<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する   作:そらからり

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180話 英雄を誘わず 5

■【魔法少女β】プシュケー・アーチ

 

「(なるほど……分かってきましたわ)」

 

 感情的になったことで、逆に少し冷静を取り戻したのか。

 プシュケーは敵の能力を掴みかけていた。

 

「(恐らくは能力の同時使用は出来ない……粘着か切断、どちらになっているのか見極めさえすれば……!)」

 

 進路方向、足元に糸片が幾つも散らばり落ちている。

 明らかに罠。

 見せかけであったとしても、踏むのは得策ではない。

 

「そう。どちらにせよ、ですわ」

 

 理屈は不明なままであるが、切断が付与された糸は破片になっているものに限られている。

 稀に網状の糸が切断を招くこともあるが、それは網に糸片が付いているからであろう。

 

「欠片は切断と粘着のどちらか。そして、生み出されたばかりの糸に切断は乗っていませんわ」

 

 それだけ分かれば後は戦術の組み立てが可能だ。

 致死的なものさえ避けさえすれば、他は燃やし尽くせる。

 

「その石は……厄介ですねェ」

 

 付与師からの支援と、ジェムによる糸の焼却。

 

「甘ィ」

 

 しかし、それもまたスパイダーは予想していなかったわけではない。

 邂逅時、突入と同時に火魔法を込めたジェムの使用をスパイダーはその目で見ていた。

 彼にとっても火は弱点であると熟知している。

 

「なっ……!?」

 

 熟知しているからこそ、火に耐性のある糸を作成することなど朝飯前だ。

 人間がそうであるように。

 技術を受け継いだ彼もまた火を克服する力を持ち合わせている。

 

 燃え尽きなかった糸が瞬時にワルキューレ達を絡めとっていく。

 燃焼であったため、【切断王】の《両刀両断》は発動しなかったが、洞窟内に糸片はまだ隠し持っている。

 それのいずれかに触れさえすれば、スパイダーの勝ちだ。

 

「甘いのはそちらではなくて?」

 

 同じ手が通用しないのはプシュケーも同様だ。

 スウェーコンを指で回転させ糸の切断を目論む。

 だが、

 

「ィィェ」

 

 先ほどの攻防を繰り返すのであれば。

 同じ手が通用しないのはプシュケーもスパイダーも、だ。

 

 プシュケーの武器が糸を容易に切断できる強度であるならば。

 

 その強度を上回る切断力を付与するだけ。

 

「此れは奥の手です」

 

 スウェーコンと糸の衝突。

 刃物と蜘蛛糸。

 その強度は雲泥の差であり誰しもが、前者が後者を断ち切ると予想するであろう。

 

 だが、

 

「《その斬撃が上回るのならば(キングリッパー)》」

 

 糸は健在であり、切断されたのはスウェーコンであった。

 

「使ェなィ。此れでその武器は使ェなィ」

 

 それこそが【切断王】の奥義。

 王であるならば他の何者にも負けないとばかりに、超級職の名を冠した《その斬撃が上回るのならば(キングリッパー)》。

 その能力は切断力の上乗せ。

 斬られたら斬り返すことこそが《両刀両断》であるならば、相手の武器の切れ味を元に自身の切断力を増すのが《その斬撃が上回るのならば(キングリッパー)》である。

 通常スキルと類似した奥義であるが、どのような相手であっても上回ることが出来るこの奥義の前では切断力において負けることは無い。

 対象は1日に1つまでと制限は強いが、スパイダーは現在の敵の扱う武器よりも上の業物は滅多に出てこないだろうと確信し使用する。

 今この瞬間より、スパイダーの糸はスウェーコンの切断力を上回った。

 それは糸片でなくとも、触れるのは危険であることになる。

 

「私の糸全てがその槍よりも切れ味が鋭ィ。さァ、後は何が出来る? どう藻掻く? 楽しみです。愉しみです」

 

 何もできないだろう。

 スパイダーはそう高を括り嗤う。

 

 プシュケーがあれ以上の武器を持ちだせるのならばとっくに使っている。

 スウェーコンこそが彼女の最高の武器。

 だからこそ、それを封じられては打つ手は無くなる。

 

「……ふぅ」

 

 その息はふとした拍子に漏れ出たように。

 敗北を認めたように、スパイダーは感じ取る。

 

「(勝った……!)」

「藻掻きませんわ。美しく勝利するまでです」

 

 数度、スウェーコンを振るう。

 だが、何度糸に叩き込んだところで勝てることは無い。

 打ち込む度にスウェーコンは短くなっていき、斬り飛ばされた先端が宙を舞う。

 

「しィっ! しィっ!」

 

 捨て鉢になり気が触れたかとスパイダーは道化を見るように笑う。

 

「無様ですねェ。それでは使い物に……なにィ!?」

「伸びなさい」

 

 小間切れとなり、遂にはプシュケーの掌で小さな一片となったスウェーコン。

 だが、持ち主の言葉により再度その大きさを取り戻す。

 

「お受け取りなさい!」

 

 宙に舞うスウェーコンの欠片を弾く。

 数十の欠片のうちいくつかはあらぬ方角へと飛ばされるが、ワルキューレ全員の手元に最低でも1つはスウェーコンの欠片が届いた。

 

「スウェーコン。伸びなさい」

 

 プシュケーの言葉でワルキューレ全ての手元にあるスウェーコンが伸びていく。

 

 伸縮自在の特典武具スウェーコン。

 この武器は別たれても機能する。

 

「だ、だがァ! それが何だと言ゥのです……どのみち軟弱な槍に変わりは無く――」

 

 そう、結局スウェーコンという武器の強度はスパイダーの糸に負けている。

 増えたところで糸の網を掻い潜って攻撃することなど――

 

「「「伸びよ」」」

 

 それが、伸縮自在でなければ不可能だ。

 槍を振るうということ。

 その攻撃の軌道は線で表される。

 故に防御するのであれば、その線上に糸を配置すればよい。

 

 だが、槍の真価は薙ぐのではなく突くことにある。

 

 ワルキューレの手元にあるスウェーコン全ての矛先がスパイダーへと向けられる。

 それが伸長すれば当然、先にあるものは貫かれる。

 四方から放たれるスウェーコンの連打。

 糸で防ぐのは難義だ。

 

 たまらずスパイダーは糸の操作を解除し回避行動に移るも、その全てを避けきれず、体を串刺しにされていく。

 

「ヒィッ……」

 

 しかし流石はというべきか。

 神話級UBMの眷属である彼の体力はプシュケー達の予想を上回る。

 先ほどの洞窟の崩落を防いだのも咄嗟の出来事であったが、それは頑強で無かった過去があったからなのかもしれない。

 

 スウェーコンの連打を生き延びたスパイダーは次の一手を作り出そうと糸を吐きだす。

 だが、その前にプシュケーが走り出していた。

 一瞬でも糸の操作を止めてしまった。

 それを見逃す彼女では無い。

 

 距離を詰める。

 

「……ッ!」

 

 スパイダーは僅かな時間で考える。

 攻撃か防御か。

 

 彼の本来の専門は罠。

 攻防共に戦闘の経験は少ない。

 

 だからこそ、咄嗟の行動は常に防御を取ってしまう。

 

 吐き出された僅かな糸を手繰り寄せ作り上げられた彼の作品は網よりも目の細かな、あえて表現するのであれば盾だ。

 

「……!」

 

 プシュケーの動きが僅かに止まる。

 盾に対してどうすれば良いのか思案しているのだろう。

 

「(どのみち……どのみち、だ! 防げば良い……わけではなく! この糸に槍が当たれば……それで!)」

 

 糸で紡がれた盾。

 当然ながら《その斬撃が上回るのならば(キングリッパー)》の適応内だ。

 つまりは、触れたら【切断王】により強化されたスウェーコンの切断力がそのままスウェーコンを再度触れた箇所から切断していく。

 だが、先ほど見せたように、プシュケーの武器は切断したところで再び元の大きさを取り戻すだろう。

 それでも良い。

 僅かに隙を見出せば、盾をプシュケーにぶつけてしまえる。

 防御こそ最大の攻撃というように、この糸の盾はそのまま攻撃に転じることが出来る。

 ご自慢の武器よりも優れた切断力の盾により全身を刻まれるがいい、とスパイダーは勝利の道筋を立てたところで、

 

「……ァれ?」

 

 眼前に立つプシュケーが未だ攻撃しないことに首を傾げた。

 

「戻りなさい」

 

 彼女の言葉に合わせるようにワルキューレ達は手元にあるスウェーコンをプシュケーへと投げ返す。

 まるで吸い込まれるようにスウェーコン同士が次々と結合していき、やがて幾十本もあったスウェーコンは元の1本へと戻る。

 

「……?」

 

 その行動の意味が分からずスパイダーは疑念が頭から離れない。

 

「大きく、長く、伸びなさい」

 

 ぐん、とスウェーコンが1回り巨大になる。

 その成長はそこで止まらず、2回り……いやプシュケーの手に収まらなくなっても太さを増していく。

 

「……へ?」

「ようやく辿り着けましたわ。敵手の前に立った時。それが私の勝利ですわ」

 

 だが、いくら巨大になろうとスパイダーには糸の盾がある。

 この盾が――

 

「ぷぎょっ――」

 

 ――あったところで、それは使い物にならず、スパイダー諸共両断される。

 

「(なぜ……)」

 

 【切断王】のスキルを手にし、賢しい知恵で罠を張り巡らした【パス・スパイダー】。

 その最後は手に入れた力の名に相応しいものとなった。

 

「久しぶりに無茶させましたわ」

 

 そして、プシュケーもまた温存出来なかった力の1つに対して口をとがらせる。

 【猿猴鉾 スウェーコン】。

 伸縮自在であり、その言葉の意味には大小が含まれる。

 太くすれば重量も増す。

 そして、太さと重量が増すということは、分厚い刃による攻撃性能が増す。

 伸ばせば伸ばすだけ。

 大きくすれば大きくするだけ。

 性能が増す特典武具。

 

 シンプルな能力故に元の性能が高かった特典武具であるため隠せていた真の能力だ。

 当然ながら、その力を知る者はクャントルスカを始めとしてプシュケー以外1人もいない。

 

「連戦、といきたいところですが休憩が必要になりますわね」

 

 消耗の激しい戦闘であった。

 ワルキューレ達の顔には疲労が見えていたし、プシュケー自身も休憩を必要としている。

 

「……他のネームド個体がまだまだいるようでしょうけど」

 

 だが、敵の力が未知数であろうとも。

 いくら強くとも。

 

 魔法少女であれば負ける理由にはならない。

 

「ふふ……露払いは成功ですわ……後は、頼みますわよ」

 

 洞窟の壁にもたれるように座り込む。

 恐らくは先遣隊であるプシュケー達を追い越してクャントルスカ達は先に進むだろう。

 このまま追いつけるかは分からない。

 

 だが、

 

「神話級を相手にするなら私の力は必要になりましょう? この美しい私の力が」

 

 仲間が窮地に陥った時、すかさず駆け付けるのだ。

 それが美しい合流だろう。

 

 プシュケーは微笑みながら、しばし目を閉じるのであった。

 

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