<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する   作:そらからり

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Aside まにまに問答 3

■【問王】パリドーネ

 

 皆、言葉は一様であった。

 誰も彼もが個性を失ったかのように答える。

 一応は疑った。

 よもや、精神異常系の状態異常に晒されているのではないか、と。

 

 だが、違った。

 誰もが同様の感想であったのだ。

 疑問もある。

 疑念もある。

 疑惑もある。

 それ以上に、近づきたくは無いという恐れがあった。

 だから答えるのだ。

 

「関わりたくない。どうかこのまま静かに森から出て行って欲しい。それは件の犯人だけでは無くお前達も同様に」

 

 かつては肝の座った勇敢な者しかいないと謳われていた森の住人が。

 生気を失ったかのように静かである。

 

「ですがこのままでは貴方方も危険です。一刻も早く原因を取り除くために情報の開示と協力を」

「だから、止めてくれと言ってるだろが! 良いんだこのままで……このままやり過ごせればそれでいい……。オラの娘が嫁いだ先の村が……村が、一夜どころじゃねえ、たった数時間で滅んじまったんだ!」

「そうよ! この村まで目を付けられたらどうするの! UBMだか知らないけど、このまま大人しくしていたらどこかに行ってくれるに違いないわ!」

 

 違う。

 それは絶対に有り得ないと私だけではない、今の発言をした中年女性も心の奥底では理解しているはずだ。

 アーノルド大森林にある村は大きく分けて5つ。

 既にそのうち2つの村から人は消えている。

 ……村人は全て死に絶えていた。

 しかとこの眼で見たから分かる。

 アレは、人外の仕業である。

 無論、私達〈マスター〉を人の範疇として数えても、の話である。

 

「まだこの森の何処かに潜んでいることは既知のはずですが……現実から目を逸らしているのでしょうか?」

「……ッ!」

「そ、そんなわけないじゃない! UBMは出ていった! きっとそうよ!」

 

 どうしたものか。

 残り3つの村全てとコンタクトを図れたが、しかし反応は近しいものであった。

 正直、依頼を別にすればこの森自体はどうなっても良いとさえ思ってしまいそうになる。

 

「……先ほど村の蓄えを確認させて貰いました。この村の住人は皆、大食漢のようですが……何日もちますか?」

 

 ああ、まただ。

 また、質問をするという枕詞が抜けている。

 それが良いことなのか悪いことなのか。

 悪い癖であったのであれば、無くなっても別に構わないのだが。

 

「……2日だ」

「では、2日後はどうするのです? いえ、1日程度であれば空腹で済むでしょう。3日後は? 4日後は? このまま飢えて死ぬのを待ちますか?」

「他の……村からの支援を募る」

「無理ですね。いえ、不可能と言い換えましょうか。他の村も似たような状況です。もしかすると猶予はもっと短く、この村の方が支援を求められるかもしれない。その時は助けられますか?」

「ふざけるな。そんな余裕、うちの村にあるわけ……」

「では他の村も同じ答えをするでしょう」

 

 厳しい現実だ。

 だが、目を逸らしているならば見させなければならない。

 夢に浸り現実から逃げているだけでは何も解決はしない。

 

「パリドーネちゃん~。みんなから聞けたよ~。UBMは確かにいるって~。まだこの森から出ていってないみたい~」

 

 少し見ないうちにレシーブのキャラがまたも変わっていた。

 今はほんわか系のようだ。

 

「ということですが?」

「み、みんなって……信用できるのか? というか、UBMがいるとして、何でソイツを見て生きて帰れてるんだ」

 

 彼らもUBMについて詳しくない。

 知っているのは、出会ってしまった他の2つの村の人間が皆殺しにされたことのみ。

 

「彼女は【動物王】。テイマーの最上位です。この森の低レベル帯のモンスターから情報を聞き出したのでしょう」

「そういうこと~」

 

 レシーブの周囲に小型のモンスターが集まる。

 幸いにもこの森のモンスターのレベルはそう高くない。

 住人達が生きていくのに困らない程度に弱い個体ばかりである。

 

「そう、か……やはりまだこの村に……」

「信用して頂きましたか。ならば知っていることを。更なる犠牲者を増やさぬために」

 

 村人たちは危惧している。

 私達がUBMに関わると言うことは、村人たちがUBMに関わるということ。

 間接的に自身の命が危険に晒されるのではないかと怯えているのだ。

 

「分からない……分からないんだ……」

 

 ぽつり、ぽつりと村人は口を開く。

 

「1人だけ。遠目からあの惨状を見ちまった奴がいる……ソイツは発狂してその日のうちに死んじまったが……俺はソイツから少しだけ話を聞いた」

 

 当たりだ。

 どうやらこの場での問答は無駄には終わらなかったみたいである。

 

「何を聞きましたか?」

「……罪には罰だとか、無垢なる者に救済だとか。そんなことを言う巨人みたいにでっけえ人型の何かが生き延びた奴を殺していたって話だ」

「罪、罰……」

 

 まさか大昔の小説が関係しているわけでは無いだろう。

 エンブリオのモチーフはまだしも、今回はモンスター。

 であれば、純粋に罪や罰と唱えていた……?

 

「人語を介するモンスター……レベルは高そうですね」

 

 UBMの存在は可能性から確信に変わった。

 

「レシーブ。……クャントルスカと夢味は?」

「さぁ? どこだろうね~」

 

 ……この状況でほんわかしていてどうする。

 なごんでいる場合ではない。

 

「……あそこですか」

 

 ともあれ、彼女たちは目立つ。

 周囲で騒めいている場所を探せば自ずと見つかる。

 

 クャントルスカは背の翼が珍しいのか、村の子供たちが集まっていた。

 翼を触らせてほしいと言う子供らに嫌な顔せずに対応している。

 

 夢味とドッペルは何をしているのか分からなかった。

 ただ呆けた顔で空を見上げていた。

 心配そうに村の人間は彼女達に声をかけている。

 

「……レシーブ。UBMの場所は今も追えていますか?」

「うん~。あっち~」

 

 レシーブの指さす方角。

 そちらには残り3つある村の1つがあった。

 

「行きましょう……少しは警戒心のあるキャラクターを作ってください」

「そ、そうだね……」

 

 その自信無さげに周囲を見るのは果たして警戒心が高いからなのか。

 ただの不審者にも見えるが。

 

 クャントルスカと夢味も呼び寄せ、村人とレシーブの情報、そして今のUBMの現在位置を伝える。

 

「UBMの能力ですが、推定で……殺害人数かと思われます」

 

 死に絶えた村で、UBMに直接殺されたのが子供が多かったこと、そしてUBMの『罪』、『罰』、『無垢なる者』……これらから導き出された私の答え。

 

「人かモンスターか、どちらかなのかどちらもなのかは分かりません。ですが、殺しただけ雨に触れた時に死ぬ確率は高くなると思ってください」

 

 ちなみにで、この中でティアン〈マスター〉関わらず人間を殺したことがあるか尋ねると全員手を挙げた。

 ティアンだけであれば私とレシーブ。

 ……クャントルスカと夢味はあくまで〈マスター〉としか戦闘を行ったことが無いようだ。

 

「……今回の依頼。私かレシーブがUBM討伐を目標としていましたが、しかし到達は難しくなるかもしれません。その場合は……」

「うん。夢味ちゃんだね」

 

 次点で優先すべきは夢味。

 彼女もまた強力な力を持ってはいるが特典武具を所持していない。

 クャントルスカよりは彼女を優先すべきであろう。

 

「そして、モンスターの殺害をカウントしているのであれば。ここから先、少しでも死ぬ可能性を上げぬためにもモンスターとの戦闘は追い払う程度に留めてください」

 

 どのみちこの森でモンスターと戦えるのはクャントルスカと夢味だけ。

 モンスター相手に言葉の通じない私は論外。

 レシーブも使役できる数を確保するためにもモンスターを積極的に殺せない。

 

「以上。何か質問は?」

「実際の戦闘はどうするのかな? もしもパリドーネさんの予想が外れて皆生き残ってた場合」

「そんな場合は皆で殴るの? 蹴るの? いじめ放題だね」

「そう、ですね……敵の能力次第となりますが、その場合は私かレシーブのどちらかのダメージ量が稼げるように立ち回って頂ければ」

 

 クャントルスカには回復、夢味には支援役を担ってもらうだろう。

 最悪の場合でも、夢味のエンブリオさえあれば、状況はひっくり返せる。

 確実にこの依頼をクリアするための人選。

 間違ってはいないだろう。

 

「ええ、何も間違っていないはず……です」

「ふふふ。知らないんだ」

「知らないみたいだね」

「……私が何を知らないと?」

 

 夢味とドッペルの含みを持たせた言葉に尋ねる。

 

「そういうの、フラグって言うんだよ」

「失敗フラグ。死亡フラグ」

「立たないといいね」

「何よりも死の淵に」

 

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