<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する   作:そらからり

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死因:一派
227 生まれ変わった世界


■ノーチラス内部

 

「お待ちしていましたわ。ようこそ、私のクランへ!」

 

 第七形態への進化により、更に巨大化したノーチラス。

 その中は元々ワンルーム程度の広さが確立していたが、今となっては家屋といっても差し支えない程の広さ。

 その全域はノーチラスの持ち主にしか測れないだろう。

 そして、持ち主ではないくせに、まるで家主のように腕を組んでふんぞり返って来客を待ち構えていた〈マスター〉が歓待する。

 

「やれやれ。君とはほぼ初対面のはずだけど……、まあ君という人柄を掴むには良い挨拶さ」

 

 その傍らのイスに座る、本来の家主は首を横に振る。

 彼女の言動に悪意は無いことが分かれば、ただの個性だ。

 そこにフィリップが突っ込むことは無い。

 

「ふふん。私が招集したのですから。私が歓迎のご挨拶をするのは当然ですわ」

「ま、それもそうだ。ならば私は艦長らしく、準備をするとしよう」

「……準備?」

 

 クリアントが首を傾げる。

 そもそも、まだ話の趣旨が理解出来ていないのだ。

 クャントルスカに声を掛けられ、ペルソティの傍に停められていたノーチラスに搭乗するまでは良い。

 付近にグラスコードが番犬のように地面を泳いでおり、時折寄ってくるモンスターを食らう様にワンプはドン引きしていたが、それも良い。

 安全性を担保しているのであればむしろ安心であろう。

 

 クランを設立するから入らないかという誘いも良い。

 【自殺王】にめでたく就くことが出来、クリアントとしても当面の目標はクリアした。

 であれば、友人たちと少しばかり遊ぶというのも良いだろう。

 

 分からないのは、

 

「なぜパーティーの準備を?」

 

 誕生日会よろしく。

 クリスマスパーティーよろしく。

 艦内は色とりどりのモールや星飾りが飾られていた。

 中央には『祝! クラン結成ですわ!』と、誰が飾ったか丸わかりのタペストリーまである。

 

「何事にも形は必要ですわ。それにこれは、歓迎会と結成祝い、加えて慰労会の意味も込められているんですのよ」

「……なるほど」

 

 艦内は見知った顔ばかりであるが、改めての交流会と、先の戦いでの疲労を癒そうとしているというわけだ。

 プシュケー・アーチ。

 かつて魔法少女達の中でもトップクラスと言われたのは実力だけでは無いらしい。

 

「メンバーはプシュケー・アーチ、狂ヶ咲夢味、妹妹、キシリー・キシシキ、イテカ、俺、フィリップ、クャントルスカ……後は誰だ?」

 

 見事に魔法少女が中心のクランメンバーだ。

 と、そこに見知らぬ顔があった。

 女性達の中に1人だけ男性が居た。

 歳は20を過ぎた頃か。

 衣服は分厚く重ね着をしているため肉体までは分からぬが、顔立ちだけでも鍛えているということが良く分かる。

 彫が深い顔も相まって、野性味の溢れる印象である。

 

「バウム喰変だ。普段はマスクを付けているから分からないか」

「ああ……そんな顔だったのか」

 

 白いガスマスクと気密スーツの下はこのような素顔だったのかとクリアントは少し驚く。

 外したままの方が好印象だろうにと思いながら、差し出された右手を握り返した。

 

「正直、来てくれて助かった。……男女比の差がありすぎて居心地が悪い」

「……だろうな」

 

 この男女比で素直に喜べる者も少ないだろう。

 大多数が戸惑うだけだ。

 男2人に女7人。

 会話を弾ませるだけの話術も話題も持ち合わせていない男2人である。

 

「さて、では歓迎の準備の仕上げをすると致しますわ」

「ふうん?」

 

 何かしてくれるのだろうかと期待するクリアントに、

 

「クリアントさん。ぼさっとしていないで手伝ってくださるかしら?」

「俺もか?」

「当然でしょう。早くしないとゲストが来てしまいますわ」

 

 どうやら来客では無く、出迎える側であったらしい。

 プシュケーに促されるまま、食器類を並べたり、そこに料理を盛ったりと、意外に手際のよいところを見せるバウムを尻目にクリアントは邪魔にならないようにテーブルを拭いていた。

 子供組も早々に飽きてはいるようだが、プシュケーが睨みを利かせているためか、さぼることは無い。

 美味しい食事という餌に釣られている感も否めないが。

 

「……少し早かったようですわね」

 

 そして準備が整った頃。

 まだ来客は訪れなかった。

 

「バウムさん、貴方かなり器用ですわね。最後はほぼ1人でやっていたでしょう」

「そうか? まあ、慣れてはいるけど」

「それに比べて先輩は……」

「仕方ないだろ」

 

 聞けば、女系の家族のようで、家では家事の一切を取り仕切っているらしい。

 先程は男女比がどうとか言っていたが、とんだ裏切りであった。

 

「まあ、歓迎会は到着を待つとして。先にこちらを終わらせると致しましょう」

 

 こほん、とプシュケーは小さく意気込むと、

 

「クャントルスカ、フィリップさん。おめでとうございます。苦難はあったでしょうが、〈超級〉に至ったこと、それは偉業でありとても素晴らしいことだと思いますわ」

「!?」

「……はは。参ったね」

 

 2人とも不意を突かれたらしく、困ったような嬉しいような表情をしていた。

 これは台本にも無かったらしい。

 〈超級〉到達へのお祝いだ。

 

「そしてクリアントさん」

「俺もか?」

 

 そういえば【自殺王】に就いたこと。

 これもまた、めでたいことといえばめでたい。

 字面から不吉さそのものであるが、超級職への就職といえば、普通の感覚でいえば偉業の一つであろう。

 

「就任おめでとうございますわ」

「ああ――」

「先輩、おめでとうござ――」

「これからはクランオーナーとして良き方向へ引っ張ってくださいな」

「クランオーナーとして……は?」

「はい?」

 

 と、ノーチラス内部に警報が鳴り響く。

 間の抜けた顔をするクリアントを置いて、皆がその警報に警戒をするが、

 

「到着したみたいだね」

 

 フィリップの一言で落ち着いた。

 その警報の意味を最も知っている者が臨戦態勢になっていないのであれば、危険など無いだろう。

 

「外で何をやっているのかと思えば……手懐けようとしたのか。私への嫌がらせか、それとも好奇心をそそられたか。……全く、後者であることを祈るばかりだね」

 

 やれやれ、とまたも肩をすくめるフィリップにクリアントは尋ねる。

 

「フィリップの知り合いなのか」

「ああ。君も知っているはずさ。彼女達はクャントルスカが呼んだ……まあ彼女の友人と捉えてもいいのかもしれない存在だね。互いに因縁はあるかもしれないが、そこは水に流そうじゃないか」

 

 因縁、と言うのであればかつて敵対した者。

 クャントルスカ絡みであるならば、魔法少女なのだろうか。

 またもクランの魔法少女率が上がってしまう。

 というか、クリアントも含めてしまえば、バウムだけが非魔法少女である。

 

「さて、搭乗願おうか。彼女達が今のところ最後のクラン加入メンバーだ」

 

 ノーチラスのハッチが開かれ2人の〈マスター〉が降り立つ。

 見たことのある者達だ。

 片方は理知的な印象のある女性。

 片方は毛皮を纏った小柄な女性。

 

「おい……まさか……」

 

 因縁とか、見覚えがあるどころではない。

 つい最近、戦ったばかりだ。

 

「【問王】パリドーネ。何か質問はありますか?」

「【動物王】レシーブ・キープです。あの……賑やかで、まるで動物園みたいです」

 

 まさかの人選であった。

 

「戦った時に連絡先聞いておいて良かったよ」

「凄いなクャントルスカ。いや、本当に凄い」

「えへへ。誉められちゃった」

 

 どのタイミングで聞けるんだという。

 時間的にも精神的にもその余裕はどこで生まれているのだろう。

 

「……よく見なくても……本当に……」

 

 既に集まった者達が奇人変人ばかりであったが。

 更に曲者が揃っていく。

 彼女達を纏めるのは大変だろうな、と他人事のように思い――

 

「って、俺がクランオーナーか。何故!?」

 

 自分事であったことを思い出す。

 

「多数決と消去法……の間ですわ」

「俺は真っ先に消されるだろ……」

「そうでもありませんわよ? 先の件も含めてですが、生き残りやすいというのはそれだけで価値がありますもの。実力と年齢、それに辞退もあって、私、クャントルスカ、フィリップさん、そしてクリアントさん。この4人が残りましたわ」

 

 そこからの多数決でクリアントが選ばれたというわけだ。

 だが、クリアント本人としてはそれでも納得がいかない。

 

「……誰だよ、俺に票を入れたの」

「無記名投票故、誰が入れたか推察するのはマナー違反ですわ。まあ私もその1人ですけど」

「……意外だな。自分にか、クャントルスカに入れそうなものだが」

「私とクャントルスカはライバル……つまりは同格ですわ。クランオーナーという役職で優劣を付けたくはありませんもの」

 

 であれば、フィリップとクリアントのどちらかにというわけであるが。

 

「後は男性であることも加味させて頂きましたわ。女性ばかりですもの。男性側も肩身が狭いことでしょう?」

 

 男性側の意見を出しやすくするために、という配慮なのだろう。

 確かに、数が少ない故に埋もれやすいかもしれない。

 

「他の方々も似たような意見でしょう?」

 

 見れば、皆頷いている。

 若干名、睨んでいたり他の者を見ている者もいるため、彼女達は他の候補者に票を入れたのだろう。

 

「……ん? でも俺の分の票は?」

「……さて。各々揃ったことですし。パーティーを始めようではありませんか」

「……おい」

 

 やはりクランオーナーを押し付けられた形に近いのだろう。

 とはいえ、友人ばかりのクランだ。

 気楽に、誰にも縛られずに遊べるはず。

 

 

 この時だけはそう思っていた。

 




はい、というわけでさっくりとクラン完成です
メンバーもこれでほぼ固定にしようかな、と(少なくとも今章は)

パリドーネとレシーブが過去に行ったことに関して、クリアント達は忘れてはいませんが、然程気にしていません。
彼女達は功績のように話し始めたら別ですが、倒したことが懲らしめたということになっています。
まあ反省しているなら、それで良いよね。
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