<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する   作:そらからり

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Bside 美VS醜VS腐 12

■レジェンダリア西部 アラハルト採掘場

 

 マグマの濁流に呑まれれば、ただでは済まない。

 どころか、普通に死ぬだろう。

 外気に晒され、多少低温に落ち着いたところで、その熱量は何処かへ消え去ったわけでは無く、未だ一帯に留まり続ける。

 その一端にでも触れたが最後、火傷は免れない。

 火傷……それがプシュケーにとっては恐ろしい。

 爛れも水膨れも、およそ美しいとは言えない。

 

――そんなんを気にするからお前さんはまだ弱いんだよ

 

 声がした。

 叱りつけるような、諭すような、優しい声。

 懐かしい、声である。

 

「プシュケー! 熱耐性のポーションだ」

「助かりますわ!」

 

 背後から投げられたポーションを全身に浴びる。

 それだけで、眼前に迫るマグマの熱量の9割近くは防げるだろう。

 だが、たとえ100℃を下回っていたとしても人体は火傷に侵される。

 低温火傷にしろ、瞬間的な高熱による火傷にしろ。

 人体の体温を超える温度に晒されれば、皮膚に異常は起こるのだ。

 

「そう……後は直撃を防ぐだけ」

 

 高熱の空気はバウムの支援でどうにかなるだろう。

 だが、迫るマグマだけは自身の手でどうにかするしかない。

 

 ワルキューレによる必殺スキル?

 否、既に発動し、これは結果的に起こった現象。

 マグマはただ呼び起こされ、放り出されただけだ。

 どうにかなる代物ではない。

 

 ふと手の中のスウェーコンが震えた気がした。

 何かを訴えるかのように。

 

「……いけると?」

 

 伝説級武具であるスウェーコン。

 果たして、マグマを防げるのか。

 防御に特化した武具であれば、それも可能だろう。

 だが、スウェーコンはあくまで槍。

 槍はマグマを防げない。

 溶かされて終いだ。

 

「いくら貴方でも……今の状態では」

 

 本来の持ち主が扱っていた頃であれば、もしかしたらと考えるかもしれない。

 だが、プシュケーの手の中にある今のスウェーコンは伝説級。

 かつての姿に遠く及ばない。

 

 それでも、スウェーコンはプシュケーを鼓舞するかのように、地面に直立し、一つ大きく伸びる。

 

「……分かりましたわ」

 

 プシュケーは覚悟を決める。

 断ち切らなければ背後のバウム達ごと蒸発するか全身に大火傷を負って死ぬだろう。

 賭けとなる。

 

「いいえ。私とスウェーコンであれば、賭けではありませんわ。ただ、私が成し遂げるだけ」

 

 マグマの波に合わせてスウェーコンが伸びていく。

 その全てを断ち切って見せると言わんばかりに。

 

「スウェーコン……私は教えてあげたいのですわ。彼女に本当の美しさというものを」

 

 振り下ろす。

 10mを越す巨大な槍を真っすぐ、マグマに向かって。

 伸ばせば伸ばすだけ、攻撃性能を増す。

 伴て、扱いづらくもなるが、巨大なモンスター等を相手にするのであれば、むしろ都合がよい。

 

 マグマ如き、相手ではないのだ。

 刃は煌めき、背後に一切の飛沫を許さない。

 依然としてスウェーコンに傷一つ無し。

 その持ち主は言わずもがな。

 

「……え」

 

 そして、まさかマグマを正面から叩き返すなど予想もしていなかったのだろう。

 相手の〈マスター〉も、そのエンブリオも、驚いた顔をしているだけだ。

 

「行きますわよ、スウェーコン!」

 

 〈マスター〉の周囲にある鏡は残り5つ。

 ブラフでなければ、先ほどの必殺スキルによる反動で展開できる数が減ったとみていいだろう。

 先程のマグマで仕留めるつもりであったのならば、尚更。

 

 瞬時に距離を詰める。 

 相手〈マスター〉は何かをしようとしているようだが、今更間に合わないだろう。

 

「(この手の敵はステータスへの強化はほぼ無いはず)」

 

 ふと、どこかで似たようなことを考えたなと、思った。

 すぐに思い出す。

 カズアキとの戦闘。

 ゾンビを掻い潜り、カズアキ本人に迫り、そうして痛い目を見た。

 

「(あ……)」

 

 スウェーコンを伸ばす。

 刺突で仕留めようと。

 相手が避けられない速度で確実に仕留めようと。

 だが、違和感が伝わったのか。

 スウェーコンの伸びる速度がやけに遅い。

 故に、相手に直撃こそすれ、倒すには弱い威力と成り得るはずであった。

 

 鏡が相手の正面に転移してこなければ。

 

「っ!?」

 

 瞬間、プシュケーの体が吹き飛ばされる。

 真後ろに……つまりは衝撃は真正面から来たということ。

 

「なに、が」

 

 ダメージも衝撃もあったが、傷自体は大したことない。

 ただ、予想外なだけに戸惑いが隠せないだけだ。

 

「攻撃そのものの転移……いえ、そうですか。鏡……ああ、ロストしたばかりと噂には聞いておりましたけど、貴女が就いたのですわね」

 

 今の攻撃の正体を察してプシュケーは同時に、その能力も測る。

 

「【鏡王(キング・オブ・ミラー)】……いえ、【鏡姫(ミラー・プリンセス)】ですわね。盲点でしたわ。まだ隠し玉があったなんて」

 

 反射系統の超級職。

 その奥義は確か《ミラー・フォース》……あらゆるベクトルエネルギーを反射させるというもの。

 タイミングは極めて難しいというが、しかし転移能力を持つ彼女であれば難度は下がるのだろう。

 動く人間の足元に的確に転移の鑑を配置したり、岩石やマグマを的確に転移させてきたり。

 元から空間把握能力に長けている。

 だからこそ、なのだろう。

 

「(おまけに、タイミングが多少ずれたところで転移能力で無理やり合わせることも可能、と。色々と上手ですわね)」

 

 奥の手の隠し方も。

 出し方も。

 

 実際、プシュケーが攻撃の手を緩めなければ、やられていた。

 あと一歩、踏み込んでいればプシュケーは自身の攻撃で死んでいただろう。

 

「……さて、どう攻めましょうか」

 

――そうじゃねえだろう? お前さんが今、しなきゃいけねえのはさ

 

 再びの声。

 それはプシュケーの思考を軌道修正させるためのもの。

 彼女が道を誤ったからこそ、出てきた声。

 

「……ですわね」

 

 今度こそ、プシュケーはその声の主が何であるか理解する。

 手に持ったスウェーコン。

 彼であり、彼のかつての主。

 【猿猴鉾 スウェーコン】の意思がプシュケーに語り掛けていた。

 

 

 

 

■2年前 プシュケー・アーチ

 

「これがゲームの世界、ね」

 

 金髪碧眼。

 魔法少女として活躍する時代と、衣服以外の外見に変わりはないプシュケーが天地のとある城下町のセーブポイント前にいた。

 感慨は無い。

 感想も、大してない。

 ただ、あまりにも現実の自分と似通っていることに、期待を下回ったことにガッカリしただけだ。

 現実と同じく美しい。

 ただそれだけの自分の姿に。

 

「……髪と目の色を弄ってみたけど、似合っちゃっているんだよなぁ」

 

 第三者からすれば驕りや自慢、自惚れとも取れる言葉。

 だが、プシュケーにはそのような感情は一切ない。

 思った通りの感想を、事実を述べただけだ。

 

「似合っていなければ現実でも髪の色を染めて、カラコンをしようかと思ったけど。やめておこ。こんなので目立ちたくないし」

 

 さて、ログインして早速、プシュケーの左手の紋章が光り、エンブリオが孵化した。

 銘は【戦場戦姫 ワルキューレ】。

 TYPE:ガードナーの、プシュケーと同じ姿、同じステータスを有する少女型のエンブリオのようだ。

 

「……」

 

 プシュケーは無言でワルキューレを格納した。

 ブリュンヒルドと、何故か個体名の付けられた少女を見ることは出来なかった。

 見ることを、許せなかった。

 

 エンブリオが無くとも、プシュケーには一定の技量と才能があったようだ。

 前衛系の武器であれば一通り扱え、特に槍が手に馴染んだ。

 現実では決して手に出来ない武器と、粗野な装備で身を包み、天地のあらゆる地で武芸を学んだ。

 レベルが足りず、死んでしまうことは多々あったが、それもまた貴重な経験と喜んだ。

 ひたすらに強くなることを望んだ。

 ひたすらに美醜など入る余地の無い戦いの中に身を置くことを望んだ。

 

 その中で、とある山に巣食うUBMの名を聞いたのだ。

 曰く、戦うだけで強くなれるUBMであると。

 だが、不思議なことに。

 倒しても特典武具を得られないのだ。

 だから、経験値稼ぎに、何度でも戦えるUBMであると、武者修行に勤しむ者達にとって知る人ぞ知る修行地として名を馳せていた。

 

 行ってみようと、思った。

 何故か、行かなければならないと、呼ばれたと感じた。

 

 山は険しく、過酷であった。

 途中出会った猿型のモンスターは手強かった。

 槍捌きに自負があったが、そのモンスターの扱う槍捌きもまた一級品であり、自身と同格であると感じた。

 何とか倒すと、急に霧が立ち込めてきた、

 

 プシュケーはこの霧の中から先ほどの猿型モンスターに不意打ちを受ければひとたまりも無いと警戒する。

 霧が全身を包む。

 じっとりと、嫌な感触だ。

 まるで自身を測られているかのような。

 だが、不要に動けない。

 動けばその瞬間、死ぬのではないかと錯覚していた。

 

 しばらくして霧が晴れた。

 何事もなかったかのように、何処かへ文字通り霧散していた。

 

「いよぉ。儂に何か用かい?」

 

 そして彼女は出会う。

 いつの間にか木の陰に寝ころびる人間大の猿。

 否、ソレはモンスターであり、特別。

 【大公猿主 スウェーコン】。

 黄金の毛並みを揃える、神話級(・・・)UBMであった。

 




過去の話書くのがめちゃくちゃ楽しい
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