<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する   作:そらからり

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Bside 美VS醜VS腐 17

■とある廃村

 

「あに、あにあにあにあに兄者ぁぁぁぁぁ」

「――」

「死ぬなよ兄者ぁぁぁ。死にたかねえよぉぉぉぉ」

 

 叫ぶは蟲型UBMであるモストーン。

 そして、返す声も無いのはその兄であるフライヤー。

 

 どちらも死にかけであった。

 肉体は腐り、元より腐っていた思考もエスカレートしていく。

 

「あ、あああああああああ! そうだ。喰らえばいいんだ。俺たちの傷が治っちまうような、特上の餌を見つけりゃぁ……」

 

 立ち上がろうとしたモストーンの脚が一つ腐り落ちる。

 途端に転げ、その拍子に翅も数本欠けた。

 

「ぎ、ぃやぁぁぁぁぁぁ――」

 

 死に体。

 生存は絶望的である。

 古代伝説級であるドラグロットに負わされた傷は致命的であった。

 

「畜生……ドラグロットの旦那め……」

「さけぶ、な……傷が広がるだけ、だ」

 

 息も絶え絶えにフライヤーは妹へ忠告する。

 事実、先ほどから口数の少ないフライヤーの方が傷口は小さい。

 だが……小さいだけで深かった。

 

「……ふぅ」

 

 小さく息を吐く。

 傷口に痛みが走る。

 それでも、痛みを確認し、まだ生きていることを実感することで何とか意識を保つ。

 

「……現状確認だ。モストーン、周囲に人間は?」

「駄目だぁ。生きた人間は1匹もいねえよぉ」

 

 生きるには餌が必要だ。

 回復するためにはエネルギーが必須だ。

 

「……(かくなる上は)」

 

 どちらかだけでも生きるために。

 可愛い妹分だけでも生かすために。

 この身を犠牲にするしかないだろうかとフライヤーは腹をくくる。

 

「(……臓器は生命維持に必要なもののうち即死しないものだけが残っている。眼は半分程イカレているな。自慢の翅もほぼ溶けている)」

 

 堅実に非情な現実を認識する。

 

 続いてモストーンの傷。

 あちらは翅やら脚が取れているが、それだけだ。

 見かけは大怪我であるが、内部は無事に近い。

 恐らくは肉体を眷属で覆うことで腐敗の進行を防いでいたのだろう。

 

「(避けるだけしか能の無い俺との違いが出たな。やはり……ここはモストーンが生き残るべきか)」

 

 戦闘経験の差では無く、これまで傷を負ったという経験値がモストーンの防御性能を上げた。

 そこが互いの負傷具合の境目であった。

 

「(……眷属の扱いも上手くなったものだ。俺達が落下によるダメージで死ななかったのもこいつらのおかげ、か)」

 

 咄嗟に残ったモストーンの眷属達がフライヤーとモストーンの落下速度を抑えたため、即死だけは免れた。

 感謝しても足りない。

 その借りは返せるうちに返さなくてはならない。

 

「……いいか、モストーン。先に死ぬのは俺だ。だから、俺を喰え」

「……へ? 嫌だ、嫌だぁぁぁぁ」

「嫌だとかいう話ではない。どちらかが生き残る話だ。死体しか食えぬ俺と違い、お前は生きた生物からしかリソースを補給出来ない。だから、俺が生きているうちに――」

 

 と、自身の口で、互いの『食べることのできる条件』を語ったところでフライヤーは先の言葉を思い出す。

 妹分の口から出た言葉を。

 

「待て。モストーン。お前さっき何と言った?」

「え? 嫌だ、って」

「違う。違う違う違う……お前、生きた人間はいないと言ったよなぁ!?」

「あ、ああ。言ったぜ。眷属は一滴も血を吸えないで戻ってきて――」

「――だったら、死体はあったのか?」

 

 わざわざ生きたと言ったのだ。

 

 生きた人間はいないと。

 死んだ人間が見つからなかったとは言わなかった。

 

「うぇぇ? どうだろ……俺の眷属が言うには動かなくなった死体は無いって……」

「バカ野郎が! ドラグロットの野郎と一緒に居た人間を忘れたか。あいつらは死体を動かす。動かない死体なんて付近には存在しないんだよ!」

「あ、そっか……」

 

 すぐにモストーンは眷属を飛ばす。

 眷属の群れはやがて、干からびた死体を運んできた。

 

「兄者ぁぁぁ。あったよぉぉぉ!」

「……っ!」

 

 最後の力を振り絞り、フライヤーは死体へと飛びつき、むしゃぶりついた。

 齧り、咀嚼し、呑み込む。

 己の力へと変え、回復へ勤しむ。

 

「……よぉぉぉぉし。復活だ」

 

 複眼すらも全て新たなものへと生え変わる。

 フライヤーは空高く飛びあがると、

 

「……ふん。近いな」

 

 薬草を採取していたティアンの子供、草を食んでいた中型モンスター、それらを狙っていた小型の肉食モンスターを全て一瞬にして気絶させモストーンの下へと持ち帰る。

 

「……! 兄者!」

「喰え。そして急ぎ支度を整えろ」

 

 上空から見えた。

 人間同士の戦い。

 強者であることは一目瞭然。

 距離的に敵対することは避けられない。

 

「こちらから打って出る。お前の眷属と俺。最大戦力で終わらせるとしよう」

 

 

 

 

■レジェンダリア西部 アラハルト採掘場

 

「っ蟲だぁぁぁぁぁ」

 

 倒れたかと思うとバウムは跳び上がり叫ぶ。

 ガスマスクの下でくぐもった音が反響する。

 最もうるさく感じるのは彼自身であろう。

 

「な、なんなの突然……」

 

 それに驚いたのはジャミラ。

 蟲の大群は多少気味が悪いが、それ以上にバウムの大声に驚いていた。

 

「私も詳しくは聞いていませんけど、どうもトラウマみたいで。昆虫というものに」

「はぁ……」

 

 だが、仲間に正気でいられない者がいるというのは不味い状況である。

 それだけで統率が乱れる。

 統率が取れなければそこから死者が出る。

 死ねば、負ける。

 

「あの虫に覚えは?」

「えっと、多分だけど……あの腐ったドラゴンの近くに落ちていた奴のどっちかかな。虫ぽいシルエットだったし」

「……ドラグロットから吐き出された個体ですわね。ただのモンスターであればそれだけで原型を留められませんでしょうし、UBMか、それに近い存在。また新たな敵……面倒ですわね」

 

 プシュケーの溜息にジャミラは頬を掻く。

 要らぬ消耗をさせたと申し訳なく思い、

 

「わ、私が倒して来るわ」

 

 鏡を一枚、自身の前に出現させる。

 

「あの虫の大本が先ほどのモンスターなら既にマーキングはしてある。……どちらか分からないけど。でも、貴女の代わりに私は――」

「ジャミラさん。私の代わりなんていませんわ」

「そ、そうよね……私なんかじゃ……」

「美はそれぞれでしてよ。私だけの美しさがあるように、貴女だけの美しさもありますわ」

 

 もしもバウムが正気であれば、『そんな話していたか?』と突っ込んだのだろうが、ここにはプシュケーと、その信奉者たちしかいない。

 故に、会話は成り立つ。

 今の返答でジャミラは納得し、奮い立つ。

 

「い、行ってくるわね。プシュケーさんはなるべく温存してて。そして、何かを企てているあの男を懲らしめて」

「ふふっ。大役ですわね」

 

 ジャミラがマーキングしてある2体のモンスターの位置は別々。

 1つはゆっくりと、1つは猛スピードでこちらへと迫っていた。

 

「(……大群とは違う反応。脅威はこちらの方が上!)」

 

 猛スピードの反応源を選ぶ。

 大群が迫るにはまだ時間がある。

 ……否、そちらは

 

「……」

 

 バウムが転移直前のジャミラの耳元で小さく呟いた。

 そして、蟲の大群とは別の方へ走り出す。

 

「うわぁぁぁぁぁぁ!!! 蟲だぁぁぁぁぁぁぁ」

「……演技が下手」

 

 笑う。

 仲間の滑稽な演技に。

 

「……ふふっ。私が仲間、か」

 

 大群は任せていいだろう。

 ならば、ジャミラはもう一仕事ある。

 

「プシュケーさん」

「……?」

「すぐ、追いつくから」

 

 プシュケーの全身を鏡が映す。

 

「あら綺麗」

 

 瞬間、プシュケーの姿が消えた。

 

 

「プシュケーさん……勇気をありがとう。私も行かなきゃ」

 

 ここが防衛の最低ラインと定める。

 ここから後ろは人の暮らす村も多くある。

 だから、蟲の大群も、ゾンビも何もかも。

 害する全てを通すわけにはいかない。

 

 今度こそジャミラも転移する。

 亜音速以上の速度で飛来するモンスター。

 その眼前へと。

 

「……は?」

 

 間抜けな声が聞こえる。

 その顔面へとジャミラは右足を蹴り入れた。

 

「ぐ、お……」

 

 モンスターは足蹴にされた衝撃で地面に叩きつけられる。

 ジャミラもまた、鏡を出現させると落下運動のエネルギーは発生する前に地面すれすれに転移し、着地した。

 

「同じ日に二度もぉぉぉ! この俺に傷を負わせるとはな!」

「既に天幕は上がったわ。私のステージが始まる。ファンなら静かに聴きなさい!」」

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