<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する 作:そらからり
■【問王】パリドーネ
この世に不条理なことはあれど。
この世に不明確なことは無いと。
そう、信じていた。
いや……確信していたのだ。
レベル差があろうと。
ステータス差があろうと。
知識の差や、知恵の差、技術の差等、多々ある個人差も。
確立した、数字で表せるものであるから怖くは無かった。
答えのあるものは、いずれ解に辿り着ける。
だからこそ。
真に道理の分からないものと出会った時。
私はきっと役に立てないだろう。
解の無い問題を解こうとはしないだろう。
挑めるのはきっと。
計算の出来ない者だけ。
「この森一帯での大量虐殺、ですか」
アーノルド大森林という森がレジェンダリア南部にはある。
広大な森というのはレジェンダリアでは決して珍しくない景色だが、一つだけ他の森と違う点がある。
それは、何故かティアンと呼ばれる人間範疇生物の中でも純粋な人間しか住処にしていないということ。
妖精や巨人、獣人や鬼もいない。
まるで他に追いやられてしまったかのように。
首都であるアムニールから遠く離れた地であるが、しかし妖精女王の恩恵を受けているかの如く、森は人間の棲み処として成り立っていた。
「しかし……今更という気もしますが。ああ……運悪くというか良くというか……〈デザイア〉の縄張りからも外れていましたか」
であれば尚更。
何故、今まで見逃されてきたかのように、この森の住人は生き延びられたのか。
UBMやボスモンスターという明確な強者が蔓延るこの世界において、対抗手段が無ければ淘汰されるのは人間である。
いくら多少強いからといって、その多少を上回る存在など幾らでもいるのだ。
「妖精女王の恩恵……気にはなります」
だが、それは此度の依頼とは関係ないだろう。
そこに解に結びつく因子は無いと私の勘は告げている。
後でゆっくりと、調べるとしよう。
「ですがまずは……情報の整理からするとしましょう」
始まりは、森の中にあった村落が一つ消えたこと。
別の村の民は、消えた村の上空に巨大な影を見たとの証言があったらしい。
「UBMですかねー。いやー、楽しみだなー」
……隣に座るレシーブを見る。
彼女は椅子に座っているが、背もたれ側に傾けている。
何時後方に倒れてもおかしくは無いが、体幹が強いのか保ち続けていた。
今日は随分と態度が悪い。
一体何の影響を受けたのだろう。
「クランってのは良いですねー。何もしなくても情報を持ってきてくれる人、整理してくれる人がいるんですからー。私はさしずめ倒す人ですかねー」
何故反感を買うようなことばかり言うのだろう。
ただでさえ私達の印象は他のクランメンバーから悪い。
「レシーブ。無駄口はそこまでに。意見が無いのでしたらひとまず私に進ませてください」
「……はーい」
レシーブへの評価がこれ以上下がらないようにすべきだろう。
ひとたび戦闘になれば……いや、本気を出せばレシーブは強い。
その実力を見せる時まで取り返しの付かないところまで落ちないように私の方で制御するしかないだろう。
「当日、村の上空には影があった。ですが、その前に雨が降っていたようです。雨は村以外には降っていない……かなりの局所的であったようですね」
「この雨が能力のヒントなのかな」
私の言葉に反応したのは恐らくこの場で最も強い〈マスター〉。
〈超級〉クャントルスカ……言いづらい。
何だクャントルスカって。どんな発音するんだ。
「間違いないでしょう。雨に触れた生物が消失、あるいは殺されたと見るべき」
まあ、殺されたのだろう。
現場に人間の死体は無かったようだが、人間が死んだ跡はあったらしい。
つまりは他者の意図があっての死……他殺である。
「ですが、雨が膨大なダメージリソースを秘めているとは考えづらい。何かしらの能力の末の死に方と見るべき」
過去のUBMの能力を見ても、強大な能力は故に欠点を持っていることが多い。
かつてアルター王国に襲来したというグローリアとて、無差別に人を殺してはいたが、殺し方は決して無差別なものでは無かった。
レーザーに当たった者。
巨体に押しつぶされた者。
そして、レベルという壁を越えられなかった者。
死んだからには死んだ理由がある。
殺されたからには殺された理由がある。
死因さえ導き出せれば、それは自ずと敵の能力に繋がる。
雨に触れる。
たったこれだけで死ぬということは無い。
それが私の見解だ。
だが、まだ足りない。
雨に触れた者がどのような条件を満たしていたから死んだのか。
触れただけで死ぬというのであれば、それは雨という形をしていなくても良い。
弾丸でも剣でも、槍でも降らせておけば良い話だ。
雨であるならば、雨である理由がきっとある。
無くてはならないのだ。
「“条件特化型”が考えられます。規模を考えても古代伝説級……」
「古代伝説級!」
「ドラゲイルと同じだ!」
ここで喜べるというのは、本当に頭がおかしい証拠だ。
敵が強いのであればまず悲観しなくてはならない。
敵が強く、勝ち目が見えてきてから喜ぶべきであるのに。
「貴女方には勝機があるのでしょうか」
狂ヶ咲夢味とそのエンブリオであるドッペル。
狂人でありながら常人。
常人でありながら狂人である2人は常にその境を彷徨い、踏み越え続けているらしい。
まるで夢現の住人のようだ。
「無くても戦うだけー」
「魔法少女だからー」
……なるほど。
困っている人がいるからとりあえず動く。
助けるために敵が強くても立ち向かわなければならない。
そのような意向の持ち主ばかりと聞いていたが、やはり噂に違わなかったらしい。
「……今回の敵。何かしらの条件を満たした上で雨に触れると死ぬという能力で仮定して動きます」
私の言葉に誰も否を唱えなかった。
いつの間にかレシーブもこちらの言葉を真剣に聞いていた。
4人でのチーム。
私とレシーブ、クャントルスカ、夢味。
異色混合。
だが、それには理由もある。
私とレシーブ以外の2人、この人選にした理由がある。
「まずは付近の村に聞き込みをしましょう。UBMが何処にいるのか分からない以上、探すよりも前に準備を整えなくては」
かくしてUBM退治の幕が開けた。
目標は私とレシーブどちらかの特典武具獲得。
これを果たさなくては意味が無い。
プシュケーが私の為に見つけてくれた依頼。
果たせるかどうかは私にかかっている。
「パリドーネちゃん。何だか嬉しそうですねぇ」
「……そう見えますか」
道すがらレシーブが私を揶揄う。
彼女は何処からか調達したのか、豚型モンスターの背に乗っていた。
夢味とドッペルは羨ましそうに自身も乗せろと叫んでいるがレシーブは意に介さない。
「うん。嬉しそうなのと張り切っているのが半々かな。前よりも生き生きしているように見えます」
「生き生き、ですか……」
ならば私は死んでいたのだろうか。
生きながら、生きていなかったのだろうか。
「そういう貴女はどうなのでしょうか」
そういえばと思い出す。
最近、誰かに対して無暗に質問しなくなったなと。
少しだけ他者を理解したのか。
それとも問いかけられた者の感情を理解したのか。
「私ですか? あはは、ダメですよぉ」
また、だ。
またこの少女は作り物めいた笑みを浮かべる。
「面白そうには出来ても面白くなんてない。楽しそうに出来ても楽しくなんてない。哀しそうにも嬉しそうにも、可哀そうにも出来ますけど、今の私ではまだまだ。本物に近づいている最中です」
そう言う彼女の表情はどこか寂しそうであった。
……これも彼女の言う『〇〇そう』という、偽りのものなのだろうか。
「……今度こそ。私達は強くなれるでしょうか」
「あはは。強くだなんて、そんな」
レシーブは哂う。
どこまでが彼女の本音なのか探れないまま、次の言葉を告げる。
「強くなろうだなんて弱者にしか言えない言葉ですよぉ。目指している時点で偽物を自覚しなくては」
「……偽物ですか」
「まあ、でも、パリドーネちゃんならなれるんじゃないでしょうか。だって、パリドーネちゃんは何時だって答えに向かって歩ける人間です」
まるで自分は違うのだと言いたげな言葉。
「偽物だって本物になれるんですから。ですから、パリドーネちゃんも自覚しましょう」
「……レシーブ」
「何です?」
「私達……何の話をしていたのでしょう」
「さあ? 取り留めのない話ですよ。価値の無い、意味の無い。ただの無駄話。今くらいしか出来ない話です」
これが最後の無駄口であると。
ここからはふざけられる時間では無くなるのだと。
レシーブは賢い人間だ。
彼女が言うのだから間違いないだろう。
だが、
「レシーブ。貴女の話に価値や意味を見出せるのは貴女だけではありませんよ?」
「……はい?」
なに、緊張が解れたと。
そういうことだ。
気負っていたものが無くなり、鈍りかけていた思考が戻っていく。
「ありがとうございます」
「別にいいですよぉ。鳥のさえずりくらいに思って貰えれば」
久しぶりのパリドーネとレシーブだからどんなキャラか思い出しながら書いてます
微妙に性格変わってたら……成長したってことでw