<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する   作:そらからり

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Bside 美VS醜VS腐 27

■廃村――ゴラグ村

 

 ジャミラに残された鏡面は2つ。

 そのうちの1つを用い、カズアキ達の眼前へと転移する。

 左手がカズアキの手首を掴む。

 同時に残された右肘をイザナミの肩に絡ませた。

 

「どうやら私自身をずらすことは出来ないみたいね」

「……だから?」

「だから、安心しててめーらを殺せるってものよ」

 

 大きく、跳ぶ。

 超級職だが、ステータスはMPに特化した術師系統であるため、その跳躍高度は低い。

 だが、今の彼女であれば話は別だ。

 

 今の……【無辜悲願 フライヤー】を入手したジャミラであれば。

 

 第一スキルである《飛翔》は名の通り、MPを消費することで空を飛ぶことが出来るスキル。

 MPは相応に消費するが、そこは彼女のエンブリオと超級職による補正がカバーできる。

 

「何を……」

 

 カズアキはジャミラの手を解こうと藻掻くも、固く握られたため困難。

 

 ジャミラは見る間に高空へと上がっていく。

 恐らくはカズアキの肉体を再生困難な状態にまで破損させるために限りなく高度に上昇しているのだろう。

 賭けであるが、確かに彼女に分がある。

 

 ジャミラが屍するのが先か、もしくはカズアキの肉体の負傷がスキル発動出来ないまでに破壊されるか。

 

「……くっ。面倒なことになりおったわ」

 

 イザナミに限っては肘で引っ掛けられているだけであるため、すぐに振りほどくことも出来る。

 だが、そうしてしまえば自然落下し、カズアキと離されてしまい、スキルの一部が発動出来なくなってしまう。

 そのため、カズアキが解放されるまではむしろジャミラに掴まってはいけなくなった。

 

「チッ……イザナミ!」

「ああ、分かっておる。何時までもお前様の手を握らせると思うなよ……!」

 

 《屍者帝国の証明》によって屍化した空中モンスターを使いジャミラを自身ごと地面に叩きつければ良いだけのこと。

 すぐさま10匹ほどの怪鳥がジャミラを取り囲む。

 

「厄介なファンの躱し方は得意なのよ」

 

 だが、鏡で更に数十m上空へと転移し、モンスターの囲いを突破する。

 飛翔と転移。

 この二つを使い分け、ジャミラ達は生物が生存出来る際の高度まで上昇した。

 

「……は。ははははは! 何だ? 自殺が目的か? 良いか、教えてあげよう。俺は呼吸せずとも活動が可能だ。だから、酸素が薄いどころか皆無の場所に転移されても痛くも痒くも――」

 

 更に上昇を続ければ、あるいは宇宙と称される場所にまで転移するのだろう。

 大気圏までもが未だ遠い、地球の浅い高度。

 それでも、ジャミラの特化した転移能力であればあるいは……。

 だが、その前にまだ一つだけジャミラには打つべき手があった。

 

「いいえ?」

「――は?」

 

 ジャミラの顔色は悪い。

 当たり前だ。

 急上昇したことで、高山病にも似た状態となっている。

 加えて、カズアキの言う酸素が必要という話はジャミラの方が深刻。

 この状態で先に死ぬのはジャミラであろう。

 

 だからこそ、ジャミラは急上昇からの急下降を行う。

 

「なに、を……」

「私も一つ教えてあげるわ。私のメインジョブは【鏡姫】。反射に特化した能力よ」

 

 奥義の名は《ミラー・フォース》。

 その奥義を込めた鏡を自身の左足に作り出す。

 

「ただ反射するだけではない。あらゆるエネルギーを10倍に引き上げたうえで返す……それが最終奥義である《ミラー・スクイーズ》」

 

 その反動でそのダメージはジャミラ自身にも降りかかるのだが、今に限っては話は別だ。

 移動中に引きおこる反動ダメージ。

 それだけは、【無辜悲願 フライヤー】第二スキルである《彼方への飛翔》が無効化してくれる。

 だから、ジャミラは安心して《ミラー・フォース》と《ミラー・スクイーズ》を発動している左足を自身の急降下する先へ転移させ、ノーダメージで己が肉体を真上へと反射させる。

 

「ぐ、う……」

 

 一方、カズアキ達の肉体への負傷は著しい。

 四肢が千切れかけ、骨も幾本か折れる。

 接触しているジャミラへと傷を移してはいるが、それが果たして間に合うか定かではない。

 

 さて。

 更に急上昇したジャミラ達は漸く大気圏へと突入しようとし、その直前で

 

「《神光裁断(ウリエル)》!」

 

 残り2枚の鏡面にヒビが入る。

 1枚を使って大気圏に、更にもう一枚で大気圏の更に上空――宇宙空間へと転移する。

 

「……っ」

 

 そして、その直前かあるいは同時にか。

 ジャミラは屍化するよりも前に全身を膨張させ、伴うダメージによってHPを散らした。

 

「……(は)?」

 

 理解不明なのはカズアキだ。

 何故ジャミラは己ごと転移したのか。

 ただ宇宙空間にカズアキだけを放り込めば……。

 

「(いや。転移の限界か。そこまでは足りなかった……)」

 

 だからこその加速。

 少しでも昇るために、己が身を犠牲にした。

 

「(だが俺は死なない……ああ、そうか)」

 

 死なないが、死なないだけだ。

 凍死も窒息も全身の膨張もしないが、だからといって、この宇宙空間においてカズアキは無力。

 屍化する生物もいない。

 【圏王】も自身を空間内でずらせるのはたかが数m。

 

 現状、宇宙空間で取り残されてしまった形だ。

 

「(お前様……)」

「(ああ、分かっている。かの“万状無敵”も宇宙追放で自害しなくては戻って来られなかったと話に聞く。今の俺達は同じだ。……お前の必殺スキルを使っても、地上に戻るのは難しいだろう)」

「(ならば……)」

「(俺達の負けだ)」

 

 ため息すら吐けない。

 眼球に残った水分も凍てつく。

 それでもカズアキは死なない。

 一切のダメージが入らない。

 

 いっそのこと何か変化が起きれば良いが、全く何もない。

 変化が無いことを望んだが故に屍化。

 

「(……彼女を仲間に引き入れるためにと、手を抜いたのが敗因かな)」

「(あるいはお前様、先ほどの激情の芝居かもしれぬな。何だ、アイドルへの崇拝なぞ。聞いたこともないわ)」

 

 それが本心からであったならば、イザナミも激怒していただろう……主に。

 だが、彼の言葉が演技であったからそれに付き合った。

 むしろ醜い心の内が彼女にとっては嬉しかったのかもしれない。

 

「(……村の屍が海に流された時点で俺達の負けは決まっていたよ。だから、彼女がどれだけ戦えるのか……引き出させてもらった)」

 

 既にジャミラが敵勢力に取り入られてしまったことが分かったために、エンブリオとジョブの威力偵察に切り替えていた。

 まさか相打ち狙いだとは思わなかったが、狙い通りにはなった。

 

「(まあ、仕方ない。少なくともアレは手に入ったんだ。ならば引き渡しと引き換えに彼らに協力を仰げるだろうさ)」

 

 アイテムボックスに眠るとある兵器に視線を送る。

 使い手は限定されるが一つの街くらいならば容易く滅ぼせる力を持つとされる兵器の一つ。

 カズアキの発見したソレは、その中でも威力に秀でたもの。

 これを【妖精女王】に放てば、殺せる可能性は高い。

 

「(さて。私としてはこのままお前様とこの宇宙空間を遊泳するのも悪くはないが?)」

「(……やめておこう。せっかくならばもう少し楽しい場所がいい)」

「(……そうか。まあ、動けぬのも随分と窮屈であるしな。先ほど、私以外の女子と手をつないだことも詰問せねばならぬし)」

 

 白面の下でイザナミは頬を膨らませるのを感じ、カズアキは苦笑する。

 嫉妬は醜いというが、これくらいならば可愛らしいものだ。

 

 さて、とカズアキがウィンドウから自害を選択しようとし――それよりも前に宇宙空間に滞在していたとあるエンブリオから発射された砲弾により全身を砕かれ、死亡した。

 

「(これは予想外だね。ただの不運か、それとも……)」

 

 その攻撃の正体と意図を推測しつつ、こうしてカズアキは舞台から退場したのであった。

 

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