<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する   作:そらからり

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209話 主題歌

■レシーブ・キープとの戦闘による死亡ペナルティ明け後

 

「……うーん。難しいね、これ」

 

 クャントルスカが【魔法☆少女】に就き、クリアントやフィリップとの合流を待つ間、スキルを確認していた。

 【魔法少女α】の強化版のようなスキルの使い勝手は分かっているが、その他に《使い魔》などの固有スキルもあるため、どのように戦闘に組み込んでいけるか画策していた。

 とはいえ、《使い魔》は一度きりのスキルであるため安易に使えないのだが、それよりも彼女にとって使い方……否、使いこなすために訓練が必要なスキルがあった。

 

 それこそ【魔法☆少女】が奥義、《魔法少女の目覚め(オープニング)》。

 良い言い方をすれば、戦闘時のアシスト機能となるスキルである。

 

 今、クャントルスカの視界には多数の矢印が見えている。

 覆い潰さないように限りなく透明に近いものだが、そのうちの幾つかが時折光り出す。

 そのタイミングに合わせ矢印の方向へ動くことで、使用者のAGI、STRが瞬間的に増大するというものである。

 この矢印は敵の動きに合わせて変動するものであり、正しく使いこなすことが出来れば、どれだけ敵が速くとも、回避が可能となるものだ。

 

 だが、このスキルには大きなデメリットがある……それも2つ。

 1つ目はタイミングがシビアであるということ。

 矢印の光る時間は体感時間にて0,1秒以下。 

 これは幾らレベルを上げAGIを上昇させようと変わることは無い。

 つまりはほぼ光ると同時に動かなければスキルの恩恵は受けられないのである。

 

 だが、1つ目はまだ使い方が難しい程度で済む。

 問題は2つ目。

 こちらが強力なデメリットとなって戦闘時に使用を控えていた理由であった。

 

 0,1秒以下のタイミングを外した場合。

 その際のペナルティは1秒間の硬直だ。

 そして、上昇していたステータスは振り出しに戻る。

 積み上げてきたものが僅かなミスで無かったことになる。

 敵が強大であればあるほど、この奥義に頼った戦闘を行う程、この2つ目の欠点は重くのしかかってくるであろう。

 

「まだ早いのかもしれないわね。レベルに関係なく【魔法☆少女】に就いた者のセンスで使いこなせる奥義みたいだけれど、時間はかかるわ」

「特訓に相手がいないと出来ないのも難点だなぁ」

 

 矢印は敵対者が初めて出現する。

 そのため、雑魚モンスターでも良いのだが、とにかく相対する者が必要だ。

 

「……うー。また失敗だ」

「片付けておく?」

「うん、お願い」

 

 奥義発現後より通算200回を超えた失敗にクャントルスカは地面に横たわる。

 

 戦っていた【サンド・ゴブリン】の首を刎ねながら、モーは己の主にどうアドバイスしたものかと思案する。

 恐らくこのスキルは、このまま特訓を続け、ただ使っているだけでは使いこなすことは出来ないだろう。

 彼女の先ほどの言葉通り、センスが必要であり、その最低ラインの下で時間がかかる奥義である。

 クャントルスカにセンスはあるだろう。

 【魔法☆少女】に就けたこともあるが、魔法少女というものに夢を見ている。

 ならばきっと時間をかければ応えてくれるだろうが、その前に挫折しかねない。

 

「(俯瞰的……というか、一歩引いてしまうのは私の悪い癖ね。寄り添っているように見せかけて、その実クャントルスカが本当に困っている時に力になれない……干渉し過ぎることを躊躇ってしまう)」

 

 それこそが己の中にあるクャントルスカを通じて芽生えた異質(バグ)であることをモーはよく理解していた。

 好きになったら殺さずにはいられない。

 その性質こそがモー・ショボーの本質であり、その好きになる対象はクャントルスカとて例外ではない。

 だが、これ以上踏み込めば。

 モーがクャントルスカにこれ以上恋をしてしまえば、その時は己の手で主を殺してしまうだろう。

 その歯止めが出来ているのはむしろおかしな点であり、フィリップも過去に興味深いと感じていたところだ。

 

 同名のエンブリオを持つトワコはその点では躊躇いが無く、そのためよりモー・ショボーらしい能力を持っている。

 

 だが、どちらが良いかなどと判断は出来ない。

 良識も常識も時と場合によって容易にひっくり返るのだから。

 

「(あまり拘らせない方がいいのかしらね……。奥義に拘るあまりクャントルスカらしさが欠如してしまうのであればいっそのこと――)」

 

 メンタルケアが己の領分と弁えているモーは考える。

 このまま少しでも魔法少女という存在に対して嫌悪の感情を抱くのであれば、それはもうクャントルスカではない。

 モーが己の主と認めた、己が魔法少女の使い魔であろうと主の隣に立つと決めたあの瞬間が汚されるのであれば、手段は選んでいる場合では無くなる。

 

「クャントルスカ――」

「お、先に来ていたか」

 

 と、ログインし、合流地点に歩いていたクリアントが追いついた。

 彼は戦闘跡からクャントルスカが疲労し倒れているのかと誤解し、周囲の警戒を行う。

 だが、すでに一帯のモンスターはクャントルスカ達が一掃してしまっているためその必要は無かった。

 

「クリアント君! あはは……みっともないところ見られちゃったね」

 

 すぐさま起き、クャントルスカは衣装を整える。

 弱音を吐く、疲労や怪我で倒れるところを他人にみられるのは魔法少女らしくないと考える彼女らしい行動だ。

 

「別に……。戦っていたのか?」

「ううん。特訓中、かな。【魔法☆少女】の奥義をね」

 

 クリアント達は利害の一致で組んだパーティでなく、一緒に居たいから居るというタイプのパーティであるため、情報の秘匿は少ない。

 それこそパーソナリティや過去くらいだろうか、各々が隠しているのは。

 

「奥義か……他のスキルよりも発動しづらいのか?」

「発動よりも使いこなすのが難しいって感じかな。すぐ動けなくなっちゃうんだ」

 

 クャントルスカは《魔法少女の目覚め(オープニング)》を説明する。

 

「ふむ。一度俺と戦ってみるか」

 

 この奥義のクールタイムは短い。

 そのため連続使用が出来るため、クリアントの申し出にクャントルスカは

 

「いいの?」

「ああ。共闘中にいきなり見るよりも実際に体感しておいた方が俺も対応しやすいだろ」

「うん! お願いします!」

 

 と、対応とは程遠い男からの提案に頷いた。

 

「てやっ!」

「――ッ!」

「とぉっ!」

「――ッ!」

「せいっ!」

「――ッ!」

 

 一度だけなら矢印に合わせ動くことが出来る。

 だが、続けて示される矢印への反応が著しく悪い。

 どうにも、クャントルスカの動きに反して矢印が出現しているように思えてならない。

 

「……まあ、こんなところか」

「せんぱーい。上手く避けられているようなコメントありがとうございますですけれど、全部即死じゃないですか」

 

 しかしながらクリアントの耐久力では一撃で決着が着いてしまうため、死体を動かす《異身伝心 儀ノ四》を活用し、複数人相手での模擬戦を行うこととなった。

 結果は大して変わらなかったが、クャントルスカが矢印を数回出現させるようには出来る。

 

「どうかな?」

「……んー。そうだな、振り回されているようにしか見えなかった」

 

 能力に溺れている、という意味では無いだろう。

 

「クーの言う矢印。そちらを気にするあまり動きが止まっていたように見えたってところか」

「でも気にしないと違う動きしちゃうよ?」

「そうだよなぁ……」

 

 うーん、と頭を悩ませるクリアントに対し、モーは少し羨ましそうに彼らを見る。

 そのポジションに自分がいたかった。

 だが、そこに立ったが最後、次の機会は二度と訪れないだろう。

 その恐怖が、モーを一歩下がらせている。

 

「そうだ……規則性みたいなのは無いのか?」

「規則性?」

「矢印の規則性。右だったり左だったり。いくつかあるんだろ? その光る規則はあるのかなって」

 

 矢印の規則。

 それは、存在する。

 無数のパターンに思われるが、限りある矢印が幾つかのパターンの内から光る順を決めているに過ぎない。

 

 それを、モーはほぼ当初から見極めていた。

 

「……矢印の形とかどうかしら? 少し違うように見えるわね。もしかしたらパターンを見切るのに助けになるかもしれないわ」

「……! そっか!」

 

 それから幾つかのクリアントの死体を積み重ね、矢印の形と光る順所からパターンを見つけ出した。

 だが、それだけではピースが足りない。

 まだオープニングを活かしきれていない。

 

「あとはリズムか。このままだと単調な動きを繰り返すだけだが……それだと続いていかない」

「リズム……それなら!」

 

 と、クャントルスカは閃いたように歌を口ずさむ。

 その場にいた他の誰も聞いたことのない歌であった。

 

「歌?」

「うん! まだ魔法少女には足りないものがあったんだ。リズムに歌詞を合わせていけば……」

 

 かくして魔法少女の目覚め(オープニング)(ソング)が付いた。

 それからも長い時間をかけ、ヘラクレスとの戦いを経て、ルーチェとの戦いにてようやくオープニングソングは完成したのであった。

 

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