<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する   作:そらからり

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Bside 美VS醜VS腐 11

■とある少女の追憶

 

 それが――周囲から私への態度が、決して好意的でないことは分かっていた。分かり切っていた。

 判然とした悪意は却って心地よい。

 そんな強がりを言える暇も無く、満ち満ちとした悪意に害され、磨り減る毎日だった。

 

 だから、であろう。

 磨り減る様が彼ら彼女らの悪意を助長した。

 『やり返さないからやってもいいのだ』という馬鹿げて子供じみた論理に辿り着いてしまった、年齢だけは幼くない彼らが行ったのは、大勢を巻き込むということだった。

 

「アンタの名前で申し込んであげたから」

 

 嘲笑を含めた声で告げられた死刑宣告にも似た言葉。

 同時に差し出されたのは、とあるオーディションについて書かれた用紙。

 教室に1人、座って机を眺めていた私の視界にそれは入ってくる。

 

「くくっ……よくあることじゃん? 友達が勝手に申し込んじゃって~って」

「あるあるー。ま、私ら友達じゃないけど?」

「だったらクラスメイトが~ってやつか。ははっ。こんなのとクラスメイトだなんて、俺らかわいそー」

 

 彼らは勝手に盛り上がる。

 私が何一つ発さないのを、発せないと思い――実際にそうなのだが――、決定事項として話を進めていく。

 

「服とかあんの? ま、別に私服でも可とか書いてあるし、アンタのいつものみすぼらしいの着てったら?」

「あ、だったらさー。アタシらでメイクアップしてやんね?」

「良いね。こいつの顔面レベルが更にレベルアップしちまうよ」

 

 視界に入ったオーディション用紙を見る。

 当日は……私の誕生日であった。

 それを知ってか知らずか……私の誕生日など知る由も無いか。

 

「あの、い、や……」

「んー?」

 

 彼らの笑顔が私を黙らせる。

 今年は最悪な誕生日となる予感しかしなかった。

 

 それから毎日。

 歌と踊りの練習と称して、彼らの悪意はエスカレートしていく。

 元よりやる気も無かった私の歌唱力と踊りは特に上達もしなかった。

 

 そして当日。当然ながら不合格の通知を頂いた。帰ったらベッドで枕を濡らした。いつの間にか眠っていた。

 翌日、教室へ入ると待っていたのは、彼らの笑い声。

 

「残念だったねぇ。もしかして期待なんかしちゃった? 万が一にも合格しちゃうとか」

「キ、キャハハハハ! お、惜しかったね。ぷっ……く、ハハハハハ」

「おい、別のオーディション見つけたぞ。地下アイドルのみたいだけど、こっちも受けさせてみようぜ」

「くくっ……。ああ、笑った笑った。私は投票したんだよ。だって、その方がテレビにアンタの醜い顔が映されるかもしれなかったじゃん?」

 

 彼らは一様にして笑う。

 甲高い声を発しながら、私の顔を見て笑う。

 その顔がいくら歪んでいようとも、私以上に整った顔が私に逆らうことを許さない。

 

「じゃー、次は何で遊ぶ?」

「だったらさ、これやってみようぜ」

 

 彼らの1人が携帯端末でとあるネットページを開く。

 そこには、もう一つの世界と題されたVRゲームの記事が書かれていた。

 

「インフィニット……デンドログラム?」

「あー、今話題のやつだろ」

「そうそう。俺、誕生日に父親にねだって買ってもらったんだけどよ、けっこう面白いんだよ」

 

 面白いだろう。

 私もそれは知っていた。

 

「んじゃ、やってみますか。おい、お前も勿論やるよな?」

「え……」

「え、じゃねえよ。知ってるぜ? 一昨日、ゲーム屋でデンドロのパッケージを抱えて出てくるのを見てたんだからな」

「あ……」

 

 もし私が自身の顔を第三の視点から見られたら、きっと顔が真っ青に染まっているのが分かっただろう。

 見られた。

 密かな楽しみを。

 誕生日に節約して貯めた小遣いで何とか手に入れたデンドロ。

 これだけは他者に侵されまいと。

 そう、願っていたはずなのに。

 

「これ、アバターは現実の顔そのままでもいけるらしいぜ」

「へー。んじゃ、お前はそのままな。絶対に弄るなよ」

 

 また、約束……否、契約が取りつけられる。

 ログインしたら待ち合わせ。

 きっと私の醜いアバターを笑うのだろう。

 そうして、ゲームの世界でも奴隷同然のように扱われるのだ。

 嫌だ。

 逃げ道が無い。

 どこにも、私の居場所が無い。

 

「それじゃ。楽しみにしてるわー」

 

 楽しみになんか出来なかった。

 

 その後を端的に言えば、彼らはゲーム世界では弱者であった。

 現実世界で強者を偽っていたが故か、彼らのエンブリオは戦闘に長けたものではなく、ステータスを偽ったり、他者の力を模倣したり、買い物時の値引きであったりと。

 そんな、強さに縋るものばかりであった。

 最初は真面目にジョブレベルを上げようとしていた彼らであるが、次第にそれも怠け、いつの間にか私は彼らを追い越していた。

 

「そうだ! このままアイツに戦闘を任せようぜ」

「はぁ? そんなんじゃ、私達に経験値入ってこないじゃん」

「いいんだよ。それでも金は手に入る。それで、良い装備買ってよ、豪遊してよ、そんな楽しみ方もしようぜ」

 

 結局、彼らは飽き始めていたのだ。

 強さに縋り、強くなれず、弱いまま放棄する。

 

「じゃあ、このまま頼むぜ? ジャミラ」

 

 ジャミラ。

 私のアバターネームだ。

 彼らは私の名を呼ぶとき、必ず笑う。

 

『怪物みたいでアンタに相応しいね』

 私が自身で付けたこの名を彼らは気に入ったようで、特に勝手に決めたことへのお咎めは無かった。

 

「……だ」

「あ?」

「……や、だ」

「てめえ、なんつ――」

「嫌だ! ウリエル!」

 

 左手の紋章が光る。

 光と共に、私のエンブリオが顕現する。

 

「これは……お嬢様、どうやら段階を一つ駆けあがられたようで」

「殺せ。こいつらを皆殺しにしなさい」

 

 力が上昇したのが分かる。

 これまで不可能であった、鏡を用いた他者の転移。

 それが可能になったのだと。

 

「仰せのままに」

 

 私のエンブリオ――ウリエルは一礼すると、彼らの足元に鏡を出現させる。

 それだけで、鏡に触れた彼らは吸い込まれ、遥か上空で放出される。

 

「――」

 

 何を言っているのか、遠すぎて分からない。

 たぶん、叫んでいるだけだ。

 怖くて、何も出来なくて、結末が分かってしまって。

 免れぬ死を前にして硬直し、抗えぬ痛みに呻き、絶叫することしか出来ない。

 

「――ぺきょ」

 

 そして、容易く彼らは死んでしまった。

 恐ろしいはずなのに。

 大きく見えたはずなのに。

 私の一声で彼らの命は絶たれた。

 

「……ハハ。ハハハハハ」

 

 何だ、簡単なことだったのか。

 威張り散らしたところで、怒鳴り散らしたところで、強くなんかなかった。

 顔が整っていようといまいと、死んでしまえば同じ肉塊だ。

 最後は醜い死体だけが残り、〈マスター〉であれば、塵屑となり消える。

 それが酷く滑稽に映り、可笑しかった。

 

「ウリエル」

「はい、お嬢様」

「今日は最高の日よ。ねえ、貴方には私の顔はどんな風に映るのかしら」

「どんな風にと仰られましても。お嬢様の顔はお嬢様の顔としか」

「そう? だったら聞き方を変えようかしら」

 

 アイドルにはなれなかった。

 子供の頃はお姫様に憧れたっけ? 

 でもそれもなれないものだと、すぐに大人たちに言い聞かされた。

 

「私、綺麗?」

 

 

 

 

■レジェンダリア西部 アラハルト採掘場

 

 ウリエルのマスター――ジャミラは鏡での転移能力の使い手だ。

 自身も他者も、物質もそれ以外も選択的に移動することが出来る。

 

 必殺スキルはその強化版。

 通常では制限のかかる転移距離、視界内での転移、重量などが外れる。

 

 尤も、転移した物質をコントロールすることは難しい。

 放出は出来ても、それを武器には出来ない。

 一応、転移先と方向性は選べるが、正確性は無に等しい。

 だからこそ、マグマ。

 そこにあるだけで人の死を告げる超高熱の液体。

 生物が生存するには難しい領域。

 

「全て喰らって、死になさい!」

 

 綺麗な顔を醜く焼きたい。

 そのためにマグマを転移させた。

 

 瞬時にマグマは気化し始め、一体の温度が上昇していく。

 地上に出て急激に冷やされたマグマは火山岩と化していく。

 それでも、その一部はプシュケー達へと押し寄せ――

 

「何を勘違いしているのかしら」

 

 全てが薙ぎ払われる。

 背後に守るバウムたちは勿論のこと、プシュケーにすら火傷や傷跡は見られない。

 

「……え」

「熱いくらいで、これくらいの熱で、臆するとでも。言ったでしょう、私が引き受けると。貴女の相手をすると言ったのですから、対処くらい致しますわ」

 

 プシュケーの手に持つ槍は一切溶けていなかった。

 高熱に晒されても、破損は見当たらない。

 

「行きますわよ、スウェーコン」

 

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