<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する   作:そらからり

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229 ティアン殺害計画

■ノーチラス艦内

 

 各々の手に依頼書が渡り、同行者も決まり終えた頃。

 一度解散したクランメンバーの一部だけは再び机を囲んでいる。

 

 呼ばれなかったのはキシリー、夢味。

 精神的にも幼いと判断された彼女達にこの話は早いとばかりに、理由を付けてノーチラスの外で出されていた。

 

「一つだけ、心に留めなくてはならないことがありますわ」

 

 重々しい口調でプシュケーは全員を見る。

 

「何だい? まさかレジェンダリアそのものにでも目を付けられてしまったのかな?」

 

 やや茶化すようにフィリップが答える。

 メンバーの数人の行動歴を見返せばその言葉も冗談では無いのだが。

 ともあれ、フィリップが口を開かなければ何かてきとうなことを言おうと思っていたクリアントは口を閉ざし、流れに身を任せることにした。

 

「……」

 

 プシュケーは一呼吸置く。

 まさかの応え方にフィリップは先の冗談が冗談で済まなかったのかと少しだけ心配になった。

 

「……〈超級〉を抱えているクランですもの。当然ながらレジェンダリアに認知はされているはずですわ」

「ああ、そうだね。そうだった」

 

 フィリップもクャントルスカも〈超級〉としての自覚は薄い。

 進化してからの月日が浅いこともあるが、それ以上に彼女達の興味が別にあるからだ。

 

 そちらの教育もまた別の機会にするべきか、とプシュケーは思いながら言葉を続ける。

 

「近頃、席が空白になった超級職が増えています。……この意味がお分かりになりまして?」

「えーと、俺達も戦力強化を図るってことか?」

 

 クリアント以上に戦力としては当てにならない男、バウム。

 彼なりに模索し、このクランに力になろうとしているが、現在まで薬剤調合以外何も出来ていない。

 

「いや、この場合、危惧すべきは私達の戦力強化以外だろうね。何故、空席が増えているかだろう?」

 

 先の失言を取り消すようにフィリップのプシュケーの言葉の意味を探る。

 そして、すぐに答えに辿り着いた。

 

「なるほど。〈マスター〉が超級職に就けば、基本的にその席は空くことは無い。空席が増えるのであればそれは超級職であるティアンが死んだとき。……一斉に寿命が訪れたわけではないだろうね」

「正解です。調査段階でありますが、数にして15人。これだけの数の超級職のティアンが殺害されたとみています。実際はもう少し多いと予測出来ますが、これ以上は調査が進まなければといったところです」

 

 パリドーネの言葉に各々、事の重大性を理解する。

 エンブリオや強大なステータス任せに付ける〈マスター〉と違い、ティアンで超級職に就ける者は総じて技術に秀でる。

 15人の強者であるティアン。

 彼らを殺害出来る者がこの世界にどれだけいるのだろうか。

 

「下手人は判明していますわ。幸いにもというべきでしょうか。レジェンダリアもこちらは把握済みです」

「なら早く捕まりそうか」

「いえ……そう安堵は出来ませんのよ。下手人は単独では無く組織的な動きをみせていますの。15人のティアンを殺害できる〈マスター〉が少なくても5人はいるということらしいですわ」

「でもでもー? 超級職に就いてる人を殺すだけですよね? なら条件次第では私だってパリドーネちゃんだって、そこのオーナーさんでも出来ますよ? だったら、どのみち解決も時間の問題では?」

 

 確かにそうである。

 このクランメンバーであれば超級職の人間にも勝てなくはないのだ。

 それは過去の戦歴が実証している。

 ティアンが強くとも、死ぬ気で戦える〈マスター〉の強みもある。

 

「ええ、それだけならそうですわね。ですが、それ以上の戦力を彼の組織は抱えているのですわ。……いえ、抱えているというよりも中心になっていると言った方が正しいでしょうか」

 

 そう、前置きをし、

 

「〈三王(トライ・レックス)〉と呼ばれる犯罪クランをご存知でしょうか?」

 

 その問いに誰も答えることはない。

 

「いえ、存じ上げないのも無理はないですわ。その名が知れ渡ったのは、彼らが犯罪予告をした日からですもの」

「……犯罪予告?」

「ええ。テロの予告とでもいいましょうか。『このレジェンダリアを沈める準備は整った。止めて欲しければ我らの要求を飲め』……このような意味合いの手紙が妖精女王の下に届けられたようですわ」

「要求というのは何なのかな?」

「そこまでは……。この国の機密情報にもかかるところでしょうから分からないですわね。ですが、このクランの存在は私達にも影響が無いわけではありません」

 

 一介のクランが一国を沈めるというのも馬鹿げた話であると切り捨てるのは尚早だ。

 〈超級〉にはそれだけの力がある。

 

「予想は付いていると思いますが、〈三王〉にも〈超級〉が所属していますわ。少し前から活動していて、確認されるだけで2人」

 

 プシュケーは2枚の写真を取り出す。

 それはまだ公になっていないが指名手配の書類に使われるものであった。

 1人は眼鏡をかけた優男、1人はまだ年も若い少女であった。

 

「1人は【隷属王】リーン。常に奴隷を連れて歩く〈マスター〉ですわ。典型的な配下を強化するタイプなのですが……本体に全くダメージが通らない生存型でもありますわね」

「……そうか。彼が」

 

 写真を見てフィリップが息を吐く。

 

「リーンなら私が知っているよ。一度だけ、共闘したことがある」

「まあ、そうですの!? 後で詳しくお聞きしてもよろしくて?」

「勿論だとも。……しかし、悪いことはしないように見えたけどな。私の眼もまだまだだ」

 

 続いて2枚目の写真の少女……を凝視する者がいた。

 

「うそ……」

「クャントルスカ? どうかなさ……まさか貴女も彼女とお知り合いですの?」

「うん……でも、この世界じゃない。リアルの世界での……好きな人」

 

 彼女にしては歯切れの悪い回答。

 やや訝し気ながらもプシュケーは少女についての情報も共有する。

 

「彼女もまた攻撃が通らない生存型……と言いたいところですが恐るべきはその攻撃性。防御不可能な噛みつき攻撃をしてくるという噂ですわね」

「かの【喰王】と似たようなタイプということか」

「エンブリオがメイデンであることも含めてですわね。彼女に関してもこれ以上は不明ですが……クャントルスカ? 貴女、何か知っていることはありませんの?」

「分からない……この子とは小学校の時に疎遠になっちゃったから……転校しちゃったんだ」

「そう……では――」

 

 これ以上は踏み込むべきではないと判断したプシュケーは話を自分のクランへの問題に戻す。

 

「〈三王〉は超級職に就いたティアンを片端から殺害していますわ。自身のクランメンバーに優先的に超級職に就かせるため。ここまでは分かりまして?」

 

 皆、頷く。

 その動機も行動も悍ましいが、強くなるためにと思えば理解出来なくはないからだ。

 

「そして、もう一つ。超級職以外にも特典武具を所持するティアンも殺害しています」

「……何でです?」

「まさか貴女から反応があるとは思いませんでしたわね、妹妹。……いえ、貴女だから、でしょうか。皆さんはガチャをやったことがありまして?」

「ガチャというと、リルを入れるアレか?」

「ええ。そうです。低レアのアイテムから、高額なアイテムまで出るアレですわ」

「あれか……全然冒険心をくすぐられないからやったことがないな」

 

 クリアントは1人の〈マスター〉を思い出した。

 ガチャを運び、幸運と不運を撒き散らす福の神のことを。

 

「ティアンが所持している特典武具。その持ち主が死んだとき、特典武具がどうなるかご存知です?」

「ん……? どうなるんだろ。運営が回収しているのか?」

「ええ。それで間違いはないと思いますが、問題はその先。回収された特典武具の行き先」

「ああ……それがガチャか。……特典武具が欲しかったらUBMを倒すのと同時に、ティアンを殺してガチャを引けば手に入る可能性がある、と」

「ええ。馬鹿な考えを持った〈マスター〉がいた者ですわ。その集まりが、〈三王〉なのでしょう」

 

 ティアンからするとたまったものではない。

 〈マスター〉全てを敵に回しかねない行為であり、〈マスター〉への信頼を落としかねない行動だ。

 

「……私達がすぐに出来ることはありませんわ。ですが、心に留めておいてください。〈三王〉が超級職、特典武具を狙っているということを」

 

 時間を置けば更に彼らの戦力は強化されていくのだろう。

 1人でも多く倒し、監獄へ入れなければならない。

 

「クリアントさん。貴方も無関係ではありませんのよ? キシリーの件、分かっていますわよね?」

「うん。……うん?」

「はぁ……。【巨人王】もまた超級職。つまりは彼らが狙ってくる可能性があるということですわ」

「ああ……そうだな。分かった。頑張る」

 

 気の抜けた返事にプシュケーの溜息も止まない。

 

「はぁ……まあ貴方以上の適任がいないというのも困ったものですわね。ここはワンプさん、主の舵取りを任せましたわよ」

「ええ! ここは先輩の女房役であるこのワンプちゃんにお任せを!」

 

 プシュケーは最後にもう一度だけ溜息をし、この会議も解散となった。

 

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