<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する   作:そらからり

219 / 443
気づけば500超えてたのか
あざす


205話 思い出

■半日前

 

「ふむ……これはどうしたものか」

 

 フィリップ・ノッツが【探検王】に就き数日。

 スキルや仕様、自身のエンブリオや特典武具とのシナジーもある程度確認が終わり、合流予定のペルソティに向かう道のりの最中であった。

 

「ひぇっひぇっひぇつ……大人しく荷物を置いていきなぁ!」

「その乗りもんはエンブリオか……? まあ関係ねえな! 全部ぶっ壊しちまえ」

「動くなよ? 少しでも動いたら、てめえはすぐに血達磨だ」

 

 誰がどう見ても盗賊然とした男たちがフィリップを囲んでいた。

 恐らくは盗賊稼業を生業とした〈マスター〉。

 指名手配犯であるかは不明だが、手慣れた様子であるため初犯では無いだろう。

 願わくば、〈マスター〉専門の盗賊であって欲しいところだが、ティアンであろうと見境なく殺す者もいる。

 

 盗賊たちは8名。

 動きから察するに4名のパーティが2組といったところか。

 熟練であった場合、パーティ同士のフレンドリーファイアは期待出来ないだろう。

 

「生憎と私は急いでいるんだ。邪魔しないでくれるならこのまま通るけど」

「なら荷物全部置いてけや!」

「おいおい。どうせ最後には殺しちまうんだ! 奪って貰っちまえ!」

「当然、その中の奴らもだぜ?」

 

 強くなるために金が必要。

 そのために他者から強奪する。

 一般的な〈マスター〉が盗賊行為をするのであれば、この強奪そのものだけに留まるのだが、この者達は違う。

 殺すこと……殺人に憑りつかれている。

 

「PKか……あまり良い思い出は無いものだね」

 

 〈マスター〉同士で殺し合いたいのであれば闘技場にでも行けばいいとフィリップは考える。

 だが、この男たちは人気のない場所で、まるで躊躇いも無くフィリップを取り囲んだ。

 なので、そういうことなのだろう。

 

 一方的な虐殺を好んで行う連中。

 

「……まだしも〈海蛇楽園〉の方が可愛げがあったね。彼らは吠えたてるのが実にうまかった」

 

 では蹴散らすかとフィリップは思考を切り替える。

 どうせろくでもない連中だ。

 

 それに、フィリップがノーチラス艦内で保護した彼らすら殺そうとしていたのだ。

 慈悲など微塵も浮かばない。

 

「あの……大丈夫なのでしょうか……?」

「これって海に浮かべる船ですよね。陸地ではまともに動かないのでは……」

 

 若い夫婦といったところか。

 盗賊らに追いかけられていた彼らを偶然見つけたフィリップはすぐさまノーチラス内に保護したが、その時には逃げるタイミングを逸してしまっていた。

 

 夫婦は幼い印象はあるがどちらも美形。

 金を持っているようには見えないが、美形であるならば、殺すも攫ってそれ以外の用途に使うも、彼らにとっては得になるだろう。

 旅をしているわりに荷は少なく、衣服も汚れているのが気になるが、盗賊に追われているうちに落としてしまったのだろうか。

 

「安心するといい」

 

 彼らの杞憂はもっともだろう。

 常識で考えれば、船は海に浮かべるものだ。

 船頭が幾ら多くとも山には登らない。

 操舵に優れていようと、機能として陸地を移動できるように作られてはいないのだから。

 

 だが、ザブンと。

 まるで海を進むかのようにノーチラスは進み始める。

 

「ッ!」

「おい。逃がすなよ!」

 

 逃げるつもりは毛頭ない。

 目的は殲滅だ。

 1人残らず盗賊を殺し、可能であれば監獄送りとする。

 

「照準……撃てッ!」

 

 ノーチラスに取り付けられた砲台が動き、盗賊の1人に狙いを定める。

 発射された砲弾を避けられずに盗賊はまともに食らうと、肉片を撒き散らして死亡した。

 

「大丈夫だ。何も問題はないよ」

 

 再度、フィリップは若夫婦に笑いかける。

 

「この【探検王】フィリップ・ノッツの乗る艦は冒険中に決して止まらない。彼ら程度、何の障害にもならないさ」

 

 ノーチラスの巨体は盗賊たちを巻き込めば容易に轢き殺せる。

 それに恐れをなしたのか、彼らは近づいては来ず、遠くから魔法やスキルを放ち攻撃をする。

 

「煩わしいだけだが……万が一突破されても厄介か」

 

 どのような攻撃を行って来るか興味もあったが、それよりは守るべき対象を守らねばならない。

 

 可能な範囲で避けつつ攻撃を再開しようとノーチラスを動かそうとし、急停止した。

 

「……っと!?」

「ハーハッハッハ! ちと時間はかかった俺の撒菱手榴弾の効果が出たみたいだな!」

 

 ノーチラスの船底。

 地面との接触部分に小さな針が刺さっていた。

 

「動きを阻害するタイプのエンブリオか特典武具といったところか……」

 

 あるいはフィリップ自身に当たっていればダメージがあったのかもしれない。

 

「……」

 

 少し考え、はっきりと視認したくなったフィリップはグラスコードを出撃させた。

 ノーチラスに組み込まれたこの特典武具はフィリップのMPを削り出現する。

 かつては【千貶万花 グラスゴード】を本体としていたが、今はノーチラスが本体である。

 故に、直接的なバフは効かないのだが、ノーチラスに使用されたスキルは全て共有される。

 

 【探検王】のスキルにより海のように自在に陸を泳ぐグラスコード達。

 だが、そのうちの1匹の全身が突如針塗れと化した。

 藻掻いていたが、グラスコードに設定されたHPがゼロとなり、ポリゴンとなり消えていく。

 

「設置型か……仕組みはあの赤子のような魔法少女と似たものか」

 

 かつて対峙した魔法少女を思い出しながら、

 

「ならば対処法も同じか」

 

 大量のグラスコードを展開することで撒菱手榴弾を無効化した。

 

「食い荒らせ」

 

 どころか、撒菱が完全に地面から失われてもグラスコードは一向に数を減らさずに、盗賊たちに牙を剥く。

 

「つ、強い……!?」

「こいつ……まさか……!?」

 

 彼らも武器を手に抵抗はするが数の差に瞬く間に全身に牙を突き立てられていく。

 中にはフィリップの名に聞き覚えのあった者もいたようだが、同様の末路を辿る。

 

「ちっくしょう……! こうなりゃヤケだ! 採算度外視で派手に行くぜ」

 

 盗賊のリーダーらしき男が腰に下がっていた小振りの金槌を取り出す。

 

「リリース! 俺のアイテムボックスにある低レアは全部炉につぎ込んじまえ!」

 

 リーダーは地面を金槌で叩く。

 すると、地上に炎が燃えたち、一面に広がり始めた。

 

「ひゃはは! こりゃいいや! てめえらはその船の中で炙られて死ね!」

 

 リーダーとそのパーティメンバーにはダメージは無いようだが、もう一つのパーティに属していた者達は、

 

「おい! 何やって――」

「あづぃ……あああぁぁぁぁぁぁ――!?」

 

 焼け死んでいく。

 骨すら溶かす勢いの火力は相当のようだ。

 

「(彼のエンブリオは上級以上のようだね……尤も私に届かないのであれば同等以下か)」

 

 そのようなことを考えながらフィリップは炎が収まるのを待つ。

 

「ひゃはは……ひゃはははは!」

「ちょっとリーダー。これじゃ戦利品も全部燃えちゃいますって」

「いいんだよ! あのフィリップ・ノッツを殺ったって実績があれば俺達だってあのクランの参加に入れて貰えるだろ。そうすりゃ、こんなところで奪うもんなんて端金だ」

「全く……後であいつらの間取り持つの俺なんすからね?」

 

 火力は短時間のみのようで、1分ほどで炎は収まった。

 火は一切燻ることなく、まるで蜃気楼のように消えていく。

 残された地面の跡だけがリーダーの起こした災害を表していた。

 

 そして……リーダーは地中に潜航していたノーチラスが浮上するとともに舳先に衝突し、空高く放り上げられた。

 

「……へ?」

 

 視界が回転し、彼は自身の身に何が起きたか理解できずにいる。

 理解が及ばないだろう。

 地上を業火で燃やし尽くそうとも、地中に潜れば関係ないなどという考えがリーダーには無い。

 それに、そもそもフィリップのノーチラスが潜水艦……つまりは潜ることが出来る艦であることも知らないのだから。

 

「ああああああああああああああぁぁぁぁぁぁ」

 

 叫びながら、何も出来ないまま、長い絶叫と共に地面と漸く触れ合うことが出来たリーダーはそのまま死亡した。

 

「最後。何か言い残すことはあるかい?」

「……俺の撒菱手榴弾を――」

 

 手元の手榴弾を投擲しようとした最後の盗賊は砲弾の中で沈んだ。

 

「クリア。戦闘を終了する」

 

 ノーチラスの損害は軽微。

 備わった自動修復装置で直に綺麗に直るだろう。

 

「怪我はないかい?」

「はい……あの、ありがとうございました」

「お強いのですね……貴方は、〈マスター〉の中でも」

 

戦闘を間近で見ていた若夫婦は驚嘆と興奮が混じったような礼を述べる。

実際、【探検王】により自在に動けるようになったグラスコード、ノーチラスのおかげで強者の部類にフィリップは入ることが出来ている。

 

「そんなことは……あるかもしれないね。君たちはどこかに向かう最中なのかい?」

 

 歯切れは悪くなってしまうが、今のフィリップは十分に準〈超級〉と呼べる実力を伴っている。

 だが、彼女がこれまでに戦ってきた準〈超級〉がデメンタリー、レシーブ、ドロップだ。

 全力の彼らを相手にした時、フィリップは未だに勝てるビジョンを持ち合わせていない。

 

「そ、そうでした……。私達は救援を呼ばなきゃと……」

「どうか私達を助けてください! 財産は……もう残っていないかもしれません。ですが……! 領主様に掛け合います! ご満足される額を用意してもらうので!」

「どうか私達の街を……ペルソティを助けてください!」

 

 こうしてフィリップは全速力でペルソティへと向かうこととなる。

 領主に事情を聞き、クリアント達もまた件の山にいることを知り、追いかけるのであった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。