<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する 作:そらからり
■ノーチラス内部
「方針を決めましょう」
ある日、プシュケーがそんなことを言い出した。
言い出さなくてはならなかった。
クランオーナーは戦闘に出るたびに死んで帰り。
ある者は宝があると突如消え。
ある者は付近の街で愛を囁き。
ある者は可愛いものをひたすら集め。
ある者は分身と児戯に明け暮れ。
ある者は薬品の調合をし。
ある者は何故か座禅を組み。
ある者は不意に消え。
ある者は書物を捲り。
ある者はグラスコードを飼いならそうとして噛みつかれていた。
……纏まりが無い。
出来れば美の探求をしたかったプシュケーも、辛うじて自制心が止め、常識人として一言言わなければならなかった。
「というか、クリアントさん! 貴方、死にまくりではありませんの! 戦闘の度に死んでいたら、先に進めないではありませんか」
「……でも、最終的には勝ってるから」
「でも、ではありませんわ! 肉体のストック管理をしなければならないこちらの身も考えてくれます!?」
クランオーナーであるが実権はあまり握れていないクリアントである。
ちなみにサブオーナーは暫定的にパリドーネが就いている。
情報収集や会計に最も優れていたためである。
しかしながらその両者が役職者として機能しておらず、こうしてプシュケーが手綱を握るしかなかった。
「ちょっとプシュケーさん! まるで先輩の女房役ではありませんか!」
等と、意味不明な異議を申し立てるオーナーのエンブリオはさておき。
「質問です。方針とは何なのでしょうか」
話が先に進まないと思ったのか、パリドーネが尋ねる。
……もしかすると彼女の性分故、尋ねざるを得なかったのかもしれないが。
「そうでしたわ。まずは、私達の拠点決めですわね」
「拠点? フィリップちゃんのノーチラスがあるけど」
当たり前のようになっているが、居住空間があり、セーブポイントすら兼ねているという破格のエンブリオである。
フィリップは常々火力に関して足りないと言っているが、それ以上の価値であろう。
「フィリップさんに常にログインしてもらうわけにもいきませんわ。それに、フィリップさんが死んだ際に集まれなくなりますもの。ノーチラスとは別の拠点も必要ですわ」
ではどこかの街にでも家を借りるかという話になるが、それもまた彼ららしくは無い。
「場所は後に致しましょう」
「でも、拠点の話なんだろ? ……虫が多い場所は勘弁して欲しいな」
「ええ、そうですわ! ですが、先立つものが無くては話になりませんもの」
つまりは、金である。
有体に言えば、彼らは金欠であった。
「私達にはお金が必要ですわ」
「美を保つにはお金が必要ですわ、とか言って浪費している君にも原因があるような……」
「フィリップさんこそ、お宝があるとか言って、回復アイテムをじゃぶじゃぶ使いながら無理矢理ボスモンスターを突破していくではありませんか」
「……しかも大して宝に価値が無かったりしてな」
戦略性を高めればアイテムの節約も出来ただろうが、宝に興味が向いてしまっている時のフィリップを止めることは出来ない。
「宝を追い求めている。冒険をしていることにこそ価値があるのだよ」
「……貴女、毎度それを言えば誤魔化せると思っていませんわよね?」
まあ、それぞれがそれぞれの理由で大金を消費しているのだ。
互いに咎めていても喧嘩になるだけ。
「まあ、使ってしまったものは仕方ありません。これから貯めることに致しましょう」
というわけで、全員が運営費を出していくこととなった。
回復アイテムは個人差もあるため、個人負担となっている。
クャントルスカもいるため、フィリップみたいに無茶をしなければ使うこともそう無いだろう。
「では、はい。確かに預けましたわよ?」
「俺が?」
手渡された運営費。
金額としてはまずまずの額であり、あまり個人で持ち歩きたくはない。
「言ったはずですわよ? 一番生き残りやすい貴方がクランオーナーだと。であれば、デスペナも受けづらいですわよね」
それもそうだ。
スワンプマンの固有スキルもあり、盗まれない限りは、ストックがある限りは、クリアントにアイテムやリルの紛失は無い。
「……分かった」
これがオーナーとしての初仕事かと情けない限りであるが。
貯金箱代わりのオーナーである。
「で、次ですが」
プシュケーはサクサクと進めていくようだ。
進行に買って出たのは、彼女以外では脱線する可能性が高いからか。
記録は誰が言わずともパリドーネである。
「いくつか依頼を見繕って来ましたわ。この戦力であれば大抵はこなせますでしょう」
依頼の書かれた紙をテーブルに並べる。
いずれも癖のありそうなものや、難易度が高そうなものばかりである。
「クリアントさん。良いですわね?」
「そうだな……しばらく目的も無さそうだし、依頼をクリアして力を付けていくのもいいかもしれないな」
名目上はオーナーであるクリアントの同意も取れたところで、改めて話は進む。
「パリドーネさん。レシーブさん」
「何でしょう?」
「何ですかー?」
プシュケーに呼ばれた2人が返事をする。
彼女達の前にプシュケーは一枚の紙を見せた。
「皇国の依頼の件は既に聞いていますわ。戦力を整えたい。その考えはまだ変わりありませんわね?」
クレハドールの件も。
ペルソティの警備の件も。
特典武具や希少アイテム、金が目的であった彼女達だ。
究極的には強くなりたい。
そこに辿り着く。
「勿論」
「わ、私はずっと一貫していますよぉ」
「宜しくてよ」
ならばこの依頼は彼女たちに任せるべきだ、とプシュケーはテーブルに依頼用紙を置き、皆に見せた。
「森林の民の不審死の調査ですわ。恐らくはUBM絡み。こちらをお任せしても?」
「不審死……ですか」
「人間の仕業とか有り得ないんですかぁ?」
「一応、その線もあるみたいですが……何せ広範囲かつ、無作為。〈マスター〉であれば殺し方の特徴から直に割り出せそうなものですわ」
そして、割り出せなかったからUBMということなのだろう。
だが、〈マスター〉……人間の可能性も捨てきれない。
「この依頼は確実にクリアしたいですわ。2人だけでなく、相応のメンバーで向かってもらいましょう」
2人の前に紙を残し、次を取り出す。
それを、キシリーの前に置いた。
「巨人系統の超級職。次代を決めるための決闘が行われるようですわ」
それを聞いたキシリーは肩を震わす。
巨人系統……巨人種。
キシリーのアバターは確かにそう呼ばれる亜人だ。
巨人系統である【大巨人】に就いているし、その系統の超級職の情報であれば、本来は喉から手が出るほど欲しいものである。
「先の2人にも通じるものですが、強くなりたいのでしょう?」
「……私は」
「ええ。苦悩し、そしてあのヘラクレスに勝った。ならば大丈夫なはずですわ。強くなろうとも貴女は貴女。キシリー・キシシキ以外の何者でもありませんもの」
キシリーは小さく頷き、紙を握りしめた。
クリアントは紙を遠目だが見たが、依頼用紙では無く、メモの類であった。
恐らくはプシュケーかパリドーネがどこかからか集めたものなのだろう。
「そして次」
3枚目の紙。
皆が注目する。
「こちらは純粋に人間の仕業ですわね。PK退治ですわ」
その紙は自身の前に置いた。
「私が行きますわ。対人戦であれば遅れは取りませんもの」
プシュケーが向かうのであれば安心だろう、と誰もが納得する。
戦力も安定しており、どのような場所でも確実に戦える彼女であれば。
「最後……こちらはどう致しましょうか」
そして4枚目。
その扱いにプシュケーは悩んでいた。
理由は明確。
難易度が最も高いからである。
失敗が前提になるかもしれない、などとは言い出せない。
「……妹妹さん。行けますわよね?」
「私がですか? 出来るかなぁ……」
弱気な様子を見せる妹妹であるが、魔法少女だけは知っていた。
その仮面の下に隠された実力を。
「イテカさん。貴女にも同行して貰いますわよ」
「……自分ッスか」
妹妹の性格上、その実力を知っている者以外が同行すればきっと戦闘は行わないだろう。
扱いづらいが、同様に扱いづらいイテカも組み合わせてしまえば良い。
多分だが、シナジーはするはずだから。
メインは決まっているため、他の依頼にも同行者を誰にするか決めていく。
相性や実力、依頼を確実にこなすために誰が必要か。
「依頼が成功するにしろ、失敗するにしろ。一週間後に集まると致しましょう」
こうして結成早々に彼らは別れた。
クランとしての初任務。
それ以上に、クリアントにとってあまり縁の無かった者との共闘に緊張していた。
「オーナーとして頼みましたわよ?」
励ましのつもりなのだろう。
その言葉が重くのしかかっていた。
よし、これで数人に分けて戦いに出られる。
この形まで持っていけば、後は出したかった<マスター>とかUBM出すだけだ