<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する   作:そらからり

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221 王の戦い 3

■洞窟最奥 王の間

 

「1つだけ、お尋ねしても?」

「何だ? 別に1つに限らず幾らでも質問していいが」

 

 ルーチェはクリアントの全身を見る。

 続いて、クャントルスカとフィリップにも。

 

「カゲツという名に心当たりは?」

「カゲツ……?」

 

 聞き覚えのある名だ。

 思い出そうとするクリアントに、

 

「先輩。クレハドールさんに憑依していた人の名前ですよ」

「ああ……いたな。そういえば」

 

 自身が神に至ろうとし、そして失敗したかつての【神子】。

 その経緯をクリアントは知らないし、どころか正体も知らない。

 ただ、クレハドールのもう一つの人格程度の認識だ。

 

 クリアントの巾着、フィリップの付属艦、クャントルスカの指輪。

 それぞれへ送られた視線には何が込められていたのだろう。

 

「……そうですか」

 

 ある種の羨望のような。

 もしくは嫉妬のような。

 

 他人には向けない感情が、ルーチェという人間にしては珍しく現れていた。

 

「それだけか?」

 

 カゲツという名を知っているかどうかという予想外の質問に対しクリアントは他に問うべきことが無いのか尋ねる。

 力をひけらかしたいわけでは無いが、スワンプマンの能力やクリアント自身について尋ねられるかと思っていた。

 

「ええ。これだけです。残念ですが、貴方に対して興味は然程もありません。王の攻撃で生き延びたのは栄誉あることでしょうが、そのカラクリにもタネがあることは理解しています。回数制限か、何かの条件か。私のどの予想が正しいか、解答といきましょう」

 

 ルーチェはアイテムボックスから一振りの刀を取り出す。

 自身に付与する超級職の名は【剣王】。

 刀では全ての剣技系スキルを使うことは出来ないが、拙い技術を補うことくらいは出来よう。

 対してクリアントも【出涸らし】を構える。

 こちらもルーチェと同様に一見素人に見える構えだ。

 実際に素人であるし、ルーチェと違いジョブスキルの恩恵も特に無いため、ただ振り回すしか出来ない。

 

「その刀……妖刀ですか」

 

 【出涸らし】に興味が沸いたのか、ルーチェが再び口を開く。

 

 【パス・バタフライ】は妖刀をコレクションしていた。

 その頂点に近い存在であるルーチェもまた妖刀の存在を認知していてもおかしくはないだろう。

 

「そうだ。……なんだ、もう興味は無いんじゃなかったのか?」

「ええ。貴方という人間には。ですが、そちらが妖刀であるなら話は別。頂くために、やはり私自ら殺すことにします」

 

 【剣王】によるアシストがルーチェの剣筋を鋭くさせる。

 振るわれた刀はより切れ味を伴い、そして込められた力を十全に発揮する。

 

 刀の名は【曲足(まがたり)】。

 斬った対象の関節をランダムで本来の可動域を超えて折り曲げる能力を持っている。

 肘であれば伸展方向へと曲げる。

 膝であっても伸展方向へ曲げる。

 

 指も頸も腰も曲げて、曲げて、曲げて、折りたたむ。

 その行き着く先は小さな立方体の肉塊。

 悍ましき、()()の力である。

 

 クャントルスカとの戦いで使わなかったのは、アイテムボックスを開く暇が無かったのが一つ、高レベルの回復スキルで無効化されてしまうが二つ目の理由だ。

 見たところ、蘇生こそすれど細かな回復は出来ないとルーチェは判断した。

 死ぬことでようやく回復するのであれば、死ぬまでに痛めつけておけば戦意もそぐわれよう。

 

 【剣王】のスキルが籠もった一刀。

 その一撃はクリアントの腕に――弾かれた。

 

「……?」

「な? 【褥】を拾った意味あっただろ」

 

 クリアントはその場にいない誰かに誇らしげに語り掛けている。

 その奇異な行動はさておき、【褥】という単語にルーチェは覚えがある。

 バタフライもといコクーンに持たせていた妖刀の名だ。

 クリアントが所持していることを考えれば、既に始末されているのだろう。

 

「なるほど」

 

 コクーンコクーンのまま死んだとは考えられない。

 バタフライに進化を遂げ、その上で殺されたのだとしたら、それだけの力を目の前の男は持っている。

 

 クリアントは刀、もしくは斬撃に耐性があるのだろう。

 少しでも斬ることが出来れば何処かの関節が折れ曲がっているはずだがその様子はみられない。

 まだ手持ちの妖刀は何振りかある。

 だが、斬れないのであれば、斬ることを条件とした妖刀のほとんどが無用の長物と化す。

 

「では、こちらですね」

 

 その上で選んだ妖刀の名は【業固】。

 斬るのではなく、溶かす刀。

 厳密には触れた先から分子レベルで対象を崩壊させる能力を持っている。

 

 柄を握る手から飛沫があがる。

 汗でなく、ルーチェ自身の肉体も同様に崩壊しているということ。

 先程の【曲足】で折れた指の関節は無理やり引き延ばしている。

 崩壊した肉体もいずれは回復が追いつくだろう。

 

「これだけ自信満々に取り出されたら受けるわけにはいかないだろ」

 

 クリアントの防御スキルを見ても尚、取り出された刀だ。

 無効化に近い能力を有していると踏んだクリアントは【出涸らし】で受けようとする。

 ……が、ステータスとジョブスキルによる差で間に合わず。

 袈裟切りに受けた傷は致命傷となり、クリアントを死に至らしめる。

 

「……この肉体は駄目か」

 

 死が確定した肉体を捨てることをクリアントは即決する。

 この即決が今の彼にとっては必要だ。

 

 何故ならば、死を前提としたスキルの発動をするから。

 

「《死線は超えている(オーバーデッドライン)》」

 

 それは、【自殺王】が最終奥義。

 自身で死に至ろうとした者の末路。

 

 自傷の意味は多々あれど、自殺の意味は絶望か羨望だ。

 自身に絶望するか、他者に羨望するか。

 金が無い。

 愛が無い。

 力が無い。

 何も無い。

 

 無いから死ぬ。

 

 であれば、死ぬ前くらいは願っても良いだろう。

 【自殺王】には無いスキルを。

 

 自身のHPをゼロにする代わりにサブジョブのスキル1つを発動できる。

 たったそれだけの効果だ。

 最終奥義らしい強力な能力を持つことすら叶わないのは、なんとも【自殺王】らしいが、しかしクリアントが扱うことでその意味は全く別のものとなる。

 

 死が代償にならず、どころか死にかけの肉体を切り替える途中でついでとばかりにサブジョブのスキルを使えるのだ。

 彼にとっては『お得だな』程度の認識。

 

 故に、《死線は超えている》で発動する次のスキルもまた、彼にとっては日常茶飯事の自殺スキル。

 否、自爆スキルだ。

 

 【魔法少女ω】の《自爆》。

 死を前提としたスキルを使い、死ぬスキルを発動する。

 実に阿保らしい。

 味方の視点で見るだけであるならば、だが。

 

 ルーチェから見れば斬り伏せた相手が突如爆発するという異常事態だ。

 当然防ぐことは出来ない。

 そも、こちらは剣だ。

 爆風を斬ることも熟練の【剣王】であれば可能かもしれないが、付与程度の力には不可能。

 まともに爆風を浴びる中、ルーチェにクリアントの肉片や血も浴びせられる。

 

「……!? これは、毒……」

 

 自身を蝕み始めた猛毒に躊躇し、剣も足も止めた隙を、背後から【出涸らし】が振り下ろされる。

 素人の腕とて振り回せば斬れる。

 その傷が浅かろうと深かろうと、傷を作ることは出来る。

 

 そして、傷が出来れば……【出血】があれば【出涸らし】は力を発揮する。

 

 猛毒及び多量の出血。

 ルーチェの膨大なHPは2つの状態異常を基軸として失われていく。

 

「……ここまでとは」

 

 自身の命すら捨て駒にした戦い方にルーチェは関心をみせる。

 

「【重王】は……ああ、奪われていたのでしたね。では、こちらで」

 

 【呪術王】のスキルでクリアントの動きを鈍らせる。

 その隙に毒に置換された肉体を斬り落とす。

【出血】は激しくなり、HPの減少の勢いも増すが、死に至ることは無い。

何故なら、【聖女】の遺体の一部すらもルーチェは保管していたからだ。

 

「《聖女の祈り》」

 

 肉体の完全回復。

 直感的に、そしてシュヴァーゲルの反応からして直接的な回復スキルは使わない方が良いと判断したルーチェは遠回りに自身を完全回復してみせる。

 

「……何でもありだな」

「貴方がそれを言いますか」

 

 ルーチェは笑みを、余裕をみせる。

 

 だが、その身には確かに傷を負わされた。

 死のカウントは確かに刻まれた。

 【自殺王】はそれを見逃さない。

 

「まだまだ」

 

 クリアントの自爆は続く。

 止めたのは、シュヴァーゲルの終わりを感じ取ったルーチェの突如の戦いの放棄であった。

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