<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する   作:そらからり

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201話 諦めの勝利

■【魔法少女χ】イテカ

 

 諦めが肝心。

 抗うことは無駄だ。

 

 棄権も降参も観念も。

 早ければ早い程、無駄な消費は少ない。

 抗う時間が長くなるほど、失敗した際のダメージは大きくなる。

 

 故にイテカは賭けない。

 一か八かの戦いはせず、確実な勝利を狙う。

 ……確実な敗北も時として受け入れなければならないのだが。

 

「な……ぜ……」

 

 炎に包まれた、枯れ木のようなモンスターが死に際の言葉を放つ。

 全身が燃え上がり、既にいくつかのパーツは炭となっている。

 

 全身を周囲の環境と完全に同一化する能力を持つネームド個体。

 その名を【パス・スティック】。

 街中では非生物ばかりであったため、透明化に近い能力だけに留まることとなったが、彼の本来のテリトリーである木々が生い茂る山中であれば話は大きく変わる。

 木々と同一化……つまりは周囲の木々全てを自身の肉体とすることが出来るようになり、スティックと敵対するということは山中の木々を相手にすることと同義となる。

 枝葉を手足のように扱い、大木を次々に切り離しながらドミノ倒しのようにイテカの逃げ場を消しつつ、木の葉の強度を限りなく高めた上での投擲は確かに恐るべきものであった。

 加えて、【奇襲王】の肉体を取り込んだことにより、奥義の《サドンデス》が発動した状態での攻撃は防御を固めた超級職でも対応は難しかっただろう。

 

 普通であれば諦める。

 諦めずとも死ぬ。

 そのような強敵であった。

 

「何故……斯様な真似が出来る……ッ!」

 

 力を振り絞り、スティックは尋ねる。

 

 彼の肉体は燃えていた。

 彼が取り込んだ木々全てを巻き込んで。

 

 それは山火事の域にまで達していた。

 1本や2本では無い。

 スティックが根を伝い取り込んだ凡そ30本余りの巨木が火に包まれている。

 少しでも風が吹けば一瞬にして山全体を囲むことであろう。

 

「うん? だって諦めるしかないじゃないッスか。全く、反則的な強さッスよ。私ら風に例えるなら広域制圧型ッスか。いやはや、個人戦闘でしかない私には骨が折れることッス」

 

 そう、イテカは諦めるしか無かったのだ。

 スティックの強さを即座に認めた。

 犠牲なしには倒せないと覚悟した。

 

 一か八かの賭けなどせずに、最初から犠牲ありきの戦いを強いられると理解し、

 

「だからこの山の被害を最小限に抑えるだなんてことは止めたッス。まあ、仲間のことくらいは考えるんスけどね。でも、別に故郷でも何でもないこの山の自然は諦めなくちゃいけない。どのみち汚染された土地なんてその内浄化されるのがオチなんスから。まあ遅かれ早かれッス」

 

 スティックを含めた周囲数百メートルの範囲全てを火の山と化しただけだ。

 

 背負う火炎放射器型の特典武具を始めとした数々の特典武具を用いて。

 

「貴様は……正義感などは無いのか……」

「そりゃ勿論有るッスよ。何スか、敵に正義を問われるとか。まあ、魔法少女だから正義の為に戦うこともあるかもしれないスけどね。でも、今は正義よりも悪を倒すために戦っていますから。だから、そっちを優先したまでッス」

 

 イテカは諦める。

 被害を最小限にするために。

 利益を優先するために。

 

 それはつまり、取捨選択が上手いということだ。

 

 失敗しないために。

 成功するために。

 

 小さな成功を積み上げて。

 大きな失敗を切り捨てて。

 

 そうしてイテカという人間の人生は成り立っている。

 

「愚か……な……この火の勢いでは直に貴様の仲間も燃え死ぬ……」

 

 どころか、イテカ達が奪還しようとしている蜜すらも大火の中に消えることだろう。

 それほどに火の勢いは強い。時間と共に増していく。

 

「ああ……そのことなら問題は無いッス。この特典武具自体は確かにセーフティの外れた火力特化型ッスけど」

 

 と、イテカは火炎放射器と、そしてアクセサリーのように火炎放射器に付けられた小さなサメ型の特典武具を見る。

 

「一定の範囲外に攻撃が拡がらないようにする特典武具も持っているッスから。だから安心してアンタだけ燃えると良いッス」

「……そうか」

 

 それは一抹の不安が解消されたことにより漏れた安堵だったのか。

 自身の王が無事であったこと。それに、ならばまだ王が蜜を食らう時間が残されているのだと緊張が緩和されたことによるものだったのだろう。

 

 ボロボロと肉体が消し炭になりながらスティックは完全に火の中に消えていった。

 

「……ふぅ。案外と仕事人でしたね。こっちもだいぶ戦力を削られてしまいましたし、切り札もいくつか切らされてしまったッス」

 

 イテカがもう一つ、諦めなければならなかったこと。

 それは、神話級UBMとの戦闘にイテカ自身が参加することだ。

 多種多様な特典武具とそれを扱うためのエンブリオ。

 多彩な状況を想定した戦い方が個人戦闘型を極めたイテカの強みであるが、スティックとの戦いで失われてしまった。

 火炎放射器などの燃料の補充も数日は必要となる。

 

「ま、私はここらでリタイアさせて貰うッス。敵の幹部1体を倒したんだし文句は言われないッスよね……?」

 

 本音を言えば戦い方をこの目で見たかった者がいた。

 それは自身と似たような思考をしていると思われし〈マスター〉。

 【魔法☆少女】を決める儀式は早々に諦めたため、会えたのはつい先日となってしまった。

 

 この戦いが終わったらコンタクトを取ってみようか。

 顔合わせは済んでいるのだ。

 おかしいとは思われないだろう。

 

「……一度街に戻って防衛出来ているか確認も必要ッスからね」

 

 少しばかり自分に言い訳をして。

 イテカは今も尚燃え盛る山の一画に消えていった。

 

 

 

 

■【パス・バタフライ】

 

 長い時間を過ごした。

 胎児のまま多くの戦士と相対した。

 だが、バタフライがコクーンであった時は、コクーンであるから彼の繭を破る者がいなかった。

 いたとしてもその下に幾層も重ねられた繭の数に絶望し、糸に貫かれていった。

 

 大器晩成型がコンセプトとして作り上げられたバタフライ。

 その真の力は百層の繭が剥がされた時に産声を上げる。

 

 飛行能力など蓄えられたリソースのおこぼれ程度に過ぎない。

 

「ひとぉり」

 

 山の中。

 仲間から逸れたであろう人間を見つけた。

 時折肉体を巨大化させ戦っていたが、それも直に【パラポーラ】の数の利に押し潰されていく。

 

 バタフライは少しだけ考え、【パラポーラ】にほんの少しだけ力を貸した。

 巨大化を始めていた人間は動きを止め、全身から血を吹き出す。

 その隙を見逃さず、【パラポーラ】達が人間の全身を食い千切ると、人間は光をなり消えていった。

 

「ふたぁり……さぁんにぃん」

 

 2人の人間が手を取り合い勝利を喜んでいた。

 場の状況から察するに戦っていた相手はスコーピオン。

 自称『最強』を相手にし、よくぞ勝ち残ったものだ。

 まあ、バタフライがコクーンでしか無かった時代の最強だ。

 内心、2人の人間に感心しながらそのまま頭上から音も無く殺した。

 

「……」

 

 これで見える限りの人間は殺した。

 山中をうろつく侵入者はいない。

 一部では燃え盛る地があり、こちらは近づくことすら断念させられたが、火の中で生きている者もいないだろう。

 だが、バタフライは未だ人間の気配を感じ続けている。

 

 であれば、既に入り込まれているのだろう。

 【パラポーラ】が掘り進めた穴を使い王の下へ。

 不届き者が王の御前にまで来てしまっている。

 

「……ま、いいでしょう」

 

 洞窟の中ではバタフライの力は十全に働かない。

 せっかく空を飛べるようになったのに翅を畳まなくてはならない。

 

「……ん?」

 

 空を飛ぶうちに彼の複眼が光る。

 夜闇でも問題無く視えるその目は、同じような昏い地の底から這いあがってきた1人の人間の姿を捉えた。

 

「……クリアント!」

 

 すぐさま滑空し、地上に足を下ろした彼の目の前に降り立つ。

 

「ああ……お前か」

 

 少しだけ気だるそうに、クリアントはバタフライを見る。

 邂逅は何度目だろう。

 まるで変わりのない覇気の無さ。

 自身ではやる気を出しているようだが、相対する身としてはやる気を感じさせない表情。

 

「さあ、再戦と致しましょう。確か何度でも死ぬことのできる能力をお持ちでしたね。ならば根競べと行きましょうか。我が鱗粉を全身に受け――」

 

 バタフライの鱗粉は各種状態異常と物理衝撃、斬撃を兼ね備えており、翅に付着している際は如何なる物理攻撃からも翅を守ってくれる。

 周囲一帯に振り撒けば幾ら生き返ることのできるクリアントとて復活と死を繰り返し、いずれは残機を失うことであろう。

 

「いや、別に俺は特別死にたいわけじゃないんだ。【自殺王】だけどな」

 

 バタフライの言葉を遮りクリアントは呟く。

 

「だから急いでいる今はさっさと終わらせてもらう。……《死線は超えられず(アンダーデッドライン)》」

 

 彼は口にする。

 新しく得た力……【自殺王】の奥義を。

 瞬間、バタフライの肉体は全身を引き裂かれた。

 鋭い刃物で裂かれたわけではない。

 まるで八つ裂きの刑のように力づくで無理やり四肢を引きちぎったかのような切り口。

 

「(これはまるで……!?)」

 

 その能力の正体は分からないまでも、己の死に方に既視感を抱きながら。

 希ったクリアントとの再戦も虚しく瞬時に決着となりバタフライは絶命した。

 

「……さあ、行くか」

 

 その勝利の余韻を浸ることなく、悦びに満ちることも無く。

 ただの通過点のようにクリアントは歩き出した。




2つの戦いをダイジェストに終わらせてしまいました
前半の方はエンブリオとか特典武具とか設定は考えてあるけどほぼ初登場に近いキャラの戦いを長引かせてもと思ったので。
後半は少しずつ能力を見せていきたかったので。
ちなみに奥義は今回はめちゃくちゃ相性が良かったから発動したけど、意味のない相手には通じないタイプです。主人公らしいね
恐らくは皆さまの予想通りの能力ですよ、この奥義
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