<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する   作:そらからり

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214話 鋭弾蟻匆 7

■洞窟最奥 王の間

 

 素手と槍の応酬。

 しかしその軍配が後者に上がるとは限らない。

 両者の実力以前に、生物としての各が離れているならば、生身の肉体であろうと鉄であろうと、特典武具であろうと弾くことは可能である。

 

「……ッ!」

 

 プシュケーの持つ特典武具スウェーコンはかつて古代伝説級UBMであろうと刺し貫いた。

 その能力も相まって、最も有効打と成り得るのは刺突だが、ルーチェ相手とあればおいそれとは使えない。

 

「(段々と……重くなってきましたわ!)」

 

 本来特典武具は獲得者にアジャストされてつくられる。

 そのため、持ち主が不利益とならないならば、重量は負荷とならない。

 重ければ重い程、軽ければ軽い程、といった能力が付けられない限り……否、そのような能力が付けられるのであったとしても持ち主に扱いきれないような重量にはならない。

 それこそガチャのような他者にアジャストされた特典武具であれば別であるが、このスウェーコンは別だ。

 山に棲む大猿との一騎討の末に手に入れた……託された業物。

 プシュケーの期待に幾度も応え、共に境地を乗り越えてきた唯一無二の武器である。

 

 それが今、彼女の重荷となっていた。

 

「そろそろ持てなくなってきたのでは?」

「……そんなことありませんわ。軽すぎて振り回し過ぎていたところなのでむしろ感謝したいくらいですわよ」

 

 ルーチェの問いに、無意識にリアル寄りの軽口で答えてしまう程、彼女に余裕は無い。

 手が震える。

 気を抜けば落としそうになる。

 

 それがルーチェにスウェーコンが触れるたび。

 徐々に、段々と、増々過重されていく。

 

 それこそは魔術師系統重量操作系超級職【重王】の能力である。

 魔術師系統……つまりは後衛職であるため遠方より重量物を一時的に軽くし投擲、その後に再び重くするといった攻撃法を取ることが主なのだが、神話級ステータスを誇るルーチェであればこのように直接戦闘に用いることが可能だ。

 

「……伸びなさい!」

 

 スウェーコンが伸長していく。

 それは重くて長い槍という、扱いづらい武器となり、少しでも振り回せばバランスを崩しかねない欠点を増やす行為だ。

 だが、プシュケーは構わずスウェーコンの固有能力を発揮し続ける。

 

 そして、

 

「分離なさい!」

 

 その言葉と同時にスウェーコンは分離する。

 先のスパイダーとの戦いと同様に、幾本にも別たれるように。

 

「何を……?」

 

 分離したスウェーコンを受け取る者はいない。

 そも、彼女のエンブリオであるワルキューレ達は離れた位置で戦っている。

 

 故にスウェーコンは地面に落ちたまま。

 増えすぎた重荷を分けたままだ。

 

「これで軽くなりましたわ」

 

 十倍に重くなったのならば十分の一に。

 伸縮自在の武器は重量も長さ次第で変化する。

 そして、分離時に手に持つスウェーコン以外に重さを押し付けた。

 これは試行回数が少なかったため不明瞭な部分だったが、どうやら分離時の長さに依存するようだ。

 

 再び伸ばしたスウェーコンはこれまでのものと同一。

 負荷は感じない。

 しっくりくる重さだ。

 

「さて。再ラウンドといきましょうか」

「その前に足の踏み場が無くなってしまいそうですね」

 

 その言葉にプシュケーは足元を払う。

 分離したスウェーコンは洞窟内に散らばっていった。

 

 

 

 

「ラーズグリーズ、体力が……」

「踏みとどまりなさい! マスター不在であるからといって、それを言い訳に敗北は許されません!」

 

 そう、他の分体を鼓舞するワルキューレ――ラーズグリーズの両足は既に存在しなかった。

 スパイダーとの戦いにて罠に嵌り、それでも生き延びた個体。

 戦闘には参加出来ないため、プシュケーのいない今、指揮系統を託されていた。

 

「ゲンドゥル、牽制を続けてください。目を眩ますだけでも十分な成果です。他は攻撃を。ダメージは極力分散するように。ヒットアンドアウェイの精神です」

 

 彼女たちの攻撃はシュヴァーゲルへと着実にダメージを与えていた。

 ダメージがあればいくら神話級UBMとあれど死へと近づく。

 つまりは、無視することが出来なくなる。

 

『……迎撃準備……完了……発射』

 

 小物だ、とシュヴァーゲルはワルキューレ達を評した。

 特殊な能力も無い、ただ武装した小娘の集団。

 自身にダメージを与えられるがそれは珍しいことでは無い。

 微々たるダメージ程度であれば、瀕死で無ければ脅威などで無い。

 故に《上単衣》など使うことも無く、通常弾での迎撃を行っていた。

 

「来ました! 数は10! 対象は生物型の弾丸。つまりは、ただ速いだけのモンスターです。斬り伏せてください!」

 

 だが、対するワルキューレ達はただの小娘では無い。

 れっきとした第六形態のエンブリオであり、そのモチーフは戦乙女……戦場に由来する神である。

 そして彼女達は能力自体の個体差は無いが、幾ばくかの個人差はある。

 それは性格や気質、若干のステータス差や才等。

 内の一人、ラーズグリーズは戦場を俯瞰して見抜く才があった。

 突出しているわけではない。

 他の個体と比べての差だ。

 

 だが、それでも戦局を圧倒的不利な状況から不利な状況まで持ち直すことが出来ている。

 無論、シュヴァーゲルが本気を出していないこともあるが、それでもワルキューレ達にとっては使命を果たせているのだから本望であろう。

 

「フィリップ様が目覚めるまで……それまでの辛抱です!」

 

 後方の潜水艦、そしてその持ち主であるフィリップ・ノッツ。

 彼女達を守り抜くことが主であるプシュケーから与えられた使命。

 たとえ〈超級〉ならざるエンブリオであったとしても。

 たとえ神話級UBMを相手にしているとしても。

 

「撃破! 次弾を装填している隙に仕掛けなさい!」

 

 彼女達が研鑽した技量は本物であり、シュヴァーゲルに通用する代物であった。

 

『不快なり』

 

 そのステータス差からワルキューレ達には視認不可能な速度で発射された弾丸であったはずだ。

 たとえ着弾を外したとしても、弾丸である蟻達が瞬く間に獲物を食い殺していただろう。

 

 だが結果は全ての蟻が撃破。

 飛来速度だけれあれば上位純竜並であったはずだが、全て着弾前にワルキューレ達に切り殺された。

 

 これが何を意味するか。

 

『読み違えた、か』

 

 眼前の人間の形をした人以外の生物は人間の範疇でいえば並みの兵士以上であることは理解していた。

 だが、それでも人間の範疇の強さ。

 特殊な武器や機械を扱っているわけでは無く、兵器を持ち合わせてもいない。

 個体の強さなど数の前では無いに等しい。

 否、個体の強ささえ劣っているのだ。

 

 だが、ワルキューレ達は技量だけでいえば個人個人が前衛系超級職と渡り合えるだけの力を持っている。

 超級職達に固有スキルを使われてしまえば話は別である。

だが、単純な技量は並みの領域を超え、彼らに差し迫っている。

 

 その理由は研鑽の積み重ね。

 プシュケーを含めたワルキューレ達の経験値は等分される。

 つまり、レベルを上げるには他者よりもワルキューレの人数分は倍々となる。

 

 休むことなくモンスターを狩り続ける。

 休むことなくレベルを上げ続ける。

 休むことなく強くあろうとし続ける。

 それこそはプシュケーの言う美を高めるため。

 

 第六形態レギオンのエンブリオ【戦場戦姫 ワルキューレ】。

 ステータスこそレギオンの傾向にありがちな低いものとなっている。

 それを【魔法少女β】、そして個々の高い技量で補っているのだ。

 

「私達を甘く見ないで頂きたい」

 

 ワルキューレの一人、ヒルドが剣を向け宣告する。

 

「神の時代は終わりを告げる。我らの死と同時に貴様も退場願うことになるだろう」

『疾く死ぬが良い』

 

 無数の弾丸。

 その全てにシュヴァーゲルの本気が込められている。

 炎、氷、雷、光、闇、果ては病毒系や呪怨系を引き起こす効果を秘めたものまで。

 

「……!」

 

 それらから目を逸らすことなく、ワルキューレ達は迎え撃つ。

 たとえ死ぬとしても、僅か1秒でも時間を稼ぐと己の心に課して。

 

 その足元に見慣れた細長い形状が転がっていることに気が付くのは弾丸が着弾する直前であった。

 

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