<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する   作:そらからり

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219 王の戦い 1

■洞窟最奥 王の間

 

「……さて、どんな状況だ」

 

 クリアントは洞窟内を見渡す。

 眼前には巨大な蟻のUBMであるシュヴァーゲル。

 当然ながら碌な看破系スキルの無い彼にシュヴァーゲルの情報は名とUBMの等級以外は分からない。

 それでも弾丸の嵐の中に躍り出ることが出来たのは、シュヴァーゲルの扱う武器が弾丸である。ただそれだけであった。

 

「クーはもう少し大丈夫か。フィリップは……」

「うん。時間を稼いで貰えると嬉しいね。回復だけ済ましたい」

 

 右腕の欠けたフィリップを見てクリアントは頷く。

 

「別に、倒してしまってもいいんだよな?」

「それ死亡フラグだからね。いや本当に倒せるなら構わないけど。……しかし相変わらずだね、君は」

 

 久方ぶりの再会に浸る暇も無い。

 何かしらのアイテムを使ったのだろう、フィリップの腕の出血は止まっていた。

 流石に部位欠損までは治せないが、これで失血死の危険は回避できたようだ。

 

 時間稼ぎを頼みつつもその場に留まるフィリップを見て首を傾げつつ、クリアントはシュヴァ―ゲルに向き直る。

 感覚的にフィリップもクャントルスカもこれまでとは違う力を手に入れたと理解していた。

 その彼女らが追い詰められている。

 それでもクリアントは耐えきれると自信を持っていた。

 【自殺王】は神話級に十分通用すると確信していた。

 

『銃弾発射――【ピアース・ディノポーラ】』

 

 再び貫通の概念を付与された弾丸が発射される。

 狙いは全てクリアント。

 何かしらの防御スキルを使っているのであれば、それが尽きるまで撃ち続ける。

 シュヴァーゲルは突如出現した不確定要素を排除しようと動く。

 

「うおっっと……」

 

 クリアントは避ける素振りを見せる。

 だが、脆弱なステータスで避けきれるものでは無く、そのほとんどが命中した。

 

『……不可解』

 

 先程のクリアントの発言。

 弾丸の命中時に『痛い』と言っていた。

 痛いとは当たっているということ。

 バリアで弾くでも無く、頑強な鎧で弾くでも無く、肉体に命中して、そして弾かれている。

 当たっているのであれば貫通するはず。

 まるで、彼の肉体そのものが弾丸を否定しているかのよう。

 

『……!』

 

 そしてシュヴァーゲルの視界――敵対しているクリアントのHPバーに変化があった。

 先の一発では動きの無かったHPが、微減しているのだ。

 

『(完全な概念防御では無いということか。だが、そのカラクリは分からぬ)』

 

 微減であるため、倒せなくは無いだろう。

 だが、倒しきった時の弾丸の残り数は果たして他の人間を殺せるほど余っているのだろうか。

 今も減った先から弾丸は補充されているが、クリアントを殺すためには補充を上回る速度で連射しなければならない――

 

「あ、待て。それは駄目……」

 

 ――が、その前にクリアントが死んだ。

 

 どうせ弾かれるのであれば、弾丸が無駄になるからと。

 一応弾かれた後でディノポーラに噛みついておけと命令をしておいた。

 数百匹のディノポーラのうち最初の1匹がクリアントに喰らいつき、あっさりと死んでしまった。

 

『……は?』

 

 確かにディノポーラの攻撃力は高い。

 寿命と引き換えにステータスを底上げしているからだ。

 だが、それでも弾丸として発射し、且つ貫通概念を付与されている状態の方が威力は高くなる。

 

『もしや……』

 

 ふと至った考え。

 だが、それも今は遅いと振り切る。

 

 どのみちクリアントは死んだのだ。

 

 不確定要素を排除したのであれば残る人間を皆殺しにするまで。

 

 クリアントを屠るために上げていた銃口を再び下――地中へと戻す。

 次こそは逃がさないために洞窟の地中全域に弾丸をばら撒く。

 そうすればこの洞窟は崩れるだろう。

 だが、神話級のステータスを有する自身も、ルーチェも死ぬことは無い。

 もしかすると翼を持つ人間の少女も生き延びるかもしれないが、ステージを変えて戦いを続けるだけだ。

 

『……?』

 

 そこまで思考に意識を向けていたシュヴァーゲルは現実に引き戻される。

 彼のステータスに新しい状態が記載されたからだ。

 

 即ち、《毒呪変容》による毒の状態異常である。

 

 ゾワリ、とシュヴァーゲルの背が寒気を覚える。

 状態異常など彼にとって、大したことでは無い。

 それ専用の回復属性を持たせた弾丸を発射し、自身に撃ち込めば良いのだから。

 

 普通の毒とは違うのだろう。

 肉体を蝕むようだが、肉体そのものが毒へと置き換わっていくのを感じ取る。

 だが、毒と成った肉体を斬り落とし、その部位を弾丸で補えば問題は無い。

 

「ふうん? 弾丸そのものに能力を与えているのか。引き換えにすぐに死ぬみたいだが」

 

 問題は、翼の生えた少女や砲撃を操る女よりも遥かに弱いはずの男がシュヴァーゲルに容易に触れていることであった。

 

『死んだ……はずでは』

「ああ、死んださ。だけどそれがどうした。一度や二度死んだところで、死に続けるわけじゃないだろ」

 

 馬鹿げたことを言う男だが、その表情はふざけたものではない。

 自身の命すら戦法に取り入れた、最も『死に近い』男の顔。

 

『そうか……では、百度ばかり死を味わうがいい』

 

 仕留めそこなったということでは無い。

 明らかに致命傷となった傷が消えているし、何より死体が残されている。

 シュヴァーゲルは男を蘇生系のスキルを持っているのだと推定し、対抗策を打つ。

 

 既に貫通属性を無効化したカラクリは知れている。

 故にシュヴァーゲルの取った行動は、

 

『我が兵士達よ……食らい尽くせ』

 

 弾丸の発射で無く、ディノポーラを兵士として地上に生み出す。

 地面への着地と同時に戦闘能力を与えられた兵士達はすぐに目当ての獲物を見つけ取り囲んでいく。

 

「……不味いな」

 

 対するクリアントに余裕は失われていた。

 あれだけ格好つけていたくせに冷や汗を流しながら考えを巡らせている。

 

 それを見てシュヴァーゲルは己の推測が間違っていなかったと、無骨な顔面で笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 【自殺王】に備わったスキルは全部で3つある。

 そのうち防御系のスキルは基本スキルの1つだけであり、攻撃系スキルは奥義、種別不能が最終奥義となっている。

 

 基本スキルにして唯一の防御スキルの名は《自殺志願》。

 自傷した際のダメージ要因に対する耐性をダメージの割合分だけ獲得するというものである。

 24時間で耐性を失ってしまうが、その時間内であれば耐性を上乗せすることは可能だ。

 

 現在クリアントが獲得した耐性は幾つかあるが、そのうちの1つは【自殺王】に就く際の拳銃自殺による耐性。

 物体が肉体を貫通することでのダメージは今の彼には発生しないどころか、高い耐性が貫通させずに弾いてしまっている。

 着弾時の衝撃自体はまた別の耐性となってしまうが、そちらも獲得しているため【ピアース・ディノポーラ】だけであれば、クリアントを殺すことはほぼ不可能であろう。

 

 そして残念ながらディノポーラによる捕食耐性は未獲得。

 そしてクリアントが自身を食らうことは不可能に近いため、為す術が無かっただろう。

 

「発射ァ! ……あ」

 

 この戦いがクリアント1人だけのものであったならば。

 

 フィリップによる砲撃がクリアントの周囲のディノポーラを殲滅していく。

 攻撃性能に特化した蟻達が耐えられる威力では無く、瞬く間に肉片へと変えられていく。

 

 それを、爆発の只中でクリアントは見ていた。

 

「……危なかった」

 

 山中で【魔法少女ω】の自爆を何度か繰り返したおかげで爆破耐性を得ていた彼は高火力の砲撃の中でも無傷でいられた。

 

「……良かった。無事だったか」

 

 操作ミスでクリアントも巻き込んだフィリップは胸をなでおろす。

 

「クリアント。私はもう大丈夫だ。さて……敵は2人いるが、今の君はどちらが向いているのかい?」

 

 巨大な蟻であるシュヴァーゲル。

 人間の姿をしているルーチェ。

 

 怪物か人間。

 どちらとの戦闘がクリアントは向いているか。

 

「防御だけならシュヴァーゲルだが……攻撃まで含めるとあっちだな」

 

 クリアントの手持ちの武器はいずれも対人型のものが多い。

 

「オーケー。ではクャントルスカと私でシュヴァーゲルの相手をしよう。君はあちら……ルーチェを頼む。幾つもの超級職のスキルを使い分ける強敵だが、いけるかな?」

「任せろ。強敵との戦いは慣れている」

 

 自身が弱者であるからこそ敵は自然と強者となる。

 強敵であれ弱敵であれ、クリアントよりも弱い者はそういない。

 

「死んでも倒してくる」

「ああ。期待しよう」

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