<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する   作:そらからり

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少しだけ改稿しました


187 大きな(てのひら)と小さい(こぶし) 7

■【魔法少女θ】キシリー・キシシキ

 

「ふむ……? あと一撃といったところか」

 

 更なる追撃。

 度重なる衝撃によりキシリーの全身には【骨折】があり、動くたびに全身が軋み、ダメージを与える。

 

「――ッァァァァァァァァァ!!」

 

 まるで隕石を思わせるキシリーの握りこぶし。

 頭上から振るその攻撃にヘラクレスは一歩も怖気づかない。

 絶大なる自身のステータスに誇りと信頼を持ち、揺るぎなく迎え撃とうとする。

 

 もし、彼女に必殺スキルが芽生えるとすれば今が絶好のタイミングであっただろう。

 弱さに気づき、勝ちたいと望み、必殺スキルさえあれば勝てるかもしれない機会。

 

 だが、芽生えない。

 必殺スキルが芽生えるアナウンスは無く、彼女は自身の持ち札で戦う他ない。

 

「ヌハハ……は? はぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?」

 

 笑いながら拳を握っていたヘラクレスの顔が固まる。

 次の瞬間には理解不能といった表情が張りつけられる。

 

「《コーディネート》」

 

 それはとある戦いによく似たものであった。

 相手に自身の手持ちの衣装を着せる。

 ただし、その意味合いは大きく異なるが。

 

 【裸王】という名を聞き、キシリーはすぐさま着脱こそが強化のヒントであることを察した。

 というか、先ほどから装備が剥がれるごとに強くなっていたのだから尚更だ。

 

 脱げば強くなる。

 ならば、着せればどうなるのだろうか。

 

 答えは明白だ。

 

 強化値が戻る。

 

 乗せられていったパーセンテージが減算していく。

 

「な、なぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 

 分厚い筋肉に似合わぬフリルの付いた長い丈のワンピース。

 全身の装備枠を使用する衣服を強制的にヘラクレスに着せたことでヘラクレスの強化幅は大きく下がった。

 

「《コーディネート》」

 

 外した兜の代わりに白いカチューシャ。

 

「《コーディネート》」

 

 手甲の代わりに手縫いの大きい手袋。

 

「《コーディネート》」

 

 真っ赤なブーツを履かせ、全身のコーディネートは完了する。

 

「くそ、くそ……ッ! 何故脱げぬのだ!」

「頑張ってたくさん作った甲斐があった……!」

 

 元々拙いながらも裁縫屋系統は上げていた。

 だが、クャントルスカに言われた可能性――こんな自分でも可愛くなれるという言葉を胸により裁縫に力を入れていた。

 そのおかげで上級職である【裁縫職人】にも就くことが出来るようになり、サブジョブの1つに置いてあった。

 まさか戦闘に役立つだなんて想像していなかったが。

 

 【裁縫職人】奥義である《コーディネート》の利点、あるいは欠点。

 強制的に着せているため、破壊による脱衣は出来ても、更衣動作による脱衣は1分間行えなくなる。

 幾度も着せ替えることは不可能。

 他者を安易に玩具にしないように付けられたセーフティーであるが、それはヘラクレスにとっては著しいデバフであった。

 

「うん。強いけど、お前はとても可愛くなった」

 

 今なら認められる。

 敵の強さも可愛さも。

 本気で愛し、本気で羨み、本気で戦える。

 

 だって、キシリー自身が強くて可愛いことを知っているのだから。

 

 羨み、恨むだけではなく、これからは張り合える。

 

「この、このぉぉぉぉぉぉ!」

 

 迫るキシリーの巨大な拳。

 ヘラクレスの、人間からしてみれば巨体すら覆うような拳に対し、ヘラクレスはそれでも闘志を揺るがさない。

 

「最終……奥義! 燃やせ我が正義の心。《全裸万象(ヌーディアス)》!」

 

 視線が吸い寄せられた。

 

 ヘラクレスの一挙手一投足に。

 次に何をするか、今どのような状況か、目が離せない。

 

 それが、この山全ての生物を対象として起きていた。

 

 【裸王】最終奥義《全裸万象》。視線を集めるスキル。

 そして、集めた視線の数に伴い自身を強化する。

 奥義である《許されざる全裸郷》の強化版といったところか。

 脱いでいなくても発動する。見ていない者は強制的に見させる。

 強化された能力に伴い、SP、MP共に消費は膨大。

 どちらも補正値が然程ではない【裸王】にとって本当の最終奥義である。

 

 山中の生物全ての視線。

 その数は膨大だ。

 【パラポーラ】だけで何千匹といるだろうか。

 土中に潜んでいる者もおり、彼らが直接ヘラクレスを視認できないため、全部ではないが、

 それでも視認者を合算すれば、数倍程度の強化では済まない。

 

「《姫の三振り》」

 

 それはほとんど無意識であった。

 《全裸待機》に対して【裁縫職人】で対抗したように。

 《全裸万象》に対してもキシリーは攻略法を持ち得ていた。

 

「小さくなれ」

 

 キシリーの拳を受け止めるヘラクレス。

 片手で受け止めても余裕の表情である彼の頭に小さな衝撃があった。

 僅かなダメージにも満たない小さな小さな衝撃。

 その正体は、キシリーの拳の指の間から落ちてきたウチデノコヅチ。

 

 当てたものの大きさを変えるエンブリオ。

 その大小の幅であるが、大きさは最大で2倍程度にしかならないが、小さくなることに対してはもう少し幅がある。

 『一寸法師』という物語では姫が一寸法師に対して大きくなるように使用していたが、キシリーが小さくなることを望んだが所以だろうか。

 14mの少女が2m未満にまで小さくなる……つまりは7分の1まで小さく出来る。

 3m程のヘラクレスに対して使用すればどうなるか。

 3mの7分の1……答えは43センチ程だ。

 無論、これだけでヘラクレスのステータスを減らせるわけではない。

 あくまでウチデノコヅチに出来るのは小さくすることだけだ。

 

 だが、小さくなったヘラクレス。

 果たして彼を視認できる者はどれだけいるのだろうか。

 

「なっ……!? 力が……力が削がれているだと?」

 

 見る者がいなくなったため《全裸万象》の発動条件が満たされなくなる。

 

「やっぱり……見れば強くなるんなら、見えなくなっちゃえばいいんだ」

 

 ヘラクレスの姿は拳に埋もれる。

 キシリーからすらも見えない。

 誰も見る者がいなくなれば、【裸王】のほとんどのスキルが機能しなくなる。

 

「私の方が大きい。私の方が強い。私の方が可愛い……私の方がきっと、正しいんだ!」

「負けぬ……負けぬぞ! 我は、我こそは正義! 我が倒れれば弱き【パラポーラ】達は人間の餌食にされてしまう」

 

 幾度対策を取られてもヘラクレスの心は折れない。

 あの日誓った。

 憧れた正義の主人公。 

 それそのものに成るために。

 

「……違う! 貴方は正義の味方なんかんじゃない!」

 

 キシリーは断言する。

 彼女の見た正義は別の形だ。

 友人は正義は人それぞれにあったいいのだと言った。

 

 だが、

 

「無暗に人を傷付ける怪物……ただ暴れたい理由を付けたがるモンスターだ!」

 

 ほとんどステータス差のない2者。

 あるのは大きさだ。

 40センチと30メートル。

 それはまさに巨人と妖精の戦いに近い。

 

 巨人と妖精の戦い。

 既に決着の付いた2種族間の戦いは妖精の勝利に終わった。

 理由はステータスの差が無いことであったが、それは現在も同様だ。

 

 だが、それは本当に正しいのだろうか。

 

 いや、他に要因は無かったのだろうか。

 

 妖精はその身に翅を持つ。

 自在に飛び、自在に宙を舞う。

 機動力においては巨人を圧倒しただろう。

 

「と、飛べぬ……!」

 

 ヘラクレスもまた翅を持つ蟲だ。

 だが、羽ばたくことを彼の着るワンピースが阻む。

 故に妖精の特権は通じない。

 

 更にキシリーは逃がさないため、手を開きヘラクレスを包み込む。

 

「ぬ、ぬぅぅぅぅぅ!? 退け、そこを退けぇぇぇぇぇ!!!」

「ッ!」

 

 暴れ、キシリーの手をこじ開けようとするも、その両手は決して隙間をみせない。

 僅かに零れる光がヘラクレスに希望を見出させるが、開かぬ時間が長引くほどに、逆に鉄格子に閉じ込められたかのように錯覚させられる。

 

「痛っ……くない! 私は強いんだ!」

「開けろ! 我を外に出せ! 正義を……我をこんな、誰にも見られない場所などで……」

 

 ヘラクレスがキシリーにダメージを与えられるのは彼女の両手のみ。

 いくら攻撃をしようと致命傷になることはなく、部位欠損が生じる程ステータス差があるわけではない。

 加えて、ウチデノコヅチの良心的仕様ともいえる機能がキシリーを味方していた。

 

「ここまで……重いのか!?」

 

 体重差だ。

 ウチデノコヅチで増える体重に次ぐ数値。

 小さくなれば軽くなり、大きくなれば重くなる。

 当然だろう。

 少女の重さのままで大きくなれば、風が吹いただけで倒れてしまう。

 巨人の重さのままで小さくなれば密度で動けなくなってしまう。

 

 ウチデノコヅチの良心的な仕様ともいえる機能。

 

 しかし体重差はステータス差の無くなったヘラクレスにとって致命的なものとなる。

 

「我は、我は守りたかったのだ……」

「違う! 笑いながら人を傷付けた。魔法少女にとって悪い敵。それがお前だ!」

 

 その言葉こそがヘラクレスにとっての弱点であった。

 正義を自称する者に己の行動を知らしめる。

 自身を悪であると理解させる。

 

「魔法少女はみんなを助ける。みんなを傷付けるお前なんて倒してやる!」

 

 ヘラクレスの力が抜けていく。

 《全裸万象》を使ったことでSPとMPが底をつき他の強化スキルも使えなくなったのだ。

 そして、《全裸万象》の効果が切れた時、最終奥義使用に伴う反動が彼を襲う。

 

「……ッ!?」

 

 全ステータス1固定化。

 時間は彼を見た視線の数に応じた秒数。

 その時間だけをキシリーから生き延びる術は……残念ながら見つからない。

 

 だけどそれ以前に。

 己を正義と信じられなくなったヘラクレスの戦意が喪失していた。

 盲目に、そしてメッキを取り付けて正義を名乗っていたヘラクレスが、己が物語において正義の味方に倒される悪党であることを自覚したことこそが、彼の最期であった。

 

 抵抗を感じなくなったヘラクレスを地面に放る。

 地面に激突した衝撃でヘラクレスのHPは0になるが、構わずキシリーは拳を押し付け、山の地面ごと平らにした。

 キシリーの拳の下で、小さなカブトムシは光の塵となって消えていく。

 

「……みんな。頑張って」

 

 キシリーが捉えた視界の中で、1人の少女の背が見えた。

 彼女のエンブリオが抱えて空を飛んでいる。

 他のメンバーとはもうすぐ合流出来そうだ。

 《全裸万象》で一時的にこちらを向いていたが、自分を応援してくれていただろうか。

 

「(もし応援してくれてたら……嬉しいな)」

 

 応援こそが魔法少女の力の源。

 

 キシリーは勝利の笑みを浮かべながら、ヘラクレスが消えたことで巻き込まれないよう退避し、戻ってきた【パラポーラ】の大群に全身を噛みつかれ死亡した。

 

 目立つ戦いだ。

 だが、だからこそ他の仲間は見つかることなく先に進むことが出来た。

 それは、かつて仲間すら羨んだことでパーティーを組むことが少なかったキシリーにとって、間違いなく晴れ晴れしい勝利である。

 




まあ目立つよね

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