<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する   作:そらからり

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昨日、SSを投下したのでよろしければぜひー


Aside まにまに問答 6

■【問王】パリドーネ

 

「……アラブは即死しなかった……即死ダメージでは無い? ……ではクャントルスカと夢味は……何か条件を……いえ、アラブこそが条件を満たしていたから……?」

 

 分からないことが多すぎる。

 不確定要素も不確定情報も多すぎる。

 何が正しくて何が間違っているのか。

 何が推測の域を出ないままなのか。

 

「私とレシーブは……? 死ぬはずでは……いえ、アラブがダメージを受けるのであれば私達こそが――」

「パリドーネちゃん」

 

 脳内で考えるよりも言葉に出した方が情報の整理をしやすいと聞いたことがある。

 だが、今のは意図して行ったわけではない……ただ混乱していただけだ。

 

「……はい」

「パリドーネちゃんは賢いですよ。私が知らないことをたくさん知っているし、たくさん考えている。でもですね、もっと獣みたくなってもいいんじゃないですか?」

「……?」

「シンプル、イズ、ベストってやつですよ。難しく考えるから難しくなるんじゃないですか?」

「難しく……」

 

 何を難しく考えているというのだろう。

 ありのままに、起きたことをそのままに……

 

「ああ、そうか」

 

 前提が違っていた。

 殺害人数だとか。

 罪とか罰とか。

 そんな言葉に騙されていた。

 

 シンプル。

 つまりは、数字をまず最初に見なければいけなかった。

 

 アラブが雨粒に当たった回数……23回。

 アラブが一粒で与えられたダメージ……13。

 アラブのHPの総数が541。

 現在は半分近く失われており回復中である。

 

「13という数字に心当たりは?」

「な、ないよ」

「ふむ……」

 

 一方、私とレシーブはいくら雨に打たれようともダメージは0。

 この法則性は何だ?

 生物を殺した数で無いならば……

 

「与ダメージ?」

 

 これまでの村人の発言を思い出す。

 なるほど、雨に打たれ死んだ民はみんな狩猟を行う者ばかり。 

 狩猟に出られない年齢の――与ダメージ0である子供は、雨に触れても平気であったというわけか。

 アラブは狩猟の手伝いをしたと話していた。

 微妙ながらもダメージを与えていたために、この雨で固定ダメージが入っていたというわけか。

 

「そっか! 与えたダメージが罪ってことなんですねぇ。それで罰がこの雨の固定ダメージであると」

 

 私の言葉の意味をすぐに理解したレシーブは手を叩く。

 

「ですが、まだ腑に落ちないことがあります。……これが直近のものであろうことはわかります。累計ダメージであるというなら、かなり凶悪な部類になりますが、そうではないでしょう」

「私達にダメージが無い理由、ですねぇ」

 

 私もレシーブも、先ほどのオオカミ型モンスターとの戦闘で微量ではあるがダメージを与えている。

 もし、敵の能力が雨に触れた者全てに適用ならば、当然私達も適用内。

 

「推測は間違った方向へ向かっていないはず……足りないだけだ……何かもう一つ……」

 

 しかし、悠長に思考に神経を傾けている場合ではない。

 村人もアラブも、こう言っていた。

 『雨が降り、触れた者は死んだ。その後に巨大な人間が襲って来た』と。

 

 ここまでが前兆。

 ここからが……本番だ。

 

『愚かなり。愚かなり。罪の臭いがする。嗚呼、忌まわしきは他者を害する重罪なり。無垢なる者のみ我が腹に収まることを許そう。罪深き者は地に伏すが良い』

 

 頭上からの声。

 身体に響く程の音は森中を揺らすようだ。

 

「これが……」

 

 なるほど、それはまさしく巨大な人。

 だが、決して人間ではない。

 

 私達の世界では見慣れてはいないが知っている存在。

 隣のレシーブの反応から察するに、これはアジア圏内にいる者特有の感想か。

 

「大仏……ですか」

 

 教科書でも見た。

 実際に観光地でも見たことがある。

 脳内のどの仏像とも特徴は一致しない。

 ……だが、大きさも神仏としての威圧感も、大仏と評するに相応しいものがある。

 

「【鬼守仏信 フト】……古代伝説級、ですかぁ。どうしますパリドーネちゃん? 思っていたよりも……」

「ええ、思っていたよりも」

 

 等級が低い。

 条件特化型であり広域殲滅型。

 雨に触れるだけという容易な条件で多大なダメージを与える能力を持ちながら古代伝説ならば……。

 

「本体はそこまで強くは無いと推測できます。ステータスも……そこまで高くはない」

 

 全てのステータスが一万前後。

 HPも強化した私や必殺スキル発動時のレシーブで削り切れるレベル。

 

 懸念は一つ……いや二つ。

 

「アラブを巻き込まずに戦えるでしょうか」

「そして私達の前に出てきた理由、だね」

 

 アラブについては言わずもがな。

 問題は、ステータスの差があまり無いこのUBMが何故私達の前に出てきたか。

 それでも勝つ算段がある?

 他に奥の手を隠し持っている……?

 

『思考を張り巡らせよ。それが無駄な足掻きと知った時、それこそが我が糧になる時である』

 

 大仏――フトが巨大な掌を振り回す。

 その先は……私達が雨を凌いでいた巨木。

 

「……!?」

 

 巨木が小枝のように薙ぎ倒される。

 下敷きにならぬようアラブを抱え木の下から脱出するが、懸念の一つが大問題となる。

 

「不味い……アラブのHPが……!」

 

 雨粒が触れる。

 一つ、二つ……数えきれるうちにこのままではアラブのHPがゼロとなるだろう。

 

「何か……何か……」

 

 見る間にHPは減っていく。

 今度こそ死を覚悟したのか、アラブは身を震わせつつも、

 

「お姉ちゃん達……オイラがいるから戦えなんだろ」

「……」

 

 そうだ、とは言えなかった。

 そうでない、とも。

 

 肯定も否定も出来ない無言を、アラブはどう受け取ったのか。

 

「良いさ。どうせお姉ちゃん達が死んだらオイラも死ぬんだ。だったらさ、ここでオイラを捨ててくれよ」

「それは……」

 

 駄目だ。

 そんなことを言われてしまったら、私はそうしてしまう。

 それこそが解に導くために最適な道筋だと理解してしまう。

 否定する材料が見つからなくなってしまう。

 

「オイラも、オイラの村のみんなも森の獣をたくさん狩って食べたんだ。その報いが今来ただけさ。奴、罪とか罰って言ってたんだろ。なら罰を受ける時なんだ。罪を受け入れる時なんだ」

「違います。生存するための捕食は自然界では何の罪にもなりません。貴方達は食料を残すことをしなかった。悪戯に命を奪わなかった。それは何の罪でも無い。何の罰も受ける必要も無い」

 

 受けるべきはあのUBMだ。

 大仏の姿をしながら人の命を奪うフト。

 奴の方が罪そのもの。

 

「はは……そう言ってくれると嬉しいね。少しは罪が軽くなった気分だよ」

「重くも軽くも無い。そもそも罪自体が無かったと……軽く?」

 

 罪が軽く……。

 そう……罪は重くも軽くもなる。

 重かったからクャントルスカと夢味、他の村人たちは即死した。

 与ダメージがHPの総量を超えていたから。

 私達の分まで戦闘を任せてしまっただけに、相当なダメージ数を稼いでしまっただろう。

 

 だが……罪は軽くもなる。

 いわゆる減刑というものである。

 自白、未遂、司法取引、被害者との関係や状況、事故の場合など様々……。

 

 ならば与ダメージに対して減刑するならば何があろうか。

 答えは私とレシーブが既に持っていた。

 

 オオカミ型モンスターに与えたダメージは微量。

 微量であれど罪は罪。

 フトというモンスターの敷いたルールに則るのであれば、受けなければならないダメージである。

 だが、同時に私達はオオカミ型モンスターからダメージを受けている。

 そう、被ダメージである。

 こちらは与ダメージよりも遥かに多い。

 

「答えが出ました」

 

 アラブの表皮を軽く擦る。

 微量なダメージ。

 具体的には13という数値の。

 

 そもそも減っていたアラブのHPは現在125。

 私はここに13ダメージを与えたことで残りは112となった。

 

「お姉ちゃん……?」

「これでいいのです。これで、貴方はもう死ぬことは無い」

 

 そして、その時点で112からアラブのHPは一切減ることは無くなった。

 雨にいくら触れようとも減らない。

 

「与ダメージから被ダメージを減算した数字。それこそがこの雨の固定ダメージの正体」

 

 抱えていたアラブを下ろす。

 後方には未だフトが見える。

 こちらを見下ろし、私達の行動を神さながらに見下している。

 

『真理に至ったか。で? それで我に、神に抗えると?』

 

 アラブに回復アイテムを使用する。

 徐々にであるがアラブのHPが戻っていく。

 

 ……逆に私のHPは徐々にであるが減っていく。

 13という私のHPからすれば極微量、だが確実に死に向かう値。

 

「勿論。神といえど神話を知らないようですね。人は神を下す。如何に強くとも神の時代はいずれ消えるものです」

「というかー。神の真似しているようにしか見えないですよねー。オウムか何かですかー?」

 

 アラブは私達の戦闘の邪魔にならないようどこかへ走り去っていく。

 これでいい。

 これで心置きなく戦える。

 

「行きましょうレシーブ。あの日の続きです。UBMを求め、間違えたあの日の続きを」

「UBMに辿り着けなかったあの日を超える時ですねー」

 

 【問王】パリドーネ。

 【動物王】レシーブ・キープ。

 

 私達は準〈超級〉。

 〈超級〉に連なる実力を備えていると認められた者。

 古代伝説級如きに負ける道理は無い。

 




というわけでUBMの名前と能力の一部(・・)が判明しました
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