<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する 作:そらからり
いつも3000文字目安で投降しているんですが、長くなったので分割しただけですわ
■とあるUBMについて
そのUBMを構成する1体の出自を辿れば、黄河帝国に辿り着く。
持つ力はUBMとしては弱いもの。
『100時間以内の与ダメージから被ダメージを減算した値を固定ダメージとする雨』を降らせる程度、入念な下準備の後に容易く攻略可能である。
そも、七日以内に一切の戦闘を行わず、一撃の威力に秀でた者が然るべきタイミングで当てれば倒せるモンスター。
UBMとしての格が古代伝説級であろうと、そのステータスは伝説級に毛が生えた程度。
下手をすればそこいらのモンスターにすら狩られかねない。
幸運であったか定かでは無いが、時間軸としてソレが生まれたのは黄龍人外の死後。
そのため、封印されることは無かった。
だが、ソレ自身が持っていたところでソレ自身は大したありがたみが無い能力であろうと、特典武具へと昇華すれば意味合いが異なる。
駆け引きの中でも重要な役割を持つであろう能力に喉から手が出るほど欲する者は数知れず。
いつしか、黄河中の実力者、有力者達から狙われることとなった。
死ぬことを恐れ。
生きることを望み。
強者から狙われることを憂い。
誰からも攻撃されずに済んだことに安堵したソレは遂に黄河を飛び出した。
違う世界であれば、立場も変わるはず。
ソレは当てもないまま彷徨い、レジェンダリアに迷い込んだ。
ソレにとって望ましい土地は、あまり強くないが常日頃戦いに身を置く人間が多くいる場所。
つまりは、狩猟で日々の蓄えを支えている部族がソレにとって最適な餌であった。
だが、限界はいずれ訪れよう。
そもそも、目立ってしまっては黄河での二の舞になる。
餌は欲しい。
だが、狩られる立場に在りたくない。
ソレは考える。
黄河に身を置いていた時代の記憶を辿り、そして思い出す。
ああ、そういえば居たでは無いか。
強くなろうとした同胞が。
弱き個体が群れを成し、そして同一化した存在が。
だから、ソレは探した。
レジェンダリアという黄河とは全く違う土地であれば、同一とまではいかないまでも似たような能力を持つ同胞がいるのでは無いかと。
そうして、見つけたのだ。
強くなるための糧を。
死なないための策を。
狩る立場に重んじるための理屈を。
【鬼守仏信 フト】
等級:古代伝説級
スキル名:《慈雨》100時間以内の与ダメージから被ダメージを減算した値を固定ダメージとする雨を降らせる
【強依存 シュママ】
等級:伝説級
スキル名:《最結合》他モンスターと結合する。HP、スキルの共有
《再入力》結合した数だけHPバーを生み出し、いずれかが傷ついた際に交換する
【扇動鳥 キケーラ】
等級:逸話級
スキル名:《声高良可》周囲のモンスターを煽り本能を刺激する
【隠見活動 サザメ】
等級:逸話級
スキル名:《空周り》不動状態に限り、周囲の景色と一体化する
4体のUBM。
シュママを軸としたソレらが出会い、そして同一化した。
キケーラで周囲のモンスターを人間に襲わせ。
フトで殺す。
見つかり攻撃を受けてもシュママで命を取り留め。
捜索されてもサザメで逃げおおせる。
人を殺すうちに大義名分とばかりにこれは救いなのだと言いふらすようになった。
罪だとか、罰だとか、意味も分からずに使うようになった。
結局のところ、人間を殺せばリソースが手に入る。
リソースを得れば強くなれる。
強くなれば死なない。
そればかりだ。
フトとは、仏を模したモンスターは見た目だけ。
モンスターに過ぎず、モンスターの域を出ず、モンスターで在り続けるしかない。
それで生き残ったのも事実。
それで勝ち残ったのも事実であるのだ。
■アーノルド大森林
「ハァッ――ハァッ――」
駆ける。
脚が千切れそうになろうとも。
疲労が全身に訴えかけ、転びそうになろうと、否、転ぼうとも。
脚を止めない。
止めることなど出来やしない。
『ハ――ハハハハハハハ! 何だ、結局は大したことなかったではないか! 大言壮語も甚だしい! 何が問答か! 何が神を超えるか!』
ソレは勝ち誇ったかのように叫ぶ。
ソレの前には誰もいない。
倒れ、分裂し、小さくなったソレの正しい状態を把握できる者は本人を除いて、誰もいない。
唯一、死ぬ直前に全てを悟ったパリドーネも、ソレの降らせる雨の前に倒れ、死んだ。
『――が、しかし人風情にしては面倒であった。我も今は満足に動けぬ。力の大半を失ってしまった』
【鬼守仏信 フト】。
その正体は人と同程度の大きさのホトケを模したモンスターだ。
巨大な姿であったのは偏にシュママが4匹分のリソースを結合させていたに過ぎない。
……が、今はその恩恵も受けることが出来ない。
パリドーネの最期の一撃。
それはフトを殺しきるだけの威力を秘めていた。
フトが恐れるべき死を与えるものであった。
故にフトは即断した。
シュママの結合する能力を解除し、これまでのダメージをシュママ、キケーラ、サザメに押し付けることで自身だけでも生き延びよう、と。
企み自体は成功していた。
こうして、フトは元の姿に戻ってはいるが生存している。
だが、唯一の計算外はパリドーネの必殺スキル。
これだけは逃がせなかった。
パリドーネから直接問いかけられたフトにのしかかったペナルティであった。
『……足はある』
フトは巨大化していた際に失った左足を見る。
そこには健全な状態のものがある。
歩くことも踏み出すことも潰すことも可能な足。
だが、動かせない。
左足は見た目だけ。
部位欠損こそは無くなっても、時間制限付きの欠損状態となっているようだ。
加えて、【猛毒】及び【恐怖】及び【脱力】及び【出血】がフトを苦しめる。
今もフトのHPは急激に減少しており、左足以上に全身に力が入らない。
フトも全力で状態異常に抵抗を示すも、強力なペナルティは外せない。
『……せめて、【猛毒】と【出血】だけでも』
【恐怖】と【脱力】は行動阻害のみで命を蝕む状態異常ではない。
動けない今、最も危険なのは2つの状態異常でHPを全損することのみ。
モンスターも周囲にはいない。
それをパリドーネ自身が説明し、フトも確認済みである。
すぐには来ないという保証があるからこそ、フトは全力で2つの状態異常のレジストを試みる。
『……』
10秒経過。
HPは半分となる。
『……ッ』
30秒経過。
HPは3割となる。
『……ッ!』
50秒経過。
HPは残り1割。
ここで【出血】が無くなった
HPの減少が激しい。
そう思えるのはシュママによってHPバーが4本もあったため。
そして、フトの能力の副産物……ダメージ量が増加するという欠点があるため、尚更死に近づいているという感覚に陥る。
『……ッ! やった……やったぞ!』
HPが1割より更に下回った後に、漸く【猛毒】までもが解除された。
フトはすぐさま雨を降らせる。
自身は動くことが出来ないが、周囲のモンスターは間もなく死に絶えるだろう。
キケーラの能力で本能を刺激され、食欲や狩猟本能で頭がいっぱいのはずである彼らはモンスター同士でも戦い合う。
近くに更に弱い人間でもいれば話は別であるが、付近の生きた人間はあらかた狩り尽くしている。
雨は降り続ける。
他の人間が森の外からやってきても厄介だし、しばらくは雨を降らせ続けよう。
HPが自然回復するまで少しここで休もう。
そう思い、【脱力】の状態異常のまま涅槃の態勢に移ろうとした時であった。
フトの頬のすぐ横を矢が通り過ぎた。
『……!?』
有り得ない。
戦える人間は付近にはいなかったはず。
混乱するフトの前に1人の人間……子供が姿を現した。
「……」
その目は復讐に染まっていた。
善人や純粋な子供がおよそするような目ではない。
ただ、怒りに燃えていた。
「フト……村の仇……森中の仇」
少年の名はアラブ。
この森の民唯一の生き残り。