<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する   作:そらからり

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210話 鋭弾蟻匆 3

■洞窟最奥 王の間

 

「さあ! もう一回歌うよ!」

 

 《魔法少女の目覚め(オープニング)》を再度使用しながらクャントルスカは歌い始める。

 この歌詞と曲は彼女のオリジナルだ。

 あくまで《魔法少女の目覚め(オープニング)》は動作補正スキルに過ぎない。

 だが、まるで曲調を付けることを前提に作られたようなスキルであり、使用者がリズムを付けることで格段に難易度が下がる。

 

「(1番は歌いきるよ、モーちゃん!)」

「(ええ……邪魔が入らなければ今の貴女なら可能よ)」

 

 そしてこのスキルは連続使用時間が長い程にステータス上昇値が増していく。

 クャントルスカの言う1番……およそ1分半の間スキルを使用し続けることが出来れば、ステータスは一時的に神話級にも迫る値となる。

 

「させるとでも?」

 

 だが、再びクャントルスカの足元に伸びた影をルーチェのスキルが塗りつぶす。

 その瞬間クャントルスカの動きは止まり、奥義は解除されてしまう。

 

「――ッ!?」

 

 既にタネの割れたスキルは通じない。

 発動条件に難があるのならそこを突くのが知恵者の戦い方であり、ルーチェもその部類である。

 

「似たようなスキルは見たことがありますので。対策は可能です。一瞬でも動きを止めれば良いのであればするまで。斯様に脆いスキルで、ええ、助かりました」

「……!」

「【魔法☆少女】……初代の肉体を少しだけ保存していましたが、普通に弱いですね。抑止力程度にスコーピオンに与えておいて正解でした」

 

 過酷な戦いを、幾人もの想いを受け、乗り越え、食らって辿り着いた【魔法☆少女】。

 それを貶す言葉にクャントルスカの表情が冷めたように固まる。

 

「《魔法少女(エンディ)――》」

「……! いけないわクャントルスカ! それ以上は駄目!」

 

 咄嗟にかけられたモーの言葉。

 それが届いたのか拳を振り上げかけていたクャントルスカの動きが止まる。

 

 文字通り命を賭けて発動する【魔法☆少女】の最終奥義は今切るカードでは無い。

 

「落ち着いて。まだ負けていないわ。それに、貴女は大丈夫。貴女は人を愛せるし、魔法少女は人を幸せに出来るもの」

「……そうだね。ありがとうモーちゃん」

 

 息を整え、彼女は再び歌いだす。

 落ち着きを取り戻したクャントルスカとは対照的にモーは焦っていた。

 

 その理由は、モーにも流れ込んできた、ルーチェに対するはっきりとした嫌悪感。

 こうなったら、恐らくは戦闘中に必殺スキルを使用することは出来ないだろう。

 好きになれば発動できるという一見、条件が緩いスキルは、しかし嫌いになってしまえば発動出来なくなる。

 嫌よ嫌よも好きのうちとはいうが、彼女の場合は好きという感情に意図的にメータを振り切っているからこそ、戻す作業が困難となる。

 

「(私のアシストなんてとっくに介入できないレベルになっている……どうすれば……)」

 

 空を飛べようが、敵の中身を見透かそうが、その程度の助力が今の戦いにどれだけ影響を及ぼすだろうか。

 うっかりと自己嫌悪に陥りそうになる。

 モー・ショボーは誰かを好きになれこそすれ、自分を好きになる逸話など無いのだから。

 

「モーちゃん。大丈夫だよ」

「……クャントルスカ?」

「分かってる。必殺スキルも、最終奥義も使えない。それでも! 私は魔法少女なんだ。みんなの憧れなんだ! だから、戦えるよ」

 

 何の根拠も理由も理屈も無い言葉。

 だが、それでもモーは頷いた。

 

「分かったわ……ここは任せていいかしら?」

 

 自分に出来ることは無いかを探すために。

 

「うん! モーちゃんの応援があればきっと勝てる!」

 

 アームズやキャッスルタイプのエンブリオと違い、自分の意志でこの場を離れることが出来る。

 その強みが、モーに何を成させるのか。

 

「頑張って! 魔法少女!」

 

 そう応援するモーもまた魔法少女の使い魔らしい姿であった。

 

 

 

 

 少し離れた場所でフィリップもまた内心焦りを抱えていた。

 

「参ったね……ビーマーは完全に熱が冷めてしまったか」

 

 幾重もの罠を仕掛け、幾度もビーマーの熱を放射してきたが、シュヴァーゲルは遂に回避すらしなくなった。

 地中に潜らせているグラスコードは健在……なのだが、顔を出す直前にその反応が消失している。

 

「(だが……何かを仕掛けている気配は無い。背の弾丸は先のを撃っただけ……ッ!?)」

 

 グラスコードを生み出すためにノーチラスは洞窟内に出したままにしてある。

 無駄な被弾を避けるためにフィリップ自身の立ち位置にも気を払っているが、ふとノーチラスに目をやると――

 

「食い破られている……だと!?」

 

 到着時にあった敵からの攻撃。

 恐らくはシュヴァーゲルが弾丸を放ったのだろうが、その被弾部が大きく裂けていた。

 否、そこに顔を覗かせているのは、蟻であった。

 

「……そういうことか!」

 

 フィリップは理解する。

 地中のグラスコードを違わず殺せた理由も。

 浮上直前のグラスコードの反応が消滅した理由も。

 そして、敵の攻撃力の高さも。

 

「弾丸蟻……いいや、蟻の弾丸か」

 

 背に格納された弾丸。

 それら全てが孵化直前の蟻の卵であったのだ。

 

 つまりは、卵が薬莢の役割を果たしているのだろう。

 その内部の蟻が発射と同時に孵化し、着弾地にて目覚める。

 地中であれば目覚めた先でグラスコードを探し、そして殺していたのだ。

 

「……! ノーチラス! 侵入者を全て排除するんだ!」

 

 同時に、それはノーチラスに撃ち込まれたシュヴァーゲルの弾丸もまた敵の一味であることを意味している。

 既に対応すべきタイミングとしては遅すぎる。

 ノーチラス自体からも救難信号が来なかったことから、他にも何か能力を持ち合わせているのかもしれない。

 

『了解』

 

 速やかに船内の清掃は実行された。

 ノーチラス内部に設置された銃器が弾丸をばら撒く音が響き渡る。

 

『終了。ノーチラスの機能が約50パーセント制限されました』

「ああ……分かった」

 

 だが、戦闘の代償は重い。

 ノーチラスからの信号により必殺スキル以外で動かすことは不可能となることが伝わる。

 

「ひとまずグラスコードの量産を頼む」

 

 ならば牽制程度にグラスコードを作り上げておくだけでいいだろう。

 地中に潜む敵の弾丸蟻もいずれはグラスコードと相打ちしていなくなる。

 そうすれば……

 

「いや。そうなれば再び弾丸が撃ち込まれるだけか」

 

 しかし……とフィリップは違和感を覚える。

 先程ノーチラスから覗いた弾丸蟻。

 その名は【ディノポーラ】というそのままの名であり、やけに細長い体型であった。

 

 これまで幾体も屠ってきた【パラポーラ】では無いこと。

 その理由がフィリップには解明出来ない。

 

「(別個体であるということ……その理由は何だ? この場に【パラポーラ】がいないのは出し惜しみをしているわけでは無さそうだし……まさかシュヴァーゲル以外にも蟻を生み出せる者がいて、そちらは既に倒されているとか?)」

 

 と、正解を導き出してはいるが肯定する材料が無い。

 推論の域を出ないため、シュヴァーゲルがこの先、働き蟻である【パラポーラ】をどこからか引き連れてくる可能性も捨てきれない。

 

「さて……私に出来ることは少ない。ビーマーの熱が通用するまでのグラスコードを揃えるには弾丸蟻……【ディノポーラ】を倒し続けなくてはならない」

 

 現状の把握。

 だが、それで状況が有利に覆ることは無い。

 それだけで覆るほど、神話級は甘くない。

 

「……うん。私に出来るのはやはり必殺スキルだ」

 

 【探検王】も【火視光線 ビーマー】も戦闘に関しては補助能力がほとんどだ。

 ノーチラス自体も攻撃性能が特別高いわけではない。

 

 故に、シュヴァーゲルに対して決着をつけるのであれば、こうする他無かったのだ。

 

「《進め、限りなく深く(ノーチラス)》」

 

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