<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する   作:そらからり

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Aside まにまに問答 11

■彼女の博打

 

 どこまでが計算の内であったのか。

 今となっては分からない。

 

 だが、もしかしたら、と残していたのかもしれないという予測は付く。

 

 最後の攻撃が万が一外したら。

 その時、パリドーネはただ諦めるでもなく、驚愕に満ちたまま、後を託していた。

 

 森中のモンスターはレシーブによってアラブを襲わない位置に置かれる。

パリドーネが今も尚戦っていることは拡声器を使って伝える。

 必殺スキルでフトを倒せないまでも動けなくさせる。

 戦う武器は初手でアイテムボックスから付近に投げ捨てる。

 

 これだけでも賭けだ。

 だが、パリドーネは自身の敗北した状況においても保険を残す。

 罪人である自身が目の前のUBMを裁ききれなかったら。

 その時は被害者を連れてくるしかない、と。

 

 結果、賭けは成立した。

 

 フトは動けなくなり、アラブは武器を手に立ち向かう。

 そこにどれだけの葛藤があったのだろう。

 何度も逡巡しただろう。

 村を壊滅させたUBMに1人立ち向かうだなんて、勇気を通り越した蛮勇に等しい。

 無謀だと囁く声が脳裏を掠めたことも一度や二度では無い。

 

 それでも、アラブはフトの前にいる。

 死にかけのUBMの前に、アラブは立っている。

 

 パリドーネは死んだ。

 罪人として裁かれた。

 

 だが、負けてはいなかったのだ。

 

 

 

 

■アラブ

 

 恐ろしいことだと分かっている。

 怪物は何故か小さくなっている。

 それでも、ステータス差は圧倒的であり、小指1本で自分は殺されるだろう。

 

 だけど、ここで逃げて何になる。

 村を壊滅させた怪物を前に尻込みし、逃げ出し、そして生き延びて、自分はその後どうやって人生を誇らしげなものと偽れるか。

 

 父は偉大な狩人であった。

 1人で森で一番大きくて強いモンスターを倒す逸話に事欠かない。

 だけど話す時は無骨ながらもいつも気遣ってくれる優しい父。

 最後に会話したのは、狩猟に勝手に付いていった時だった。

 あの時だけは、いつもは優しい父がとても怒っていた。

 何で、と反論したが今は分かる。

 危険であったから。

 

 生物を殺せば自分に返ってくるかもしれない状況において、子供を同行させることを許す親はいないだろう。

 

 それを理解出来なかった当時は、怒られ、いじけ、家で母に慰めてもらった。

 父に怒られたショックで、もう家にはいられないのだという恐怖が心を占めていた。

 追い出さないで欲しいと、母に抱き着いた。

 料理上手な母は少ない備蓄でおやつを作ってくれた。

 頭を撫でられた時は恥ずかしかったが、同時に安心もした。

 家から追い出されないんだ、と。

 このまま家に、村にいることを許されているんだ、と。

 

 落ち着いたら、母が共に父に謝ろうと提案してくれた。

 でも強がって、1人でも大丈夫だと胸を張って答えた。

 少しでも早く大人に近づきたい。

 父母を安心させるような、父のように強く優しく、母のように誰かを包み込めるような、そんな大人になりたくて。

 母は微笑んでいた。

 なら、とっておきの料理を拵えなくちゃね、と。

 床下にある豪華な食材を見てアラブが驚き、母は再度笑っていた。

 

 

 その直後だ。

 雨が降り出したのは。

 すぐに村長が叫んだ。

 家から一歩も出るな。

 雨に触れるな、と。

 

 外に出ていた者は犠牲になったが、それ以外は助かった。

 アラブも母も家の中におり、事なきを得た。

 

 そう、胸をなでおろした直後に、

 

 屋根ごと母を潰された。

 最後に見たのは首から下が無くなった母。

 同時に、自身も崩れた屋根の下敷きとなり気を失った。

 

 思い出す毎に震える。

 だが、恐ろしさからでは無い。

 この震えは怒りだ。

 

 無力な自分に。

 馬鹿な自分に。

 惨状を引き起こした敵に。

 

 怒りをぶつけるために。

 記憶は燃料だ。

 自分の足を前に進めるためのエネルギーだ。

 

 いくら疲れようと。

 いくら痛もうと。

 止まることは出来ない。

 してはいけない。

 

「フトぉぉぉぉぉ!」

 

 一撃目は外してしまった。

 慣れない弓矢を使ったのは、少しだけ恐怖が混じったせいだ。

 見つからずに、離れた位置から攻撃したいという欲が混じってしまった。

 

 だけど、フトを間近で見たら怒りが再沸騰する。

 右手に斧を持ち、フトへと近づく。

 

『や、やめろ……。何になる。神を傷付けて貴様に一体何の得があるというのだ!』

 

 フトはアラブへ両手を向ける。

 手に何も持っていないと宣告し、命乞いをする。

 

『話し合おうでは無いか。我と貴様は言葉持つ知能生命体である。どこかに妥協点はあるはずだ。……そうだ! すぐにこの森から出ていこう。今はまだ回復途中であるが、約束する。だから、なぁ――』

 

 情けない姿だ。

 こんな小物が父母を、村を終わらせたのかと思うと改めて腹が立つ。

 

 斧を振り上げる。

 これだけは薪割りをするために何度も何度も行った。

 

 今だけは、罪人の首を切る処刑人になる。

 

「絶対に許さない! お前は! お前だけはぁぁぁぁぁ」

 

 アラブの怒りが冷めぬことを悟ったのだろう。

 フトは全力で【脱力】のレジストにかかる。

 

『小僧ぉぉぉぉぉ! 大人しく下手に出れば良い気になりおって! 神をなんと心得る! 本来であれば貴様自らが我の糧となることを喜ぶべきところを!』

 

 フトの右手が動く。

 良し、とフトは笑みを浮かべる。

 【脱力】が徐々に解除されていく。

 やがて全身に力が入るようになり、フトは立ち上がる。

 

『ハ、ハハハハハ! 遅かったな! もうこれで貴様は終わりだ! 《慈雨》は通じぬようだ。だが我自ら貴様を処分しよう』

 

 アラブの右足が一歩、後退する。

 まるで彼の意思に反するように、アラブから遠ざかろうとする。

 

『……へ?』

 

 そして、転倒した。

 力が入らないわけではない。

 

 ただ純粋に、目の前の斧を持つ少年が……自身の命を脅かす存在に恐れをなしたのだ。

 

 【恐怖】。

 最後まで残した状態異常が、今まさに発動されていた。

 

『ば、かな……我が今更恐れるなど……』

 

 だが、それは当然のことだ。

 何故ならばフトはかつて死を恐れて黄河を飛び出している。

 死なないためにシュママを始めとしたUBMを掻き集めた。

 それも今は無い。

 

 残されたのは弱体化し死にかけのフト自身と、目の前に一撃で自身を葬り去る可能性を秘めた少年ただ一人のみ。

 

『あ……あ――』

 

 アラブが斧を振り下ろす。

 命乞いを再開しようと、首を垂れたフト。

 だが、それは斬首しやすいように首を差し出したようにしか映らなかった。

 

 【<UBM>【鬼守仏信 フト】が討伐されました】

 【MVPを選出します】

 【【アラブ】がMVPに選出されました】

 【【アラブ】にMVP特典【鬼守仏輪 フト】を贈与します】

 

 【<UBM>【強依存 シュママ】が討伐されました】

 【MVPを選出します】

 【【パリドーネ】がMVPに選出されました】

 【【パリドーネ】にMVP特典【依存心 シュママ】を贈与します】

 

 【<UBM>【隠見活動 サザメ】が討伐されました】

 【MVPを選出します】

 【【レシーブ・キープ】がMVPに選出されました】

 【【レシーブ・キープ】にMVP特典【穏健家 サザメ】を贈与します】

 

 【<UBM>【扇動鳥 キケーラ】が討伐されました】

 【MVPを選出します】

 【【レシーブ・キープ】がMVPに選出されました】

 【【レシーブ・キープ】にMVP特典【扇動拡声 キケーラ】を贈与します】

 

 

 

 

 4つのアナウンスが響き渡る。

 そのうち1つがアラブに届き、ようやく終わったのだと実感する。

 

 そして、本当に父母が死んでしまったのだと改めて思い知らされる。

 

「……ああ」

 

 勇気を出した。

 一歩踏み出した。

 その果てに、一つの力と、揺るぎない心を手に入れた。

 

 この力と心があれば、これからは何でもできる。

 でも、その何でもできるうちに、親しい人間が隣に立つことは無い。

 

 その哀しみを胸に抱いたまま、アラブは森から姿を消した。

 




これで1つ目のエピソードは終わりになります
2つ目は書けたらまた投降していきますわー
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