<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する   作:そらからり

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212話 鋭弾蟻匆 5

■【鋭弾蟻匆 シュヴァーゲル】について

 

 神話級のステータス。

 高い知能。

 それだけであれば、シュヴァーゲルは【神子】ルーチェの目に止まらなかっただろう。

 否、止まったとしても留まらなかったはずだ。

 他の神子達がそうしてきたように、己の神を見定めて、育て上げる。

 神として……UBMとして格を上げていく。

 その工程を挟むには長すぎる時間を要するし、手間が多すぎる。

 故に、神子達は慎重に見定めなければならない。

 己に相応しい神を。

 

 そう、これは神に対する感情では無く、理由。

 ミオギはグラスコードが既に深海の神として君臨していたからこそ選んだ。

 ドラゲイルの下を訪れた老婆はその暴虐性と多彩なスキル……万能が神に相応しいと見込んだ。

 カゲツは成り行き上、クレハドールを選ばざるを得なかった。尤も、彼女は神にすげ変わろうとしていたが為に大成はしなかっただろうが。

 

 そしてルーチェ。 

 彼女がシュヴァーゲルに神足らんと求めたもの。

 それは、付与の力。

 他者に能力を分け与える。

 それもまた、神であろう。

 

 

 

 

 シュヴァーゲルの持つスキルを端的に表すのであれば、付与。

 ただし、それは人の範疇に非ず。

 付与術師の頂点……【超付与術師】ですらせいぜい味方周囲にバフをかけられる程度。

 だが、それを神の領域で行えば、あらゆる対象に属性すらも付与が可能となる。

 その名も《上単衣(かみひとえ)》。

 布一枚を覆いかぶせるように。

 一つだけ、特性を付与する能力である。

 

 

 たとえば、他のUBMの配下に固有能力を付与したり。

 たとえば、己の弾丸に火や氷の属性を付与したり。

 たとえば、相手の能力が触れたものを異次元に送り込む能力だと分かるや否や、弾丸に異次元に触れることが可能になるように付与することすらも可能である。

 付与とは付け足すこと。

 有利になるように、強さを、特性を、属性を、加えることが出来る。

 神が猿を人に変えたのであれば……高い知能と知恵を授けたのであれば。

 シュヴァーゲルもまた神に等しい存在なのだ。

 

 

 

 

■洞窟最奥 王の間

 

「我が王よ。その力は異次元への転換。触れた対象を異次元へ飛ばすスキルのようです」

『銃弾発射――【ディメンション・ディノポーラ】』

 

 フィリップの能力を最初に見抜いたのはルーチェであった。

 攻撃を食らっている当事者よりも、第三者であるルーチェの方が広い視点で、且つシュヴァーゲル以外の地形や弾丸も削られている様子から、そうであろうと推測した。

 そして、【眼王】の解析系スキルを以てフィリップの必殺スキルを完全に見抜いた。

 

 スキルが分かれば対処は容易だ。

 それと同等か、あるいは正反対の属性を付与すればいいだけなのだから。

 今回は異次元に飛ばされてもこの次元で生存可能になるよう弾丸蟻に力を与える。

 

 グラスコードとディノポーラが衝突する。

 これまでであればディノポーラだけが消滅し、グラスコードは目標に到達するまで直進していただろう。

 だが、結果は対消滅。

 ディノポーラだけでなくグラスコードも同時に砕け散っていく。

 両者の攻撃性能に差があれど、両者の脆さはほぼ同格。

 故に、ぶつかれば多少は身体が残っていようと両者致命になりうる。

 

『殲滅完了』

 

 放たれた弾丸は今も尚シュヴァーゲルを目指していたグラスコードだけでなく、シュヴァ―ゲルの肉体を蝕んでいた個体すらも駆逐していく。

 それは見た目であれば己が王に謀反するように、シュヴァ―ゲルの肉体に牙を突き立て突き進んでいくように見えたであろう。

 だが、実際は体内のウィルスを排除する白血球が如く。

 毒を以て毒を制すのではなく、免疫を以て毒を制したのだ。

 

「だが……傷は与えられた! 決して無視は出来ないはずだ……!」

 

 それでもシュヴァーゲルの肉体には穴が空いている。

 多数のグラスコードに喰らいつかれた部位は消滅している。

 フィリップからみえるシュヴァーゲルの膨大なHPも今や半分以下となっていた。

 

『銃弾発射――【メディカル・ディノポーラ】』

 

 しかしながら神話級の力は人間に絶望しか与えない。

 人間が苦労し、挫折を超えた先の結果をいとも容易く覆す。

 

 初弾が異次元の能力であるならば、次弾は回復の力。

 放たれた弾丸は空中で軌道を変え、シュヴァ―ゲルの肉体に撃ち込まれる。

 否、欠損した部位に届くとそのままシュヴァーゲルの一部へと補完されていく。

 言わば、『回復弾』とばかりにシュヴァーゲルは危機的状況を回避していく。

 

「……ッ! ここまで、とは」

 

 フィリップはシュヴァ―ゲルの背の箱……弾薬庫を見る。

 敵の主武装は弾丸。

 剣や槍では無く飛び道具であるなら、弾切れを狙うという戦法もあり得る。

 

 だが……残念ながらそれは叶わない。

 

 シュヴァーゲルが一部のディノポーラに付与した増殖の属性が決して弾薬庫の弾丸を尽かせない。

 減った先から弾丸は補充されていくため、むしろマシンガンのように連射されていないだけシュヴァーゲルも手の内を見せきっていないに等しいだろう。

 

「(クャントルスカの助力は期待出来ない……。というよりも、彼女の方もギリギリだろう。……機を見てルーチェの方にもグラスコードを向かわせた方がいいか?)」

 

 まずはルーチェを片付けてからじっくりとシュヴァーゲルの相手をするという考えも浮かぶが、しかしその間にこの神話級モンスターを誰が相手するというのか。

 

「(手が足りない……よりも戦力が純粋に足りていない……! 恐らくは奪還隊の何人かはこの場に到着するはずだったのだろうが、それも厳しかったようだし)」

 

 ネームド個体の想定以上の数と戦闘力により一握り以下しか生き残りがいない現状、この場はフィリップとクャントルスカで乗り切る……否、倒しきる以外の選択肢が無い。

 

「(見極めるんだ……後に何かを残すために……何かヒントだけでも……!)」

 

 少なくともクリアントはこの山で生きている。

 フィリップにはその確信があった。

 ならば、彼がこの場に到着した時の為に敵の能力を少しでも引き出しておきたい。

 

 必殺スキル込みのグラスコードと相殺する能力。

 撃たれた先から回復する能力。

 

「(対応する能力……と見るべきか。起こった事態に対して解決するべき力を弾丸に込める能力……いや、もっと簡単に付与する能力かな?)」

 

 弾丸に力を込めているというよりも、道中で聞いたネームド個体と合わせれば、力を与える能力であると考えた方が得心いく。

 その考えを元に、上限は無いと考えた方が良さそうだと、更に状況を暗転させるような考えを持つ。

 

 その間にもシュヴァーゲルの攻撃は止まない。

 これまでが児戯というかのように弾丸の速度は上昇し、発射数も増加していく。

 

「く、ううぅぅぅ……! グラスコード! ノーチラス!」

 

 ノーチラスの完全顕現に加え、グラスコードをMPが無くなるまで生み出し続ける。

 この時点で必殺スキルの発動は不可能となったが、無効化されてしまった今関係ない。

 それよりも、弾丸からの壁を作り出すことが重要だ。

 

 ノーチラスの内部に入ると、覆うようにグラスコードが何重にも巻き付く。

 シュヴァーゲルの弾丸が何発撃ち込まれようともグラスコードは消えた先から生み出されるため殲滅されることは無い。

 

 だがしかし、これは防御形態による最終手段。

 グラスコードを攻撃に回すことは出来ないし、ノーチラスを動かすことも出来なくなる。

 

「――発射ァ!」

 

 温存し、自己修復機能で多少は機能が回復したノーチラスの砲弾がシュヴァーゲルに撃ち込まれ――

 

『小賢しい』

 

 ――シュヴァ―ゲルの視界を眩ました。

 既にノーチラスの火力は目くらまし以上の戦果は出せない程に能力が追い付いていなかった。

 チャリオッツ系統の側面が強い以上、それはやはり乗物でしかない。

 火力という点において神話を相手にするには力が不足し過ぎていた。

 

「……ビーマー!」

 

 苦し紛れのビーマーによる熱射線。

 しかしそれもシュヴァーゲルの更なる弾丸が相殺していく。

 

「(……! 連射速度が徐々に上がっている。グラスコードの生産が追い付かない)」

 

 少しずつ、少しずつグラスコードの壁が剥がされ始めている。

 純粋な能力不足。

 シュヴァーゲルの弾丸を発射するという単一機能だけでフィリップの渾身の防御は崩されようとしていた。

 

 この状況を打破するのであれば、それはノーチラスによる必殺スキルしかない。

 グラスコードよりも巨大で頑丈なノーチラスによる突撃であればディノポーラによる相殺も難しい……はずだ。

 希望的観測になってしまえば、この方法であれば倒せる可能性とてある。

 失敗した時は即死亡という欠点にさえ目を瞑ってしまえば、実行したいところだ。

 

「いや、だけどやるしかないかな?」

 

 この時、フィリップの視界は狭まっていた。

 圧倒的不利な状況下によるプレッシャーのためではない。

 視界を埋め尽くすほどのグラスコードとディノポーラにより物理的に狭くなっていた。

 

 故に気づかない。

 援軍の登場に。

 

「……?」

 

 弾丸が止まっていく。

 そう、錯覚してしまうほど攻撃の頻度が減り始めていた。

 

 何が、とノーチラスの索敵機能を使うまでもなかった。

 

「さあ! 美しく登壇なさい! 私達の舞台を! この手で彩りますわよ!」

 

 目で見えずとも分かる。

 美しさとは目に見えるものだけでない。

 美声もまた美しさ。

 

 【魔法少女β】プシュケー・アーチ。

 彼女の参戦によりフィリップの命は繋がれた。

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