<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する 作:そらからり
■洞窟最奥 王の間
クャントルスカがもう一人の自身と別れを告げ、TYPE:フュージョンアームズ・ワールドへと成ったように。
ノーチラスの進化もまた一部不可逆的なものと遂げていた。
とはいえ、モー・ショボーほど劇的なものではない。
そもそも、ノーチラスが潜水艦としての機能を失っては、環境適応という特性を失ってしまってはフィリップの心象と大きく食い違うこととなる。
そのまま、単純な強化がノーチラスには必要であった。
まずはノーチラスの大きさ。
元から巨大な潜水艦であったのだが、それが更に一回り程大きくなっている。
それに付随して砲台の攻撃力も跳ね上がった。
尤も、この洞窟内においては大きすぎて浮上出来なくなってしまったが。
砲台しか地中から現れていないのはこのためである。
ここまでは不可逆な進化であるため、不便であろうと小さくなることは出来ない。
【探検王】のスキルで地中に潜れなかったら腐らせてしまう進化であっただろう。
だが、それ以上にノーチラスは2つの特典武具を取り込んで進化した。
特にここ数回の激戦を共に超えてきたグラスコードは大きな影響を与えている。
外骨格ともいうべきか。
通常、フィリップがMPを消費することでグラスコードの分体のようなドラゴンが出現するのだが、今のノーチラスがそれを行うことで、グラスコードにノーチラスの分艦が接続されることになる。
まるで主力艦と補助艦で編成された艦隊であるが、機能としてノーチラスとグラスコードにあまり違いは無い。
ただ出力が違うだけだ。せいぜい100倍程度だが。
だが、出力が違うだけで機能が同じというのならば。
グラスコードであった艦にもまた環境適応の特性が付与されていることになる。
中に入った者が外界からの環境因子による影響を受けない。
故に、このグラスコードの内部に入った者は、
熱は届かず
吹雪は届かず
細菌は届かず
電気は届かず
愛も届かない。
「保護は完了した。クャントルスカ、そちらは任せた。君の想いを、思う存分叩き込むといい」
ワルキューレやプシュケー達を取り込んだグラスコード数隻が地中へと沈んで行く。
これで地上の戦いに巻き込まれないだろう。
地中を潜航する弾丸が注意しなくてはならないが、そちらに気が回らないよう攻撃を続ければいいだけのこと。
「さあ! 撃て撃て! 砲弾が尽きるまで撃つといい! 敵の弾薬庫と根競べだ」
シュヴァーゲルは弾薬庫を格納している。
ディノポーラを生物としてでなく、ただの弾薬としてとはルーチェの言葉だが、弾薬庫はノーチラスの環境適応と類似した能力を所有しているのだろう。
フィリップの勘では弾薬庫を攻撃しても中へのダメージは望めない。
ビーマーの熱射線も同様であろう。
砲弾による爆撃がシュヴァーゲルを包み込む。
グラスコードとノーチラス、それぞれの攻撃でシュヴァーゲルの減ったHPは5万を優に超えていた。
「……これで形成が逆転してくれればいいが。……! ほら来た」
シュヴァーゲルの脚が地を薙ぐ。
それだけで地上に顔を出していたグラスコードが一掃されていく。
ノーチラスの主砲は辛うじて守られたが、迂闊に顔を出せなくなった。
『……!?』
だが、驚愕に満ちていたのはシュヴァーゲルの方である。
彼は艦隊と、それを指揮する人間ごと一掃するつもりで横薙ぎに脚を振り抜いた。
だが、消し飛んだのは小さな艦のみ。
人間は変わらずその場で済ました顔をしていた。
「驚天動地といった顔をしているのだろうね。まあ、私はモンスターの顔色なんて分からないけど。だが、その心中くらいは察してあげよう。私が生き残った理由、だろう?」
シュヴァーゲルは人間の言葉を理解している。
だからこそ、理解及ばぬ事態の説明に聞き入ってしまう。
一呼吸置きながら次の言葉を放つ彼女を待ってしまう。
「答えはCMの後、さ」
『――ヵッ』
左右上下。
その全てから砲弾と、熱射線がシュヴァーゲル目掛ける。
地上だけを警戒していただけに、その衝撃は巨体を崩すに十分であった。
クャントルスカとルーチェの攻防。
真にモー・ショボーとなったことで攻撃を重ねる程に愛も重ね、HPの吸収も増していくクャントルスカ。
触れるたびに【重王】による過重スキルで制限を与えていくルーチェ。
どちらも触れることが条件。
攻防は拮抗している……そう錯覚していたルーチェが現状を見直すまでに時間はそうかからなかった。
何故ならば……【重王】のスキルが発動しなくなったからだ。
「……これは」
【重王】であった人間の肉体は取り込んでおり、その一部が消えたわけではない。
直接肉体と結合させているため、消えていればその部位が失われ、部位欠損ダメージが発生しているはずだ。
だが、その兆候は無く、ただスキルそのものが使えなくなっている。
「リソース……なるほど」
先程ルーチェは、クャントルスカがHPを吸収しているのではなくリソースを吸収しているのだと呟いている。
HPとリソース。
その両者は似て非なるものだ。
HPだけであれば回復すればいい。
だが、リソースは失われたら、どこかへと流れるものだ。
そして、リソースは情報の塊だ。
「そちらへ、流れてしまいましたか」
「愛って重いね。だから軽く扱っちゃいけないんだ」
《
その真骨頂はスキルすら簒奪する愛の狩人。
好きなものは欲しい。
かつて真似たことを再現するかのようなスキル。
「(他の超級職のスキルは生きている。何か条件はありそうですが……恐らくはスキルの理解と吸収率でしょうか)」
ルーチェはそう推測しながら失った【重王】を諦める。
元より戦いを楽しむために使っていただけの超級職。
それほど拘りは無い。
そして奪われた【重王】を警戒する必要も無い。
「私からの愛、受け取ってよ」
HPの吸収率が徐々に増えていく。
だが、それはすぐに死ぬほどのものではない。
クャントルスカは打撃によるダメージ以上に触れることを意識し始めているが、《
だが、【重王】に関してであればルーチェのステータスで容易に弾くことが出来る。
瞬間的に荷重をかけるスキルも、徐々に過重するスキルも、結局のところデバフである。
ならば、神話級のENDがあれば、成りたての【重王】のスキル如き痛くも無い。
警戒せねばならないのは、これ以上スキルを奪われないことだ。
【眼王】は種を明かしていないから良いが、根幹に関わる付与に関係したスキルを奪われてしまえば元も子もない。
とはいえ、そちらを奪われるのは後だろう。
浅いところから削られている……実際にスキルを食らうルーチェだからこそそう感じていた。
「(さて……取り込んだ超級職から現状を打破できそうなものは……)」
無いわけでは無いが、逆にそれを奪われてしまえば敗色濃厚となる。
使いどころを慎重に見極め――
「(いえ、まずはあちらからでしたか)」
新たに自身に付与した超級職の名は【壁王】。
今のクャントルスカを相手に時間稼ぎは悪手だが、他に相手取らなければならない者がいるのであれば別。
なにより、自身に付与出来るルーチェと違って他者にしか付与出来ないシュヴァーゲルが弾丸を封じられてしまえば残るのは神話級のステータスのみ。
それもフィリップの艦隊を相手にすれば分が悪いだろう。
その発端もルーチェにあるのだから責任は取らなければならない。
「悪いのですが、少しお待ちください」
クャントルスカの四方を障壁で囲む。
前衛系超級職でも容易に壊せない【壁王】による障壁だ。
時間稼ぎにおいてこれ以上のものはそうそう無い。
今も尚止まない爆撃の中にルーチェは飛び込んでいく。
ここでシュヴァーゲルをむざむざと死なせるわけにはいかないのだ。
「直に参ります……我が王」