<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する   作:そらからり

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閑話 ゲーム感覚

■【神子】ルーチェについて

 

 彼女の出自を辿れば、アルター王家の遠縁に辿り着く。

 ルーチェ・A(アドミネイト)・アルターは生まれたその年に、両親と共に王国を追放されていた。

 理由はルーチェという赤子が余りにも愛らしかったから。

 王家の新しい一員であるから、必ず人目に晒される。

 無論、十分な警備の下であることは条件であるが、まずルーチェの両親が城下に集った民へと彼女の姿を晒した。

 余りにも愛らしい赤子を、王家の一員を一目見ようと集まっていた民は、見た瞬間に心を奪われた。

 

 綺麗に揃えられた頭髪も。

 光の眩しさに瞑る目も。

 小さな小さな耳も。

 じたばたと動く短い手足も。

 囀りのような泣き声も。

 その全てが愛くるしかった。

 

 神々しいと跪く者さえ現れた程だ。

 

 だが、それを馬鹿にする者は誰もいない。

 どころか、後に続き、果ては神に祈るかのように手を合わせ始める。

 

 それを見た両親は満足げに笑みを浮かべていた。

 現王の直系では無く、ただ王族の血が入っているだけという理由で城に閉じ込められている環境に多少は不満があった。

 それを、今だけは現王へ向ける感情よりも強く、民が自分たちに傅いているのだ。

 さぞ優越感を満たしたことだろう。

 

 毎日毎日。

 民が、兵士が、時には小型の無害な鳥型モンスターまでもが。

 ルーチェという赤子を見に来た。

 

 そして、たった数日。されど数日。

 その数は10万を超えた。

 

 そのアナウンスは誰にも聞こえない。

 まだ言葉を理解していないルーチェには意味が分からず、その周囲の人間には聞こえないため、彼女が何を成し遂げてしまったのか分からなかった。

 

 だが、その数日間で心を動かされた……奪われた人間は数多くいた。

 そして、そのうちの何人かが気づいたのだ。

 

 自分は【魅了】されていたのだ、と。

 

 ただ可愛らしかったのだけであれば、それは微笑ましいことだ。

 だが、そこに【魅了】が伴うのであれば、精神を侵す赤子なのだとすれば、途端に悍ましさへと変貌する。

 

 神や天使と称していた民たちは、悪魔の子だと城門を叩いた。

 引きずり出せと。

 早く処分しろと。

 民たちだけであればまだしも、そこに教会の人間や、【魅了】にかかったことを政敵行為だと捉えた貴族やその兵士も混ざっていた。

 

 民の暴動を兵士たちは抑えきれず、遂には現王の耳に入ることとなった。

 

 そして王は処分を下した。

 

 王国からの追放を。

 

 処刑を下さなかったのは恩情か、それとも王もまた【魅了】にかかっていたからか。

 その真相は分からない。

 だが、これだけは事実だ。

 ルーチェは生きて国を出た。

 

 この出奔を境に、ルーチェは完全に王国から姿を消す。

 成長するにつれ美しさは極まった。

赤子の時点で就職条件こそ満たしていたが、就職クエストをクリアするに相応しい年齢となった彼女は、【傾国】に10歳で就いた。

 

「……こんなものですか」

 

 だが、【傾国】という超級職は彼女にとってあまり魅力あるものでは無かった。

 ふと溢した言葉に気づき周囲を見るが、傍にいた者は1人だけであった。

 

「姫。間もなく準備が完了致します」

「ありがとう」

 

 側近の声に応える。

 聞こえないふりをされたのだろう。聞こえていたところでどうでも良かったが。

 王国を追放された身であるが、王族の血が流れていることに変わりは無い。

 そのため、美しく成長した彼女を未だ姫と従う者は、自ら【魅了】され続ける者は多かった。

 元来の美貌があれば【傾国】のスキルなど必要無かったし、むしろその印象の悪さからジョブの正体を知るや嫌悪の対象になりかねないという足かせに近い。

 

「子は何人程になったでしょうか」

「一度に双子を身籠っていましたので現在は6人かと」

「そう……皆綺麗に育つかしら」

 

 少しだけ興味が沸いただけだ。

 醜い一族がいた。

 自身の美しさとどちらが勝つのだろうか、と。

 

 立ち寄った村で過ごして早数年。

 その間に彼女は村の男達と婚儀を結び、子を成していた。

 

「姫の御子であれば必ずや。ですが……宜しかったので?」

「何がかしら?」

「いえ……血肉すら穢れた一族であろうと交われば情が沸くのではと。旅立ちの日には何人かお連れするつもりでしょうか」

 

 側近に表情は無い。

 だが、固く握りしめられている拳が、それを許すことはしないだろうと察せられる。

 

「そう案じずとも良いですよ。ヴァロン、貴女の忠義は誰よりも強いものであると私は知っています。私は貴女以外を近衛とは認めませんし、それ以外を連れて天地に向かうつもりはありません」

 

 天地は過酷な地だ。

 ヴァロンと呼ばれた側近以外にその地で生存出来る程の実力者は居ない。

 

「他の従者達も置いていくのでしょうか」

「ええ。自殺に変わりありませんから。そんな命が勿体ないことをさせられません」

 

 ヴァロンの表情がやや柔らかくなる。

 長年共に居たルーチェだけが分かる程度の変化だが、彼女の機嫌が良い証だ。

 

「では我が磨いたこの武技の数々で……【武具王】ヴァロンが姫をお守り致します」

「頼もしいですね。頼りにしています」

 

 ルーチェにとって【傾国】は生まれながらにして選択肢の最上位にあっただけのジョブに過ぎない。

 他に最良の選択肢があるのならば、未練は微塵も無かった。

 そのため、15年程【傾国】に就いていたが、天地へと向かう際にジョブは返納した。

 《看破》等でジョブを見透かされた際にどうなるか、最悪切り捨てられようものなら、そちらの方が最悪だ。

 ろくにステータス上昇も無く、自前の美しさで【魅了】出来てしまうルーチェにとって、【傾国】はその程度の価値だった。

 

 

 

 

 ルーチェという人間の歴史を掘り返すのであれば、この後天地に赴き【神子】というジョブに出会うのであるが、その前に人間性を知る必要があるだろう。

 でなければ、全盛期となろう20代の前半を醜い人間との合いの子が美しくなるかなどという実験のために消費してしまう訳の分からなさを理解出来まい。

 否、そういう人間であるという何よりの証か。

 そう……彼女は人生をゲーム感覚で遊んでいた。

 

 デンドロというゲームを〈マスター〉は世界派と遊戯派の2つに大別して遊んでいる。

 だが、ティアンにとっては違う。

 彼らにとっては等しく世界だ。

 ……そのはずだ。

 

 だが、遊戯派でありながらNPCを大事に思う者がいるように、世界派でありながらNPCの殺害を至上の趣味とする者もいる。

 現実世界の人間とて自分の人生を無意味に過ごす者もいるだろう。

 

 ルーチェもまた、自分の人生で遊んでいた。

 【傾国】に就ける程の美貌は生まれ持ったチート。

 醜い種族との交配はシミュレーションゲーム。

 此れより訪れる天地は、王国付近で遊んだから次の街へ行く感覚だ。

 ゲーム感覚だから自分に合うジョブを自在に付け替える。

 大胆に行動する。

 故に、王族ならではの豪胆さと捉え慕う者も居り、彼女にとっては付き従う仲間は育成ゲームの結果であると捉えていた。

 

 だが、いくらゲーム感覚であろうとも人の生はそう長くない。

 概算で60年。長くて80年生きられれば良い方か。

 たったそれだけではつまらない。

 やり足りないことが山ほどある。

 様々なトゥルーエンドやバッドエンド、解禁していないコンテンツがある。

 集めたいアイテムもある。

 

 足りない。

 命が足りない。

 

 自身の生命そのものをどうにか延命させる。

 魂の情報を他者に上書きする。

 人間からの脱却を図る。

 

 考えた。

 模索した。

 試行した。

 

 結果、ルーチェは【神子】となっていた。

 

「まあ、妥協点といったところでしょうか」

 

 程よいUBMも見つけられた。

 神と繋がったことで寿命も遥かに延び、自身のコレクター趣味も捗った。

 様々な人間のエンドを見ることも出来た。

 

 だが、足りない。

 

 ああ、そうかと彼女はその思考に至る。

 

 そういえばとうに諦めていたもの。

 

 自身のステータスやスキルがカンストしていなかった。

 どこまで伸びるだろう。

 【神子】はレベルカンストしてしまったため、これ以上の伸びしろは期待出来ない。

 だが、隣にいるではないか。

 神話級UBMという規格外が。

 同格であるが、しかしそこが上限であると示されているわけではない。

 

 そろそろ他者の育成にも飽きた。

 自身の育成ゲームを再開するとしよう。




【武具王】ヴァロン
女。ガチ恋勢。ルーチェが身籠る度に脳破壊されていた。

天地に辿り着いた時に実力者に襲われ死亡。
襲った実力者がルーチェの次の側近となった。

まあポケモンでも手持ちよりレベルの高い奴出てきたらそっち使うよね
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