<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する   作:そらからり

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悩んだけどプシュケーさんのお話から投降していきます


Bside 美VS醜VS腐 1

■とある少女の追憶

 

 歓声の中、壇上へ上がる。

 見知った顔――クラスメイトがいずれも笑顔でこちらへ手を振っている。

 彼女らは、知人がアイドルオーディションに出ることを何より喜んでいた。

 野外オーディション、誰でも聴衆可能であるという点も含め、彼女らにとって都合が良かった。

 

 5人の審査員と、観客全員に渡された得点ボタン。

 その合計数で一定以上の点数を取れれば、晴れてアイドルになれるというシステムである。

 無論、味方ばかりを観客に忍び込ませれば容易にアイドルになれるだろう。

 ……ともあれ、それで大成するかは別だ。

 その苦労に報いる程のアイドル人生が訪れるかと問われれば、恐らく来ない。

 

 壇上の少女は、きっと自分はアイドルになれないだろうと感じていた。

 場違いも良いところだと。

 だからこそ、そんな彼女だからこそ、クラスメイト達はオーディションに送り出したのだろうが。

 

 審査員の顔は、テレビで見たことのあるものばかりであった。

 有名な歌手や芸能人、売れっ子のアイドルもいる。

 彼らのうち、3人を魅了してしまえば審査は合格だ。

 観客よりも持ち点の多い彼らだからこそ、採点は厳しいだろうが。

 それでも、可能性はゼロでは無いのだと、少女の前に合格していった者達がいるという事実が希望を物語っている。

 

 此れまで似たような顔と声、パフォーマンスしかしてこなかった参加者に見飽きていた審査員達は、1人の少女の登場により顔を上げる。

 ある者は眼鏡を掛け直し、ある者は急ぎエントリーシートを机から探し始める。

 自身の口元に手を当て、信じられないと、テレビに映っているにも関わらず、自分の眼を疑い呆けたアイドルもいた。

 

 十把一絡げの参加者たちと全く違う。

 彼女はこのオーディションの中で唯一といっていい。

 

 少女がマイクを手に取る。

 クラスメイト達の応援の声も一際大きくなる。

 対称的に審査員達は静まり返っていた。

 

 間違いなく少女のクラスメイトは全員、彼女に点を入れる。

 後は、審査員次第といったところ。

 そして少女が歌い終わった時――

 

 

 

 

■【魔法少女β】プシュケー・アーチ

 

 外見が醜くとも内面が良ければ、なんて言うけれど。

 それは、美を磨き上げることを怠った者の口にする言葉だ。

 性格なんてのはそう変わりようが無い。

 美しい内面も、可愛らしい性格も、正しい人格も。

 それは元から備わっているか、成長に伴って形成されるもの。

 ある程度完成された年頃の人間には、中身を変えることなんて出来ないのだ。

 それこそ、劇的な何かが無ければ、矯正のしようがない。

 

 だが、外見は違う。

 磨けば磨く程。

 飾れば飾るほど変わっていく。

 食べ物一つで。

 睡眠時間、運動習慣、化粧……様々な要素で成り立つ、外側の美しさは、果たして無視出来る者がいるのだろうか。

 誰しも初対面は第一印象を大事とするならば、結局は外見の左右されるのだ。

 なればこそ、外見の美しさは必須。

 怠ってはいけないものであり、『中身の方が――』などと言い訳をする者は総じて、怠け者である。

 

 プシュケー・アーチは自身をこの世でも美の上位者であると自負している。

 頂点と呼びたいところであるが、ほぼ同位置にいる者の存在は決して無視できる者ではないし、何より彼らの努力を決してプシュケーは蔑ろにしない。

 だからこそ、彼女は此度の依頼を引き受けた。

 レジェンダリア西部に出現するというPK。

 『私、綺麗?』などという会話をし、その後に殺害を繰り返す〈マスター〉。

 そこにティアンも〈マスター〉も関係ない。

 被害者のうち、〈マスター〉だけは証言を取れたが、気づけば地面に叩きつけられて死んでいたと一様に言うばかり。

 

 殺害方法はプシュケーにとって関係ない。

 関係あるのは、その質問だ。

 自身が美しいか否か。

 その問いに彼女は憤る。

 

「他者に自身の美を尋ねるなど……愚の骨頂ですわ」

 

 同意を求めるならまだ良い。

 だが、尋ねるのは良くない。

 何故ならば、それはまるで美に自信を持てないからではないか。

 その時点で美しくない。

 外見の美しさもそうであるが、内面も美しさを濁らす。

 底が知れてしまう。

 

「行きますわよ、バウムさん」

「あ、ああ……だが、人選間違っていないか? 俺だけって」

 

 PKの出現予測位置へと向かう道中、草原を歩くプシュケーの傍らを歩くのは白い防毒マスクと気密スーツを装備するバウム喰変。

 この2名のみである。

 

「仕方ありませんわ。キシリーさんを1人で行かせるわけにはいきませんし、妹妹に関しても、あちらの敵が敵である以上、〈超級〉クラスの戦力が必要になるでしょうから」

 

 そして何より、パリドーネとレシーブの受ける依頼はその殺害人数と今後の被害予想も鑑みれば人数を割かなければならない。

 逆に、PK1人であればプシュケー1人でもどうにかなる。

 バウムは一応の回復要因として連れてきたというわけである。

 

「それに、バウムさん。貴方、まだクリアントさん以外とはまともに会話もしていないでしょう? 誘った私が言うのも何ですが、コミュニケーション不足の方々と組んでも力は発揮できませんわよ」

 

 痛いところを突かれた、とバウムは内心苦笑する。

 比較的年の近いクリアントは会話も合う。

 プシュケーもまた、見た目以上に落ち着いた雰囲気から、同僚と思えば会話も出来る。

 だが、それ以外は歳幼い少女ばかり。

 何を話せば良いか分からない。

 

「……まあ、貴方は純粋な後衛タイプですし。近・中距離とエンブリオで味方をカバーできる私と組むのが最もと判断したところもありますわ」

「はは……ありがたい」

 

 乾いた笑みが止まらない。

 年下の少女に守られる情けなさと、それを感じさせないプシュケーの頼もしさ。

 それが合わさって、余計に惨めに感じてしまう。

 

「……しかし、何を考えてソイツは人を殺すんだろうな。よしんば人を殺せる力を手に入れたとして、振るうことの快感……か?」

「それであれば。それだけであればまだ良いでしょう。快楽殺人鬼の相手は得てして楽です。打ち倒す、これ以上の解決策は無いのでしょうから」

「……つまり、それ以外があるということか」

 

 自身の美を問うてくる。

 それが殺害の動機とでもいうのだろうか。

 であれば、尚更プシュケーには理解できない。

 

「……ひとまずは件の〈マスター〉と会わなければ進まない話ですわ。いえ、状況によっては話などせずに監獄送りに致しますけれど」

 

 有無を言わさない圧にバウムは思わずプシュケーの後ろを歩く。

 それを気配で感じ取ったのか、プシュケーは微笑みを作りながら、バウムに再度歩調を合わせた。

 

「……結局、問いかけ自体にはどう答えればいいんだ? 確か、ジャパンには同じようなことを聞いてくる化物がいるって話だよな」

「ええ。整髪剤や飴が有効だとか。ですがそんなものが都合よく全員が全員持ち歩いているわけありませんし、何より〈マスター〉を相手に意味のあるものではないこと、明白でしょう?」

「ああ、そうだな……なら結局、普通に答えて殺されたってことか」

「美しいと答えても、醜いと答えても、それ以外の答えでも。等しく地上に叩きつけられて殺されたようですわ」

 

 地上に叩きつけられた。

 ならば、上空に打ち上げられたのだろうか。

 それ自体もまた、PKの発言同様に奇妙なものだ。

 

「……俺なら何も出来ずに死ぬな」

「まあ口裂け女を真似ているのであれば殺し方は刃物の方が似つかわしいと思いますが……と、そろそろ付きますわね」

 

 休息も兼ねて、プシュケー達はとある村を目指していた。

 何もないのどかな村。

 だが、PKの出現地点から少しだけ手前の最期の休息地点である。

 

『ア“ア”ア“ア”ア“ア”ア“ア”ア“ア”ア“ア”ア“ア”ア“ア”ア“ア”ア“ア”ア“ア”ア“ア”』

 

 その村は既に壊滅していた。

 生きた村人は目視で1人もおらず。

 代わりに、村を徘徊するのは死んだ村人だけであった。

 

「……一体何が」

「苦悩も思考も後でしてよ! あの方々、目も耳も鼻も潰れているように見えますが、今、確実にこちらへと顔を向けましたわ!」

 

 プシュケー達と村までは1㎞以上も離れている。

 だが、死んだ村人たちは一斉にプシュケー達へと顔を向け――走り出した。

 

「……とんだゾンビパニックもあったものですわね」

 

 プシュケーはすぐさまワルキューレを召喚。

 バウムを守るように陣形を組み、村人たちを迎え撃つのであった。

 

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