんな時、妹妹さんがいれば良かったのですが」

 

 目の前の真っ白い景色を見てややうんざりしながらプシュケーは溢す。

 触れずに切り崩す。

 それが最適解であろう。

 風の刃を操る妹妹であればこんなもの容易く攻略可能となる。

 

 魔法少女の中でも最上位に位置していると自負する自身を、不意打ちとはいえ下したことのある小さくか弱く見せかける魔法少女の姿を思い浮かべ、そして自身の頬を張った。

 あの魔法少女は既に仕事を果たしている。

 街に入り込んだネームド個体の討伐。

 彼女自身は言葉を濁すだろうが、そして他の魔法少女も信じないだろうが、その実力をプシュケーが最も良く知っている。

 あれはあれで完成された戦闘スタイルであり強さでもある。

 同時に、戦力として期待すべきでない強さでもある。

 戦えと命じられて戦うのではなく、自ら戦場に身を置き戦う。

 魔法少女とは、美しさとはかくあるべきだ。

 

「マスター。ご命令を」

「まずはこの糸の掃除ですわ。全員、刃状の武器に持ち替えなさい。打撃は通じませんわ」

 

 【魔法少女β】。

 数多の武器に通ずる魔法少女。

 1人で多数の武器を扱う『人間武器庫』と称されるイテカとは対照的に、多数のワルキューレで多数の武器を扱うプシュケーとワルキューレ。

 どちらがより良いかと問われれば、専門性の違いだとプシュケーは答えるであろう。

 あちらは個人戦闘に振り切っているし、プシュケーはどちらにも対応出来るのだから。

 

 それでも、何か比較対象を挙げるのだとすれば、イテカが複数の特典武具を所持しているのに対してプシュケーが所持しているのは1つだけということだろうか。

 複数の――プシュケーが知っている限りでは逸話級だけである特典武具と、伝説級であるスウェーコン。

 数ではイテカに軍配があがるが、武器の質でいえばプシュケーに上がる。

 あとはまあ、ジョブとエンブリオの性質の違いくらいだろう。

 

「……ふぅ。ひとまずは見栄えが良くなりましたわね」

 

 リソースの限界か。

 糸は切り離せば消えてなくなる。

 そのまま残り、何かの効果があるのではと危惧していたが、杞憂に終わり胸をなでおろす。

 

「貴女達のでも容易に切除出来たのは僥倖といって差し支えありませんわ」

 

 低品質とは言わないが、プシュケーの持つスウェーコンに比べれば数段は劣る。

 だが、それでも苦しめられると思っていた糸の結界を切り崩せたのは嬉しい誤算だろう。

 あるいは、【魔法少女β】が作用していたからなのかもしれないが。

 ならばやはり、プシュケーのみが先んじたのは良かったのかもしれない。

 他の魔法少女や、襲撃を生き延びたクリアント達が弱いとは決して言わないが、しかし糸を突破するだけの強さがあるかは別だ。

 体術であったり力任せであったり。そういった手合いは、この手の搦め手に弱い。

 それこそ、イテカが山を丸ごと焼き払わなければならない場面に陥っていた可能性とてあるだろう。

 

「環境破壊は美しくありませんわ。この糸を含めて、景観が損なわれますわ」

 

 糸を切りながら進んでいく。

 徐々に白の密度が濃くなっていることから、敵の本拠地が近いのかもしれない。

 いや、近いのだとプシュケーは確信している。

 途中までであるがクレハドールの映像を見ていたからこそ、糸の張り巡らされた箇所が、ある一点を中心に拡がっていることくらい誰が見ても分かるのだから。

 

「しっかし、糸には良い思い出がありませんわね」

 

 あのドラゲイルとの戦いを嫌でも思い出させられる。

 次々に殺されていくワルキューレ達。

 最後には彼女らを犠牲にしなければならなくなった。

 

 もう二度とあのような思いはしたくない。

 そして、誰にもさせたくない。

 

 美しさとは自身だけで完結するものではない。

 

 その佇まいが、生き方が美しくなければ、美しいと感じさせなければならない。

 

 プシュケーが先行した理由がこれだ。

 

 要は、このような罠如きで誰も失いたくなかったのだ。

 

「マスター。事前情報によればそろそろかと」

「ええ。警戒は怠らないように。自身だけでなく、周りの姉妹達にも気を払いなさい」

 

 そう言いながら、プシュケーはワルキューレの1人の肩に付いている糸を取り払おうと手を伸ばす。

 恐らくは切り払った時にでも破片が付いてしまったのだろう。

 僅か数センチであるが、粘着性があるため強く叩くか、直接取り除かなければしばらくは付きっぱなしであろう。

 

「マスター。私が」

 

 主の手を煩わせるのも、と思ったのか。

 別のワルキューレがプシュケーよりも先に姉妹の肩に触れる。

 粘着性がある、とは言っても普通の蜘蛛の糸に毛が生えたようなもの。

 ワルキューレのステータスであれば、むしろ蜘蛛糸以下だ。

 あくまで、自然に落ちないといった程度であろう。

 

「――え」

 

 ワルキューレが肩に触れた。

 その瞬間、プシュケーに悪寒が走る。

 

 おかしい。

 違和感が、何か違うと、プシュケーの戦闘経験が告げている。

 

 先ほどまでそうであったものが、今は全く違うものに――

 

「待ちな――」

 

 その瞬間であった。

 

 糸が付着していたワルキューレの上半身が下半身と別れを告げ、そして肩に手を置いていたワルキューレの手もまた、手首から先を落とした。

 

 まるで切断されたかのように。

 それは突然であり、急激であり、恐慌に陥るには十分であった。

 

 血しぶきがあがる。

 瞳孔から生気を失くしたワルキューレが消えていき、突然の痛みに覚悟が出来ていなかった呻くワルキューレが蹲り、他のワルキューレ達の思考が固まる。

 

 その様子をただ、糸使いは糸の感触から愉しむのであった。

 

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