<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する   作:そらからり

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207話 鋭弾蟻匆 1

■洞窟最奥 王の間

 

「戦闘――開始だ!」

 

 その言葉と同時にフィリップが前進する。

 敵の攻撃によって全損こそしていないが、機能の低下したノーチラスを乗り捨て、己の足で未知に踏み入れる。

 その手に持つのは彼女が白兵戦にて主に仕様するレアな拳銃……ではない。

 これまでのが回転式拳銃ならば、今彼女が使用しているのは光線銃――レーザーガンと呼ばれるものだ。

 

 レーザーガンの銃口がシュヴァーゲルを捉えた瞬間、その肉体に熱が灯る。

 

『……!』

 

 巨蟻は身を捻るが、それを読んでいたのかレーザーガンの銃口も後を追い、肉体を燃やす熱は冷めない。

 

「(ひとまずは通用する、か)」

 

 フィリップは内心安堵しながら、敵の次の行動を見据える。

 敵は神話級。

 何が起こるか分からない。

 何を手札としているか未知数だ。

 倒すためには解明せねばならない。

 好奇心の上乗せされた彼女は脳を回転させるのであった。

 

『……』

 

 シュヴァーゲルは地を叩く。

 巨体から繰り出される震動は洞窟内を揺らし、天井から砂礫を、地面の砂を撒き散らす。

 それは、光線に対しては有効な手段。

 もし仮に、フィリップの持つ武器が見た目通りの光線銃であったならば、この時点でフィリップの攻撃手段は一つ潰されたことだろう。

 

「ああ、そうくると思っていたさ」

『……ッ!』

 

 先程よりも強くシュヴァーゲルは身を震わせた。

 その理由は己の肉体を焼く熱量が強まったからだ。

 誰しもが熱された鉄鍋を手に持てば、思わず手を離すことだろう。

 同じことがシュヴァーゲルに起こった。

 神話級に達し、耐性も限りなく高められた彼ですら思わず逃避行動を取るほどの熱量が、今の彼には加わっていたのだ。

 

『不可解』

 

 シュヴァーゲルは長い年月を無駄に生きたわけではない。

 その生に相応しい知識を蓄えている。

 たとえ先々期文明関連の遺物であろうと、地に埋まっていようが、使用された形跡さえあれば配下に解明させ、その文明と科学力を己の知識として得てきた。

 その知識が断言している。

 形状、攻撃方法から、これは光線を以てして対象に熱で穴を空ける、もしくは燃やす武器であると。

 

 そしてそれは間違っていない。

 逸話級特典武具【火視光線 ビーマー】はフィリップとノーチラスにアジャストした光線発射スイッチと発射台である。

 能力は加熱というシンプルなもの。

 光線を浴びる時間、量が多い程に熱量は増していく。

 そして、その手段はシュヴァーゲルの予想通り光線であり、可視可能なものである。

 だが、ここで一つだけ振り返らなければならないことがある。

 果たして、フィリップが手に持っていた光線銃から可視光線は出ていただろうか。

 答えは否だ。

 

 フィリップの手にある光線銃――ビーマーの発射スイッチはあくまでスイッチの役割しか持たない。

 発射台は別にある。

 それこそがアジャスト先であるノーチラスである。

 ノーチラスの砲台から放たれるのは砲弾だけでは無く、ビーマーの光線も発射可能となっていた。

 そしてそれは同時に、ノーチラスに既に取り込まれていたグラスコードも同様だ。

 如何なるバフも受け付けないグラスコードだが、ノーチラスにアジャストされているという設計上、ノーチラスが受ける恩恵は同様に受けることが可能となる。

 《万輪車》然り。

 ビーマーの発射台然り。

 つまりはアタッチメントだ。

 性能は変えられないが、付属品は取り付け可能。

 グラスコードもまた海底に君臨した一柱の神所以だからであろうか。

 一筋縄ではいかない性質を有している。

 

 さて、群体であるグラスコード1体1体がビーマーの発射台ということは。

 地中に潜むグラスコードが顔をどこからか出し、シュヴァーゲルの死角から可視光線を放ち、いざとなれば地中に逃げることも出来る。

 更にはグラスコードが増える程、可視光線が増えるため加熱量も増える。

 タネが分かったところで対処が難しい。

 砂埃を巻き上げたところでその内側から可視光線を発射されるからだ。

 

 ただの強敵であったならば、この時点で丸焦げになっていただろう。

 否、耐性が幾らかあったところで、熱に対する完全耐性でも持たなければ、無数のグラスコードに狙い撃ちされて丸焦げになる。

 

「(これで終わってくれるなら、楽だったんだけどね……)」

 

 だが、相手は強敵どころではない。

 神話級。

 皮膚を、薄皮一枚焼いたところで影響は然程でもない。

 

 今のフィリップの攻撃を、前向きに捉えるならば、牽制にはなったといったところだろう。

 ……そう、それでも致命打どころか、有効打どころか、掠り傷どころか、牽制程度なのだ。

 

『理解した』

 

 シュヴァーゲルの複眼がすぐさま地面に逃げ遅れたグラスコードの1体を捉える。

 そして、その攻撃法を理解し、対処にかかる。

 

『銃弾発射』

 

 その背が開く。

 翅蟻の如く、だが、開いたソレは決して翅などでは無かった。

 まるで別物だ。

 

「……弾薬庫」

 

 思わず口から飛び出した言葉だが、それが正解であった。

 分厚い翅の内側に装填された無数の黒い物体。

 その一つ一つが、シュヴァーゲルの、【鋭弾蟻匆】の弾丸であった。

 

 背負われた弾薬庫の一部が発射される。

 それらはフィリップやノーチラスを狙うことなく、全て地面にめり込み、そのまま地中に消えていった。

 

「……!?」

 

 同時に、フィリップのMPの上限値が戻っていることがステータスで確認された。

 

「まさか……狙って来るとはね」

 

 発射された弾丸は、どのように狙ったのか定かではないが、全て地中のグラスコードを潰したのだ。

 透視能力でも持っていなければ、動き回る生物であるグラスコードを狙うことなど不可能のはずだ。

 

「……はは。面白い」

 

 恐らくは、この弾丸発射こそがシュヴァーゲルの能力なのだろう。

 地面の銃痕とノーチラスに残された損傷痕は似通っている。

 ここで似た、しかし別物の攻撃手段は持ってこないだろう。

 

「神話級か。やはり全てが桁違いだ」

 

 今の自分に何が出来るか。

 何が見抜けるか、フィリップは考え続ける。

 

 まだ退場には早い。

 否、退場などしてなるものかと自分に言い聞かせながら、次の攻撃手段を画策するのであった。

 

 

 

 

■【自殺王】クリアント

 

「おお……これは……」

 

 バタフライとの邂逅に何の感情も見せないまま倒したクリアントは、そのまま見向きもせずに立ち去ろうとしたのだが、ふとバタフライからのドロップアイテムを見て足を止めた。

 

「【褥】って……あの妖刀だよな」

 

 【宣教師】ダニアリーが有していた妖刀。

 自身と周囲に精神系状態異常を振り撒くという妖刀らしい妖刀だが、ダニアリー死後バタフライに回収されていたものだ。

 どうやらそのままバタフライが所有していたらしく、それを討伐したクリアントに所有権が移ったらしい。

 

「精神系状態異常って扱いづらいんだよな……というか俺が一番にかかるのか」

「先輩は精神保護あるから大丈夫じゃないんですか?」

「そういえばそうか」

 

 と、迂闊に【褥】を装備し、軽く素振りをしたクリアントはすぐさま精神系状態異常である【自殺衝動】を引き当てて、己の胸に【褥】を突き立て死亡した。

 

「……は?」

「いや、『は?』はこっちの台詞なんですけど!? 装備するまでは良いとしても、何で使っちゃうんですか! 【出涸らし】さんの時だって相手が不在でもちゃんと先輩に対しては効果発揮したでしょ!」

「忘れてた……」

 

 ともあれ、新たな武器を手にしたクリアントは【褥】をアイテムボックスに仕舞うと、再び歩き始めたのである。

 

「ところで道分かるか?」

「私の歩いた後が道です」

「なら迷子確定か」

 

 尚、同じ場所をぐるぐると回っていたことに気づくまで少々時間がかかった。

 




【火視光線 ビーマー】
フィリップが道すがら倒した逸話級UBMから得た特典武具。
生前は見たものを発火させる能力を有した猿であった。
発火が加熱にグレードダウン、また本来は不可視(視線が通れば効果発動)であった攻撃が可視光線と欠点が入ったことで、加熱量の上限が無くなっている。
ちなみにだが、実はフィリップの持つ発射スイッチからも可視光線の発射は可能であったりする。今回は確実に攻撃を通すために騙し討ちのような戦法を取った。
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