<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する   作:そらからり

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204話 快進撃

■名も無き山 麓

 

 いくら打てども撃てども討てども。

【パラポーラ】の数は一向に減らない。

 その理由は既に討伐された【軌道洋裁 クリッピング】が孵化前の状態である【パラポーラ】を山中に埋め込んでいたからだ。

 【パス・スパイダー】の協力もあり巧妙に隠されているため孵化直前まで決して見つかることのない無数の蟻の卵は静かに眠っている。

 それらは時間経過とともに生まれ落ち、卵の殻を食らうことで成体にまで成長する。

 クリッピングが【飼育王】のスキルを用いているために成長速度も成長補正も高く、僅か数分程度で戦闘態勢に移ることが可能だ。

 

 彼らの遺伝子に刻まれた指令は只一つだ。

 同胞以外を食らえ。

 それに基づき動き出す。

 何も疑問に思わず、何も苦悩することもせず、一働きアリとして役割を果たすために死ぬ直前まで働く。

 

 山中の【パラポーラ】の総数は既にクリッピングにすら数えきれるものではない。

 無論、【飼育王】のスキルを使えば数えられただろうが、それをする必要が無い。

 王が使い捨てる前提で寿命を削って運用しろと命じたのだ。

 拒絶することは出来ず、数えるのも馬鹿馬鹿しい程生み出した。

 

 そして今、生みの親であるクリッピングは死に、ある意味で枷の外された新たな【パラポーラ】達は明確な司令塔もいないまま山を徘徊する。

 ネームド個体も全滅し、新たなネームド個体の候補も無数の【パラポーラ】の赤子からバグのように時折出現するが、他の個体を指揮する知能も権限も無い。

 故に、人間にとっては目的無くただ山をうろつく蟻の化物が無数にいるという悪夢が出来上がっていた。

 倒せど倒せど尽きることは無い。

 統率が取れていないため、動きにばらつきがあり一網打尽にすることも出来ない。

 

 もし倒せる存在がいるとすれば。

 〈マスター〉の中でも継続戦闘が可能な広域殲滅を得意とする者であろう。

 

 

 

 

「ハハッ! 進め進め! 後退なんてもう出来ないぞ! なあに、もうここは戦場であり財宝の眠る宝島だ。私達は宝を見つけるためには命を惜しまないと決めただろう!」

 

 故に、それを可能とする〈マスター〉――【探検王】フィリップ・ノッツにとって【パラポーラ】は苦戦どころか戦いにすらならない程度に楽な相手であった。

 

 TYPE:ウェポン・ギア・フォートレスである彼女のエンブリオ、ノーチラスは巨大な潜水艦だ。

 チャリオッツ系統に重きを置かれているが、多彩な機能の中にはある程度の攻撃性能も有している。

 その性能は第四形態程度のアームズ程度といえばそれほど強くは無いと思われるかもしれないが、攻撃手段は砲撃である。

 その1発で数匹纏めて吹き飛ばすことが可能であるし、数台設置された砲台は【パラポーラ】の手の届かない遠距離から一方的に攻撃することが出来る。

 

「おっと、取りこぼしがいたか……まあ、気にせず前進!」

 

 そして、仮に倒しきれずに接近されたところで潜水艦の進撃速度と圧倒的な質量の前に蟻の数匹程度は轢き殺しても速度は全く落ちることは無い。

 

「さあ、遅れてくれるなよ? 誰だって一番乗りが好きだろう」

 

 だが、フィリップは砲弾をただ矢継ぎ早に、狙いを定めずに発射しているわけではない。

 限りある砲弾は節約せねばならないし、ここが決戦の舞台で無いことは察している。

 砲撃の穴を突くように、次第に【パラポーラ】の接近する数は増えていく。

 少しずつ少しずつ、まるで学習するようにその動きは統率化されていく。

 あるいは、そういった固有能力を持つネームド個体がその場にいたのかもしれない。

 

 数匹程度であればノーチラスの敵ではない。

 だが、数十、数百であればどうだろう。

 必殺スキルを使わければ、ノーチラスの歩みは絶対ではない。

 その装甲もいずれは食い破られるであろうし、動力を超えた衝突があれば止まってしまうだろう。

 そして砲撃を潜り抜けた【パラポーラ】百数匹は互いを盾に犠牲にしながら遂にノーチラスにその牙を突き立てようとし――

 

『……ッ!!』

 

 ――地中から躍り出たドラゴンに食われた。

 

「GO! GO! GO!」

 

 体長1m程の小さなドラゴン。

 その名はグラスコードという。

 

 その出現に一切の素振りは無かった。

 次々に地中から現れては【パラポーラ】に喰らいつき、あるいは反撃してくる彼らに喰われ消滅していく。

 だが、相対する【パラポーラ】同様に数の限りが無いかのように出てくるため、フィリップの砲撃も加わり次第にその数は増していった。

 

 グラスコードとは【パラポーラ】と同様の設計、つまりは攻撃性能を高められたモンスターである。

 古代伝説級武具である【千片万艦 グラスコード】によって生み出されたモンスターだ。

 相違点があるとすれば、【パラポーラ】という働き蟻が指令に忠実な兵士であることに比べ、グラスコードというドラゴンは本能に忠実な化物ということだろうか。

 自身以上に命を粗末にするかのような動きに、【パラポーラ】は意思を持たないはずなのに躊躇うような動きを見せる。

 まるで、本当にこんな奴らと相打ちしなければならないのかといったかのような、命を惜しむかのように【パラポーラ】の足は遅々となっていく。

 

「殲滅完了、かな?」

 

 まるで無数とも思われた【パラポーラ】の波は終わり、ノーチラスは山を登っていく。

 

「次は何が出てくるか、楽しみだ。んー……この辺に人はいないみたいだし、気にせず進めるのは良いことだね。はーはっはっは!」

 

 有体に言えば、フィリップは調子に乗っていた。

 冒険家には景気良く進む者と、慎重にあるいは臆病に進む者の2種類いる。

 彼女は基本的には前者であり、元来楽観的な性格だ。

 戦闘時は相手の能力を観察したいがために長期戦に持ち込めるよう慎重に戦うこともあるが、既に地形も把握し、どこに進めば良いか分かっている山で、敵もノーチラスと特典武具の性能で蹴散らせるとなれば自然と笑ってしまうのも仕方ない。

 

 更にはノーチラスは潜水艦であるため索敵機能に優れ、余程隠密能力に長けていなければ不意打ちすることも不可能。

 地形が乱れていようと【探検王】のスキルで構わず進むことが出来る。

 

 冒険家の歩みは止まらない。止めることが出来ない。

 探求心のままに道なき道を進み行く。

 それこそ、神であっても人の好奇心は止められない。

 

 

 

 

■【魔法☆少女】クャントルスカ

 

「……キシリーちゃん、夢味ちゃん。イテカちゃんは……そっか、降りたんだね」

 

 死んでいった仲間達の名を呟く。

 特典武具の力を通じて、クャントルスカは凡そこの山に残っている仲間を把握していた。

 

「貴女も降りるのかしら? クャントルスカ。あるいはそれも良いのかもしれないわ。きっとこの先、辛いだけの戦いよ」

 

 相棒であるモーが優しく語り掛ける。

 このままでは潰れてしまうと、感覚的に理解していた。

 【魔法☆少女】を求めて儀式で戦っていたあの時とは明確に違う。

 敵を愛して殺すならともかく、愛した者が自身とは無関係に死んでいく重みに耐えられるわけではないのだ。

 

「……ううん。私は大丈夫」

「彼がいるからかしら? そうだったら妬けちゃうわね……どちらにも」

 

 殺しても死なない男の存在。

 それが彼女にとっての希望のキーであるのだろうとモーは相棒の中に光を見る。

 

「クリアント君だけじゃないよ」

 

 だが、彼1人にもたれかかるほどクャントルスカは弱くない。

 彼1人だけを愛しているわけではない。

 

「先行したプシュケーちゃんがまだここにいる。諦めずに私達を待っている」

「そう……本当に凄いわね彼女」

「そこは、美しいとか綺麗って言った方が喜ぶよ」

 

 少しだけ笑みを見せた。

 その表情にモーの心も和らぐ。

 

「魔法少女は決して諦めない。どれだけ倒れたって良い。でも、倒れたままじゃいけないんだ」

「そうね。そうよ! 行きましょうクャントルスカ。大丈夫、私が保証するわ。どれだけ敵が邪悪でも強くても。最後には貴女は愛してしまえるのだから」

 

 シュヴァーゲルとルーチェが待ち受ける洞窟最奥。

 そこに通じる道の前に彼女たちは立っていた。

 

 魔法少女もまた止まらない。

 愛して止まない。

 敵も味方も飲み込んで、全て愛して殺してしまっても。

 

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