<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する   作:そらからり

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215 2人の〈超級〉 1

■求めた者の話

 

 冒険譚を紡ごう。

 此れまでの短い短い冒険を。

 此れからの長い長い冒険を。

 

 過ぎ去ってしまえば刹那。

 待ち望めば永劫。

 

 時間は等しく有限に。

 しかしリミットは平等に非ず。

 

 だから誰しも求めるのだ。

 金を、地位を、名声を、友を、家族を。

 未知を。

 

 一歩踏み出す毎に磨り減っていく。

 一歩臆する毎に転落していく。

 

 結局がむしゃらに進むしかないのだ。

 立ち止まっている暇など無い。

 悩む時間なんて無い。

 

 行こう、彼方まで。

 進もう、限りまで。

 

 深海も地底も宇宙も。

 人類の到達出来ていない場所なんて幾らでもある。

 その幾らも明かさぬうちに冒険者達は命を落として来た。

 時間が、勇気が、力が。

 足りないなんて言い訳は出来るだろう。

 

 だけど、その言い訳を全て引き継いで私はここにいる。

 【探検王】を受け継いでこの場所に立っている。

 

 刹那も永劫も、今はその限りではない。

 現在を進むために。

 ノーチラスは何処までも深く潜っていくのだ。

 

【超級進化シークエンスを開始します】

 

 

 

 

■【探検王】フィリップ・ノッツ

 

「さあ、行こうか。ノーチラス」

 

 予兆は幾らでもあった。

 そもそも、フィリップという人間性が成長した直近のきっかけといえば【探検王】への就職だ。

 その時点でフィリップ・ノッツと【神秘探究 ノーチラス】は完全に次の段階へと進んでいた。

 

 だが、その前後にあったノーチラスへの新たな装備が進化を遅くさせていた。

 即ち、2つの特典武具の追加装備である。

 それは決して悪いことでは無い。

 ノーチラスに足りない攻撃性能を付け足したのだから。

 フィリップが助けられた場面もあっただろう。

 

 だが、たとえば新たな衣装を仕立て上げている際に対象が急成長してしまったらどうだろうか。

 新しく仕立て直す必要があろう。

 採寸をし直す必要もあろう。

 

 ノーチラスもまた、再調整が必要となった。

 

 第七形態……〈超級〉エンブリオへと至るために。

【千片万艦 グラスコード】と【火視光線 ビーマー】、この2つを前提とした新たな形態へとノーチラスは形作られていく。

 

故に彼女は自身と問答を繰り広げる必要などない。

ただ少しだけ時間をおいて、更に進みたいと願えば良かっただけだ。

 

「私達の冒険はまだ終わらない。終わらせてなるものか」

 

 この日、新たな〈超級〉の誕生。

 まずはその1人目である。

 

 

 

 

■求め過ぎた少女の話

 

 彼女が本当に愛を望むのであれば、欲張りであると言わざるを得ない。

 地球上全ての人間からの愛を欲し、そして愛し返す。

 博愛、盲愛と呼ばれるような愛し方。

 自身をも壊しかねない無茶苦茶な愛。

 努力を努力と感じず、しかし破綻した行動の末に崩壊していく。

 身体が、脳が休息を必要としても心だけが先に進み、他を無理やりに引っ張っていく。

 ブレーキの壊れた車がカーブを曲がるが如く危うい存在。

 それがクャントルスカという少女を誤解した者が抱く印象である。

 否、決して間違っているわけでは無いのだ。

 実際にそのような行動を起こしているし、彼女自身もそうであると肯定するだろう。

 

 ただし、本当に彼女が愛を欲していた場合の話。

 己を偽った末の思い込みが真になっているからの話である。

 

 彼女の原点は愛を知らぬ少女。

 愛して止まず、病んだ少女を真似た結果出来上がったのが今のクャントルスカである。

 故にメッキ。

 愛を知らない少女に上書きされた愛を唱える少女。

 人格形成どころか人格の上塗り。

 本当の彼女は愛を知らない。

 本当の彼女は愛した存在を傷付けない。

 本当の彼女はここにはいない。

 

 不思議なことだ。

 ならば何故彼女のパーソナリティからモー・ショボーというエンブリオは生まれたのか。

 愛そうとしたけど愛せなかった。

 感情を知らないまま生きた。

 他者を真似て生きた。

 そんな神話や英雄、逸話は幾らでもある。

 それなのに、少女から生まれ落ちたのは愛した相手を食らう怪鳥。

 果たしてそれは本当に彼女の心を読み取ったのだろうか。

 上辺だけを見据えてしまったのではないだろうか。

 

――そんなことはない

 

 はっきりと、否定する。

 

――私はもう愛せる

 

 大丈夫だと言い聞かせる。

 

――貴女がいなくても私は学んだ。覚えた

 

 少女は愛し方を知らなかっただけ。

 感情は既にあった。

 知らないということは無いということではない。

 教えられれば吸収し、己のものにできる。

 

――私はここにいるよ

――私はもう1人じゃないよ

――だから、もう、心配しなくてもいいよ

 

 彼女は涙を流す。

 決別の時が来た。

 愛を知らぬ少女に愛を教えた。

 愛を憶えた時、その者の役割は終わりを告げる。

 

――モーちゃん……愛しているよ

――だけど、他にもっと好きな人がたくさん出来たんだ

 

 もっともっと好きな人が。

 たくさんたくさん出来た。

 

 

 ずっと一緒に居た。

 ずっと教えてくれた。

 

 支えてくれた。

 笑ってくれた。

 慰めてくれた。

 共感してくれた。

 窘めてくれた。

 

 でも、それ以上に。

 愛してくれた。

 

 彼女のトリガーは愛を1人で知ること。

 そして、もう1人の自分を愛すること。

 

 上辺の自分(モー・ショボー)を好きになって、受け入れること。

 

【超級進化シークエンスを開始します】

 

 

 

 

■【魔法☆少女】クャントルスカ

 

「ばいばい……ありがとう」

 

 別れと感謝、それぞれの言葉を呟く。

 彼女の瞳は涙で溢れ、そしてその表情は笑っていた。

 

 第七形態エンブリオ【愛惜愛食 モー・ショボー】。

 TYPE:フュージョンアームズ・ワールド。

 もうこのエンブリオにメイデンは付かない。

 その必要は無くなった。

 

 山中のどこかからクャントルスカへとリソースが流れ込む。

 今頃はモー・ショボーであった少女が光となり消えているだろう。

 此れまでの役割を果たし、最後の役割を遂げ、クャントルスカと1つになっていく。

 

 それが別れだと、クャントルスカは思わない。

 モー・ショボーの逸話の如く、食べて1つになるのだ。

 此れまでに愛してきた者達のように。

 此れから愛する者達のように。

 愛した1人として、飲み込んでいく。

 

「……」

 

 だけどやっぱり寂しいと、そう嘆く自分がいる。

 親友のように、愛していた。

 恋人のように、愛していた。

 自身のように、愛していた。

 同化したと、そう言い含めても、もう会話することが出来ないのだと分かれば、心のどこかが痛い。

 自然と涙が溢れる。

 

「クャントルスカ!」

 

 頬に痛みが走る。

 周囲を見渡しても付近には誰もいない。

 フィリップは遠くで一回り小さくなったノーチラスと共に出方を伺っており、プシュケーとワルキューレ達は瀕死に近いながらも戦いを続けている。

 

「私に見せてちょうだい。貴女が1人でも愛せるところを」

 

 誰よりも優しく誰よりも厳しい声。

 もう聞くことは出来ないはずの声。

 

 恐らく最後の会話だ。

 幻聴であっても良い。

 だけど、返さなくてはいけない。

 

「……うん! 私は魔法少女! みんなを愛する魔法少女クャントルスカ! 見ててね、モーちゃん。私もモー・ショボー。愛して食べて受け入れる」

 

 衣装の袖口で涙を拭い、一歩踏み出す。

 もう声は聞こえない。

 姿はとうに見えない。

 

 だけど、もう大丈夫。

 愛し方を知って、食べ方を知って、別れを飲み込んだ。

 

「【神子】ルーチェ。貴女のことは嫌いだ。人を利用して悪いことをする。人の死体を弄んでモンスターと同化させる。多くの犠牲が出た。多くの人が悲しんだ。だけどそれももう終わり」

 

 悪は栄えない。

 何故ならばここには魔法少女がいる。

 愛は絶えない。

 何故ならばここにはモー・ショボーがいる。

 

「お待たせ。愛に理屈が無いのなら、愛に限りが無いのなら。貴女のことを好きになれる。誰のことだって好きになってみせる」

 

 2人目の〈超級〉の誕生。

 

 神話に挑むに足りるか否か。

 それは誰にも計り知れない。

 




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