<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する   作:そらからり

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199話 贋作は目に映える 10

■【魔法少女η】狂ヶ咲夢味

 

 心が、体が高揚している。

 これまでになく、何もかもが軽い。

 だけど、覚悟だけは重かった。

 

「――ッ!」

 

 速くて目で追うことも叶わなかったスコーピオンの動き。

 今は食らいつくことが出来る。

 敵の攻撃に合わせてこちらも武器を構え、敵の防御の隙を突くように武器を振るう。

 

「笑って、勝つんだ! ドッペルちゃんと一緒に!」

 

 スコーピオンが羽織る黒紋付の防御力を突破することは出来ない。

 いくら断裁に秀でた鋏であろうと、それを上回る防御力を持っている。

 唯一、偽スコーピオン達が作り出した黒紋付の穴がスコーピオンの今の弱点であるが、そこは元よりスコーピオンも理解しているため、巧みにこちらの攻撃を防ぎきっている。

 

 だから、素直に、子供らしく。

 見え見えの隙を狙うことにした。

 

 今、私の鋏は半分欠けている。

 度重なる攻防の果てに壊れてしまった。

 鋏で無く、小さな刀のようだ。

 持ち手があるから武器の体裁を保てているけど、それもいつまでか分からない。

 刃も欠け、次の瞬間にも砕けてしまうかもしれない。

 

「……良い! よくぞ笑ってみせた!」

 

 ああ……こんな時でもスコーピオンは哂っている。

 私以上に自然で私以上に相応しく。

 強者足りえる傲慢な笑み。

 

 それに比べて私は……本物に嫉妬する偽りの笑み。

 作り物の笑顔だ。

 

 だからこそ、いくらでも偽れる。

 辛い時でも悲しい時でも苦しい時でも。

 負けてやるもんかって、笑うことが出来る。

 

「ッァァァァァァァァ!!」

 

 鋏がスコーピオンの喉元を捉える。

 黒紋付が守っていないスコーピオンの急所。

 いくら強くても、いくら回復力に長けていても、そこだけは与えられてはいけない生物の弱点。

 

 そこさえ貫ければ――

 

「甘い!」

 

 だけど、スコーピオンが一枚上手だった。

 

 背後から伸びる1本の黒い縄……否、髪が鋏を阻む。

 瞬間、私は鋏を操作していた右手を引き戻す。

 あの髪には強力な毒が付与されているのは、先ほど仲間が倒された時に見ていた。

 私ではひとたまりも無いだろう。

 

「終わり……だ?」

 

 だから、まずはその髪から排除しなければならない。

 

 左手に握った鋏をスコーピオンの尾髪に向かって投げつける。

 右手の鋏と傷一つ違わぬ左の鋏は回転しながら髪を根元から切断する。

 

「いつから……?」

 

 最初から。

 私だって【魔法少女η】の能力をただ遊ばせていたわけではない。

 ドッペルちゃんと一緒に戦うと、隣に立つと決めたあの日から、自分の力はいくらでも模索した。

 敵の眼を別の場所に引きつけた瞬間に武器をコピーするくらいわけない。

 

 スコーピオンの笑顔が崩れた。

 偽れないからこそ、その焦りは本物。

 

 今が勝機……!

 

「まあ、関係無いが」

 

 だけど、あっさりと動きを止められる。

 鋏を持つ右手も、空になった左手も。

 スコーピオンは鋏を袖の中に収納し、私の両手を掴み上げる。

 

「幼き魔法少女。最後ばかりは楽しかったぞ。礼を言おう」

「……!」

 

 足りなかった。

 力も技も速さも策も。

 

「そう睨むな。ステータスで妾に追いつきかけた時は驚いたが、所詮はそれまで」

 

 ステータスで追いつく……?

 

 言われて気が付く。

 私のステータスが急上昇していることに。

 それはもうじきスコーピオンに迫ろうとしている数値であった。

 

「だが、まあそれだけだ。ステータスだけで勝てる程甘くないことは偽物達の戦いを見て気が付かなかったか?」

 

 スコーピオンの身体に光が灯る。

 それだけで先ほど死ぬ思いで切断した尾髪が復活していた。

 

「力で勝ろうと速度で勝ろうと技術で勝ろうと、そしてたとえ心で勝ろうと。妾に勝つことは出来ぬ。あってはならぬのだ。最強は決して負けぬから最強なのだよ」

「最強とか関係ないね……。私とドッペルちゃんは相手がどんなに強くたって一泡吹かせることが出来るんだ」

「ああ、吹いた吹いた。もう驚いたし、もう飽いた。手品紛いの能力は実に退屈しのぎになったぞ」

「そう、余裕でいられるのも今のうちだよ。私の仲間はみんな強いんだ。クャントルスカだって、プシュケーちゃんだって。それに……あの男もいる」

 

 言いたくはないが、一度私を殺した相手だ。

 異質な力に異質な戦い方。

 いくらスコーピオンが強くたって、強さを笑い飛ばすような戦いをきっとするだろう。

 

「……ふむ? そうか、貴様諦めたのか」

「……?」

「妾に勝つビジョンが浮かばなくなったのだな。だから仲間に後を託すと」

 

 ……そう。

 もう手は無い。

 土壇場で芽生えたスキルの詳細も確認しないまま戦い、何とか戦いになるように見せかけたけども、それだってスコーピオンには届かなかった。

 私には何も無いんだ。

 何も無いから望んで、そして掌から溢す。

 後には残らない。

 

「無駄な足掻きであったな」

「――無駄じゃない」

 

 その声は私と全く同じものであり、私のものでは無かった。

 

 後ろから聞こえる。

 私が守りたかったもの。

 私が隣に立ちたかったもの。

 

 もう一人の私――

 

「ありがとう夢味ちゃん」

「ドッペルちゃん……」

「……ハハッ! 今更何をしようとする? 片割れが死にそうになったから起き出したか?」

「違うよ。夢味ちゃんの覚悟が伝わったから、私はこうして目覚めることが出来たんだ」

 

 ドッペルちゃんの言葉は静かであった。

 だけど、熱は確かに秘めていた。

 スコーピオンを倒すという、私と同様の熱を。

 

「だがもう見飽きた! 貴様が参戦したところで、偽物の妾達がいた時とそう大差無い。どうせステータス頼りなのであろう」

 

 そう……もう試しているのだ。

 偽スコーピオンの攻撃は通用しなかった。

 私1人での攻撃も。

 スコーピオンの技術の前では動きを封じられ、スコーピオンの回復力の前では何も無かったことにされる。

 

「うん。夢味ちゃんを守りたいって私が思っただけじゃ足りなかった。それだけだと、私が第六形態に進化するのがやっと……《認識修正》で貴女と同じ力になるだけだった」

 

 ドッペルちゃんが私に視線を送る。

 その意味は……スコーピオンから脱出して欲しいというもの。

 

 今の私のステータスは完全にスコーピオンと一致している。

 一瞬の隙があれば可能だろう。

 

 ……一瞬なら!

 

「――ッ!」

 

 スコーピオンの腕に噛みつく。

 黒紋付に覆われた腕に歯型も残すことは出来ないだろうけど、今のSTRなら、少しでも隙を作れば離れることは出来る。

 追撃の尾髪は黒紋付をコピーした衣装で防ぐことが出来た。

 

「がるる! 手も足も出ないけど、まだまだ食らいつけるもんね!」

「……魔法少女が」

 

 そっか。

 ドッペルちゃんが目覚めてからどんどん勇気が湧いてくる。

 1人で戦っていた時よりも。

 他の仲間と戦っていた時よりも。

 やっぱりドッペルちゃんが隣にいた時が何よりも気持ちが前を向く。

 

「進化したスキルが通じない。だけど! 夢味ちゃんが私と同じ気持ちになった時、この力が芽生えたんだ!」

「私とドッペルちゃん。2人が揃えば最強だって食い尽くしてやる!」

 

 きっと無理したんだろう。

 動きが止まった時に何がドッペルちゃんの中であったのか分からない。

 だけど、私と気持ちが通じたというのなら。

 私とドッペルちゃん、2人が勝ちたいと思ったのなら!

 

「「《贋作は目に映える(ドッペルゲンガー)》」」

 

 この必殺スキルは私達を勝たせてくれるんだ。

 

 

 

 

■【パス・スコーピオン】

 

 こけおどしの力だと思っていた。

 真似する力。

 偽物を作り出す力。

 なるほど、本物に憧れた偽物だけが持てる力だ。

 

 だが、所詮は偽物。

 本物では無いことを知っているからこそ、本物とは別物であることを自覚しているからこそ、本物には及ばない。

 

「……また偽物か」

 

 目の前には自身と全く同じスコーピオンが1体。

 偽物を作り出す力さえ衰えたかと落胆する。

 もはや2匹すら生み出す力さえ無いのか。

 

 早々と決着をつけてしまおう。

 それで他の敵を探すのだ。

 幼子の言葉を信じれば、この山にはまだまだ強者が眠っている。

 そいつらを探し出し、己の最強性を証明し続ける。

 

 こちらの動きに合わせて偽者も動き出す。

 そういえば、破壊力だけはやけに増していたなと思い出しながら、急所だけは守りながら偽物を始末しようと大鋏を振るう。

 鋏も幾分か消耗してきた。

 この戦いを終えたら新たに生み出さなくてはならないだろう。

 

 偽物は攻撃をしようとし、やけにあっさりとこちらの攻撃を食らう。

 だが、倒れない。

 

「……?」

 

 先程の戦いを思い返せばこちらの攻撃も威力が増していたと思ったが。

 スコーピオンは疑問を浮かべながら、その力さえ失ったかとため息をつく。

 よもや特攻能力を付与することさえ出来ぬ程消耗し、偽物1匹を生み出すことがやっとなのだろうと。

 

 ならばなおのことだ。

 ただの足止め、時間稼ぎ程度にしか無いのだろう。

 威勢のいいことを言っていたが、やはり幼い子供の戯言。

 逃げるために虚言を張っていただけなのだ。

 

 二度、三度と鋏を振るう。

 その度に偽スコーピオンは傷を負うが、それでも倒れない。

 

「……?」

 

 少しばかり体が重くなってきた気がする。

 何故だろう。

 分からない。

 連戦続きで流石に疲労が蓄積したか。

 

 早く休みたい。

 早く倒さなくては。

 

 鋏を振るい、尾で突く。

 

「はぁ……はぁ……」

 

 漸く偽物は倒れた。

 視界が歪む。

 おかしい。

 何故、己の視界は地面で埋まっているのだ。

 分からない。

 分からないまま、スコーピオンのHPはゼロとなった。

 

 

 

 

■敵本陣近く

 

「……倒せた?」

 

 光となっていくスコーピオンを見送りながら夢味は信じられないとばかりにドッペルを見る。

 それに対して彼女の分身は笑顔で返した。

 

「倒したんだよ! 私と夢味ちゃんで!」

 

 最後の最後。

 粘りに粘って芽生えた必殺スキル。

 その力でスコーピオンを何とか打倒した。

 

 《贋作は目に映える(ドッペルゲンガー)

 対象の視界に1分だけ偽物の偶像を映し出す能力だ。

 そして、その偽物は実際には存在しない。

 対象以外には、夢味にもドッペルにも見ることは出来ない。

 倒す倒されるという概念はその偽物には無い。

 ただ、その偽物のHPは対象本体と結びついていることくらいだ。

 

 故に、視界に映った偽物を倒そうと攻撃するたびにそれはそのまま自身の肉体を傷付けることに通じる。

 気づくことは出来ない。

 その間だけは自身のHPは固定されているように見えるのだから。

 偽物のHPだけ攻撃に応じて減少しているように映し出す。

 

 だが、この必殺スキルはドッペルゲンガーというモチーフにおいてはおよそ現実的な解釈に基づいたものを参考に形作られている。

 即ち、脳疾患に由来する虚像こそがドッペルゲンガーであるという一説だ。

 これまでに発現したスキルはドッペルゲンガーという怪異現象を肯定するというものであったが、必殺スキルにおいてはそれを否定する。

 夢味はあくまで一人であり、ドッペルゲンガーは彼女が脳内で生み出したと言っているようなものだ。

 彼女は今は気づかない。

 気づいていないふりをする。

 まだ2人で戦いたいと、隣に立ちたいと願い続けるから。

 

 

 こうして『最強』スコーピオンは2人の魔法少女の前に倒れた。

 最強は、最強である自身の手で死んだのだ。




やっと勝ったー
敵の力を盛りすぎて倒し方分からなくなるのあります
敵の力を利用するのだは当たり前

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