<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する 作:そらからり
■【パス・スコーピオン】
「(さて、戦いは楽しみたいところだが。……如何せん未だ底が知れぬの)
スコーピオンは自身と全く同じ姿をした偽物の出方を伺う。
中でも驚異なのは両手の大鋏。
黒紋付の防御力で防ぐことは可能だが、その度に黒紋付は削られていくだろう。
何度も防げるものではないが故に、一度たりとも受けたくはない。
「(とりあえず先手は頂いておくとするか)」
偽スコーピオンもそうだが、その主である少女らがスコーピオンの装備までも模倣したのには驚いた。
驚いたが、しかし脅威とは感じなかった。
少なくとも、偽スコーピオンに比べれば。
どこまで相手が戦えるか。
どこまで対応できるか。
まずは見極める。
この一手で死ぬならそれまで。
生き延びたのなら、それは好敵手と呼べるかもしれない。
超音速での移動により瞬時に少女と距離を詰める。
少女らのAGIはかなり低いのか、まるで反応出来ておらず、あえてゆっくりと鋏を喉元に近づけることでようやく自身の命が脅かされようとしていることに気づいた。
だが、それでは遅い。
まるで危機管理がなっていない。
「(残念じゃな……)」
強さも早さも硬さも。
全てが『最強』。
同じ姿の敵が現れた時には少しばかり心が沸いたが、戦いを成り立たせるには肝心なものが足りていなかった。
それは、戦いを成り立たせるに価する基礎の補強。
少女らという偽スコーピオンの弱点が全く守られていない。
駆け引きに対する備えが無いのなら、そこを突くだけだ。
「つまら――」
スコーピオンの漏らした本音。
だが、それは最後まで言うことも、そして鋏による切断が実行されることも無かった。
響き渡る金属音。
鋏が少女らの細い首を両断する直前。
2本の鋏が受け止めていた。
「私達は見えないけど」
「見えないくらいで負けないよ?」
夢味とドッペルゲンガー。
彼女らのステータスはスコーピオンに遠く及ばない。
だが、この場にはスコーピオンと同等のステータスを持つ者が存在する。
それらの行動を夢味達は操作しない。
ただ、敵を殲滅せよという最初の命令を実行するために行動する。
そして、一つだけ付け加えるのであれば。
ガードナーのカテゴリーを持つドッペルゲンガーが生み出した偽物が故に、召喚主を守る機構だけはしっかりと組み込まれていた。
少女達の意志とは無関係に動く自動防御システム。
少女達が反応できずとも、敵と同等のステータスを持つ偽物達であれば反応出来る。
故に2体いれば十分だ。
偽スコーピオンが片手の鋏で受け止めれば、もう片手の鋏は空いている。
スコーピオンは両手で攻撃を仕掛けた。
故に、偽物の反撃を受け止めることは出来ない。
「(誘い込まれたというわけか)」
だが、冷静にスコーピオンは思考を張り巡らせる。
避ける、受け止める、受けきる。
避けることは難しいだろう。
否、出来たとしても両手の大鋏を捨てることになる。
ガッチリと、鋏の側面を敵は挟み込んでいるのだから。
受け止めることもまた同様の理由で難しい。
鋏を使ってどうにかすることは出来ない。
そして受けきるとは自身の生命力任せに鋏の反撃を受けるということ。
だが、スコーピオンの直感はそれだけは避けるべきだと告げていた。
そもそもで自身の大鋏を模倣しているのだとすれば、急所に当たってしまえば致命傷は避けられない。
刻紋付を避けて攻撃されれば防ぐことも出来ない。
「ならば、攻撃そのものを無効化する、であるな」
まずはスコーピオンの長い髪。
長い髪は一つに束ねられ、棘の如く先を鋭くさせている。
かつては自身の尾であった髪は同様に自在に操ることが出来る。
鞭のようにしならせた髪が偽スコーピオンの1体の足を絡めとる。
「!?」
続いてスコーピオン自身がもう1体の偽者の足を払い、体勢を崩す。
瞬時に行われたために偽物達は抗うことが出来ず、倒れ込む。
追撃とばかりにスコーピオンは偽物達に鋏を向けようとし、止めた。
「……そうか。あくまでも囮として使うたわけか」
目まぐるしくも動き回るスコーピオンと偽物達。
超音速で動く彼女達を追いつくのは至難。
だが、今の攻防で数度は足を止めていた。
いくら速く動くことが出来たとしても、動かない状態であれば攻撃を当てることが出来る。
ましてや、脅威と捉えずにいたのであれば、尚更視界から外しがちになろう。
脇腹に熱した鉄を当てられたかのような痛み。
左右それぞれからその感覚はあり、いくつか内臓は傷付けられているだろう。
「言ったでしょ?」
「言ったよね?」
「私達が相手だって」
「私達が戦うって」
鋏とは挟んで切断する道具だ。
道具の範疇であれば、主に紙を切断するのみに留まる。
だが、それを武器として扱うのであれば。
肉も骨も、切断できるのであれば何もかも挟むことが出来るだろう。
そして、刃物よろしく、刺すことだって、武器として運用を前提に作り上げていれば可能だ。
スコーピオンの腹部を抉るように突き立てられた2本の鋏。
夢味が模倣して生み出し、複製した2本の鋏がスコーピオンに無視することのできないダメージを与えていた。
「……離れるが良い!」
腕を薙ぐ。
それだけでステータスの低い夢味達を軽く殺せるダメージを算出できる威力だ。
だが、
「うん、そうだね」
「くっついているのは夢味ちゃんとだけだよ」
スコーピオンの思考を読んでいるかのように、動く前に下がっていた。
腹部に鋏を残して。
代わりに、偽物達が起き上がり再度攻撃を仕掛ける。
主たちの動きを参考にしたのか、計4本の鋏がレイピアのように刺突を繰り返す。
「……ッ!? (全ては避けられぬ……!?)」
腹部のダメージもそうだが、それよりも、動きすら模倣し始めていた。
偽物達の髪がスコーピオンの足を絡め動きを封じる。
足さばきにより転ぶことは避けられたが、それでも回避は封じられてしまった。
「お、お、おおおおおぉぉぉぉぉぉ!?!?」
懸命に2本の大鋏で受け止め、捌くが、被弾は避けられない。
何とか致命傷にならなそうな箇所に留めるが、髪を振りほどくまでに全身に穴を空けられてしまう。
「……」
手足も、脇腹も、足も。
急所を避けた全ての部位にダメージと【出血】が残る。
そのダメージはスコーピオンの想像以上で、予想外のものであった。
「まるで急所に攻撃を食らったかのような傷……」
なるほど、とこの時点でスコーピオンは偽物達の能力を理解する。
ダメージを増やす能力と仮定していいだろうと。
刻紋付でも防ぎきれなかった傷を見て、そう判断した。
「そして、それは妾の攻撃も同様のようじゃな」
偽物達の攻撃を捌く中で何度か行った反撃。
その尽くが偽物達にも多大なダメージを与えていたのだ。
「妾らは互いに互いへのダメージ量を増やさせられている。ふむ。殺し合いをさせる能力というわけか」
加えて夢味達の存在。
鋏はこちらの手に――腹部に刺さったまま――渡ったが、刻紋付の防御力を手に入れているのだとすれば、偽物達を牽制しつつ倒すのは難しい。
勝機があるとすれば、それは偽物達の練度。
「だが、拙い。拙すぎる。力も速さも硬さも真似出来るが、妾の技は何一つ模倣出来ておらん」
あくまでも見掛け倒し。
スキル同様に、培った経験も技も偽物達は劣っていた。
「ふふん? でもそれでいいんだよ」
「だって囮だもん。私達の誰かが当てればいいんだもん」
それは正しい。
技術の劣等を数で補う。
力が、殺傷力さえ本物であれば、当たりさえすればいいのであれば、正しい戦略なのだろう。
攻撃が繰り返されればスコーピオンもいずれは死ぬ。
致命打で無くても死ぬだろう。
「いつかは死ぬんだ」
「絶対に死ぬんだ」
「「私達の手によって」」
だが、そのいずれは今ではない。
「いいや。妾は『最強』。その真意も底も未だ見せてはおらん」
冴えない技も。
拙い技も。
しかしながら、繰り返すごとに光りだす。
スコーピオンの髪による拘束がすぐさま模倣されたように。
偽物達は学習する。
繰り返していけばスコーピオンの全てを習得する可能性もあるだろう。
だが、それは戦闘が続けばの話だ。
「死ぬのは貴様らだ。魔法少女」
名も知らぬ魔法少女。
スコーピオンは確信していた。
彼女らが魔法少女であるならば。
自身が負ける道理が無いと。