<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する   作:そらからり

283 / 443
Bside 美VS醜VS腐 25

■個人生存型について

 

 幾種かある戦闘スタイルのうち、生存型だけは勝敗の有無を必要としない。

 何故ならば、敵味方問わず、最後に自身が生きていればそのスタイルは成り立つのだから。

 生き続ける、死なない、死んでも生き返る、そこにいない……一口に個人生存型と言っても、その中身は千差万別。

 生き残るまでの過程が、そこに辿り着くまでの道程は幾本にも分かれている。

 生き残ることが前提であり、そこを中心とした、倒すことを目的とした戦闘スタイルも確立している者は多いが、そういった手合いは歯止めも効かず、容赦も効かず、手加減も出来ない者が多い。

 そこはやはり、大小なりとも自分のことしか考えていないというパーソナリティが含まれているが所以なのだろう。

 

 さて、ここに一つの個人生存型――彼は既に死んでいるから絶命型、あるいは――故人死在型とでも称そうか――という新たなスタイルの持ち主がいる。

 死んでも尚、そこに在り続ける戦闘スタイル。

 【死兵】の《ラスト・コマンド》が代表的なスキルとして挙げられる。

 死んでも動き続けることが可能であるが、時間などの制限があり、まともな運用は難しい。

 あくまで死者は屍……生きることを終えた肉の塊だ。

 相応しい末路、動かない肉体という結末へと導かれる。

 

 だが、彼の、カズアキのエンブリオはそれを否定する。

 【零落冥婦 イザナミ】は生者を強制的に死者へと変えるエンブリオだ。

 動く屍とするスキルを多く持ち合わせる。

 彼が主に使う固有スキルは3つ。

 一つは屍を大量生産する《屍者帝国の証明》。

 次にカズアキ自身を起点とし、近づく者を近づいた距離に比例して屍化する《逆進する行進(カウンターマーチ)》。

 この2つが主なカズアキの攻撃的なスキルである……が、直接的な戦闘には向かない。

 広範囲を制圧するためのスキルであり、カズアキ自身は生粋の後衛型であることは、イザナミがワールド・ルールであることを表している。

 

 そして、イザナミが最初に発現したスキルこそが彼の最大の防御。

 故人死在型の第一歩。

 それが《|苦荷産み》。

 自身を動く屍へと変えるスキルである。

 このスキルはパッシブスキルであり、カズアキがログインした時点で強制的に発動し、カズアキは屍となる。

 そして同時にそのHPはゼロで固定される。

 メリットとしてこれ以上ダメージを与えられなくなる。

 いわゆるスリップダメージ……病毒系状態異常や環境変化などが身体に与える影響は一切無くなる。

 死んでいるのだから死ぬような状態にはならない。

 もしもこの状態のカズアキを殺したければ、肉体を完全に破壊するしかないだろう。

 粉砕、圧砕、細切れ……何でもよい。

 動く屍なのだから、動かなくすればいいだけだ。

 

 続いてデメリット。

死なないというメリットと引き換えに、カズアキは回復の類が全く効かなくなった。

 回復スキルもアイテムも、カズアキに通用しない。

 何故ならば、そこに命が無いから。

 回復すべきHPがゼロで固定されているからだ。

 

 そのため、カズアキの肉体が欠損した際、本来であれば二度と回復することは無いはずであった。

 このスキルだけでは未だ不完全な故人死在型

 完全粉砕され、漸くシステム的に完全に死に、デスペナルティを明ければ、ログイン時に完全な肉体へと戻るだろう。

 この一瞬でしか彼の肉体が回復する手段は無い。

 無い、はずであった……。

 

 

 

 

■廃村――ゴラグ村

 

「――ッ、ア、アアアアアアァ!」

 

 声にならない声は悲鳴だろうか。

 それとも恐怖を抑えるための鼓舞か。

 

 ともかく、冷静では無かった。

 冷静ではいられなかった。

 死体が動く。

 異様な光景は此れまで幾度も見てきたが、倒す手段の見つからない死体が動いているとなれば話は別だ。

 まだしもダメージが無く、高所からの落下でも無傷で立ち上がってくれた方が良かった。

 何とかしてダメージを与える手段を模索出来たから。

 

 だが、カズアキは致命傷で立ち上がる。

 死傷を与えても尚、これ以上死ぬことは無い。

 

「(死んでいる人間をどうすればこれ以上殺せるの……!?)」

 

 気が付けば、ぬるりと懐に入られていた。

 距離感を弄られたが如く、カズアキはジャミラの眼前に迫っている。

 

「こ、の……!」

 

 左手の短剣を振り回す。

 焦っても尚、その手は正確に急所を狙う……既に裂かれているはずの箇所を。

 喉も心臓も既に空中で裂いていた。

 それ以上なく、これ以上なく、致命傷を与えていた。

 

「……あ、れ」

 

 なのに、狙った先のカズアキの喉は綺麗な肌であった。

 正確には、他の屍同様に、血の気の無い色をしている。

 故にこの場合の綺麗な肌というのは、傷一つ無い肌という意味。

 

 そう、気づくはずであった。

 空中のカズアキは喉を裂かれたために声を出せなかった。

 

 だが、立ち上がったカズアキは会話をしている……声を出せている。

 他の裂傷や落下による肉体の損傷が深かったために気づくのが遅れた。

 カズアキの肉体が時間の経過と共に回復していることに。

 

 だが、たとえ如何なる回復スキルを持っていようと、既に傷は付けられている。

 攻撃を中断する理由にはならない。

 ジャミラの短刀は微塵も揺るがずにカズアキの喉を狙い――

 

「ナイフ、ね。流石に不意打ちでも無い限りは効かない」

 

 その切っ先を盛大に歪ませた。

 歪む。

 湾曲。

 あるいは屈折。

 

 短刀の切っ先がカズアキを避けるように曲がっていた。

 

「……っ」

 

 すぐに短刀を引き戻す。

 その切っ先に一切の歪みは無い。

 

「……これがプシュケーさんの言っていた空間を歪ませる力ね」

 

 伝え聞いていた力も健在。

 ダメージを与えても無意味どころか、ダメージすら与えづらい。

 

「……歪ませる。いえ、ずらす。聞いたことがあるわ」

 

 ジャミラもまた空間転移能力の使い手。

 故に、同系統の能力に関してはプシュケーよりも明るい。

 

 そして一つの超級職の名を思い出す。

 それこそは魔術師系統位相術師派生超級職――

 

「【圏王(キングオブスペース)】……聞きしに勝るチート超級職ね」

 

 空間魔法というものが存在する。

 空間を捻じ曲げて攻撃を回避する。

 空間を捻じ曲げて短距離であれば転移する。

 捻じ曲げるなどと言う物騒な物言いであるが、それ自体に攻撃性は皆無であり、一切のダメージを与えることも無い。

 

 故に回避特化職の一つとして挙げられるが、その使い手は皆無に等しかった。

 理由は三つ。

 単純に求められるMPが多いこと。

 回避特化であるが故に攻撃手段が無いこと。

 そして、他のジョブとのシナジーが一切無いことである。

 戦闘系は勿論、如何なる術師系統とも噛み合わない。

 サブジョブに置いた瞬間、MP補正以外は置物となるジョブ。

 

 故に、回避盾となる道を選ぶ以外には選ぶ理由も見当たらない。

 そも、必要MPが多すぎて他にMPを水増しできる手段が無ければまともな運用が出来ないジョブとして長らく避けられていた――カズアキという〈マスター〉が現れるまでは。

 

「チートね。さて、これでも運良くシナジーしているに過ぎないさ。俺で無かったら、彼女がイザナミで無かったら、就くことも無かっただろう」

 

 本来であれば見向きもされなかった。

 その事実がカズアキの興味を惹いた理由に違いないが。

 ともあれ、この【圏王】という超級職がカズアキの回避の要であり、故人死存型の最後のピースであった。

 

「時間稼ぎを狙ったわけではないけど、これで元通りだ。最初から、始めるかい?」

 

 攻撃そのものをずらすのが【圏王】の固有スキルであるとすれば。

 その奥義はその上をいく。

 ジャミラをしてチートとまで言われた超級職の奥義《スカーシフト》。

 この奥義は負傷そのものをずらす。

 

 傷一つ無い肉体で、カズアキとイザナミは揃って笑った。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。