<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する   作:そらからり

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200話 就職

■【魔法少女ω】クリアント

 

 死の臭いが已まない。

 天も底も、どちらも死後の世界として存在を示されているが、地の底は悪人が向かう印象が多い。

 ならばこの場所はどうなのだろうか。

 クリアントが現在立つ、この深い谷の底は。

 果たして悪人が行き着く先なのか。

 それは『自殺志願者』が悪人――罪人であるという前提であればだが。

 

「……骸骨だらけですねー」

「随分と古い死体ばかりだな。最近のものは……無さそうか」

 

 【自殺王】に就くためのクリスタルが置かれているという崖下の地。

 そこに落ちていったクリアントは、新たな肉体を以て立ち上がる。

 

 見渡す限りの死体、死体、死体――

 ともあれ、見慣れたものではない。

 いずれも肉はとっくに分解され、骨だけになったものだ。

 遺髪さえも時折吹く風に運ばれたのか、残されていない。

 

「モンスターは……いないようだな」

「まあ、こんなところにいても何を食べるかって話ですからね」

「そりゃ、死体くらいしか食料は無いか」

 

 いつ落下してくるか分からない食料を待ち呆けているほどモンスターの知能も低くは無いということだろう。

 あるいは、それに適応出来なかったからこの地の底のモンスターも死滅したのか。

 

「アナウンスはどうなってます?」

「この先だな」

 

 風下に向かってルートが示されている。

 ならば風上は就職後の出口となっているのだろうか。

 確認したい気持ちもあるが、今は時間もそう残されていない。

 クャントルスカ達と逸れてしまっている今、少しでも早急な合流が必要だ。

 

「死体が減ってきたな……?」

「はい。皆さん、この先を目指して、その途中でお亡くなりになったみたいですね。ということは、【自殺王】の就職条件を満たしてはいたってことですかね」

 

 ならば、あの落下の際にダメージを負い、即死は免れても道半ばで倒れたということか。

 死体の数からして落下時に半数、その道中で更に4割。

 

「そして、これがクリスタルか」

 

 残りの1割の死体。

 それがクリスタルを囲むようにして置かれていた。

 全てクリスタルに触れるか否かといった場所にあるため、恐らくは最後の試練に失敗して死んだのだろう。

 即ち、死ぬ可能性のある就職クエスト。

 【自殺王】に相応しい試練であることは間違いない。

 

 簡素な石造りの台座に置かれた、蝋燭の灯よりも小さい輝きを放つクリスタル。

 触れたが最後、後戻りはできない。

 触れたが最後、死を覚悟しなければならない。

 

「それじゃ、やってみるか」

 

 死ぬかもしれない。

 その程度の代償だからこそ、クリアントは迷わず触れる。

 

 瞬間、彼の視界は闇に鎖された。

 

 

 

 

「……ここは」

 

 視界が開くと、景色は全くといっていいほど変化が無かった。

 噂に聞けば、就職クエストの間というものがあるようだが、出現する様子は無い。

 ならば、と思いステータスを確かめるも、【自殺王】に就けてはいない。

 

「(失敗したか……?)」

 

 一瞬焦るも、しかし自身が死んだようにも感じられず、ひとまずその場で待機する。

 すると、クリスタルがいつの間にか消失しており、そこに人が入っても余りあるほどの大きさの水瓶が置かれていた。

 

『うん。遅くなってすまないね。実に20年と3年、123日ぶりだったから起動に手間がかかったよ』

 

 同時に、子供と大人の境のような、男女の区別が付かない中性的な、ボイスチェンジャーを使用したかのような声が響く。

 

『うん。僕に名前は無い。ただの案内人だ。【自殺王】志願者の、あるいは自殺志願者の水先案内人だ。名前を聞いてもいいかな?』

「クリアントだ」

『うん。良い名前なんだろうね。この時代の名に関する価値基準が登録されていないから判断は出来ないけども。で、もう一人いるよね?』

 

 ワンプの存在を見抜いた案内人は彼女の名を尋ねる。

 だが、ルール体となっているワンプを引きはがすわけにもいかず、クリアントが代わりに答えた。

 

「ワンプだ。本名はスワンプマン……エンブリオだ」

『うん。それがエンブリオか。少しだけど情報はあるよ。嫌だね、古い記録は。あてにはならないけど参考にはさせてもらおうか』

「それで、俺は【自殺王】の就職クエストは受けられるのか?」

『うん。勿論だよ。そのための僕だ。君は、何のために【自殺王】の力を求める?』

 

 何のため。

 そう問われても、クリアントは成り行きとしか答えようが無い。

 たまたまスワンプマンの能力で就職条件を満たし、この場にいるだけだ。

 他の超級職の素質があればそちらに就いていたであろう。

 

 正答があるのか分からない問い。

 

「強くなるためだ」

『……【自殺王】は死にたがりが就く……就いてしまうジョブだ。決して強さとはかけ離れていると思うけど、それでもかい?』

「どんな力でも使いようだろ。それに、俺は死なない。どれだけ自殺してもな」

『そう……。うん。いいよ。久しぶりに見たよ。死にたがりじゃない目を。君は生きるも死ぬも構わないんだね』

 

 強く生きたいと願ったわけではない。

 強く死にたいと願ったわけでもない。

 ただ、流れ流されてここにいるだけ。

 

 少しばかり、何かを成し遂げたいと思ったから。

 成果くらいは持ち帰りたいと思ったから。

 だから、特典武具を手に入れたし、超級職に就く機会を得た。

 そういった程度の願望、性質なのだ。

 

『うん。それじゃぁ、試練を始めようか。内容は簡単だ。その中に、今君に最も必要な死因が入っている。その死因で自らのHPの9割以上を削ることが出来れば、条件は満たされる』

「9割か」

『うん。多いと感じるかい? でも、【自殺王】になるならこのくらいの自殺行為は出来なくちゃぁならない。ああ、安心して。君のHPはもうとっくに全快に……なっているね。僕が何もせずとも』

 

 ワンプの肉体創造によりクリアントのHPやMP、SPは全快だったが、どうやらこの就職クエストの段階で回復させてくれるらしい。

 落下のダメージと合わせて9割以上を削られれば死ぬだろうから当たり前か。

 

「……拳銃か」

 

 魔力式では無く、火薬を使用した現実世界にも有り触れたもの。

 実弾の種類や経口までは分からないが、扱い方を間違えば人を死に至らしめるには十分すぎる得物となろう。

 何故、拳銃で死ぬことがクリアントにとって必要なのかは不明だが、随分と分かりやすいもので助かったとクリアントは思う。

 

「これで自殺すればいいんだ」

『うん。死なない程度であればどこでもいいよ。だけど、腕とか足とか、致命傷にならないところに撃っても無駄だ。それに、弾丸は一発だけ。ギリギリ死なない場所を良く選んで――』

 

 パン、と。

 躊躇わずに引き金を引いた。

 心臓は肋骨が邪魔するかもしれないと避けた。

 額も頭蓋がどれだけ貫通出来るか分からない。

 ならば、と映画か何かで見たのを参考に、口に咥える。

 脊髄だか延髄だかを狙うことが出来るらしい。

 

 弾丸は狙い通りにクリアントのHPを100パーセント削り、即死させる。

 試練の条件は9割――90パーセント以上。

 全部削っても問題無いだろう。

 むしろ、この方が微細な調整が無くて簡単だ。

 

『え……』

 

 案内人の声は呆れているのか驚いているのか。

 間の抜けた声が聞こえる。

 

「良し。これで条件は満たされたな?」

 

 新たな肉体でクリアントは立ちあがる。

 ステータスを見れば【自殺王】が新たに加わっている。

 

『ばっっかじゃないの!?!? 何でそんな躊躇わずに……!』

「だって、簡単だろ。俺にとっては生き延びる方が難しい」

『……っ!?』

 

 案内人は絶句し、しばらく沈黙が続く。

 何を考えているのか。

 案内人が誰かが組んだシステムなのだろうが、まさか本当に自殺を完了して【自殺王】に就くことのできる者がいるなど予測されていなかったのだろう。

 

『……うん。認められたのは間違いない。君こそが【自殺王】に相応しいのだろうね』

「先輩くらいしかこの変なジョブには就けませんよねー」

『うん。それじゃあ君に【自殺王】に備わったスキルを3つ紹介しておこう。君ならまあ……3つとも使いこなせるだろうから安心して説明できる』

「就いたばかりなのに3つも使えるのか」

『うん。レベルが上がりやすいジョブじゃないからね。自傷を繰り返しても強くはなれないだろう? だからこのジョブでレベルが上がっても増えるのはステータスくらいだ。最初からスキルは完成されているんだ』

 

 あるいは、と案内人は続ける。

 スキルを使ったが最後死ぬから最初から備わっているのかもしれないと。

 

『では説明するよ――』

 

 固有スキルに奥義、そして最終奥義。

 3つ共に【自殺王】に備わった、クリアントくらいしかまともに運用の出来ないだろうスキルを教えられる。

 それはすぐさま戦術として昇華出来るかと言われれば準備は必要になるだろうが、奪還隊に追いつくまでに成し遂げたかった戦力強化としては十分過ぎるだろう。

 

『うん。それじゃあ最後に、君には経験値を渡そうと思う』

「経験値? 【自殺王】のか」

『うん。言っただろう。レベルが上がりづらいって。元より他人を傷付けられるジョブじゃないんだよ。君がいくら言ってもね。だから、用意はしていた。せっかく就けたのにレベルが足らなくて死んだら勿体ないからね』

 

 案内人の言葉が終わると共に、周囲の死体が消えていく。

 地の底を照らす光。

 まるで死者が成仏していくようにも見えた。

 

『うん。君たちの言葉でいうリソースを蓄えていたんだね。少しは足しになると思うよ』

「キャリーオーバーって奴ですね」

「……」

 

 微妙に使い方が間違っている気もするが、言いたいことは分からないでもないワンプの言葉に何も言い返せない。

 

「レベルは100ってところか」

「まあまあですかね」

 

 死体の数は優に50は超えていた。

 その全てのリソースを掻き集めて上がったレベルが100なのは多いのか少ないのか。

 

『うん。無事に終えたみたいだね。出口は分かっていると思うけど反対側だ。そこから山道に出られるようになっている。出た後はまあ頑張って下山してね。くれぐれも道に迷って餓死なんていうつまらない結果にはならないように』

 

 パルペテノンという特典武具を持っているクリアントには耳の痛い話だが、確かにこのまま迷う可能性もあり得るだろう。

 

「なんとかなるだろ」

「なるようになれですね」

 

 だが、その点は危惧しない。

 恐らくは山の各地で行われている戦闘は否応でも目立つはずだ。

 そこを目指していれば、誰かには合流出来るだろう。

 

『……うん。僕の仕事はこれ限りであることを祈るね』

 

 クリアント達が去った後。

 案内人は静かに役目を果たし安堵したように再び眠りにつくのであった。

 




【自殺王】の試練
《ラスト・スタンド》を使っても条件は満たされますが、やはりその後に襲ってくる傷痍系状態異常のダメージで死ぬため一時的にしか【自殺王】にはなれません。〈マスター〉であれば再ログイン後に【自殺王】にはなっているでしょうが、案内人の説明を受けることも死体の経験値を得ることも出来なくなります。そもそも一般の〈マスター〉は就職条件を満たせません。

主人公が超級職に就くまでに200話超えてるけどサブタイ的には200話ぴったしなのでセーフ
そもそも100話以内に出せよという話ですが

案内人の正体は流石にノーヒントだと【自殺王】になるの無理じゃね?と思った猫さんが置いてくれました。システム的には魔王のところにあったガーゴイルと同じというか真似してます
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