<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する 作:そらからり
■洞窟最奥 王の間
神話級UBMは倒れ、その力と特典武具を【神子】に残していった。
神話級のステータス、膨大なHP、死体さえあれば自在に変えられる超級職、万物に対して付与出来る能力、神話級武具。
ここまで揃っても尚、ルーチェはクリアントを脅威と捉えていた。
「援護は任せなさい」
「間違っても俺を貫いてくれるなよ。耐性はあるが衝撃は残るんだ」
クリアントと近接戦闘は行いたくない。
触れれば猛毒、殺す直前で爆発。
そのどちらもルーチェに対して一歩間違えれば致命に成り得る攻撃だ。
それに、他の特典武具を持っているようで、そちらは使った気配は無い。
未知の手札を残しているということは余力があるということ。
様々な観点から、中距離もしくは遠距離からクリアントを始末したかった。
「逃がすとでも?」
だが、それを許さない存在がいた。
【重王】のスキルで散々痛めつけたはずの女。
瀕死に近いダメージを負っていたはずだが、戦線復帰できる程度に回復したようだ。
こちらもまた、伸縮自在の槍を持ち、刺突力が高いためルーチェの急所を狙われては致命傷に成り兼ねなかった。
「……ッ」
槍を避けたところでクリアントがルーチェに追いつく。
反射的にクリアントを振り払おうと触れてしまい、内心舌を打つ。
触れた箇所から毒が伝染していき、あっという間に右腕が染まってしまう。
「面倒な」
シュヴァーゲルを左腕に持ち替え、即座に右腕を切断する。
切断の概念が込められた弾丸を使えば頭部以外は切断は容易。
加えて、回復の概念の弾丸を使えば、失った部位も補充出来る。
そう、対処は出来るのだ。
シュヴァーゲルという特典武具はクリアント達と戦うのに役立っている。
だが……
「もう少し大差になると思っていましたが……」
圧倒的なステータス差、圧倒的な武具の差。
戦後処理のつもりであったはずが、何故か苦しめられている。
否、本来は苦しんでいることでは無いのだ。
「順に行きましょうか」
引き金を引く。
絶対命中の概念が弾丸をプシュケーへと到達させ、その命を奪う。
その間にクリアントが爆発したが、こちらも回復の弾丸で命を取り留める。
「(やはり……HPがフルにあれば即死には至らない程度の威力)」
何度か受けたおかげでクリアントの爆発の威力を知ることが出来た。
確かに驚異的な威力だ。
だが、それも神話級のHPを削るには少ない。
せいぜいが半分。
此れまでのルーチェであればもう少し削られていたが、今ではその程度。
故に、多少は無視出来る。
「《
と、ルーチェに雷が落とされた。
比喩的表現では無く、文字通り雷。
洞窟内では本来発生しない、非自然なものだと分かるものだ。
「……!」
それが攻撃であることはすぐに理解出来た。
だが、ダメージは無い。
何をされたのか分からない。
だからこそ、目の前の男が仕掛けたことだと分かった。
男に向けシュヴァーゲルを撃とうとする。
その前に、ルーチェの肉体にダメージが入る。
たった一発。
ルーチェの隣に立つ女が彼女に向けて、見覚えのある拳銃を向けていた。
その銃口から発射された弾丸。
その正体が分からぬまま、
「あ、ああああああああああああああ」
ルーチェの視界が煙に埋もれていく。
「(これ、は……!?)」
隣の女――偽ルーチェは消滅していく。
だが、ダメージだけは消えない。
ルーチェの体内に入り込んだ弾丸がルーチェを破壊していく。
そして、ルーチェの肉体は爆発した。
撃ち込んだ対象を爆弾に変える。
それがこの概念弾の正体。
爆弾となった者は爆発し、多大なるダメージを負うだろう。
「ハァッ、ハァッ、ハァッ、ハァッ――」
だが、それでもルーチェは死ぬことは無い。
膨大過ぎるHP故に死ねなくなっていた。
そして、シュヴァーゲルの引き金を引けば即座にHPが回復するため、尚更死から遠ざかる。
「まだ、です……。ふふ、随分と大層な力をお持ちで。死なない力に、偽物を作る力。後は何がありますか? 無駄です。幾ら私を殺そうとしたところで私は死なない。私は死に近づかない」
その身に刻まれた傷など一瞬で塞がる。
素晴らしい力だとルーチェは感嘆する。
後は死人を生き返らせることが出来れば更に素晴らしいと、少しだけ切望する。
彼は人間にしてはルーチェと少しだけ似た思考の持ち主だった。
ゲーム感覚で生きるルーチェのように、ゲーム感覚で他者を育てていた彼に親近感を覚えた。
だが、所詮は人間。
寿命があり、死ねばそれまで。
歴史の中に埋もれ、ルーチェが出会って来た数多いる人間の中の1人に過ぎない。
それが寂しいかと問われれば、素直に頷く。
「残りは貴方だけです。終いに致しましょう。……【武具王】」
自身に付与した超級職の名は【武具王】。
かつての側近の1人、ヴァロンの死体を使って得た力。
この力だけは何故かジョブスキルを奥義含めて全て使うことが出来る。
「《九九九の連鎖》」
【武具王】奥義であるこのスキルはパッシブスキルである。
その効果は、如何なる武器であっても、サブジョブの武器系スキルを使うことが出来るというもの。
即ち、斧で剣スキルを使うことが出来るし、剣で弓スキルを使うことが出来る。
「【射神】、【剣王】、【掻王】」
ルーチェの持つ武器が由来となる超級職のスキルがシュヴァーゲルを傀儡として発動されていく。
これによりシュヴァーゲルの射程距離は無くなり、斬撃要素の付与とそれに対して無数に攻撃が追随するようになった。
「ふふ……アハハハハハハ! ああ、楽しいですね。蓄えた力を見せつけるのって、本当に楽しい!」
本来の年齢だけでは無く、外見年齢にもそぐわぬ、子供のような笑いをする。
彼女の中では絶対無敵の、『私が考えた最強の私』が今のルーチェ自身なのだろう。
「貴方が幾度死に、幾度立ち上がろうと、この全ての弾丸から生き逃れますか!」
【自殺王】の《自殺志願》であっても、弾丸による死因以外は覆せない。
既に体験している爆発や貫通、斬撃はともかくとして、それ以外の属性や概念が付与されては、クリアントは一発で死ぬだろう。
「いいや。もう死ぬ必要はない」
だが、既にクリアントは準備を完了していた。
度重なる死。
度重なる爆発。
その全てがルーチェを倒すための仕込みに過ぎなかった。
「幾ら殺そうとしても死に近づかないだと? いいや、近づいているさ。お前の魂にはしかと死の情報が刻まれている。強くなろうが、武器を手に入れようが、スキルを獲得しようが、それだけは覆らない」
クリアントの右手が動く。
それが何かのスキルの発動準備だと察したルーチェは咄嗟にシュヴァーゲルの引き金を引こうとし――
「「させない!!」」
肉体が炎になったのかと錯覚するほどの高熱。
そして、シュヴァ―ゲルを握る腕が急激に重くなった。
「これは……!?」
その現象に覚えはある。
だが、既に死んだはずだ。
止めを刺したはず――
「悪いが俺の仲間も相当しぶとい。殺しても死なない奴らだ」
「はは。まあ私はもうすぐ本当に死ぬけどね。でもまあ、ただでやられはしないさ!」
「……ありがとうプシュケーちゃん。ありがとうワルキューレちゃん達。美味しかったよ」
【探検王】のスキルである《光明、届かず》。
モー・ショボーの《愛の行進》でのワルキューレ達の捕食による回復。
死後、あるいは死の直前でフィリップとクャントルスカは今も尚命を繋いでいた。
「……私はここまでみたい。フィリップちゃんはまだやれる?」
「ああ! シュヴァーゲルとの撃ち合いは損ねたが、今度こそ撃ち尽くそう」
ノーチラスからの砲撃。
爆発がルーチェを包み込む。
そのダメージは計り知れぬ程……なのだが、当人の表情は先ほどまでと打って変わって冷めたものであった。
「(なんだ……策があるようでしたが、仲間の乱入待ちでしたか)」
ルーチェは寸前で【壁王】による障壁を完成させ、爆発の威力を抑えていた。
多少のダメージはあるものの、回復弾での回復は容易。
死ぬほどのものではない。
やがて、砲撃も終わる。
時間と爆発の数からして相当数撃ち込んだようだが、弾切れのようだ。
「で? しぶとさが売りのようでしたが……ああ、そのしぶとさも限界でしたか」
爆風が晴れると、そこにフィリップの姿は無い。
タイムアップがあるような口ぶりだったが、それが訪れたのだろう。
「無駄でしたねぇ。ちなみにシュヴァーゲルに弾切れはありません。貴方方を殺すまで撃ち続けられます」
右腕が重いためシュヴァーゲルを構えることは出来ない。
だが、それも絶対命中の属性を付与すれば別に狙わずとも当たるのだ。
クリアントに命中付与だけの弾丸は効かないが、クャントルスカは別。
彼女を殺して、腕が上がるようになったら改めてクリアントを殺せる弾丸で殺せば良いだけだ。
「違うさ」
「……?」
「今のも全て無駄じゃなかった」
「何を言って……」
クリアントが右手を掲げる。
それはまさしく処刑の合図。
罪人である、人類の裏切り者であるルーチェを処刑するスキルを発動する証であった。
「これでまた刻まれた。お前に死を宣告するための死の要因が」
それは【自殺王】が奥義。
名は――
「《
次回決着です