<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する   作:そらからり

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Bside 美VS醜VS腐 5

■とある少女の追憶

 

 嘘に嘘をいくら重ねられようとも。

 その中に一つだけ真実が混ざるとすれば、それは視線に宿る。

 目は口程に物を言うとは正に、である。

 誰もが少女を見る。

 誰もが少女に視線を送る。

 その視線の意味を隠そうともせず。

 その視線の意図を暴こうともしないのに。

 

 一度だけ、両親に尋ねたことがあった。

 それは、一般的な肉親からしてみれば、残酷な問いであったのかもしれない。

 尋ねた直後に少女は後悔した。

 『何故このような容姿に生んだのか』。

 

 そんな、心無いことを尋ねたのは、心無い言葉と視線を向けられてきたからだ。

 

 だが、少女がとうに限界である前に。

 既に両親が限界であった。

 『何故お前は生まれてきてしまったのだ』

 

 この返答で少女は理解した。

 

 望まれもせずに産み落とされた。

 臆面も隠さずに放たれた言葉に。

 少女もまた、隠さずにしていいのだと。

 全てを露わにしていいのだと、理解した。

 

 最後に一つだけ。

 これだけは分かって欲しい。

 これだけは飲み込んで欲しい。

 

 少女は――私は被害者である。

 加害者である前に、被害者なのである。

 

 

 

 

■【魔法少女β】プシュケー・アーチ

 

「(思わぬ拾い物……いえ、私の眼も少しばかり曇っていたといったところですわね)」

 

 歩を進めるたびにプシュケーはバウムへの評価を改めていく。

 確かに、当人が申告するように直接の戦闘能力は低い。

 エンブリオの力を除けば、ステータス、ジョブ共に攻撃性能は無いに等しい。

 だからこそ、それ以外に突出した点があるのだ。

 

「先程から見せている薬品……それは【薬剤師】なら誰でも扱える品ですの? あまり店売りでは見たことがありませんけど」

「ん? いや、どうだろうな。俺は師匠から教わったんだが……あまり他の【高位薬剤師】と関わったことが無いから分からない。生産系はレシピさえあれば再現はある程度出来るから、普通だと思うが」

 

 ここまでバウムは様々な色の薬品を取り出している。

 それぞれにそれぞれの効果があるようだが、プシュケーは聞いたことの無い効果ばかりである。

 生産系はバウムの言葉通り、レシピさえあれば品質はともかく再現が出来る。

 それ故に、レシピを秘匿したがる者が多い。

 一般に知られている生産アイテムは比較的難度の低いレシピ、あるいは広められてしまったレシピによって作られたものばかり。

 広められても難度の高いレシピで作られるアイテムは高価なものが多い。

 

 プシュケーも長いデンドロ歴のため、多種多様なアイテムを知っている。

 だからこそ、バウムの扱う薬品を知らないことに疑念を抱いた。

 

「師匠……では、高名な方なのでしょうね」

「うーん、そうでもないと思うが……。山に籠ってばかりの爺さんだったし。偏屈な奴だったな」

「……その方は今」

「死んだ。……まあ寿命だったな、あれは。長生きしたみたいだし、大往生だろう」

「そう……ですの」

 

 自身もまた似たような体験をしたが故に、プシュケーは僅かにバウムへの親近感を強める。

 生産と戦闘。

 全く異なる二つだが、バウムとプシュケーの成り立ちは案外似たようなものなのかもしれない。

 

「……ま、最後の弟子である俺がこんな腑抜けた奴だ。最後の最後に後悔していたら申し訳ない」

「そんなことありませんわ。現に今、私は助けられていますもの。貴方がいなければ、人間を屍化する下手人への手がかりも見つけられずに立ち止まっていたはずですわ」

「そ、そうか。……そうか」

 

 ガスマスクの向こう側で安堵しているのが感じ取れる。

 プシュケーはそれを見て少し笑う。

 年上のバウムがこの時ばかりは幼く見えたから。

 

「……銀紛の量が増えてきた。発生源が近いぞ」

 

 バウムが空を見上げる。

 言われてプシュケーも気づく。

 肉眼でも見える量の銀紛が舞っている。

 まるで雪のようだ。

 その実態がまるで別物であったとしても、思わず見惚れてしまう程に、ゾッとする美しい光景であった。

 

「……ッ」

 

 美しさ。

 自覚したからこそ、プシュケーは我に返る。

 存在してはならぬ美しさであると、否定せねばならないから。

 

「最西端。村が一つあるばかりの場所ですが……」

「……あまり期待しない方がいいだろうな。いや、最悪を想定するべきだ」

 

 その村の安否などもはや願うことすらおこがましい。

 どのような奇跡が起ころうとも、この銀紛の発生源である場所が無事であるはずがない。

 プシュケーもバウムも、この先は何が起ころうと動じないよう気構える。

 

「1時間もあれば到着しますわ。今のうちに準備を……。どうなさいました?」

 

 バウムが村とは別の方角を見ている。

 北西部、アルター王国との国境近くである。

 

「……なにか、背筋が寒く感じたんだが。気のせいか」

「スキルの反応は?」

「特に何も……プシュケーはどうだ?」

「私も特には……」

 

 感知系スキルは非戦闘職のバウムよりもプシュケーの方が上である。

 そのプシュケーが感じられないのであれば、やはり気のせいか、とバウムは首を傾げつつ謝る。

 

「すまん。まずはあちらに集中しなければ、だよな。……何度目か分からないが改めて言うぞ。俺は戦えない。敵がいたら多分逃げるしか無くなるが、本当に大丈夫か?」

「ええ、勿論ですわ。元よりバウムさんにはサポートをお願いしていますもの。先ほどのように、存分に私の美しさを引き立てると良いですわ」

 

 それ以上バウムが何かを言うことは無かった。

 ただ黙ってプシュケーとワルキューレ達に囲まれながら村へと足を運ぶ。

 

 まるで護衛対象を守るように。

 まるで宝物を運ぶように。

 まるで危険物を取り扱うように。

 

 〈マスター〉達のパーティーにしては些か慎重すぎる道程であった。

 

 

 

 

■レジェンダリア最西部

 

 その村の住人が生きていた頃。

 村の名はゴラグと呼ばれていた。

 漁業だけが取り柄の村。

 穏やかであり続けた村。

 そんな村も、今や一組の男女……〈マスター〉とエンブリオによって支配されている。

 

「やれやれ……随分と近くまで来られてしまったみたいだ」

 

 来訪者の接近を感じ取った青年は苦笑する。

 元より、彼のエンブリオの能力である《屍者帝国の証明》は抵抗力の弱い……低レベルのティアンくらいにしか効果が無い。

 効果が蓄積されるとはいえ、ENDが1000もあれば1日かけてようやく効果が現れるといったところだ。

 出会う人間全てに効果を及ぼすなんという都合の良い能力なんてことは無く、むしろそれほど発動までの時間が長いのであれば使いにくい能力の一つとして数えられるだろう。

 

「かか。敵手共は、近づいて我らをねじ伏せる。そう考えておるようだのぉ」

「無理もないさ。この手の全方位拡散型の能力はリソースを割きすぎて本体が脆弱と相場が決まっているのだから」

「ならば、お前様もその相場の内では無いかえ?」

「ふふっ。確かにそうだ。ああ、ならば結局、俺達は手も足も出ないのかもしれないな」

 

 青年にもエンブリオである少女にもおよそ戦闘能力というものはない。

 出来ることといえばゾンビ化させることくらいだ。

 ステータスも非戦闘職にありがちなMPとDEXに偏った構成となっている。

 

「……! この気配は……そうか、面倒なのも来たね」

 

 異なる来訪者の気配を感じ取った青年は一転し苦々しい表情をする。

 

「やはり竜王には急いでもらうとしよう」

「お前様も鬼畜よな。ご老体に無茶をさせるとは」

「竜の老体なんて、強者と同義だろ。それに、彼も此度の件は積極的に協力すると約束してくれた。俺達がいなければ成り立たない戦争だ。全力で守ってくれるさ」

 

 簡易な風スキルを用いて風向きを操作する。

 同時に銀紛の生産量を調整し、青年の言う竜王に向けて合図を送る。

 

「さて……早いところ気が付いてくれるといいが」

 

 青年はそう呟く。

 二方向からの来訪者。

 いずれも敵対者であることに違いは無い。

 だが、それでも自分たちが負けるとは思わない。

 敗北は無いと信じていた。

 

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