<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する   作:そらからり

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Aside まにまに問答 4

■【問王】パリドーネ

 

 私自身、この世界の人間――ティアンを殺害した過去があるから分かる。

 この目の前に広がる光景は決して天災によるものではない。

 悪意にしろ、善意にしろ。邪気にしろ、無邪気にしろ。

 確固たる意志の下に行われた、何者かによる虐殺。

 

 大多数の死体は目立った負傷も無く、そして死に瀕した者に似つかわしくない、疑問を残した表情をしていた。

 大人も子供も関係ない。

 強いて言えば、赤子はいないが……といった程度。

 これが村人の8割程度か。

 

 残りのうちの1割。こちらは先ほどのと打って変わって、赤子が玩具を弄ぶかの如く、傷だらけであった。

 傷と評するのも合っているのだろうか……?

 強大な力で振り回されたかのように引きちぎられた手足。

 空高く放り投げられたように、地面で破裂した胴体。

 明らかに巨大な何かで踏み潰された形跡のある頭部。

 一様に、死体の表情には恐怖が張り付いていた。

 間違いなく、UBMの正体を見て、そして殺されていった者達。

 

 最後の1割。

 こちらは推定の数だ。

 推測の域を出ない村人の数……。

 その理由は死体が無いため。

 8割の死体にもあった、子供の死体だが、数が合わない。

 他にも子供はいたはずだ。

 赤子も少年も少女も。

 だが、見当たらない。

 

 子供だけを狙って攫った?

 それであれば遥かに良い。

 希望的観測を述べるような呑気な考えは、残念ながら私には出来ない。

 

 ああ、間違いなく。

 子供を喰らうためにこの村は壊滅させられた。

 

「……」

 

 数えたから間違いない。

 大人は1人たりとも減っていない。

 減っているのは子供だけ。

 死んだ子供の血はあるが、消えた子供の血は、致死量に満たない程度の量が地面に垂れている。

 

「……酷いね」

 

 そう感想を述べることが出来るのは、クャントルスカが善人であるからであろうか。

 私も、そして恐らくレシーブも。

 この光景を見て、『ああ、誰かが殺したんだな』と思うだけだ。

 

「誰か生きているのかなー?」

「全滅かな? 絶滅かな?」

 

 真っ先に生存者を探しに行ける夢味とドッペルは、言葉さえ無視してしまえば、善人そのもの。

 ……いや、他に言うべき言葉が見つからないからだろうか。

 あえて、道化を演じている節も見受けられる。

 

「パリドーネちゃん。ここで、間違いないんだよね?」

「ええ……ここが、先ほどまで私達が聞き込みをしていた村。間違いありません」

 

 UBMの足取りを追って村を飛び出した私達だったが、すぐに足跡を見失った。

 よほど隠れるのが上手いのだろうか。

 

 レシーブの操るモンスターすらも躱し、森のどこかへと潜んでしまったUBMを、手がかりも無く追うことは難しい。

 ひとまず先ほどまでいた村に戻れば、こうして村が壊滅状態であったというわけだ。

 

 私が会話した大人も。

 クャントルスカの両翼に群がっていた子供も。

 夢味を眺めていた村人も。

 皆、皆死んだ。

 

「……己の力量不足が不甲斐ない。そう、言いたげな顔ですね」

「うん……勿論だよ。ここに残っていれば防げたかもしれない。もう少し早く戻っていれば助けられたかもしれない。そう、悔やんで仕方ない」

「貴女には一端の責任も無いのに? 彼らは私達がUBMを探すのに一切の協力をしようとはしなかった。もっと早くと言うならば、彼らが早く私達に情報を提供していれば未然に防げたかもしれません」

「そう、かもしれないね。でもそうじゃないんだよ」

「……?」

 

 その返答は矛盾している。

 そうなのか、違うのか。

 どちらなのだ。

 

「パリドーネちゃんとレシーブちゃんは特典武具を手に入れるためにここに来た。だから、間違ってはいないんだ。でもね、私と夢味ちゃんはここに魔法少女として、困っている人を助けに来たんだ……だから、助けられなかったことを後悔しなきゃいけない。間に合わなかったことで責任を感じなくちゃいけない」

「難儀な……ものですね」

 

 理解できない。

 自分で背負えない重荷を自ら背負うなど。

 

「それが愛というものですか?」

 

 私にまだ理解できないもの。

 理解しきれない『愛』を知る彼女だから、そう感じるのだろうか。

 

「違うよ。これは愛以前のもの。きっとパリドーネちゃんも知っているはず」

「……」

 

 知らない。

 否、道徳の教科書を開けば載っているかもしれないが、その感情が必要であるとは思えない。

 

「私はこの依頼――」

「いたよ! 一人だけ!」

「生き残り! 一人ぼっちの!」

 

 知らないわけではない感情をどう理解するべきか。

 この依頼を通して理解できるのかをクャントルスカに尋ねようとした時、夢味とドッペルの声が村中に響く。

 

 崩れた屋根の下。

 隙間に埋もれている10歳ほどの子供が小さな傷を作りながらも生きていた。

 すぐさま救助し、クャントルスカが回復魔法をかける。

 

 気絶していたその子供はすぐに目覚め、そして村が壊滅状態であることを思い出すと、しばらく放心していた。

 

「……彼には悪いですが唯一の手掛かり。あまり長い時間、放置してはいられません」

 

 このままでは残りの村も同様の結末を迎えるだろう。

 私の良心がそれを止めようとしているわけではない。

 全ての村が壊滅した時、果たしてこの依頼はUBMを倒したところで成功と言えるのか疑念が残るからだ。

 加えて、餌場の餌が無くなればUBMも移動するだろう。

 何とか他の村が生きているうちに片を付けたいだけ。

 

「それは私も同感だよ。……でも、悠長にしている場合でも無さそうだね」

 

 クャントルスカが村の外を見る。

 そこに居たのは数々の肉食系モンスター。

 負傷具合から、先ほど私達が道すがら追い払った個体も混じっているようだ。

 

「おかしいですねぇ? あの子達は臆病だから傷があるうちは狩りに出ないのですけど」

 

 レシーブが首を傾げている。

 だが、モンスターの目は何かに追い立てられたようなものではなく、こちらを敵として、狩るべき餌として捉えている。

 

「……操られている?」

 

 ふとレシーブが呟く。

 空腹でも恐怖でも慢心でも愉楽でもなく。

 【動物王】である彼女だからこそ、モンスターが何かに操られているのではないかと気づく。

 

「レシーブ。貴女の指揮下に置くことは可能でしょうか?」

「んー。必殺スキルを使えばあるいは? ……いえ、ダメですねぇ。多分ですけど、その場合はアテネでも支配しきれなくなります。つまり――」

「誰の支配下でも無くなる」

 

 どちらがマシか。

 敵に操られないだけそちらのが良さそうにも思えるが、レシーブの必殺スキルを無駄に切らせることにもなる。

 

「……迎撃の方が良いでしょう」

「分かった! 私と夢味ちゃんでやるね。パリドーネちゃんとレシーブちゃんはこの子を守ってて!」

 

 クャントルスカが村を飛び出す。

 その後を、彼女のステータスをコピーした夢味とドッペルが追う。

 

「……おかしい」

 

 雨を降らせるUBM。

 そして、今はモンスターを操る何者か。

 後者もUBMなのだとすると、両者は同一の存在なのだろうか?

 

「レシーブ」

「ばっちり見えていますよぉ? うん。すぐ近くにいますね。あ、ダメだ。私の指揮下の子も敵に捕らわれちゃった。……こっちに向かってきますが……ドッペルさんに追い払われちゃいました」

 

 レシーブの力が封じられているに等しい、か。

 だが、近くにいるということは……

 

「他に敵影は? UBMは2体以上いるという可能性が浮上しました」

「うーん……いませんねぇ。この森には最初から最後まで1体だけ。ちなみに〈マスター〉も私たち以外はこの森にいないとのことです」

「……! ならば可能性はより最悪な方に傾きましたか」

 

 条件特化型の古代伝説級。

 この仮定は崩れないと予想していた。

 そして、そうであるならば、〈超級〉1人と準〈超級〉が揃うこのパーティーで対処可能だとも。

 

「そうですかね? むしろ1体だけでラッキー的な?」

「違います! 触れた者を殺す雨と、モンスターを操る力。同系統であれば複数の能力があってもおかしくはありませんが、この2つは決定的に異なる能力……」

 

 過去にも異なる複数の能力を持つUBMは確認されている。

 それはグローリアをはじめとするSUBM。

 あるいは、神話級UBMだ。

 

「前提が崩れる! 私達程度では太刀打ちできないUBMがこの森に潜んでいる可能性が高くなりました」

 

 シュヴァーゲルすら複数人の準〈超級〉と〈超級〉が犠牲を出しながら倒したという。

 

「ましてや私たちは準備すら……」

「パリドーネちゃん。安心してくださいよぉ」

「……レシーブ?」

 

 彼女の声に焦りはなかった。

 まるで大したことないと、本当に何でもないように言う。

 

「ゲームですよ? もっと気楽に行きましょう? そんでもって生きましょう。死ぬ気で何でも出来るのがゲームのいいところです。現実に何の影響ももたらさないのがゲームです」

 

 だから、と彼女は続ける。

 ああ、だからこそ私はそれが彼女の本音だと分かってしまった。

 

「誰がどれだけ犠牲になっても構わないじゃありませんか。パリドーネちゃんはたくさん知識を得るためにここにいる。私は正しく感情を理解するためにここにいる。その過程ですよ、ここは。何の終着点でも無いんですから。だから、いくらだって無茶をしましょう」

「……はい!」

 

 彼女なりの鼓舞。

 本音だから正しく届く。

 焦りは脳を鈍らせる。

 

 少しだけ前向きに。

 私達はクャントルスカと夢味の帰りを待つ。




予定外に対応出来ない女、それがパリドーネ
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