<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する   作:そらからり

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19話 VSグラスコード

■【潜水士】クリアント

 

 クリアントの目の前には2匹のグラスコードが揺らめいている。

 神殿の内と外。

 領域で分け隔てられているわけではないが、クリアントは神殿の敷地内から出ずにグラスコードを待ち受けていた。

 

「……先輩」

「どうした」

「……もしかして怖いんですか?」

 

 その質問の対象はグラスコードにではない。

 【呪術師】から【潜水士】になり、本当に海中を動けるのかという疑問がクリアントの体を止めていた。

 すなわち、先ほど海中でクラゲ型モンスターに殺されバフが解けた際に水圧と呼吸苦で苦しんだ経験が怖かったのだ。

 

「……いや、なに」

 

 どうせ死ぬなら楽に死にたいとは万人の願いであろうが。

 死んでも尚、生き返ってしまうクリアントにとっては、死亡時の苦しみなど生きたまま味わう苦しみと同じである。

 

「……んー」

 

 とはいえ、クリアントが止まろうともグラスコードは待ってはくれない。

 マッドラップスの毒で苦しみながら絶命していく1匹を避けつつクリアントへと迫る。

 

「警戒はされているな」

 

 神殿を防衛するというのなら、クリアントは役割を果たしている。

 数少ない出入口の1つに立っているだけで、グラスコードは警戒し入って来られない。

 

「「Furuuuuuuuu」」

 

 グラスコードらはしばし鳴き合う。

 その異形の姿と裏腹に、やけに高い声であった。

 

 そして1匹がクリアント目掛けて体をぶつけてくる。

 クリアントは避けることなくそのまま受け止め……HPをゼロにして死亡する。

 が、すぐさま別の肉体で生き返る。

 

「同じことを……ああ、そうか」

 

 クリアントに触れたグラスコードは毒に侵される。

 だが、その毒に侵されたグラスコードを押しのけてもう1匹のグラスコードは神殿内に侵入していく。

 

「1匹を盾にしたな。俺に触れないように、仲間を盾にして進んだのか」

 

 クリアントに触れれば毒に侵される。

 それを学んだのだろう。

 賢いモンスターである。

 だが……

 

「知らなかっただろうな。俺の毒は感染する」

 

 神殿内に入ったグラスコードもまた毒に全身を侵されるとその場で倒れる。

 

「……」

 

 グラスコードの肉体が完全に消えるまでクリアントは見送る。

 別の人間が触れてしまえば、また毒は感染していく。

 自身が使えるようになっても尚、厄介な能力である。

 

「これで3匹か」

 

 失った命は2つ。

 それでマッドラップス並みのステータスのモンスターを倒せた。

 以前であれば考えられないほどの強化であろう。

 すぐにマッドラップスの装備を解除すると、周囲の警戒をしながら移動する。

 

「海中はもう怖くないんですか?」

「それどころじゃなくなったからな」

 

 実際に戦ってみて、このグラスコードというUBMの恐ろしさが分かった。

 1体1体が強く、かつ数が多い。

 防衛線において数に劣るのはかなり不利なことだ。

 どのような理由があって神殿を襲っているか分からないが、倒せる力を持つクリアントがいつまでも留まっているわけにはいかない。

 

「それに……レベルも上がった」

 

 すでに【潜水士】のレベルがカンストしていた。

 先ほどの戦闘にはそれほどの価値があったのだ。

 

「うえ。そんなに強い相手だったんですね」

「ああ……」

 

 あの数だ。

 恐らくは群体であるが故に防御性能など紙に等しいのだろう。

 攻撃に特化して、数で攻める。

 1匹や2匹倒れたところで3匹目が食らいつけばいい。

 そういった手合いの強さなのだ。

 だからこそ、クリアントにとっても倒せる相性の良い相手だ。

 

「俺はこれでもエンブリオの勉強をしたんだぞ。そう、こういったのは広域殲滅型が相性がいいみたいだ」

「でも先輩、広域殲滅型ではないですよね」

「……」

 

 個人型であり、生存特化型である。

 

「いや、だが俺ではなくフィリップならどうだ」

 

 あれも環境適応のエンブリオであるが魚雷などを積んでいる。

 広域への攻撃が可能なはずだ。

 

 見れば視界の端が光った。

 次の瞬間には爆発が起き、次々とグラスコードを巻き込んでいく。

 

「はははははは!」

 

 聞いた覚えのある笑い声が聞こえ、見た覚えのある潜水艦が次々と水中ミサイルを発射していた。

 

「ほら」

「うわぁ。1発で何匹も倒していますよ。先輩はあれ1匹倒すのに1回分の命のストック使うのに」

「ほら、グラスコードの攻撃喰らってもまだ戦えるから……」

「あ、ノーチラス号に喰らいつきましたね。でも流石に噛み千切れませんか。まだノーチラス号は健在ですよ」

「肉体と鉄は強度が違うから……」

 

 などと、フィリップの戦闘をイチャイチャと眺めていると、間もなくグラスコードの殲滅は終了した。

 

「ノーチラス号がこっちに来ますね」

「俺達に気づいていたんだな」

 

 クリアント達の前でノーチラス号は止まると、扉が開かれる。

 そして中から……誰も出てこなかった。

 

「……あれ?」

「誰もいないみたいですね」

 

 覗き込んでも人の気配はない。

 首を傾げていると、背後から声をかけられた。

 

「やあ。先ほどの戦闘は見事だったね」

「っ!?」

 

 神殿の陰からフィリップが現れる。

 

「……自動操縦だったか」

「まあね。あれくらいの敵ならば、近くのモンスターの殲滅を命じたノーチラス号だけで出来る」

 

 クリアント、ワンプ、マッドラップスの力を総動員してグラスコードを倒していたクリアントとしては驚くばかりの力だ。

 

「そしてその間に私は独自に動けるってことさ」

「ノーチラス号に乗っていたほうが安全に思えるが」

「ふふん。だけどね、偵察には向いていない。探索は出来るけどね」

 

 つまりは目立ちすぎるのだ。

 巨大な潜水艦であるノーチラス号では、偵察は行えない。

 

「他の〈マスター〉の警戒か?」

 

 海賊達がグラスコードを倒してやると意気込んでいた。

 彼らがいつ邪魔をしに来るか分からない。

 

「いいや、違う。彼らは今、間違いなく戦闘中だ」

「グラスコードとか」

「そう。【千貶万花 グラスゴード】とね」

 

 だが、それは今フィリップが倒したはずだ。

 100匹以上もいた、1匹1匹がドラゴンの姿と力を持つ群体型UBMは残らず……。

 

「まさか生き残りがいるのか」

「生き残り……ああ、そうか。君はそう解釈したんだね」

「違うのか……まさか群れの本体が?」

 

 あれら全てが群体からはぐれていたのであれば、脅威は一気に増す。

 100がはぐれであるならば、本体は150……いや200以上……?

 クリアントとしては、それ以上の数を相手に勝てる道筋は無い。

 それこそ広域殲滅型の出番である。

 

「違う。違うのだよ。前提からして君は間違っている」

「……?」

「いいかい? 【グラスコード】は本体からはぐれたモンスターの総称だ。本体は……【千貶万花 グラスゴード】は……手足全てがドラゴンのタコ型モンスターだ。手足の数はリアルのタコの100倍くらいだけど」

「はっ……」

 

 8かける数百……800本の手足。

 それも全てがドラゴン。

 

「それは……本当に神の領域じゃないか」

 

 古代伝説級UBM。

 神話級に近しいモンスター。

 海底に沈む邪神。

 

 どれも偽りでは無かった。

 それに見合う強さを持っていた。

 

 個人で勝てる相手ではない。

 

「そうだね。勝てるのは一握りの者だけだろう。そして、それに今挑んでいるのが私の兄達だ」

 

 そうだ。

 デメンタリーや海賊たちは勝算があると戦いに行ったのであった。

 

「だが……こうしてグラスコードの手足が神殿にまで来たということは敗色濃厚だろうね。なにより、デメンタリーがそれを許さないのだから」

 

 勝てると見込んで挑んだ戦いにも負けている。

 勝つ手段があると思っても勝てない。

 

「ヤバいだろうそれは……」

「ああ。グラスコードは間違いなく怒っているね。だから神殿に手足を送り込んだ」

 

 それら全てを神殿にいた〈マスター〉達で殲滅は出来たが、未だ本体は健在という。

 

「すぐさま相手が仕掛けてこないとしても、それでもまた数日後には回復しているだろう」

「……どうする」

 

 フィリップはグラスコードに挑もうとしている。

 だが、クリアントが手伝ったからといって倒せる可能性が上がるかと問われれば、クリアントは上がらないと答えるだろう。

 それだけの戦力差を見せつけられた。

 

「そうだね……リアル時間で明日、3日後に再集合しようか」

「何か手があるのか?」

「うん。私には良いアイディアがあるんだ」

 

 なるほど。

 無策ではないらしい。

 

「ちょっとデメンタリーに、兄にリアルで戦闘の詳細聞いて作戦立ててくるから。また明日ということで」

 

 と言って、フィリップはログアウトしていく。

 

「……」

「無策じゃないですかそれ」

 

 言ってやるなとは、クリアントも言えなかった。

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