<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する   作:そらからり

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Bside 美VS醜VS腐 22

■レジェンダリア とある荒野地帯

 

 メインジョブである【鏡姫】は魔術師系統の超級職。

 エンブリオであるウリエルはTYPE:アポストルであり、例にもれずステータスへの補正は皆無。

 後衛職とステータス補正無しのエンブリオ。

 この2つの組み合わせから、プシュケーはジャミラ本人の戦闘能力はそう大したものではないと評した。

 恐るべき能力を有しているからこそ、それ以外の面は弱いのだと。

 

 実際、プシュケーとの近接戦を継続していれば、間違いなく地に伏していたのはジャミラであろう。

 多少近接戦の心得がある程度ではプシュケーと戦闘を拮抗させることなど出来ず、ナイフが一番扱いやすいなどという理由で短剣を主武装にするようでは、到底敵わない。

 

 そう、その程度であれば。

 

「(……ちぃ、思ったよりも手強い!)」

 

 圧倒的なまでの速度で翻弄するかと思ったが、予想に反して持ち応えるジャミラに対してフライヤーは内心舌打つ。

 

 眼で追える速度では無いはずだ。

 他の感覚器官でも対応出来ないはずだ。

 

 なのに……何故。

 

「何故俺の身体が切り刻まれていくんだぁぁぁぁぁ」

 

 ジャミラの背後を取る。

 狙いは急所である首筋。

 太い血管を千切りさえすればそれだけで決着はつく。

 右の鉤爪が捉え――そして裂かれたのはフライヤーの首であった。

 

「――ッァァァァァァ」

 

 すぐさま捨て置いてあった人間の死体を喰らい傷を回復する。

 その眼は既に傲慢や慢心は無い。

 殺し殺される覚悟の入り混じった、野生の瞳であった。

 

 

 

■【無願執着 フライヤー】について

 

 元より腹を満たしたかった。

 妹と共に、腹を満たし心を満たし、生を満たしたかった。

 つまらない生き方だ、と言われようとそれだけで十分であったのだ。

 

 ただ、死んだ人間を食べるために人間を殺していただけなのに。

 妹は、人間から生き血を吸っていただけなのに。

 

 それなのに、追われる身となった。

 それだけで、殺される恐怖を味わった。

 

 だから、とある噂に頼ったのだ。

 生きた人間を屍に変える能力を持つ者がいるという。

 その屍は動き、屍を量産するのだという。

 

 屍……死体。

 何ということだ。

 好物が……否、唯一食すことのできるものがあちらこちらを動き回るとは。

 生き血しか吸えない妹。

 死体しか食べられない兄。

 歪な食の偏りによって、生存が困難であるかと思われていたが。

 そんな、天国のような場所に辿り着けば、天国の住人のような者に出会えれば。

 満たされるのではないだろうか。

 

 自在に死体を作れるのだとすれば、死体に変える前に少しだけ血を分けてもらうことだって可能だろう。

 自在に死体を作れるのだとすれば、死体から少しくらい肉片のおこぼれを頂くことだって叶うだろう。

 

 だから、目指した。

 途中、その件の人物とドラグロットが協力関係であると聞いた。

 ドラグロット……太古の竜王。

 神話級に迫る古代伝説級最強のUBM。

 同じUBMだから受け入れてもらえるだろうか。

 死肉と腐肉。似たようなものだ。

 もしもドラグロットが死肉や腐肉を喰らうのであれば、話が合うのだろうか。

 

 それに、件の人物だって、屍を作り出すという稀有な能力を持つくらいだ。

 能力は精神に根ざす。

 死体に特別な感情を持っているかもしれない。

 

 とりあえず話そう。

 とりあえず会いに行こう。

 邪魔な人間は排除して。

 平穏を乱す敵は始末して。

 

 そうして、満たされた天国のような場所で暮らすのだ。

 

 

 

 

■レジェンダリア とある荒野地帯

 

【<UBM>【異類顕血 モストーン】が討伐されました】

 

 聞こえるはずの無い声。

 盟友が、恩人が、兄妹がたった今殺されたと、知らされる。

 

 幻聴であると、そう首を振りたかった。

 だって、UBMが討伐されてなんて声は今まで聞いたことが無い。

 これこそが敵の能力なのだと、そう納得させたかった。

 

 だが、分かってしまう。

 モストーンは死んだ。

 可愛い妹分は殺されたのだ。

 天国の住人となることはもう……無い。

 

「あ、あ、馬鹿な……」

「……?」

 

 フライヤーの動きが止まる。

 襲って来る気配が消え、ジャミラも展開していた鏡に傷が無いか確認する。

 

「(まだ平気ね……)」

「(お嬢様。こちらも余裕はあります。仕掛けに気づかれる前に仕留めましょう)」

 

 ウリエルとの念話の後にジャミラは敵を真っすぐに見据える。

 とはいえ、敵は音速に近い領域で移動する化物。

 今見えていても、攻撃された瞬間にどこにいるか把握するのは至難の業だ。

 

 だからこそ、鏡を用いる。

 転移だけでない。

 鏡は反射し、姿を写す。

 正面に配置すれば背後を確認出来るし、周囲に展開すれば、死角は限りなく減る。

 あとはタイミングを合わせて反射魔法を使うだけ。

 それだけで、鋭い斬撃もフライヤーへと返すことが出来る。

 

「モストーン……あああああああああああああああああああ――」

 

 フライヤーは叫ぶ。

 その細い体躯から想像もつかない程の音は空気を震わせ、そして爆発するかのような音を出し、

 

「――まずはお前からだ」

 

 ジャミラを殺すべく、死体を抱えたまま超高空へと飛翔していった。

 

 その速度は既に音速の域。

 死体を喰らう程に傷を回復し、速度を上げていく。

 だが、その反面AGI以外のステータスは一切上昇しない。

 とくに、問題はENDだ。

 AGIが高くとも、その速度に肉体が追いつけず、次第に肉体が崩れていく。

 死体を喰らうことで無理やり回復しているが、それも時間の問題だろう。

 

「……こんなところか」

 

 そして、ある高度にまで達したところで、反転し、肉眼では視認できない地上の一点――ジャミラを目指し急降下していく。

 

 先程の比では無い速度、そして肉体の崩壊。

 残り僅かな死体を口に入れ、フライヤーは降下していく。

 その速度でジャミラに衝突すれば、確かに即死させることは可能だろう。

 だが、同時にフライヤーの肉体も対消滅する。

 

 それをフライヤーは微塵も危惧していない。

 

 一定以上の速度で対象に衝突した時にのみ、そして自身のダメージが致死量であった時にのみ、自身への反動ダメージを対象に押し付けるスキル。

 それこそが《彼方への飛翔(ザ・フライ)》。

 フライヤーの切り札にして、彼が等級詐欺であるとされる所以。

 

「――ハァァァァァァァッッッッハァァァァ」

 

 降下し、徐々にジャミラとの距離が短くなる。

 敵はこちらを見上げる。

 何も問題は無い。

 たとえ分かっていたとしても避けられるはずがない。

 避けたところでフライヤーが再び軌道修正すればいいだけの話。

 

 近くなる近くなる近くなる近くなる。

 点であったジャミラが徐々に徐々に徐々に大きくなり――そして視界が何かで埋まった。

 

「……は?」

 

 そして衝突する。

 何かに――フライヤーが隠していた死体に衝突する。

 スキルによりフライヤーへのダメージは発生せず、代わりに死体が肩代わりする。

 

「なに、が……」

 

 だが、速度は減衰してしまい、再び加速したところで《彼方への飛翔(ザ・フライ)》は発動しないだろう。

 

「ああ、やはりその手のスキルだったわね。咄嗟に死体を投げて正解だったわ」

 

 ジャミラは人間の死体を幾つか鏡から出現させては格納を繰り返す。

 全て、フライヤーが戦闘のためにと隠しておいたものであった。

 

「て、めえ……」

「舞台の上からでもキチンとファンのことは見えているのよ。だから、ちゃんと理解したわ。アンタの弱点も。これでしょう?」

 

 死体をどこかへと転移させる。

 食事が、活力が、力の源が。

 死体が無ければ何もできない。

 それこそがフライヤーの弱点であるとジャミラは見抜いていた。

 

「死体を食べて回復する。でも肉体の強度は上がらない。上がらないから私の脆弱なステータスでもダメージを与えられるし、警戒をせずにはいられない。速度を上げれば、それだけで肉体へのダメージが発生してしまう。それを防ぐには死体を食べなくてはいけない」

「……の、ぉ」

 

 探す。

 死体を、まだどこかへ落ちていないか。

 

「……!」

 

 視界の隅に腕が見えた。

 岩の影に一つだけ、落ちている。

 戦闘の折に胴から離されたのか、腕だけだが充分だ。

 死体があればまだ戦える。

 

「舐めた口も今のうちだ。すぐさま――」

 

 速度では未だフライヤーが圧倒的に有利。

 落ちている腕を拾い、そして口に放り込む。

 美味い。

 まだ新鮮な、まるで捥ぎたてのような――

 

「――ゲ、ゲ、ゲ、ゲ、ゲ、ゲ……」

 

 咀嚼出来ない。

 吐き気を催す。

 駄目だ。

 これ以上口に入れてはならな――

 

「死体、よ。だからアンタの弱点は、死体しか食べられないこと。UBMのことは良く分からないけれど、普通はリソースを取り込むなら生きた人間の方がいいはずよね? なのにアンタは頑なに死体しか食べなかった。周囲に少ないことは分かるけど、それでも拘りを感じたわ」

 

 何を言っているのか。

 理解できない。

 耳に入らない。

 

「だから、生きた肉を食べさせたらどうなるか。強い能力にはたいてい欠点や弱点、制約があると私は考えた。ウリエルがそうであるように、逸話級UBMにしては強いアンタにだって、あるはずだとね」

 

 フライヤーの目がジャミラの右腕を見る。

 風で切り刻み、使えなくさせたはずの右腕。

 それを先ほどから左手で抑えていると、そう思ったが……違った。

 右腕は腐っている。

 まるで死体の腕であるかのような。

 

「取り替えたわ。言ったでしょう? 心中してあげましょうと。でもごめんなさいね。途中で気が変わってしまったわ。慰謝料代わりに受け取ってちょうだい、私の腕を」

「き、貴様あああああああああああああああ。食べさせたな、この俺に、貴様の腕を!?」

 

 生きた肉を食べてはならない。

 それだけはしてはいけない。

 死体を好んで喰らい、死体しか喰らえず。

 その制約の下に力を得たフライヤー。

 守れずに破ればどうなるか。

 

 バツンと弾ける音がした。

 次の瞬間にフライヤーがいた場所には何も残っていなかった。

 

 

【<UBM>【無願執着 フライヤー】が討伐されました】

【MVPを選出します】

【【ジャミラ】がMVPに選出されました】

【【【ジャミラ】にMVP特典【無辜悲願 フライヤー】を贈与します】

 

 

「それにしても……随分と無茶な頼みをされたものね」

 

 フライヤーとモストーンが現れた際、バウムに耳打ちされた言葉を思い出す。

 『プシュケーを西部に送るんだ。こいつらは俺達で倒す』

 

 後ろで怯えているばかりの非戦闘員かと思っていたが、そうでもなかったらしい。

 2体のUBMをそれぞれで打倒するなど、一歩間違えれば被害はより甚大なものになっていたかもしれないのに。

 

「ふん……おかげで私の右腕が無くなってしまったじゃないの。お代は高くつくわね」

 

 まずはバウムの回収からだ。

 少しばかり悪態をつきながらバウムのマーキング位置を探し始めた。

 




流石に話数増えてきたので決着はあっさりとつけました
ジャミラさん、普通に強いですよ
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