<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する   作:そらからり

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消話 神と巫女 2

■昔の話

 

 村が消えていく。

 最初の村は突然であった。

 2つ目の村は対策を取ろうとする途中であった。

 3つ目以降は対策を取っているはずであった。

 

 何をしようとも、人間の知恵など浅はかだと嘲笑うかの如く、一夜ごとに村は1つずつ消えていく。

 海岸線に沿うように、徐々に近辺の村は壊滅していく。

 

「……まだか! 巫女殿はどこで何をしている!」

 

 そして、村を超えて、ついに次の被害が出るだろう予測地点は街に辿り着いた。

 セパトレイトという街である。

 

「直に到着されるかと……」

 

 領主に怒鳴られ、兵士は身を震わせながら答える。

 彼とて怖いのだ。

 一兵士如きが適う敵では無い。

 すでに数百人単位で人間が食われている。

 同じ数の兵士がいたとして、対抗できるかどうか。

 

「隣の村はどうなっている」

「昨夜には壊滅したとの情報です。村人は1人も残っていなかったと」

「くそっ、くそっくそっくそっ! なんだって俺が領主の時に! よりにもよって……いや、待てよ」

 

 これはある意味でチャンスなのではないだろうか。

 グラスコードという凶悪なモンスターから街を守ったという功績があれば、街の領主どころか国の中枢部にまで近づけるかもしれない。

 

「……精鋭達をかき集めろ」

「……は?」

「早く! 巫女殿が到着するまでに街の兵士を集めておくんだ! 今夜にも奴はやってくるぞ! それまでに準備を進めておくんだ。奴を討伐する準備をな」

 

 近隣の村はせいぜい100人から200人規模の小さな村。

 その中には戦えない子供や老人も含まれている。

 しかし、この街には兵士だけで200人。上級職である【大騎士】や【疾風騎士】も在籍している。

 

「しかし巫女を呼び、グラスコードを海に還すという手筈では……」

 

 巫女の仕事はグラスコードを鎮めること。

 そして、そのまま海底へと、元の棲み処へと戻ってもらうという手筈であった。

 それしかグラスコードを止められない。

 苦渋の決断であったはず。

 

「はっ! そんな生ぬるいことをやっていられるか。せっかく、奴を大人しくさせるんだ。だったら殺しちまった方が、村の奴らも浮かばれるというものだ」

「しかし……」

「それに今生かしておけば、次にいつまた攻めてくるかという恐怖が残るのだぞ。一時鎮めたからといって、一年後にまた人間を食い始めたらどうにもならん」

 

 未来を考えれば、確かに討伐出来るタイミングで討伐すべきなのだろう。

 しかし、この領主がそれを本当に予期しているかは別として。

 恐らくは私利私欲のためにグラスコードを討伐したいのだろうが。

 

「(それに……グラスコードを俺の私兵で討伐出来れば、俺の名誉になる)」」

「(……私の代でこの化け物を止めておかなければ。今後、これ以上手に負えなくなる前に)」

 

 両者共に、グラスコードを倒すという考えにまとまった。

 その過程は真反対であろうとも、倒すことに変わりはない。

 

「それで、そのグラスコードという化け物は一体どういった化け物なんだ?」

「……は?」

 

 倒す、という前提になった以上は倒せる戦力を用意しなくてはならない。

 その確認ついでとばかりに、今更ながらに領主は訪ねてくる。

 

「ふん。俺の領地に入ってきた愚か者のことだ。村を壊滅させる程度の強さはあるのだったな。ああ、村程度を滅ぼせるのなら話は早いさ」

 

 領主は敵の存在を軽んじている。

 そう兵士は思いながら、現実を見てもらうためにやや大袈裟にグラスコードの力を伝えた。

 

「グラスコードの能力はすでに近隣国や海を生業とする者達から情報を入手済みです。いいですか……グラスコードの能力は異常なほどの回復力を持つ八つ首(・・・)の竜、だそうです」

「竜……それも八つ首か……」

「首の数については推定みたいですね。生存者が極端に少ないうえに、戦いらしい戦いも起きていないことがほとんど。首が8以下なのかそれ以上なのか……誤差にするには竜の首はあまりにも大きすぎる」

 

 それを聞いて領主はどうだろうかと考える。

 首が分裂しているならば、力も分裂しているべきだ。

 竜を倒したことのある人間を2人……いや3人でも用意しておけば勝てる戦いになるはずだろう。

 これまで倒せなかったのはグラスコードが常に海中から海上の船を攻撃していたからだ。

 しかし今回の標的は地上の街。

 迎撃の準備とて整えられる。

 

「竜殺しの経験のある兵士は何人いたか」

「集団ですと10人。個人ですと2人程になります」

「ふむ……」

 

 その2人に領主は心当たりがあった。

 街にいる唯一無二の超級職。

 【裸王(キングオブヌード)】と【眼王(キングオブアイズ)】の2人で間違いない。

 前者は人間性に問題はあるが、後者は少なくとも街の防衛に力を貸すことに異を唱えないはずだ。

 

「超級職2人と準じる戦力が10人、それに巫女か……」

 

 何とかなる……はずだ。

 むしろ、モンスター1匹には過剰戦力なのかもしれない。

 一領主の用意できるものとしては最高のものであるが、案外と拍子抜けで終わるかもしれない。

 それならばそれでいい。

 

「【裸王】と【眼王】には声をかけておけ。最低でも【眼王】だけでも確保するように」

「はっ」

 

 これで後は待つだけだ。

 巫女は必須。

 直接的な戦闘は【眼王】に頼る。

 10人の竜殺しにはサポートに回ってもらう。

 【裸王】はいるならば【眼王】と共に戦ってもらう。勝率は上がるだろう。

 

 待つだけだ。

 待つだけで、この戦いの決着は付くのだ。

 領主の力など、この戦いにおいて何の役にも立たないのだから。

 

 

 

 

「お待たせ致しました」

 

 領主がグラスコード討伐の方針を固めてから数時間後。

 早ければ今夜には進撃を開始するであろう日の昼過ぎであった。

 巫女が到着した。

 

「【巫女】の職にあります。ミオギと申します」

「うむ。遠方はるばるとご苦労であった。【巫女】は天地由来のジョブであったか」

「はい。神官系統の中でも限られた女性にしか就けない特殊職。とはいえ、天地に行けば珍しくも無い職ですが」

 

 条件は3つ。

 生娘であること。

 信奉する神がいること。

 そして、

 

「お前ならばグラスコードを鎮められるのだな」

「ええ。対話し、海にお帰りになってもらいます」

 

 モンスターと対話できることが最後の条件である。

 

「そうか。まあ、いくらでも好きに話すがいい。それで奴の気を引くことが出来れば、俺にとってはどうでもいいことだ」

 

 グラスコードの戦意を抑えること。

 それが、領主が巫女に求めることであり、討伐することを巫女には伝えずにいた。

 

「グラスコードは竜種とお聞きしましたが」

「ああ。八つ首の竜だそうだ。噂に聞いたが、それは好都合なのだろう?」

「ええ。竜であるならば……神とお呼びするに相応しいですね」

 

 条件のうち2つ目。

 信奉する神がいること。

 これに関して、実は転職条件というよりはスキル発動条件となっている。

 

 すなわち【巫女】とは、モンスターを神と見定め、対話し、鎮める役割を持った生娘ということだ。

 【従魔師】と違う点はキャパシティという設定は無く、神と設定できるモンスターは1体限り。ジュエルに収めることも出来ない。

 

「これでようやく私も真の意味で【巫女】になれます……」

 

 だが、驚くべきはその精度の高さ。

 対話さえ成り立てば、ほぼ100パーセントで神と設定し、鎮静させることが可能となる。

 生涯に1体のみ。

 どれだけ強力であろうともそのモンスターだけは大人しくできる。

 それが【巫女】というジョブだ。

 

「それで報酬の件なのだが……」

 

 ひとまず金貨の入った袋を1つ、2人を挟むテーブルに乗せる。

 だが、それを見てミオギは首を振る。

 

「神様を頂いていくのですから。これ以上の報酬はいりません」

「……そうか」

 

 ややミオギの危うさを感じながら、領主はそれを流す。

 要は、グラスコードさえ倒せればそれでいい。

 【巫女】に出来ることなどそう多くは無い。

 純粋な強さでいえば下級職のどの戦闘系ジョブにも劣る。

 

「ではまた後程」

「休憩部屋は用意してあるが」

「いえ。せっかくですから街を見て回ろうかと」

 

 歓迎の準備もしていたが、それは討伐後で良いか、と領主は考える。

 信奉しようとしている神を殺されて祝いの席も何もあったものではないが。

 

「ではまた」

「ああ」

 

 戦力は整いつつある。

 決戦まで時間は僅か。

 モンスターが神に至るまで、僅かである。

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