<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する   作:そらからり

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Bside 美VS醜VS腐 23

■廃村――ゴラグ村

 

 掘る。

 掘る。

 掘る。

 

 開拓、開発、土木、……一般に工事と呼ばれるそれらの作業において、最も基礎であり精神を疲弊させるもの。

 そして、単純であるが故に、時に思考すら放棄した方が作業が進むのではないかと錯覚させられるもの。

 

 その、掘削という作業をみながらカズアキは思う。

 まるで奴隷だ、と。

 彼らは何も考えない。

 何も感じない。

 ただ、命じられたままに己が肉体の限界まで動き続ける。

 そこに違和感も覚えず異論も唱えず、頭は動かさず、手足だけを動かす。

 

 1人が倒れた。

 脚の骨が折れたようだ。

 その表情は痛みを訴えない。

 残った脚で立ち上がろうとし、再び転がる。

 惨めであると思うだろうか。

 否、カズアキはただ小さく息を漏らす。

 効率がほんの少しだけ悪くなってしまったと。

 

「……補充は難しいか」

 

 付近に待機させておいた屍達の数が減っている。

 自身の配下としていた存在の減少に、今更ながらに気づいたことに少しだけ恥じつつ、カズアキはその原因を探る。

 

「つまみ食いでもされたか」

 

 恐らくは2匹の逸話級UBM。

 その片割れが死体を喰らったのだろう。

 以前からその噂は耳にしていた。

 死体を喰らう程に強くなると。

 

 であれば、屍の1体や2体、食われたところで不思議はない。

 痛みを感じず、意思も感じず、命ずるがままに戦うゾンビであろうと、しかしUBMを前にしては流石に分が悪い。

 翅があったことを思い出し、空からの奇襲であれば尚更かとカズアキは頷く。

 

「……お前様」

「なに、想定内さ。彼らの1体や2体、痛くはない。それに……もうすぐ作業は終わるのだから」

 

 彼ら――村の屍達は一心不乱に地面に穴を空けていた。

 数か所を同時に、では無い。

 一つの大きな穴を、深く深く深く――掘り進んでいた。

 

「この分なら1時間もしないうちに終わるだろうね。真上に建築物が作られることが前提だったのかな。でなければ、1日かかっても掘り起こせなかっただろうから」

『我が力に頼れば、更に早く終わるだろうが?』

「それでは下にあるものごと壊れてしまう可能性があるからね。……遺作のうち、どれがあるかは不明だけれど、中には脆いものもあるだろうから」

「そうだ、腐竜王よ。かの作業は我が主が課せられたもの。それを横から易々と奪うでないわ」

 

 白面の少女の鋭い視線にドラグロットは苦笑するかのように口元を歪ませる。

 友人とまではいかない程の、気安い関係では無いが、高空からの落下死を助けてくれた礼もある。

 カズアキとしてはドラグロットに感謝しているが、白面の少女はそれ以上にカズアキに対しての好意が強すぎるために、それ以外が基本的に敵対的となる。

 それを理解してか、ドラグロットは笑むしかない。

 

『分かった、分かった。それでは変わらず寝ころぶとしよう。老体は常に休息を欲するのでな』

「ああ。時が来れば起こしてやろう。その時は……分かっているな?」

 

 念押しとばかりの少女の言葉にドラグロットは頷いた後に巨体を丸め、目を閉じた。

 とはいえ、休息に入った彼の力が削がれたわけでもない。

 今も尚、ドラグロットの周囲では絶えず地面や破壊された人工物が腐りかけており、屍達もカズアキの命令で近づくことは無い。

 そこにいるだけで攻撃態勢。

 そこにいるだけで防御陣営。

 強大な力であるが故に、ドラグロットにとっての何もしないということが周囲にとっては何かしていると映る。

 

「呑気なものだ。なあ、お前様?」

「いいじゃないか、別に。それだけ周囲に脅威が無いということだ。作業が終わればいよいよ俺達の本命だ。進行が開始される」

「……些か本命という言葉が引っかかるが。まあ、良い。この地の横断、縦断。果ての果てまで我らが銀紛で埋め尽くしてみせようぞ」

 

 カズアキ、そして白面の少女は最西部の村から一点を睨む。

 そこに彼らが最も殺したい人物がいる。

 今もきっと大衆にその姿を晒しているのか。

 許せない。許さない。

 在り方が許容できない。

 

「そういえばお前様。先の攻撃……我らを空高く跳ばしたあの女。奴めを勧誘してはどうだろうか」

「彼女を……? ああ、確かに向いている。怒りを、憎しみを、許さないというエネルギーを彼女からは確かに感じた。なるほど……資格はあるだろうね」

「この際、先の行為は不問と致そう。お前様と空中散歩もとい逢引が出来たと前向きに考えてやるとしよう。ふむ……そう考えると便利そうな力であるな」

「転移能力をただの移動手段に留めてはいけないよ。強力だ。それだけに情勢を一気に覆しかねない力。……みすみす奪われたくはないね」

「奪われる……? 誰にだ」

 

 その場の全員が。

 どころか、全ての人間が敵であるかのような振る舞いであった。

 少なからず仲間のいるカズアキよりも更に敵が多そうで味方が少なそうな女である。

 

「……まだ生きていればの話だ。生きていたら厄介だという話」

 

 だからこそ、彼女を味方とした者への恩恵は限りないものとなるだろう。

 その思考に対して上手く手綱を握ることのできる人物であればだが。

 

「……さて、眠った矢先で申し訳ないけど王を起こさないと」

 

 屍達が穴から這い出てくる。

 それは証だ。

 何かを掘り当てたという証明。

 

「……では」

「ようやくご対面だ。鬼が出るか蛇が出るか……竜の面前で今更鬼も蛇も怖くは無いけども。俺達に扱える代物だとありがたいが――」

 

 やがて、屍達が全て地上に這い出る。

 だが、彼らが何かを手に持っている様子は無い。

 

「……ん?」

 

 掘り当てたのならば丁重に地上へ持ち帰ろと命じていたのだが、反する行動だ。

 カズアキは穴を覗き込む。

 一体何を掘り当てたのか、それを確かめるべく。

 

「……はぁ」

「お前様?」

「大外れだ。痕病あたりが好みそうか……持ち帰るには一苦労しそうだけど」

 

 穴の中身を見て、カズアキは先ほどまでの比ではない大きなため息を漏らした。

 

 

 

 

■【魔法少女β】プシュケー・アーチ

 

 鏡の中の世界は異世界に通じている。

 絵本を見て、幼少時は憧れたものだ。

 知らない世界に出て、新しい何かを発見したいものだと。

 自身なんて比ではない美しいものがたくさんあるのだと実感したいと。

 

「なんてことはありませんわ。鏡に飛び込んでも、その先も現実だっただけでしたわ」

 

 ジャミラの作り出した鏡から転移した先はレジェンダリア最西端であるゴラグ村、その手前であった。

 ゾンビ達が未だ留まり続けている。

 そして村の中にはドラグロットもいる。

 

 何かを企んでいることは明白であるが、何が目的であるかは未だ不明。

 

「話し合って解決……する機会はとっくの昔に過ぎていますわね」

 

 既に村が幾つか壊滅しているのだ。

 倒し、牢獄に送らねばならない。

 それこそが正しい在り方。

 

「バウムさんは別として……ジャミラさんは待った方が良いのかしら」

 

 自身を温存させたいという意志は理解出来た。

 だが、果たしてカズアキとの再戦の折にジャミラ達と合流を果たすべきなのだろうか。

 

 カズアキの手の内は知れたが、それでも厄介であることに違いはない。

 加えて、

 

「ドラグロット……反則級の強さですわね」

 

 そこに居るだけで周囲を腐らせる能力を持つ難敵。

 相性も存在も何もかもがプシュケーとは噛み合わせが悪い。

 

「ですが……超えなくてはならない」

 

 ドラゲイルをクャントルスカは倒した。

 助力も運も実力も、そこにあったことに違いはない。

 だが、彼女は成し遂げたのだ。

 魔法少女の悲願を、偉業を。

 

 ならばプシュケーもまた、成さねばならない。

 

「ですわよね。スウェーコン」

 

 呼応するようにスウェーコンに熱が灯る。

 彼もまた戦いを願っているのだろう。

 

「分かっていますわよ。貴方――」

「待たせたわねプシュケーさん」

「――ひゃぁ!?」

 

 ぬるりと背後から声を掛けられて思わず跳び上がった。

 

「え、えへへ……驚かせちゃったかな」

「……ええ、良い発声練習になりましたわ! ありがとう! それでは作戦会議といきますわよ」

 

 普段は出さない動揺した声に頬を赤くしながらプシュケーはジャミラに村の様子を伝えるのであった。

 

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