<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する 作:そらからり
FGOのイベントまだ終わって無いので、終わり次第更新ペースも上がるかと
■【魔法少女β】プシュケー・アーチ
「酷い腐敗臭ですわね。何時からこの村はこの状態に……」
昨日今日という有様では無い。
道端に腐り落ちた肉片らしきものがあり、もはや染みついたように村全体から死臭が漂っている。
プシュケーは顔をしかめながら手で口元を抑える。
気丈に構えているが、慣れたものではない。
死体……中でも死人であれば尚更。
人の死に慣れてしまえば、それはもはや常人とは呼べない。
何時だって、悼まなければならないし、居た堪れなくてはならない。
「……食料の傷み具合からは一月といったところだが。村民がいつからああなっているかはまた別だろうな」
バウムの視線の先。
そこには元村人のゾンビが徘徊している。
彼らはプシュケー達を認識しているのかいないのか、たとえ視界に入ったとしても特に襲ってくることは無い。
まるで住む世界が異なっているのだと言わんばかりに、ただ村の中を歩き回るだけである。
「何もしてこない方が不気味ですわね。いっそのこと目的を持って攻撃してきた方が分かりやすいのですけれど。こちらから仕掛けてみます?」
「その場合はお前だけで対処することになるがな。……いや、この状況を作り出した奴がこいつらを使って何か企んでいるのだとすると……ここで倒しておいた方がいいのか」
どのみち放置しておくわけにはいかないだろう。
200人余りのゾンビは、見る者にとっては脅威になる。
「バウムさん。貴方はここで観察を。緊急時には支援を頼みますわ」
「ああ。任された!」
手順は先の村と同様だ。
まずはプシュケーがスウェーコンを用いて大多数を一薙ぎに倒す。
その後、漏れ出たゾンビをワルキューレ達が各個撃破していく。
「……ッ! 強い、ですわね」
スウェーコンは村の建造物を幾つも破壊しながらゾンビ達へ迫る。
伝説級武具でありながら破格の性能を持つスウェーコンは、ゾンビ程度は余裕で薙ぎ払えるだろう。
だが、プシュケーが行動を起こした瞬間、ゾンビ達は先ほどまでとは打って変わった動きで対処しようとする。
亜音速程の速度で彼らは一つ箇所に集まると、スウェーコンを受け止めた。
100体のゾンビが集まって1本の槍を受け止める。
馬鹿げた光景、対処法であり、実際は刃付近のゾンビ達は断ち切られているのだが、それでもプシュケーの腕力ではびくとも動かなくなる。
「なっ……!? 何だあの速さは!」
「敵の本拠地ということでしょうか……それとも――」
それとも、ゾンビになってからの日数が経っているからであろうか。
その言葉を最後までは言うことは出来なかった。
100体のゾンビがスウェーコンを受け止めれば、残りのゾンビ達が今度は反撃を開始する。
ワルキューレ達もゾンビを止めようとするが、数の不利で分が悪い。
……否、どころかゾンビ1体1体がワルキューレと同等の強さを誇っている。
「(またも見誤りましたわね……。これ程とは……!)」
スウェーコンを縮め戻す。
その勢いでバランスを崩したのか、ゾンビ達が倒れ、その隙を逃さず再び伸ばし叩きつける。
これで倒したゾンビは約50。
まだ半分以上も残っている。
その間にもワルキューレ達はゾンビに囲まれ傷つく。
「(このままではワルキューレ達が壊滅してしまいますわ。……彼女を出す? いえ、それだけはしませんわ)」
即座に己の力だけでこの状況の解決策を図る。
撤退の二文字が頭をよぎる。
だが、ゾンビ達がこれほどの強さと数を備えていると知った今、尚更逃げることは出来なくなった。
「スウェーコン! 太く、重く、長く! ありったけの力で彼らを押し潰しなさい!」
ワルキューレを下がらせた後、最大質量でゾンビを倒す。
これが最適解であると導き出す。
プシュケーの動きは鈍り、外せば二撃目まで無防備になるだろう。
だが、プシュケーの技量であれば負ける博打では無い。
「ワルキューレ達、下がりなさい!」
「「「イエス、マスター」」」
プシュケーの意図を察したワルキューレ達が戻る。
すぐさまゾンビ達が彼女達を追うが、そこに火属性の魔法が降り注ぐ。
ワルキューレの1人……杖を持つゲンドゥルの放つ魔法である。
その火魔法はゾンビ達からプシュケーを守るように柱となる。
見た目ほどの火力は無い。
触れたところで火傷がせいぜいのものだ。
こけおどしの魔法だ。
だが、それで十分。
僅かでも足が止まれば、間に合う。
「これで、しまいですわ!」
上空から振り下ろされる巨大な槍……否、もはや鉄塊に等しいスウェーコンは下敷きとなったゾンビ達を潰していく。
何体かは抵抗するように一瞬だけ持ち上げようとするも、すぐに圧倒的なまでの質量に抗えずに潰れていく。
果たしてゾンビに適応されるかは分からないが、スウェーコンの下敷きとなったゾンビは例外なく地面との間でプレスされ、圧死していた。
「……まだ、いますわね」
だが、それでも倒れたのはスウェーコンの下敷きとなったゾンビのみ。
重量はともかく、遠心力に振り回されるために、振り下ろすこととなった攻撃は、ゾンビ全てを巻き込むことが出来なかった。
「いや……改めて凄いな。これが魔法少女の力なのか」
「バウムさん、まだ気を緩める時ではありませんわ」
感心するバウムをプシュケーは窘める。
まだゾンビは倒しきっていないのだ。
1体でもバウムに到達してしまえば、恐らくバウムでは抗えない。
ここまでで亜音速の速度、そして先ほどのスウェーコンを受け止めた時の力を見れば、亜竜並にSTRはあると見て良いだろう。
だが、確かにバウムの言う通り、あと数度同様の攻撃を行えば確実にゾンビは数を減らし、ワルキューレ達で殲滅可能となる。
その時こそは幾らでもプシュケーを称賛してもいいかもしれない。
あくまで、その時に至れば、であるが。
ゾンビが動く。
やはり速い。
プシュケーであれば追い切れる速度。
だが、一度に残りのゾンビ……50体が動き出せば厄介であることに違いない。
だが、ゾンビ達が動きた先は前方では無く、後方。
プシュケー達から逃げるように……否、背中を見せて本当に逃げ出していた。
「なっ……まさか、意思があるとでも?」
「いえ。逃げたのではなく、逃げるように命令を出された。つまりは、操っている者がいる。そうですわよね?」
プシュケーは問う。
この場にまだ見ぬ者へと。
「この手際、非常に見事と言わざるを得ませんわ。これほどの戦力を隠れて維持できるとは、鮮やかな手腕……戦争でも仕掛けるおつもりなのかしら?」
ゾンビ達は一定の距離にまで離れると、こちらを見ている。
いつの間にか、四方を囲まれていた。
プシュケーは彼らの主を探すも、ゾンビ達が多すぎるためか、気配が拡散しており分からない。
「そう……あくまでこのまま隠れて、このゾンビ達で私達を倒すつもりですのね。良いですわ、ならば全て倒して引きずり出してやりますわ」
スウェーコンを構える。
最も近い個体から倒そうとし、
「いやいや。違う違う。俺が彼らを下がらせたのはこれ以上被害を出さないためだ。そこのところ、勘違いしてないで欲しい」
初手の攻撃で倒壊した住居。
その1つから声が聞こえた。
男の声だ。
まだ若い、ややダウナーな印象を持つ口調である。
「あー、悪いけど助けてくれるかな? 君たちの主が大変なことになってしまった」
その声に反応したのかゾンビ達は住居を持ち上げる。
下敷きになっていたのか、住居の下から1組の男女が引きずり出された。
「……はは。まさかいきなりこちらの計画が潰されるところだったよ、二重の意味でね」
青年は埃を払いながら立ち上がろうとし、倒れ込んだ。
脚が捻じれ曲がっている。
下敷きとなった際に折れたのだろう。
「……あれ? しまったな」
「お前様よ。なんて無様な……ああ、それもまた良い」
驚異的なゾンビを操っていた下手人にしてはしまらない態度だ。
それが余裕である証拠なのか。
それとも、諦めたが故の言葉なのか。
傍らの少女。
彼女もまた異質な存在である。
左手に紋章は無い。
ティアン、とは考えられない。
恐らくは彼のエンブリオ……ガードナーかメイデンであろう。
「さて、自己紹介をしておこうか。でなければ、公平ではないからな」
「で、あるな。公平公正を謳い、そして不平等であるこの世を憂うが良い」
青年はおもむろに立ち上がる。
骨折をしているなど微塵も感じさせない、一切の揺るぎない姿勢である。
「俺はカズアキ。見ての通り、察しの通りだ。こいつらを操る主人だ」
口の端を吊り上げ、大胆不敵に青年――カズアキは笑う。
対人戦のエキスパートであるプシュケーに対しても。
彼の自慢の手駒であろうゾンビに対しても一切の遅れなく対処しきっても。
それでも勝利を確信しているかのように笑ってみせた。