<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する 作:そらからり
■洞窟最奥 王の間
『銃弾発射――【ヘヴィー・ディノポーラ】』
重量の付与。
単純にして明快。
重ければ強い。
重ければ弾けない。
回避でなく分裂したスウェーコンで弾丸を弾くワルキューレ達を煩わしく感じたシュヴァーゲルの次なる一手。
そも、ワルキューレ達はシュヴァーゲルの相手をするにはステータスが全く足りていない。
技術にて補っているが、それも小手先のもの。
回避するだけのAGIが無いと言っているようなものだ。
故に弾丸を逸らせなくすればいい。
「っあ――」
最初にスウェーコンを落としたのは呪文使いのワルキューレ……を庇った別の個体であった。
元々槍を使っていたため、プシュケーを除けば最もスウェーコンの扱いに慣れていた。
慣れていたが故に他の個体を庇う余裕が出来てしまった。
……そこを狙われた。
スウェーコンを破壊する強度はディノポーラには無い。
だが、弾いた手に衝撃を、一つのミスで手首まで浸透するダメージを与えるだけの重さがあった。
スウェーコンが無くなってしまえばワルキューレ達に抗う術は無い。
たちまちのうちにワルキューレの肉体が弾け飛んだ。
次いで、庇いきれなかった呪文使いも胴から首が消し飛んだ。
次第にワルキューレの数が減っていく。
されども銃弾の雨は止まない。
「――」
その光景を、美の欠片も映らない瞳が捉えていた。
「あら? まだ手足が潰れただけですよ」
両腕両足を超過重により潰されたプシュケーは今や指先を動かすことすら難しい。
顔面は痣だらけであり、ルーチェに相当数殴打されたことを示唆している。
対するルーチェに傷一つ無いのは持ち前の回復スキルも勿論だが、それ以上にプシュケーの攻撃のほとんどが当たっていないことが大きい。
いくらスウェーコンの重量をクリアにしたところでプシュケー自身に過重がかかってしまえば後は時間の問題だ。
当たれば当たるほど重くなる肉体がプシュケー自身を蝕み、やがて限界を迎えていた。
未だ死んでいないのはそれでも急所を避けたのか、それとも実力差のあまり弄ばれたのか。
後者の可能性が高いのは否めない。
意思は宿っているのか不明な瞳を覗き込む影に反応したのか、プシュケーの口が開かれる。
「……カ」
「何でしょう? 命乞いならばお聞きしますよ。伝えた後で全員そちらにお送り致します」
傍らのスウェーコンも粉々に砕け、プシュケーにたとえ戦意が再び宿ろうとも戦う力が無い。
故にルーチェはプシュケーの最後の言葉を聞き遂げた後に止めを刺そうと考えていた。
「……しいですわ……ほどに」
「えぇ? だから、何ですか? もう少しはっきり告げて頂けないと」
意識が朦朧としているが故に世迷言を吐いているだけか。
プシュケーと同じ顔をしたワルキューレ達もシュヴァーゲルによって全滅しかけている。
残りの人間達も皆殺しにして、減ってしまったネームド個体を再び作り上げるとしよう。
そう、画策したルーチェの肉体が吹き飛ばされた。
「……ッ!」
目に見える傷は無い。
そして吹き飛ばされたとは言ったが、そう長い距離を転がったわけでは無く、若干態勢を崩されただけ。
吹き飛んだと錯覚するほどの衝撃があっただけだ。
「……なるほど。そうですか! これほどまでとは! 貴方方人間がここまで至れるとは!」
1人は辛うじて命の繋がっているプシュケーやワルキューレ達の保護をしながらルーチェとシュヴァーゲルを睨む。
その視線はどこか余裕をみせるものであり、シュヴァーゲルの力を知らぬ者であれば気圧される程であった。
そしてもう1人……彼女は倒れたワルキューレ達に視線を送る、助けることも――触れることもせずに歩き出す。
デンドロで最も長い付き合いであるプシュケーを見ても、何もしない。
ただ通り過ぎるだけ。
得意な回復スキルを使うことも無い。
今の彼女は誰も助けない……助けられない。
かつては相棒の背に生えていた両翼。
それが今は彼女の背に馴染む。
「フィリップちゃん。悪いんだけど、プシュケーちゃん達の救助をお願い」
クャントルスカという少女はこの瞬間、魔法少女だけでなくモー・ショボーという怪鳥と成った。
愛した者を害する怪物に。
「最初からこんな数……愛せるかなぁ」
怪物の口から出た言葉。
その自信の無さげな言葉とは対照に、怪物を除いたその場全員の命が死に一歩近づいた。
「……ッ!?」
ルーチェもシュヴァーゲルもフィリップも。
そしてシュヴァーゲルの弾丸であるディノポーラ達も例外で無く。
それぞれのHPが0,1パーセント削られる。
僅か0,1……そう捉えることは出来ない。
神話の域に達したモンスターのHPは数百万。
500万の0,1パーセントであれば5000。
それだけのHPが耐性の有無に関わらず失われ……否、吸収されていく。
「ふふ。嬉しいな。楽しいな。たくさん愛せる。たくさん食べられる」
この言葉から先ほどのが危惧では無く、興奮から漏れたものであることが伺える。
頬を紅潮させた表情はまさに恋する乙女。
「無差別攻撃……いえ、法則があるようですね」
己だけHPの減りが早いことにルーチェは気づく。
他が0,1に対してルーチェのみ0,2パーセント。
僅かな差異だが、徐々にこの差は開いてくるだろう。
『銃弾発射――【ヘヴィー・ディノポーラ】』
この現象を止めるべく弾丸が発射される。
いくらHPが減ろうともディノポーラの攻撃力に変わりはない。
それは付与された重量も同様。
どのみち使い潰しの弾丸だ。
HPが1でも残っているうちは弾丸として運用可能である。
「痛い……けど、こんなの、皆のに比べればマシだね」
弾丸がクャントルスカに命中し、その右腕が弾け飛ぶ。
だが、すぐに失われた部位が再生していく。
一瞬減ったHPもすぐさま取り戻されていく。
「ジッッッ!!」
命中しても生きた弾丸は攻撃を止めない。
その牙をクャントルスカに突き立てようとし、
「うん。焦らなくて大丈夫。すぐに愛するから」
クャントルスカが触れると同時にHPを急激に減少させ肉体が光となり消えていく。
「……リソースの吸収、ですか」
無差別広範囲、かつ触れた対象には触れただけ。
その全てが彼女の回復に繋がるのだとすれば、それは恐ろしいことだろう。
周囲に生物がいる限り倒せない。
彼女のHPタンクが敵自身なのだから。
否、その程度ではない。
愛した者を食らう怪鳥の最終スキルをその程度を超えてみせる。
スキル名《
周囲の生物からHPとその割合に応じたスキルを吸収するスキルである。
その対象は恐ろしいことに、クャントルスカが影響を与えたもの全て。
彼女が認識した。
彼女がスキルを使った。
彼女が倒した。
その尽くが愛する対象。
真にモー・ショボーとなったクャントルスカの最後のスキル。
全てを愛するが故に彼女以外が生き残ることが出来なくなるスキル。
故にこのスキル発動時、クャントルスカは味方に対して回復スキルを使うことが出来ない。
回復してしまえば愛が深くなる――HP吸収量が増えてしまうためだ。
「ですが微々たる量……全てを吸い尽くされる前に死んで頂きましょう」
だが、強力なスキルは反面、欠点も多いだろうとルーチェは推測する。
一度に吸収できるリソース量や、その増加値は恐ろしいものではないだろうと。
先程のディノポーラも触れたのではなく攻撃されていたため。
致命打に成り得ることは無いスキルである。
「王よ。孤独であろうとも決して強さを失わぬ王よ。一度弾丸を格納して下さい。彼らは生物として運用するから体力を吸われています。故に仕舞いましょう」
【眼王】のスキルでリソースの移動を追っていけば、その先はルーチェ達生物に限られている。
地や天井から……山中からリソースを吸い尽くしている様子は無い。
恐らくは見ている範囲。
ならば対策は幾らでもある。
「その脚で踏み潰して下さい。王に歯向かう羽虫は一思いに潰すに限ります」
シュヴァーゲルは言われるがまま、黒い脚を持ち上げる。
蟻に似つかわしくない、巨木の如く太い脚はスタンプのように人間を地面に叩きつけるだろう。
「遅いよ」
だが、それでは怪鳥を捉えることは出来ない。
翼をはためかせ、回避してみせたクャントルスカはシュヴァーゲルを無視してルーチェに頭上から蹴り入れる。
「……ッ!」
芯に響くような攻撃にルーチェは想定以上のダメージを受ける。
骨だけでなく、攻撃を受けていないはずの内臓にまでダメージが起きたことに戸惑いをみせる。
「《中点奇地》」
中身にダメージを浸透させるモー・ショボーのスキルの一つ。
モーが中身を解析しなければ使えなかったスキルだが、今はクャントルスカ1人でも発動可能だ。
「……! 王よ――」
すぐさまシュヴァーゲルへ支援を求むルーチェの視界に信じられない光景が広がる。
爆撃に次ぐ爆撃。
その中においてシュヴァーゲルが崩れ落ちていくのであった。
「ヒット。うん。良い調子だ。副砲はそのまま続けて。主砲は装填が完了次第発射だ」
佇むは【探検王】ただ1人。
だが、その周囲に地中から浮かび上がる数々の砲台。
副砲と呼ばれたその砲台の威力は此れまでのノーチラスの主砲を遥かに超える威力であった。
「まさか単純なパワーアップとはね。進むために力づくというのも品の無い話だが、今はそれでいい!」
ノーチラス第七形態。
もはや潜水艦と呼ぶのもおこがましいが、本質を含めてしまえば、地中、水中の艦隊が相応しいだろう。
環境に適応する。
それがノーチラスの能力特性。
であれば、第七形態は何に適応したか。
そう、強敵にである。