<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する   作:そらからり

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188話 迷い子

■【魔法少女ω】クリアント

 

 蜜を取り返すための奪還隊。

 魔法少女を始めとした20余りの〈マスター〉達であったが、切断糸の結界や【パス・ヘラクレス】による襲撃によって多大な犠牲を出していた。

 現在生き延びているのは10名にも満たないが、生き延びているが故に精鋭というわけではなく、その中には運が良かっただけの者もいる。

 一応は、大なり小なり戦闘に向いている〈マスター〉が選出され、残りは街の防衛に残っている。

 20人全員が蜜の前に辿り着けると思っていたわけではない。

 そこに辿り着く前に多少の犠牲は致し方ないことで、敵を引きつけるためにも犠牲を出しながら進む他無いだろうと、誰もが思っていた。

 

 だが、それでも予想以上に敵は強い。

 最低でも逸話級に匹敵するネームド個体に、攻撃に偏った性能を持つ【パラポーラ】。

 これらを相手にしながら進めば、一つの戦闘が無傷では済まない。

 たとえ撃破出来たとしても、それ以上の被害がこちら側に出てしまう。

 既に生き残りは半分以下。

 進行状況は半分以上……かどうかは不明。

 敵の数も、山の地形も完全に把握できているわけではないのだから。

 だから、ここまでも、ここからも一丸となって進むしかない。

 ただでさえ敵の統率が取れているのだから、即席でもチームワークを取るしか無いのだ。

 

「……はぐれちゃいましたねー」

「あれだけ敵が暴れていたからな……。まさかここまで離されるとは思わなかった」

 

 故に、現在位置を見失い、仲間と逸れるなど論外だ。

 敵陣において命知らずな行動をしながら、歩を進めるクリアント。

 ヘラクレスにより死亡し、新たな肉体で蘇生した彼であったが、視界が明けてみればそこに仲間の姿は無かった。

 ヘラクレスが絶えず周囲に攻撃を行っていたが故か、一帯が危険であると判断されたのだろう。

 加えて、【パラポーラ】が徘徊しているため、彼らの死角となるような安全地帯となると、かなりの大移動となってしまっていた。

 

 彼に愚痴るように……否、嫌味を言うかのようにワンプはクリアントの弱点を口に出していた。

 

「先輩ってとことん近接以外に弱いですよね。あ、近接も弱いんでしたっけ? マッドラップスさん頼りの戦い方って結局死んじゃっていますし」

「……いけると思ったんだけどな」

 

 自身の肉体をマッドラップスで毒に置換し、爆発で敵を汚染する。

 その戦い方は彼のエンブリオの特性を考えれば間違ってはいない。

 ステータス補正も【魔法少女ω】によってENDに偏っているとはいえ、エンブリオや他のジョブからの恩恵がほぼ無いに等しい。

 死にやすいからこそ、死ぬ前提で戦闘スタイルを組み込んでいく。

 間違ってはいない。

 だからこそ、たとえ通じないとしても変えづらいのだ。

 

「マッドラップスの第二スキルの方もやっぱり近接戦闘向きだからな。パルペテノンは攻撃力が無いし、クレハドールは……今の俺だと扱いきれない」

「唯一頼れるのはこのワンプちゃんだけってことですね! ふふん! 今の私は第六形態ですから。これまでとは違いますよ」

「え、そうなのか!?」

 

 自身の力に無頓着なクリアントが悪いのか、それともワンプが申告していなかったのが悪いのか。

 いつの間にか更に進化を遂げていた自身のエンブリオに驚くクリアント。

 必殺スキルを憶えたのはごく最近のことであるし、成長が早い。

 それ自体は良いことであるが、それがこの現状を打開するだけの力があるかどうか。

 肉体創造にリソースを割いているためか、実質的な戦力強化はほぼ無いのだ。

 必殺スキルくらいしか戦闘スキルが無いくらいだ。

 

「ちなみに新しいスキルとかあるのか?」

 

 《異身伝心》という肉体創造に関するスキルは4つある。

 このスキルが増え、創造時の特典なりがあればまだ戦い方が変わるだろう。

 

「それがですね……」

「ああ――」

「全くありません。どうやらワンプちゃんのスキルは燃費が悪いみたいです」

 

 拍子抜けするくらいにあっけらかんと言ってのけるワンプに対し、クリアントは『まあ、そうだよな』と感想を思い浮かぶ。

 期待はしていたが失望することはない。

 そのような性質だからこそ、彼のエンブリオはスワンプマンなのだろう。

 

「でも、全く成長していないってわけではないですよ? なんと、1日に10回までだった回数制限に変化がありました!」

「……ほう?」

 

 第五形態に進化した際にまさかの回数が減ってしまったが、取り戻したのだろうか。

 それだけでも随分と大きな成長である。

 

「15回……いや、大きく出て20回か?」

「いえ、回数自体は10回のままです」

「なんだ……だったらどんな風に成長したんだ?」

 

 ちなみに外見の成長は微塵も感じられない。

 相変わらず凹凸の少ない10代前半の肉体だ。

 

「もう、何を想像しているんですか! 先輩のえっち!」

「……」

「いや、その悲しそうな眼はやめてください」

 

 ルール体である今のワンプの姿を見ることは出来ない。

 記憶を辿れば、服から染み出る泥の質感が少しだけ良くなっていた気もする。

 泥パックでも出来そうな滑らかな肌触りだ。

 

「そうか……美容に気を遣う年頃なんだな……」

「ワンプちゃんは何時だってオシャレ思考ですー! っじゃなくて、スキルの仕様の変更ですよ。これまでは一日に10回限りでしたが、今のワンプちゃんは144分経過でストックが1つ回復していきます」

「半端な……ああ、2,4時間か」

 

 24時間経過で10回復していたストックが等分されたということだろう。

 状況次第では裏目に出そうだが、連戦が続く場合であれば休憩さえ取れればストックが回復する今の方がありがたい。

 

「というわけで、先輩のストックが5回にまで回復しています。どうです? 少しは戦いやすくなったでしょう!」

「ああ、そうだな。……戦闘力としては全く変わっていないが」

 

 とはいえ、課題である遠距離攻撃の対策や、クリアント自身のステータスの低さや攻撃手段の乏しさが改善されたわけではない。

 攻撃か防御、せめてどちらかの面だけでも強化を図りたいところだ。

 

「UBMがこの山にいるなんてことは無いだろうから特典武具をゲットするのは不可能。今のジョブもほぼカンストに近いから新しいスキルも無い。加えてワンプの強化もたった今、限界を迎えた」

「迎えてないですぅー。まだ更に進化出来ますぅー」

 

 ならばさっさと進化してみろと言いたいところだが、たぶん泣き出してしまうだろうとクリアントは開きかけた口を閉じる。

 それに、打開策が無いわけでは無いのだ。

 今のジョブも、特典武具も、エンブリオもこれ以上の強化がすぐさま見込めないのであったとしても。

 本来目指していた場所がこの付近であるから、道が閉ざされているわけではない。

 

「ところで先輩。わりかし迷いなく歩いていますけど、皆さんの居場所分かるんですか?」

「いや? フィリップでも無いし、分からないぞ」

「……遭難中はなるべくそこから動かないって鉄則知ってます? というかもう迷子ですよ今の先輩」

 

 いくら逸れているとはいえ、己の主人を迷子扱いするエンブリオもどうかとは思うが、クリアントは動じない。

 

「俺達がペルソティに来た理由覚えてるか?」

「フィリップさんと合流ですよね。それくらいは覚えていますとも」

「それもそうだけど、俺達の目的はそれだけじゃないだろ?」

 

 そう、クリアントはウィンドウに表示されるアナウンスに従い歩いていた。

 新たな力を求めて。

 

「まさか……!?」

「というかワンプってどこまで俺と視界を共有出来ているんだ? 今なら見えているだろ」

「えへへ。勿論冗談ですよー。視界の隅っこに邪魔な矢印あるなとか思っていませんって」

 

 恐らくだが思っていた。

 気にしていなかっただけだろう。

 

「というわけで。辿り着いたぞ」

 

 山があれば谷がある。

 生物の生存を許さない、暗闇が支配する峡谷の端にクリアントは立つ。

 

「【自殺王】に転職するためのクリスタル。それが置かれているのがこの崖の下だろう」

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