<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する   作:そらからり

225 / 443
211話 鋭弾蟻匆 4

■洞窟最奥 王の間

 

『……!』 

 

 地中からの脅威を最も早く察したのは、その目的地であるシュヴァーゲルであった。

 地中に放っていた【ディノポーラ】の消滅……それ自体は良い。

 相対する人間もシュヴァーゲル同様に眷属を多数召喚する指揮官タイプであり、眷属同士の対消滅が起こっているのであれば、それだけならば一切の問題は無い。

 誰しも解き放った弾丸が壊されても気にはしないだろう。

 まだ弾丸を撃っただけ。

 それだけなのだ。

 

『(だが……この……迫る気配は何だ……)』

 

 先程までの敵の眷属とは重圧が違いすぎる。

 少しばかり体温を上げていただけのものとは異なる、まるで新たな牙を得た竜の如く。

 

 それはシュヴァーゲルとてまともに食らえばただでは済まないと察するほどのもの。

 

『……撃ち落とせ我が眷属達よ』

 

 本能がこのままにしてはならないと警鐘を鳴らす。

 地中に放たれた弾丸蟻はすぐさま竜を探し出すと己の咢を開き、牙を突き立てようとする。

 

 そして、その直後消え失せた。

 

 止まらない。

 

 己が弾丸以上に、竜は己を狙い進軍する。

 

『――ッ!』

 

 数十、数百の小さな竜は地上に姿を現すと、巨大な蟻へと食らいつく。

 食らいついた先から……蟻の体躯は消滅していった。

 

『これは……何が……!?』

 

 その現象の理由は不明であろうとも、その結果が何を生み出すかは理解せざるを得ない。

 即ち、シュヴァーゲルの死。

 消滅した部位に相応しいダメージが、決して無視することのできない傷がシュヴァーゲルを襲う。

 幸か不幸か、シュヴァーゲルに食らいついた……辿り着いた竜はまるで役割を果たしたとばかりに消えていく。

 

『(これがあの人間の切り札……奥義か。なるほど、我に通じる力の一端……)』

 

 ルーチェから伝えられたどの超級職の奥義にも当てはまらないが、しかしそれに匹敵する力だとシュヴァーゲルは敵の力を測る。

 

 だが、いくら考えようとも、否、真っ当に思考を巡らせる程に触れた対象を異次元に飛ばすなどという飛躍した考えに至ることは無いだろう。

 ましてやフィリップの必殺スキルとグラスコードの関係性を知らぬであるなら尚更である。

 

 

 

 

■2日前

 

 それは、フィリップが【火祭猿舞 ビーマー】という逸話級UBMとの戦いの真っ最中のことであった。

 

 舞台は森。

 だが、息を吸えど澄んだ空気を味わうことなど出来やしない。

 むしろ下手に呼吸をしてしまえばすぐに気道熱傷や酸素欠乏による状態異常が発生してしまうことだろう。

 

「やれやれ……随分と景気の良い神様だ。まさか自分の棲み処を燃やしてしまうなんてね」

 

 大猿のUBM。

 全身が赤いそのモンスターは森の中で神の真似事をしていた。

 付近の村から供物を、そして贄を集め食らう。

 知能が高いのか、村の人間の負担にはなり過ぎない……誰かに助けを求めるまではいかない程度にしか要求することなく過ごしていた。

 だが、当然ながら義憤に駆られた者や、特典武具目当ての〈マスター〉は見過ごさない。

 挑み、そして全てが燃やされた。

 

「能力自体はシンプルなのだけどね……森の中というのが実に厄介だ」

 

 その視線の先にあるものを燃やす。

 ビーマーの能力は然程強力なものではない。

 むしろ、見つめられた直後でなく、数秒程度を要するため回避はしやすいだろう。

 だが、ここはビーマーの棲む森。

 地の利は向こうにあり、視線が通りやすくとも武器は通りづらい。

 加えて、森全体が炎上してしまえばビーマーの身体は隠れてしまう。

 

「くそぅ……熱源探知も引っかからないじゃかいか……」

 

 森の中、そして森自体が燃えていることもありノーチラスの機能のほとんどが用をなさない。

 せっかくの【探検王】も使えそうなスキルは無い。

 

「ううむ……燃え盛る森の中の冒険も良いなと思っていたけど、案外熱いだけか。……っと」

 

 【探検王】と相性の良い【深潜水士】のスキルが使えるおかげで呼吸の心配は無い。

 だが、立ち止まっているとビーマーの視線が飛んでくる。

 どこからか分からない、向けられているのかも分からない攻撃をいつまでも避け続けるのは不可能に近いだろう。

 そして、闇雲に動けば……

 

「……逃げ場所が無くなってしまったか」

 

 いつの間にか四方全てを燃え盛る木々に囲まれてしまっていた。

 倒木した樹木が来た道すら覆っている。

 

「キキッ」

 

 その上に猿は立っていた。

 追い詰めた獲物の顔を見に。

 絶望に染まる表情を味わいに。

 

「……舐められたものだね」

 

 手に持った銃を向けるも、身軽にビーマーは動き照準が定まらない。

 恐らくは火力も足らないだろう。

 倒すにはノーチラスの砲弾か、それこそ必殺スキルを使わざるを得ない。

 

 だが、ノーチラスの巨体はビーマーには格好の的だ。

 環境に適応する力を持つノーチラスであれば火の海であろうとマグマの海であろうと泳げるだろう。

 だが、見つめた対象を燃やすというビーマーを相手にし、ノーチラス自身が燃えないかと問われれば、フィリップは燃やされると確信していた。

 概念的な攻撃に対してノーチラスの耐性は低い。

 それは環境では無いのだから。

 

「(だが……必殺スキルを使えば……勝てるだろうけど私も死ぬ。それでは到着が遅れてしまう)」

 

 必殺スキルの反動を考えれば安易に使うものではない。

 異次元に飛ばした炎全てのダメージを食らえば死亡は免れない。

 

「残るはグラスコードくらいだけど……地上に出た瞬間に焼かれるだろうなぁ」

 

 ここが森の中で無かったならば、燃やされる前にグラスコードがビーマーに喰らいついていただろう。

 だが、既に燃える森の中。

 炎上地帯でグラスコードが生き残る術がない。

 ノーチラスとの共有で耐性があろうとも、グラスコードに設定されたHPの低さが台無しにしている。

 

「せめてノーチラスの砲台とかをグラスコードに搭載出来れば……」

 

 地中を移動できるのは【探検王】のスキルによるものだが、ノーチラスの武装を転換することは出来ない。

 あくまでノーチラスにかけたスキルを共有できるだけだ。

 

「私自身に使うスキルはグラスコードに使えないし、ノーチラスに使えるスキルでグラスコードに使えるスキルは……少ないな」

 

 そもそもノーチラスはスキルで無く、機能を有する潜水艦だ。

 推進も砲撃も、そういう機能があるから動いているだけ。

 故に、グラスコードへの恩恵は発生しない。

 

「必殺スキルがグラスコードに使えるわけない……わけでもないのか?」

 

 ふと思い至った考え。

 フィリップの肉体が火の海に消えそうになった瞬間の最後の思考。

 

「いや……だが反動は……考えている時間も無い! どうせ死ぬなら試してみるさ! 私の好奇心は死んでも満たされることは無いのでね! 《進め、限りなく深く(ノーチラス)》」

 

 火の海の中に巨大な潜水艦が出現する。

 その内部に格納されたフィリップはすぐさまグラスコードを生み出させ、必殺スキルを発動すると同時に、砲撃で周囲一帯を吹き飛ばした。

 ビーマーは避けるだろう。

 だが、爆発と風により鎮火はされるはずだ。

 ノーチラスが火によるダメージを負わされないための鎮火。

 これは一つの賭けであり、結末から言ってしまえばフィリップは勝利することとなった。

 

「――ッ!」

 

 視界が晴れた先に見えたものは全身をグラスコードにより食われ、消滅させられていたビーマーのなれの果て。

 こちらを睨む力も無くなった虚ろな視線は宙を見つめ、何も燃やし残すことなく、消えていく。

 

 直後に必殺スキルによる反動――グラスコードが先延ばしにしていたダメージがフィリップを襲う。

 そのダメージ量は……僅か数百程度であった。

 

「……やはり、か。反動はノーチラスの耐久性に依存していたというわけだ」

 

 HPに置き換えるなら数十万はあるであろうノーチラスの耐久力。

 必殺スキルで触れた全てが異次元に飛ばされている現象を、見る者によっては防御無視の攻撃と捉えるだろう。

 それは、ノーチラスにとっても同じであった。

 ノーチラスの装甲を無視し、数十万あるHPが削られ、そのダメージはフィリップに向かうのであれば、一万にも満たなかったフィリップの死亡は妥当なものであった。

 

 死んでしまうが故に検証する機会が無く、仕様の詳細が不明なままであった。

 

 だが、グラスコードという付属品が取り付けられ、必殺スキルも共有できるのであれば。

 フィリップの必殺スキル使用のハードルは大きく下がる。

 何故ならばグラスコードのHPは限りなく低く設定されているのだ。

 対象に届くまで無視したダメージも、HP以上を削ることは出来ない。

 そして、そのダメージがフィリップに降りかかったところで、フィリップのHPを全て消し飛ばすには数百匹分は必要となる。

 これにてフィリップの必殺スキルはグラスコードという特典武具を経てようやく完成したのだ。

 その戦闘力は軽く見積もっても準〈超級〉と呼ぶに相応しいものであろう。

 

 

 

 

■洞窟最奥 王の間

 

 必殺スキルを内包したグラスコードの群れ

 その一つ一つが防御不可の攻撃。

 厄介と言わざるを得ない。

 

『見誤っていた。まさかこれほどとは』

 

 それは素直な誉め言葉であった。

 純粋に敵の戦力を評価した言葉。

 

 故に、シュヴァーゲルはスキルを使用するに価する者とフィリップを見定めた。

 

『銃弾発射――【メディカル・ディノポーラ】』

 

 その弾丸は敵を撃ち滅ぼさない。

 全てがシュヴァーゲルの肉体を貫通し、グラスコードによって失われた肉体を補填するように、そこに収まるのであった。

 

『次弾装填――性質を選定中』

 

 弾丸を射出する。

 それだけに留まらず。

 否、それはただの機能。

 スキルを使用した戦闘は此れより始まる。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。