<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する   作:そらからり

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226 祭りの後で

■ペルソティ

 

 まるで二度目の祭りが行われたかと錯覚する程の歓声が響く。

 既に『甘味祭』は行える程の人手も、それを祝う力もない。

 今年は……否、警備体制を見直さなければ今後は実行も許されないであろう。

 神話級UBMすら狙うアイテムを街一つで管理など出来やしないのだから。

 

 さて、その日の歓声はペルソティという街が成り立った日に比べても遜色ない程のものである。

 理由は2つ。

 1つ目は言わずもがな。件の神話級UBMの討伐である。

 ろくに戦力も整っていないはずであった先行隊が見事、山に巣食っていたシュヴァーゲルとその群れ全てを屠ったからだ。

 歴戦の〈マスター〉からみれば雑魚同然である【パラポーラ】ですら一般のティアンからしてみれば脅威。

 取りこぼしがいて、街に降りてきてしまえば警報が鳴るレベルの事件だ。

 今まで極近くの山に存在していたという事実が背筋をゾっとさせる。

 

 だが、それも先日までのこと。

 蟻は全滅した。

 【パラポーラ】も【ディノポーラ】も。

 それらを取り纏めていた個体全てを。

 その事実がこの歓声を止まぬものとしていた。

 

 その歓声を更に大きくさせたもの。

 今、生き延びた街の住人、そして防衛に徹した〈マスター〉や奪還隊に志願した〈マスター〉の手に握られた小さな欠片。

 その欠片は本来、誰の手にも渡らないはずであった。

 一つの強大な存在が全て平らげ、格を向上させ、残らないと思われていたもの。

 

 欠片一つの価値は恐らく安い果実と大差ない程。

 だが、街の住人は知っていた。

 これの為に皆が死んだ。

 これの為に皆が戦った。

 これの為に皆が待った。

 シュヴァーゲルが求めし蜜。

 その残りが彼らの手にはあった。

 

 だが、理由は街の誰にも分からない。

 シュヴァーゲルと戦った当事者達にも不明である。

 

 ただ、蟻が1匹。

 小さな小さな生まれたての蟻が街に持ってきた。

 そう、報告されているだけだ。

 

 その真相を知るのは蟻を生み出した女王アリのみ。

 『村の皆で分け合ってください』

 その言葉だけが死の間際まで反復していたアリの最後の行動。

 シュヴァーゲルの食いカス程度の大きさであったが、確かに皆で分け合えることは出来た。

 死者も最後は浮かばれたと。

 もしも真相を知る者がいたらそう思うことだろう。

 

 

 

 

「で、先輩。その蜜はどうするんです?」

「どうって、食べるけど。ワンプは貰えなかったんだっけ?」

「ええ、そーですよ! 『お嬢ちゃんは兄ちゃんの分身みたいなものなのか。悪いが1人1つまでなんだ』……って! 何ですかそのジャイアニズムは!」

「ジャイアニズムでは無いし、公平性なんだろ。それに少しでも多くの人に渡そうと思ったら必然、そうするしかないし」

 

 黄金に輝く小さな欠片を太陽に透かす。

 欠片の中を乱反射する光が眩しく、クリアントは思ず目を細めた。

 

「……それに、この大きさだとジューサーにかけるのも難しいな。溶かして舐めるか?」

「こういうのは気持ちなんですー。先輩と一緒に美味しいものを食べたって思い出が欲しいんですー」

「クレハドール使うか?」

「やめてくださいよ! というか、私とデートしている時に他の女の人の名前出さないでください!」

 

 特典武具であるクレハドールの性別はさておき。

 ワンプの言葉にそれもそうか、とクリアントは蜜を落とさないよう掌に持ち直す。

 クレハドールでワンプと味覚を共有しても、その後が怖い。

 反動とか様々な点で。

 

「んっふふ~」

「上機嫌だな」

「だって、最近は先輩と二人きりの時間が多かったですから。お祭りデートも、森林デートも。たくさん思い出作れました」

「あれをデートというか」

 

 【パラポーラ】を倒した時も、ヘラクレスに殺されて森の中を彷徨った時も。

 ワンプには都合の良いように記憶が書き換えられているようだ。

 羨ましい限りだとクリアントは思う。

 

「っと、そろそろか」

「はい。領主さんの挨拶が終わりそうです。終われば……実食ですね」

 

 校長を始めとした、一定の権力を持つ者の言葉は長いというが、この領主の言葉も長かった。

 まずは『甘味祭』にて死亡した者の名を読み上げていき、次に活躍した者の名。

 最後はクリアント、フィリップ、クャントルスカ、プシュケーは特に称えられた。

 ……当の本人であるクリアントはこの有様だが。

 

「あ、そうだ。ルール体になればいいんじゃないか? 俺と味覚共有出来ただろ」

「その手がありました。あ、でも先輩1人になると逆ナン……は無いか」

 

 ぶつぶつと失礼なことを言いながらワンプはクリアントと同化していく。

 ちなみにクリアントに声をかける者はいなかった。

 

 ともあれ、周囲の冷ややかな目線は気にすることなく、しかし予定だけは把握しているクリアントはようやく領主の言葉を待つ。

 

「――では、頂こうではないか。『頂きます』」

 

 その言葉と同時に、街の住人及び〈マスター〉達は蜜を口に含む。

 口内で蜜を溶かし、甘さを味わう。

 ある者はレベルが上がったことを喜んだ。

 ある者はこれを求めて大勢が死んだのかと嘆いた。

 

 だが、大多数はただ涙を流した。

 ようやく、ようやく終わったのだと。

 もう誰も死ぬことは無い。

 恐れることは無いのだと。

 涙を流し喜んだ。

 

『ご馳走様でした』

 

 その言葉で、領主の挨拶は……祭りは締められた。

 

 

 

 

「あ、いたいた。おーい、クリアント君! ワンプちゃんは合体中かな?」

「ん? クーか」

「クャントルスカさん!? 先輩とデート中に……」

 

 背後から声を掛けられ振り向くとクャントルスカが手を振っていた。

 ワンプもメイデン体に戻り、クャントルスカの下へ歩くクリアントの後ろを付いていく。

 まるで自分のものだと公言するかのように彼の衣服を摘まんでいる。

 クリアント自身は逸れないように掴んでいる様が年相応の子供らしさだなと感じてしまっているが。

 

「ふふっ。そう睨まなくても取らないよ」

「本当ですかぁ? クャントルスカさん、先日から目が鋭くなっていますよ。猛禽類みたいに」

 

 まさかモー・ショボーそのものとなったからでは無いだろう。

 そのように感じ取れる心境の変化があったからだ。

 

「安心して。私はクリアント君も好きだし、クリアント君を好きなワンプちゃんも好きだから」

「ひっ……!? あ、安心できる材料無いんですけど」

 

 からかっているようにも見えるが、クャントルスカの目が本気であることから本心なのだろう。

 ともあれ、悪戯心が全くないとも言えないが。

 好きな相手にちょっかいを出すように、クャントルスカは好きな相手を心身共に多少なりとも傷付けることを躊躇わない。

 そのあたりはモー・ショボー所以だろう。

 

「それで、俺達を探していたのか?」

「そうだった! えっとね、プシュケーちゃんが探してたんだよ」

「プシュケーが……俺達を?」

 

 接点は無いはずだ。

 シュヴァーゲルとの戦いは共闘とも言えなかったが決着は直ぐに付いたため会話も少ない。

 クャントルスカ経由で無ければ縁の無い相手であったはずだが……

 

「まさか俺が今もωをサブジョブに置いていることに苦言を?」

「あはは。そんなことしないよ。まあ《自爆》は美しくないって言っていたけど」

 

 そもそも【魔法少女ω】を認めていないようだ。

 そのように考える元・現魔法少女も多い。

 

「なら何の話を……」

「えっとね……私はいいよって言っちゃったんだけど……フィリップちゃんも二つ返事で返したんだけどね……」

 

 と、乙女さながらにクャントルスカはもじもじと答える。

 いや、クャントルスカは年齢も乙女そのものなのだが。

 だが、普段の快活さが鳴りを潜めるようにクリアントの言葉に返す。

 

「一緒にクランを作らないかな?」

 




【急募】クランメンバー募集中
……いえ、もうほとんど決めてますw

男性マスター入れたいけど誰いたかな
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