<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する   作:そらからり

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Bside 美VS醜VS腐 14

■【疾風槍士】プシュケー・アーチ

 

 スウェーコンの師事する修行とは、槍の素振りやステータスを上げることでは無い。

 黄金の猿は、その体毛を1本引き抜くと、ぷぅと息を吹きかける。

 黄金の体毛は瞬時に1匹の猿へと姿を変える。

 それは、プシュケーが山を登る途中で戦った猿そのもの。

 どこからか取り出した槍を構え、猿はプシュケーの前に立つ。

 

「これが儂の能力の一端よ。貯め込んだ力を自在に放出する。自在にってのは、撒き散らすだけじゃねえ。散らし方も様々よ」

 

 周囲に霧が立ちこみ始める。

 なるほど、確かに自在であるとプシュケーは感じ取る。

 猿型モンスターを形作るリソース。

 霧というリソース。

 リソースで形作る。

 リソースの許す限り、様々な形へと変化する能力というわけだ。

 それも、外側だけ、外見だけ取り繕うのではなく。

 中身すらも伴うものなのだろう。

 

「さて、修行だ。こいつは、今のお前さんよりもほんの少しだけ強くしてある。今日中に倒せ。それが課題だ」

「今の私よりも……」

 

 それがステータスなのか、スキルなのか。

 ……否、今のプシュケーに足りないもの。

 それは技術。

 スキルという小手先に頼らない、槍術を身につけろということなのだろう。

 

「分かったわ。やってやろうじゃないの」

 

 こうしてプシュケーの修行は始まった。

 ちなみに、この日生み出された猿型モンスターを倒せた頃には夜中になっていた。

 

 

 

 

「ふっふっふ」

「お? 随分と自信ありげじゃねえの」

「秘伝の書を見つけたのよ。ひとまず無辺流は収めたわ」

「ほう? 流派か」

 

 その日は直ぐに決着が着いた。

 

 

 

 

「この間は簡単に倒せたし、もう少し強くしてもいいわよ?」

「さぁて、そう上手くいくものかい?」

「……ッ!? ちょっと、何でコイツが無辺流を使えるのよ!?」

 

 その日は、プシュケーが齧っただけの流派の幾つかを何とか繋ぐことで勝利を収められた。

 

 

 

 

「……はぁ。どうせ大島流も香取神道流もソイツは覚えてるんでしょ?」

「まあ、そうだな」

「いいわよ。じゃあ私が生み出した新流派を見せてやるわ!」

「……へぇ?」

 

 その日は、拮抗した時間が長く、僅かな隙を見つけることで漸く勝利した。

 

 

 

 

「……なあ、お前さん」

「なに?」

「ちと遠出をしてみないか?」

「遠出?」

「ああ……海を渡り、遠く西南の地によ、面白れぇ職業があるって話だ」

「ふうん? でも、遠いんでしょう?」

「まあ、な。だがよ、儂が雲を出す。ソイツに乗ればひとっとびよ」

「雲? 別にいいけど……アンタとの修行はどうするのよ」

「そうさな……今の強さなら月に一度くらいでいいだろ。儂の念を込めた札をやる。ソレを頼りに儂は雲を飛ばすから、見えたら乗ってくれ」

 

 ある日、告げられた言葉。

 それもまた修行だとスウェーコンは言う。

 ジョブの名は【魔法少女】。

 αからωまである下級職であり、固有スキルと膨大なステータスの恩恵があるらしい。

 強くなるならば、確かにうってつけだとプシュケーは聞いただけの話では頷きかける。

 だが、美味しい話には裏がある。

 

「なにか、隠しているの?」

「……なんでそんなことを思った?」

「なんとなく」

「勘か……かかっ! まあ、そりゃあ疑うわな。……その【魔法少女】だがよ。欠点が多少なりともある。そのうちの一つが、衣装の固定化だ」

「衣装?」

「随分と可愛らしいべべを着せられちまうんだとさ。お前さんは耐えらえるかい?」

 

 確かにそれは大きなデメリットだ。

 少なくともプシュケーにとってはそうなるだろうと、これまでの態度や会話からスウェーコンは察してもおかしくない。

 

「……強くなるためなんでしょ?」

「ほう? 我慢すると」

「するわよ。アンタを倒せるくらいに強くなる。強くなるためなら、私は何だって我慢する」

「……そうか。我慢するか」

 

 天地からレジェンダリアへと。

 遥か遠くの地へプシュケーは移ることとなった。

 

 

 

 

「……スウェーコン。修行を始めましょう」

「かかっ! 良いねえ。馬子にも衣裳たぁ、こういうのを言うのかねぇ」

 

 褒められたのか貶されたのか。

 どちらなのだろう。

 プシュケーのことを真に知るのであれば……いや、知っているからこそ、どちらとも取れない言葉を選んだのか。

 

「【魔法少女β】。武器の熟練度を上昇する、武器の強化を可能とする魔法少女。これが私に合ってるかなって」

「良いんじゃねえの? それで、1カ月、無駄に過ごしたわけじゃねえよな」

「勿論。数多の魔法少女。彼女たちと日々戦い、全員に勝って来たよ」

 

 プシュケーが槍を構えると、スウェーコンはひゅうと口笛を鳴らす。

 最初に見た時よりも様になっている。

 槍使いとして、入り口に立ったと、スウェーコンは内心褒める。

 

「それじゃあ見せてもらおうか」

 

 週に1度から、月に1度へと、間隔こそ空いたが修行の密度は薄くならない。

 むしろ、多種多様な能力を持つ魔法少女達と切り結ぶ日々が更なる成長を与えていた。

 

 

 

 

「スウェーコン、聞いて! 友達が出来たの。とても可愛くて、エンブリオも可愛くて、しかも魔法少女にしては凄く良い子なんだ」

「良いことじゃねえか。ダチは一生の宝だ。大事にしてやんな」

 

 ある日は友人についての報告をし、

 

 

 

 

「スウェーコン、聞いて! どうやら【魔法少女】にも超級職があるみたい。今、友達とそれについて探っているんだけど、私、絶対にそれに成ってみせるから」

「目標があることは良いことだ。頑張りな」

 

 ある日は、ロストジョブの復活の報告をし、

 

 

 

 

「スウェーコンさん」

「うん? どうした、改まって……というか畏まって」

「ふふん? どうです? こうして言葉から気品を感じるでしょう?」

「……ああ、そうだな」

「私、気づきましたの。強くなるなら自分を変えなくてはいけないと。こうして、魔法少女としての衣装を着ているのですから、それに相応しい自分にならなくてはいけませんわ。差し当たって、身振り手振り口ぶりを整えてみましたわ」

 

 ある日は、彼女にとってのターニングポイントをスウェーコンは感じ取って、

 

「なあ、お前さん。お前さんは自分のことをどう思うんだ?」

「私のことですか? そうですわね……とても美しい。そう思わざるを得ませんわね」

 

 手鏡を取り出し、身だしなみを整える彼女にスウェーコンは問う。

 ぼさぼさな髪も、粗野な衣装も、今は無い。

 美麗な金髪は整えられ、魔法少女の美しき衣装に身を包むプシュケーは、自他共に美しいと言わざるを得ないのだろう。

 

 だが、それを否定していたのは誰でも無く彼女自身。

 

「そうですわ! スウェーコンに報告がありましたの」

「へえ、何だい?」

「私のエンブリオ、ワルキューレは進化と共に人数が増えることは以前伝えましたわよね?」

「ああ。だが、戦力としては心もとないって話だったな」

「今回の進化で私のステータスをそのまま写し取るようになりましたの」

「……ほう」

「その代わりに、私のジョブレベルの上昇は抑え気味らしいのですけどね。ああ、あと……やはりワルキューレ達はそれぞれに固有の熟練度があるみたいですわね。武器の扱いが最初に生まれてきた子程上手いですわ」

 

 その言葉が決定打となった。

 修行の終わりは近い。

 スウェーコンはプシュケーが自身の力を引き継げるだけの器と成り得たと判断する。

 

「それならこれからの修行はそいつらも交えてやるか」

「7匹の猿と私達ワルキューレ部隊の戦い……これが真の七本槍ということですわね」

 

 意味不明なプシュケーの言葉を流し、スウェーコンは修行を開始した。

 

 

 

 

「スウェーコンさん! 聞いてくださいまし。酷いですのよ……せっかく仲良くなれたというのに、友達になれたというのに……私を食い殺すだなんて」

 

 またある日は、ロストジョブであった超級職の就職条件を満たすための儀式途中で死んだことを聞かされ、

 

「私、決めましたわ。彼女のライバルとして、これからは互いに高め合っていきますわ。……もう二度と負けませんわよ」

 

 心折れることの無い宣言をし、

 

「ようし、じゃあプシュケー・アーチ」

「はい?」

「時間だ。儂を殺せ」

 

 苦節二年。

 それだけの修業期間を経て。

 プシュケーは特典武具を得る器として完成した。

 即ち、スウェーコンを殺す時期が来たのだ。

 




【大公猿主 スウェーコン】
能力はリソースの貯蓄と放出
放出に関しては、モンスターや霧、雲などの形を変えて行うことが出来る
また、膨大なリソースから成るそれらは亜竜級に近しいステータスであったり、一級品のアイテムとして運用することが出来る。
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